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episode.8 少女達の旅立ち
しおりを挟む私は突然のミベロの行動に固まってしまい、彼女が消えた水面を見つめるしかなかった。
ミベロは水面の揺れが収まる前に浮かんできた。
「びっくりした、急にどうしたの?」
私の問いかけにミベロは自身の右頬を擦りながら小さな声で答えた。
「痛イ……?」
「えっ? ……あ!」
彼女の右頬を見ると赤くなっていた。火傷とまではいかないが熱い物が触れたようだった。
そこに触れたものと言えば、私は自分の指先を見る。
そういえばさっき冷たく感じたのはミベロの肌だったんだ。となると彼女の頬を熱したのは、私の指?
ミベロの右頬に走る短い赤い線と自分の指を見比べる。そのサイズはほぼ同じだった。
「ごめん、私が触ったからだ」
漸く気づいた事実に私は謝罪の言葉を述べるしかない。
するとミベロも思い出したように話し出した。
「人間、熱イ。ダカラ、触ル、ダメ。オ母サン、言ッタ」
ミベロの言う事はつまり、魚人にとって人間の体温は熱すぎて火傷してしまう恐れがあるという事だ。
そういう事なら今後は不用意に触ったりしないよう気をつけないと。
もう一度ミベロの右頬を見ると、海水で冷やされて赤みは少しずつ落ち着いているようだった。
「熱かったよね、大丈夫?」
「ン、大丈夫」
そう言いつつもミベロはなおも右頬をさすっている。その姿が私の不安を煽った。
「本当に大丈夫? これからは気をつけるから、本当にごめんね」
「大丈夫、心配ナイ」
そんな私に対してミベロはゆっくり首を横に振るとにこっと笑った。
可憐な笑みに少しどきりと胸が鳴る。
私が思わず視線を外すと、その間にミベロは頭のワカメを取り去って代わりに私が渡したポンチョ型バスタオルを被った。
彼女は可愛らしい笑みを浮かべたまま羊のフードを両手で摘んでみせた。
「コレ、アリガト!」
お礼を言う仕草も女の子らしく可愛らしい。
それを羨ましいと思うのは私が女の子だからだろうか。
それとも女の子に憧れているからだろうか。
一瞬そんな考えが頭を過ぎる。浮かんだ思考に目を伏せて私は応えた。
「気に入ってもらえて良かった。もうそれ使ってないからミベロにあげるよ。ワカメ破っちゃったお詫びね」
「アリガト、ナオ!」
ミベロはさっきまで落ち込んでいたのが嘘のように花を飛ばす勢いで喜んでいた。
白い裾を靡かせて水中をくるくる回る。
水を吸った柔らかいタオル生地は重そうにも思えたが、ミベロは気にする様子もなく水中を自由自在に泳いでいる。
白を纏うその姿は海の天使みたいで綺麗だった。
それを見ていると自分とミベロの女子力の差とでも言うのか、女の子らしさの違いになんだか無性に悲しくなってきた。
肩幅がある私には着こなせなくてずっと押し入れに仕舞われたままだったバスタオル。
可愛いからと我儘を言って買ってもらったけど、結局使う勇気は起きなくて。
そんな可愛い女の子らしいもの似合わないと言われるのが怖くて。
ちゃんと『女の子』の体に生まれていればこんな事で悩むこともなかったのかな。
華奢で可愛らしいミベロにはぴったりなそのポンチョが泳ぐのをぼんやり眺めていると、ふと彼女と目が合った。
「コレ、好キ! ナオ、アリガト!」
「ふふ、どういたしまして」
ミベロがあんまりにも嬉しそうに笑うもんだから私も釣られて笑顔になった。
喜ぶ彼女の姿を見て、譲って良かったと確信する。
可愛いバスタオルへの未練を振り切ろうと勢いよく立ち上がり、乗り慣れたカヤックに乗り移る。
桟橋にパドルを当ててカヤックを力強く押し出し海上へ出る。
隣に並んだミベロに目配せしてにっと歯を覗かせた。
「じゃあ、行こっか。陸地目指してレッツゴー!」
「ゴー?」
ミベロは首を傾げつつも私に合わせて手を掲げてくれた。
それが嬉しくて私はついにやけてしまう。
浮ついた心持ちで私はパドルを握り直し、右手を大きく前に出す。次に左手。また右手。
リズムを崩さないようどんどん漕ぎ進める。
ちらりと後ろを確認すると陽光を反射する水面の下に人魚とも天使とも見える姿が映る。
ミベロがしっかりついてきている事に安堵し、私は意気揚々と大海原へ飛び出した。
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