これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
98 / 744
連載

184、クエストはクリア

 近衛騎士に周りを守られながら足音の立たない絨毯をしばらく歩くと、宰相は広い扉に手を掛けて「ここです」と振り返った。

 周りを守っていた近衛騎士の人たちが、サッと部屋の周りに配置される。すごく統制がとれていて、思わず動きに見惚れた。

 広い部屋に通された俺たちは、宰相に勧められるまま、すごく座り心地のいいソファに腰を下ろした。

 すぐさまメイドさんがお茶を持ってきて俺たちの前にセットしてくれる。



「まずは、ここまで来ていただきありがとうございました。そしてマック殿。あなたのおかげで教会が立ち直りそうです。そしてあの依頼の品、素晴らしいです。想像以上の物を作ってくださいましたね。ですが、確認をさせてもらえますか。あの薬が本当に他の薬師でも作れるものなのかを」



 宰相の人も前の席に座って、そう確認してくる。まあ、そうだよな。手に入りにくい素材を使っていると、たとえどんなにいい物でもダメっていうクエストだしな。

 俺は目の前のテーブルに簡易調薬キットと市販の聖水ランクCと市販のキュアポーションランクCと詰所で手に入れた気付けの酒を次々並べた。

 いつもの手順で聖水とキュアポーションを混ぜ、火にかけて、最後に酒を混ぜる。色が変わったら火からおろして瓶に入れた。

 薬師じゃなくても作れるんじゃないかってくらい簡単で単純な作業。

 宰相はじっと俺の手の動きを見ていた。



「こんな風に、簡単かつすぐ手にはいるもので出来上がります」

「しかしさっきとランクが違いますね」

「素材のランクが違いますから」



 するりと答えると、宰相の人は納得したように頷いた。

 そして、出来上がったばかりのディスペルハイポーションを手に取る。



「ほう、複雑な呪いは解けないと。では、先ほどの物はこれよりランクが上の物なのですね。これでは先ほどの騎士の呪いは解けないはずですから」

「え、魅了の呪いって複雑な呪いなんですか?」

「はい。魅了状態まで行くと複雑な方に分類されます。まだまっさらな状態だったらそうでもないのですが。ですが魅了の呪いが掛かった状態で何か言葉が耳に入ると、すぐにその言葉が脳に浸透してしまうらしく、なかなか厄介で怖い呪いなのですよ。例えば魅了の呪いに掛かったばかりの女性の耳元で「私は素晴らしい。あなたは私を愛する以外ありえない」とでも囁くと、もうそれで魅了完了です。その女性は盲目的に囁いた者を愛し続けるでしょう。呪いが解けるまで」



 勿論犯罪にも、今回のようなことにも有効です、となんてことない様な顔で宰相の人が説明してくれる。

 教会、本気でヤバい集団だったんだ。



「ではマック殿、先ほど使ったランクの物をここで作ることは出来ますか」

「え、大丈夫ですけど」

「ではお願いします」



 宰相に乞われて、今度は俺作聖水ランクBと俺作キュアポーションランクS、そして火酒を出して調薬する。手順は一緒だけど火酒だからグツグツは長め。

 出来上がったディスペルハイポーションランクBを宰相の人に渡す。



「……本当に簡単に作ってしまわれるのですね」



 感嘆した様な声で呟く宰相の人は、渡された物をひたすらじっと見つめた。

 そっとレシピも差し出すと、それも手に取ってはぁ……と声を上げた。



「素晴らしいです。では、これをもって私からの依頼完遂とさせてもらいます」



 宰相の人がそう言った瞬間、ピコンとクエスト欄にビックリマークが付いた。

 斜め向かいでユキヒラもちょっとだけ握り拳をしてガッツポーズをしているところを見ると、俺関連のクエストが終わったらしい。

 早速小さく指を動かして内容を確認しているようだった。



「それにしても、先ほど出したランクの高い聖水、どうやって手に入れたのですか? 教会は、最近では色々と質が落ちていましたけれども」



 ずっと鑑定していたらしい宰相がこっちをじっと見ながら真顔で訊いてくる。

 教会の質が落ちたって、熟練の人が闇魔法に手を染めちゃったんだったら質が落ちるのは当たり前だよなあ。



「俺が作った聖水ですけど」



 といった瞬間、宰相の人が身を乗り出した。

 何事?! と思ってる間に、宰相の人がまたもソファに腰を下ろす。そして手で顔を覆った。



「……ここで専属契約を結びたい、この王宮で働かないかと声を掛けても、あなたは頷いてはくれないのでしょうね……」

「しません」



 ヴィデロさんと一緒にトレに帰るんで、王宮住まいなんてしません。

 それにあの王様、やっぱり好きになれないし。

 俺がきっぱりと断ったことで、宰相は声を出して笑った。



「このレシピを使って、薬師たちに発破を掛けましょう。マック殿のレシピ、絶対に無駄にはしません。それに思わぬ大物も釣れましたし。マック殿のおかげでこの国の大きな憂いが二つ、解決しそうです」



 それはよかった。今度はぜひぼったくらない教会を作ってください。でもすでにあの教皇の教えが全部の教会に浸透しちゃってるから、改善するのは時間がかかるんだろうなあ。ニコロさんみたいに教会を離れちゃった聖魔法使いの司祭様は戻ってくれないだろうし。

