文字の大きさ
大
中
小
58 / 706
連載
182、王の間
「マック……まさかこれは……」
「ジャル・ガーさんと同じような、獣人の石像……」
「何てことを……」
「これに触ったら、俺のディスペルハイポーションじゃ呪いが解けないから、触らないでね。でも、複合呪いって、こんなことをする人族を許さないってこの獣人さんが言ってるみたいで、なんか」
心臓部分から微かに魔力ってことは、もしかしたらまだ意識があるのかもしれない。こんな風に砕かれてなお。どうしたらいいんだろう。何も出来ない。ごめんなさい。
「ごめんなさい……」
奥歯を食いしばって上半身だけの石像から目を逸らす。
「行こう、マック」
「……うん」
ヴィデロさんに肩を押されて、その部屋を後にする。
斜めになった本を棚に綺麗に収めると、またもゴゴゴゴと音がして、隠し扉が閉まった。
俺もヴィデロさんも、後ろから覗き込んだユキヒラですら、押し黙ったまま教皇の私室から出てきた。
反対奥にある扉に無言で向かう。
口を開くとすごい目でこっちを睨んでる教皇に向かって罵詈雑言を飛ばしそうだから。
反対奥の扉を開けて中に入ると、奥にある質素なチェストの蓋の間から見慣れたカバンの紐がはみ出していた。
チェストを開けると、無造作に俺のカバンとローブが入っていた。ローブを持ち上げて羽根が壊れてないか確認すると、着ていた教会のローブをそこに投げ捨て、自分のを羽織る。
胸に羽根があることに酷くホッとしながら、カバンをたすき掛けに掛けた。
「あったよ、待たせてごめんなさい」
待っていた人たちに一言そう言うと、近衛騎士団が幹部たちを引きずるように歩き始めた。
ヴィデロさんは俺を振り返って俺が近付いていくのを待っている。
横に立つと、そっと手を差し出してくれた。
その手を握り、力を込める。
手を繋いだままユキヒラと近衛騎士団の後ろをついて足を進めた。
アドレラ教総本山の建物から出て、バラの生け垣の間を通り、王宮に進む。
王宮と総本山の間には近衛騎士団の詰所があり、生け垣が壁のような役割を果たしているその道はまるで、アドレラ教が王にまで手を伸ばすのをギリギリのところで防いでいるように思えてならない。
だって王宮の敷地内に、しかもこんな風に並んだところに建物を建てるなんて、かなり進出してきてるじゃん。
でも外から見ると、総本山の建物はまだ建築されてそれほど時間が経っていない様相だった。
そっとヴィデロさんに聞くと、ヴィデロさんがセィの貴族街で暮らしていた時に建てられたらしい。
教会トップと近衛騎士団一行は、王宮の裏の方の入り口から中に入ると、全く飾られていない廊下をただ進み、途中で合流した近衛騎士団の人たちに幹部たちを託していた。幹部たちは地下にある魔法使い専用の牢屋に入れられるらしい。俺達と一緒に歩いてきた騎士団は、教皇だけを引き連れて、階段を上に上に進み始めた。
何階分登ったのかわからなくなってきたあたりで、ようやく横移動になる。
途中教皇がへばって足を止めていたけれど、近衛騎士団の人が無理やりスタミナポーションを口に突っ込んで回復させて歩かせていた。教皇がすっごい顔をしていたから、劣悪スタミナポーションだろうと推測される。俺は飲みたくない。
こっそりヴィデロさんにもスタミナポーションを渡して飲んでもらった。あれだけ血を流したせいか、途中ふらついてたから。早めに造血剤を作りたい。
途中からふわふわの絨毯が敷かれた廊下になり、さらにそこから進んで行くと、ずらりと近衛騎士団が並んだ広い通りに出た。
槍を手にした近衛騎士団に見守られながら、赤いふわふわの絨毯を進んで行く。
すると、とても立派な扉が見えてきた。
扉は開かれており、近衛騎士団はその扉を守るように立っている。
「御前、失礼いたします」
先頭を歩いていた近衛騎士の人が扉の前で敬礼をする。
「よい、入れ」
扉の奥から、威厳のある声が聞こえてきた。
ちょっとビリっとするから、きっと威圧とかそういうのが込められてる声だ。
もしかして、中にいるの、ここの王様……?
