櫻雨-ゆすらあめ-

弓束しげる

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◆ 一章六話 揺りの根 * 元治元年 八月

迅速

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 動きがあったのは、それから一刻も立たない内だった。

 藤堂が四半月ほど前に江戸へ発っており、建白書の一件もあってか原田が珍しく静かに口をつぐんで寝転がっている――その隣で、永倉と斎藤が話をしていた時に、

「お邪魔しまーす」

 日も暮れて帰ったと思っていた愁介が、開いていた襖からひょこんと顔を覗かせた。

「お。松平、来てたのか」

 いち早く反応した原田が上体を起こし、明るく手を上げる。

 愁介はそれに手を振り返して、斎藤と永倉のほうへ視線を寄こした。

「実は今、凝華洞の父上から文が届いたんだけど」
「え、会津様から?」

 予想外の早さだったためか、永倉が虚を衝かれたように目を丸くする。

 立ち上がった永倉に歩み寄り、愁介は手に持っていた文を両手で差し出した。

 永倉が略式的に頭を下げて受け取り、すぐに中を改める。斎藤も立ち上がり、原田も寄り集まって三人で文を確認した。

 ――要約すると、話があるため建白書に署名した者は皆、凝華洞へ集まるようにと記されている。

「……展開早えな。つーか、来いって今からか?」
「確かに。もう日が落ちるけど、行っていいの?」

 原田が首をかしげ、疑問を引き継ぐように永倉が愁介を見やる。

「うん、大丈夫。父上も、こういうのは早いほうがいいって言ってたから」

 愁介は穏やかに目元を和ませて言った。

「はー、こりゃ恐れ入った。まじに早ぇじゃねえか。何か、あれだな。松平が池田屋の時、会津侯に話が通ってたらっつってたの今になって納得できた気ぃすんな」
「ああ、確かにね」

 感心した原田に、永倉も薄く笑みを浮かべて同意する。

 思わぬところで容保の名誉回復が成され、愁介が無意識にであろう、一瞬ばかり斎藤に目をやった。

 が、視界の端で捉えながら斎藤は敢えて気付かないふりをした。永倉の手前、下手な視線を交わすと後が面倒だ。

「はは、そう感じてもらえるなら嬉しいよ」

 愁介も察したようで、視線を流れるように永倉と原田に移して笑った。

「じゃあ、ありがたく伺わせてもらおうか」

 永倉が、広げていた文を静かに折り畳みながら言う。

「左之、葛山呼んできて。斎藤は尾関頼める? 俺は島田んとこ行ってくるわ」

 簡潔に指示を出して、文を懐にしまいながら改めて愁介と向かい合う。

「松平、面倒かけてごめんね」
「面倒とも思ってないから、気にしないで」

 やわらかく答えた愁介の肩に、永倉はぽんと手を置く。

 応えるように愁介も同じように返して、二人は頷き合った。

「じゃ、そのまま玄関集合ね」
「全員揃ったら、オレが凝華洞まで案内するよ」
「おー」
「承知しました」

 永倉の指示にそれぞれの返事をして、行動に移す。

 部屋を出る直前に視線をやると、最後に動き出した永倉の表情が、鋭く引き締められたのが見えた。
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