 そこらへんは俺には何も出来ないから、あとは宰相任せだけど。あの王様は何か動くのかな。

 と考えて、ふと思い出す。



「俺、王様の私室に呼ばれちゃったんだけど、どうしよう。一人で行かないとだめなのかな。あんまり行きたくない」



 あんまりいいことってなさそうなんだもん。私室に呼ぶってことは完璧プライベートだろうし、そこで無理難題を出されて思わずうんなんて言っちゃったら大変なことになりそうだし。



「マック、この部屋を出たら、まっすぐ街に出よう。公に呼ばれたわけじゃないから陛下の所には行かなくてもいい」



 ヴィデロさんがそっとそう囁いてくれる。え、いいの? じゃあ俺逃げるよ。

 と目を輝かすと、宰相の人が「そうですね。急用が出来たと言って王宮を辞する方がいいかもしれませんね」と呟いた。



「陛下と二人で会うのはお奨めしません。あの方はたまに国民のためにと非道になる方です。二人きりで話をするのは避けた方がいいです。私の方から言っておきましょう。売れっ子の薬師は忙しいのだと」

「お願いします」



 うわ、王様、やっぱりヤバい人だったか。絶対に私室になんて行かない。ぜひすっぱりと断ってください宰相の人。お願いします。

 俺の顔を見た宰相は、カップを手に苦笑した。



「最近はこの国も色々とほころびが出始めているのです。それを陛下は誰よりも憂いているのですが、段々と衰退していくこの国の先を考えてしまい、少々自暴自棄になりかけているのです。ですが、異邦人であるあなた方がこの国に来るようになってからは、魔物は減り流通も滞りなく出来るようになり、何より、あらゆる技術が向上しました。本当にありがたいです。これからも是非その腕をこの国で振るって欲しいところです」



 しみじみと話す宰相は、王様以上にこの国を憂いているのがわかった。だからこそ自暴自棄になる王様に歯止めをかけようとしてるのかもな。

 それにしても、ちょっとだけ肩の荷が下りたかな。もっと俺も腕を磨いて複合呪いも解けるディスペルハイポーションを作る気は満々だけど。それは依頼としてじゃなくて、俺がやりたいだけだからな。

 ホッとしてようやくお茶に手を伸ばす。温くなっていたけれど、ほんのり甘い味がすごく優しく腹に染みた。



「それではマック殿。前に差し上げた身分証を貸してください」



 宰相にそう言われて、俺は前に渡されて俺の名前が入っちゃったハイテクそうなカードを出した。

 宰相はそれを手に取って、聞き取れないくらいの声で何やら呪文を唱えた。すると宰相の人の手にあったカードが一瞬だけ光り、そして収まった。

 それを返される。

 すると表面には『これを以てこの者を王宮関係者とする Mack』と書かれていた。



「その身分証で、玉座の間、王の私室全般以外の場所は通れるようになります。これからのマック殿の発展のためにぜひ王宮も活用していただきたい。王宮の蔵書は他にはない物が沢山そろっておりますから。もちろん、その身分証に描かれた文字で書かれた本も置いてあります」



 戻ってきたカードをまじまじと見ていると、宰相の人がそう説明してくれた。あ、これ、報酬の場所限定身分証明書だ。じゃあ極秘レシピってのはその蔵書でかなり手にはいるってことなのかな。

 王宮の蔵書見放題とか。どんなお宝が眠ってるんだろう。と考えてハッとした。



「でも俺、本拠地はトレなんですけど。あんまりこれ使わなそう」



 ここまで通うのも一苦労だよ、と宰相の人を見ると、宰相の人はニコニコしながらお茶を飲んでいた。



「もちろん、ご希望ならばセィ城下街に薬師の工房をご用意しますよ。設備ももちろん最上級の物を用意させます」

「遠慮します……」



 いい人だとは思うけど、やっぱりというかなんというか、俺を手元に置く気満々だった。監禁とかそういうことはしないけど、近くにいて色々手伝えって言われてるみたいだ。遠慮します。



「何なら、ユキヒラ君の様に、私が後ろ盾になってもいい」

「後ろ盾ならもうありますので遠慮します」

「ほう、聞いても差し支えないですか?」

「はい。農園関係者の後ろ盾があるので、すごく心強いですので、遠慮します」



 俺の答えに宰相が目を瞠った。思ったより大きな後ろ盾だったらしい。それは、と一言つぶやいて、黙ってしまった。



「諦めろよ。下手に農園関係を敵に回したら厄介なのはあんたが一番知ってるだろ」



 黙り込んだ宰相の人の背中をユキヒラがポンと叩く。どうとでもなるような後ろ盾だったら無理やり自分の配下にしちゃう気だったのかなこの人。

 農園の人たちは、後ろ盾になってくれるとは言っても、何かをしろとかそういうことを言ってこない、本当に俺が困ってる時に手を伸ばしてくれるような人たちだから。宰相の人がいい人でも、絶対に天秤にすら掛ける気ないよ。遠慮します。



「では、俺たちはそろそろ帰りますね。これからの薬師の発展と教会の立て直し、成功することをお祈りしています」



 腰を上げて祈りの手の形にすると、宰相も苦笑して立ち上がった。



「フラれてしまいましたな。では、また何かあればぜひ。そしてここに滞在する少しの間だけでもその身分証を役立ててくださると嬉しいです。そして、ヴィデロ君」



 いきなり声を掛けられて、一緒に立ち上がったヴィデロさんが宰相に目を向けた。



「はい。なんでしょうか」

「お母様に、会いたいですか?」



 思わぬ宰相の人の一言に、俺とヴィデロさん二人の動きが止まった。





感想 538

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。校正も自力です!(笑)

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。