ドキドキしながら近衛騎士について足を踏み入れる。
何で俺王様の所に行くんだろう。今日は宰相の人との約束の日のはず。
途中拉致されるというハプニングもあったけれど、王の前に行くなんて、そんな予定は。
と気後れしながら頭を上げると、威厳のある人が立派な玉座に座っており、その隣に俺が今日会うはずだった宰相が立っていた。
え、何であの人がここに? と驚いている間に、周りの人たちの頭がざっと下がった。
宰相がくすっと笑ったのが目に入って、俺が無礼にも頭を下げてないことに気付いた。一人ひょこっと突っ立ったままの間抜けな状態で我に返り、急いで頭を下げた。
「面を上げよ」という王様の声に、皆が一斉に頭を上げる。
王様は目の前に引っ立てられた教皇を無表情で見下ろした。
「その様な状態で余の前に連れられてくるとは、珍しいな教皇殿」
王様の声に、サッと近衛騎士の人が教皇の猿轡を外す。教皇は声が出る状態になった瞬間、噛みつくように身体を乗り出した。
「陛下、あなたの近衛騎士の教育はなっておられませんな! この私にこんな縄を掛けるなど、一体どういう躾をされているのか!」
この人王様にそんな上から目線で文句言ってるけど、いいのか?
心の中で突っ込みつつ、黙って成り行きを見ていると、近衛騎士の人が敬礼をした。
「恐れながら陛下、私に発言の許可をお願いいたします!」
「よい。話せ」
「ありがたき幸せ!」
うわあ、目の前で配信動画とか映画でしか見たことない様な光景が広がってる。
少しだけ引いていると、近衛騎士の人が敬礼したまま事の成り行きを王様に報告した。
「この者が、宰相閣下へのお客人である異邦人を闇魔法を使い不当に拉致し、害しようとしておりました。その際、アドレラ教の全ての幹部が闇魔法を使用したのを、私が直に確認しております」
「闇魔法……それは真か?」
「は」
近衛騎士からの報告に、王様の目がスッと細められる。
そしてその目が騎士と教皇の上を滑り、俺の元に。
目が合ってしまった。
王様はそのまま俺をしばらくの間じっと見つめていた。
威圧をひしひしと感じる。でも森の魔物とかそういうのと対峙したことのある俺にとって、王様の威圧はただ不快なだけで他の感情は浮いてこなかった。
セイジさんの話を聞いていたからかもしれない。エミリさんに対する行いとか、セイジさんから聞いていたから、俺は王様が好きじゃないんだ。
「……こやつの言う異邦人とは、そこの者の事か?」
ふいっと目を逸らして、王様が隣の宰相に声を掛ける。宰相は俺を見てから「はい、その通りです陛下」と答えた。
「お前の客人とは、どのような客人だ」
王様の言葉に、俺はちょっとだけ驚いた。
騎士の人が言ってたのは、教皇の悪事の事だったんだよな。それを俺の話題に持ってくなんて、話をすり替えてる?
「陛下、私にも私事はあるのですよ。そういうことを詮索しないで、まずはこの者をどう処分するかと」
「私を処分などして、同胞が黙っているとお思いか!」
宰相が話の筋を戻してくれたことにホッとするけれども、王様はまるで興味ないかのように教皇を一瞥するのみだった。
「処分、と。しかしお前の客人はそこに五体満足でいるのだろう。ここで教皇の悪事を追求し、処分するとなると、アドレラ教の信者たちが心の支えをなくしてはしまわないか」
「陛下は信者のためにこの男を野放しにするとおっしゃられるのか」
「野放しとは言っていない。確かに最近はこの王宮にも進出してきているのは憂いていた。だが、アドレラ教を心の支えにしている者たちも数多く民にいるのだ」
王様の憂えた目は、確かに民のことを考えているような顔つきだった。
でも。
なんかセイジさんが言ってることが分かった気がした。
いい王様なのかもしれない。けど、大局にばかり目を向けて、個々の機微は歯牙にもかけないんだ。そういうのが帝王学なのかもしれないけど、確かにやられた方はたまったもんじゃない。
「王さ、陛下、ちょっといいですか」
俺は近衛騎士の間から手を挙げて口を開いた。
俺の発言に、王様と宰相が少しだけ驚いたように目を開く。その後、王様が半眼のままに「よい」と一言言った。寛大な返答ありがとうございます。
「この場に鑑定が出来る人はいますか」
一歩前に出てそう訊くと、宰相も一歩前に出た。
「私が鑑定しましょう。して、何を鑑定するのですか?」
知ってる人が出てきたことにちょっとだけホッとしながら、俺はインベントリに突っ込んでいた呪いを解く前のローブを取り出した。ディスペルハイポーションも一緒に。だって触ると魅了の呪いが掛かるんだもん。即飲めば魅了だからそこまで被害は甚大にならないし。ポイっと宰相の前にありがたい呪われたローブを投げ捨てる。雄太に見せるために持ってきたのに、思わぬところで出す羽目になったなあ。でも、信者がどうのっていうのは、このローブが解決してくれると思うからさ。
宰相は目の前に投げ捨てられた教皇が着ているのと装飾は違えど同じ色のローブを手に取ろうとして、俺がディスペルハイポーションを飲むのを目にしたのか、手に取る前に動きを止めた。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。