海辺にて君を待つ

鈴咲絢音

文字の大きさ
16 / 17

episode.16 海中の友達

しおりを挟む

 サトにここまで何で来たか聞かれ、カヤックと答えたらとても驚いていた。

「船はないと思ったけど、カヤックか……よく漕いできたね、大変だったでしょ?」

「いや、そうでもなかったけど」

「いやー、若さってすごいね! 私じゃ絶対無理」

 サトは感心しながら冗談めかして破顔してみせる。私はそれを笑っていいものか分からず、愛想笑いで返した。

 サトはそれを気にする様子はなく会話を続ける。

「カヤックどこに停めてる?」

「えーと……こっち」

 私はサトを引き連れて自分のカヤックを停めた場所へ向かった。

 まさかシャワーを浴びる事になるとは思ってもみなかったから、図らずもミベロをかなり待たせてしまった罪悪感が歩調を速める。

 しかし数歩行った所で、サトがついてきているか心配になり振り返る。

 彼女はゆったり大股でついてきていた。私はもう少し速く歩いて欲しいな、ともどかしく思いつつで再度歩み始める。

 船着場の隅のカヤック置き場で立ち止まると、サトは品定めするようにうんうんと頷きながらカヤックを眺めた。

 そして腕を組み考え事をするように唸る。何か不味い事でもあったかな、私は不安になりその顔を覗き込んだ。

 ばちっとサトと目が合う。彼女はおもむろに口を開いた。

「直さ、どこで寝泊まりするつもりだったの?」

「……そこまで考えてなかったや」

 考えていなかった事をサトに指摘され、もはや苦笑いで肩を落とすしかない。そんな私の様子に彼女も呆れ顔でため息をついた。

 肩身の狭い思いになる私を見てかサトは仕方ないなと表情を緩めた。

「あてがないなら今夜は私の船で泊まりなよ」

「えっ、いいの?」

「まあ、ここまできたら、ね。旅は道連れ世は情けってね」

「なんかいろいろお世話になっちゃってごめん、でも助かる。ありがとう」

 私は深々と頭を下げた。それにサトは少し困ったように笑った。

「それじゃあ、とりあえず直のカヤックはそのままそこに置いといて。私の船、結構奥の方に停めちゃってるんだよね。案内するわ」

「あ、その前に、友達呼んでいい?」

「そういえばそんな事言ってたね。本当にいたんだ……で、どこにいるの? 見当たらないけど」

 彼女は怪訝な顔で周りを見渡した。私もカヤック周囲の水面を眺め回してみたけど、ミベロの姿は見当たらない。

「ちょっと呼んでみるね。おーい! ミベロー! 待たせてごめん! 出てこれるー?」

 私は桟橋から乗り出して、すっかり暗くなり静まった海面に向かって声を張り上げた。

 すぐに返事はなく、あれ、と首を傾げていると足元から泡が弾ける音が聞こえた。

 すぐ下の水面に目を移すと、波紋を広げながらミベロが姿を現した。再会できたことに安堵し笑みが零れる。

「ナオ!」

「ミベロ! 良かったぁ、いなくなっちゃったかと思った。ごめん、待ったよね?」

「ダイジョブ、ヨ」

 桟橋の影に隠れて表情は見えないが、怒ってはなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 その時、背後から面食らった声が聞こえた。

「えっえっえぇっ!? も、もしかして、ぎょ、魚人?」

「あっ、えっと」

 サトの声に慌てて振り返るもすぐに言葉が出ずどもってしまう。

 そうしてる間にもサトは驚きを隠せないといった様子で、私の横に乗り出してミベロと向き合った。ミベロはきょとんとした顔だ。

「誰?」

「へぇ! 話せるんだ! あ、私の事はサトって呼んで。直とさっきそこで知り合ったの」

 サトはそう言って後方の建物を指し示した。

 ミベロがそれを見ようと首を伸ばしたが、遮るようにサトが身を乗り出す。

「あんたの名前は?」

「私、ミベロ」

「ミベロ、ね。よろしく、ミベロ!」

 サトは思いのほか早く魚人の存在を受け入れて、もう既にミベロと普通に話している。

 彼女の適応力には感心していると、一通り話し終わったサトがこちらを振り返った。

「まさか友達ってのが魚人だとは思わなかった。いろいろ聞きたいけど、とりあえずこんな所で話もなんだし私の船に行こうか」

 そんなサトの提案で私達は彼女の船へ向かう事となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...