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373、押し売り押し売り
森をトレの街に向かって進んでいた俺たちは、途中で二つの小さな魔素溜まりを潰すことに成功した。
でもやっぱりあの時のでっかいのとは全然雰囲気からして違った。魔物もポップしないしね。
ヴィデロさんの魔法剣の一撃で魔素溜まりが消えて、ブロスさんが口笛を吹く。
「ヴィデロ本当に腕を上げたな」
「ああ、必要に駆られて、な」
ブロスさんの感嘆の声にヴィデロさんが苦笑気味で返す。
俺のせいかな、俺が弱いから、なんて考えがちょっとだけ頭を過る。でもそれに被せるように、ブロスさんが「いいことじゃねえか」と朗らかに笑った。
「守りたいもんがあるうちが花だ。ヴィデロはそれを見つけたんだろ。だったらせいぜい頑張れよ。そしてマルクスに見せつけろよ。おもしれえから」
くくくと笑うブロスさんに、ヴィデロさんがいい笑顔でわかったと答えている。マルクスさん皆の人気者だなあ。
話を聞きながら思わず笑っていると、マップに魔物のマークが現れた。でもその前に黄色い表示が。追われてる?
「あっち、誰かが魔物に追われてる!」
俺の言葉に、二人が同時に顔を上げて即座に動き出した。俺も必死で付いていく。
かなりのスピードでこっちに向かって動いてくる二つのマークは、すぐに視界に飛び込んで視認できるようになった。
「ハニー!」
ブロスさんが声を上げると、栗毛の馬がこっちを向く。
アレがハニーか! 合流出来てよかった!
と思った瞬間、ハニーは俺たちがいた方と反対側に駆け出した。
「バカ! ハニー! こっちに来い! 囮とかやめろ!」
さらにスピードを上げたブロスさんが、腰に挿していた短剣を魔物に向かって思いっきり投げた。
短剣が掠った魔物は、ハニーを追う足を止めてこっちに向きなおった。
「こいや! 俺が相手になってやるよ!」
『グルアアアアアア!』
ブロスさんの威嚇に、魔物も威嚇で答える。
その横から、ヴィデロさんが斬撃を飛ばし、魔物に先制攻撃を加えた。
魔物が宙に身を躍らせ、ブロスさん目がけて飛んでくる。4足歩行のくせに、跳躍力が凄い魔物だった。
俺はすぐにインベントリから『感覚機能破壊薬』を取り出して、構えた。
ハニーは少しだけ遠くの方で、ブロスさんがやられないかうろうろとこっちを伺っている。そんなハニーを見て、ブロスさんが苦笑した。
「大丈夫だっての。さっきのはちょっと魔物が規格外だっただけだ……ってえの!」
通常のトレ周辺に出る魔物を、ブロスさんは呟きと共に一閃した。キラキラと魔物が消えて行くのも構わずに、ブロスさんは「ハニー!」と呼んだ。
ハニーは今度こそブロスさんに駈け寄った。少し息が上がってるのは、スタミナがまだ回復してないせいかも。
俺は使うことのなかった『感覚機能破壊薬』をしまうと、スタミナポーションを取り出した。馬にも効くよね。
「ブロスさん、これ」
渡すと、ブロスさんは微笑して「サンキュ」と小さく礼を言った。
ハニーの口に手のひらを充て、その上にスタミナポーションを零す。それをハニーが舐めとり、すっかり一瓶飲んでしまった。
そして、ハニーはスリ……と顔をブロスさんの頬に寄せた。その顔を頬擦りし、手で首を撫でまわし、ブロスさんがハニーを労わる。
「無事でよかった。ごめんな、あんなところに置いてっちまって」
「ヒヒン」
「怪我はないか? 痛いところは」
「ブルル」
「そうか。よかった」
会話が成立している。ブロスさんの顔は、本当にホッとした様な顔で、どれだけ普段ハニーを可愛がっているのかが見て取れた。
俺はカバンの中からメイレの実を取り出すと、ハニーにそっと差し出した。他の人の手から食べたくないんだったらそのままブロスさんに渡せばいいか、なんて思いながら。
すると、ハニーはちらりとこっちを見て、動きを止めてから、ゆっくりと首を伸ばして、俺の手のひらからメイレの実を咥えて持っていった。
「ハニー。今日はもう厩舎に向かうぞ。疲れたろ。大変なことを押し付けちまってごめんな。でもハニーが頑張ってくれたおかげで皆無事だから」
ブロスさんが撫でながらそう言うと、ハニーはもう一度ブロスさんの頬に顔を擦り付けた。
ハニーは手綱を引かなくても大人しく俺たちの横を歩いている。ほんとに賢い。
俺の感知よりも早い段階で魔物を見つけ、教えるようにヒヒンと鳴く。
魔物を二人が瞬殺すると、誇らしげな顔をしてフンと鼻から息を吐く。可愛い。
「そういえばヴィデロさんはいつも違う馬に乗ってるよね」
「俺は馬を持ってないからな」
「持ってる人と持ってない人がいるの?」
「ああ。ブロスみたいに馬と相性がいいやつは単独で世話をして、ほぼ専属になってる。でも俺は相性のいい馬がいないから、共通の馬を借りる。そんなもんだ。マルクスもロイもそっちだな」
「そっか。ロイさんだったら自分の馬に「フラン」とかつけそうだと思ったけど」
「そうだな、もし相思相愛の馬が見つかったらつけるな、絶対」
そんな話をしながらトレに向かう。
ようやくトレの壁が見えてくると、ブロスさんはホッとしたようにハニーの鬣を撫でた。
「今日はお役御免だ。さっさと休むぞ、ハニー。身体を拭いてからな」
遠くに門が見えてきて、ロイさんたちが手を振っている。
ブロスさんは軽く手を上げてそれに応えていた。
「ヴィデロ、今日は助かった。サンキュ。マックも。二人がいなかったら危なかったぜ」
「どういたしまして」
ブロスさんのお礼に俺がそう返すと、ヴィデロさんが笑いながら「これは貸しな」と冗談を言っていた。
門でブロスさんとハニーと別れて、俺たちは工房に向かった。
今日もまた大変なデートだった。でもヴィデロさんのかっこいい姿が見れたからそれはそれで嬉しい。
そんなことを思いながらインベントリを見ると、さっきの骸骨のドロップ品と思われるものが入っていた。
「『破壊騎士の狂骨』ってまたすごいのがドロップされたなあ」
インベントリから取り出してテーブルに置くと、ヴィデロさんもカバンの中から骨っぽいものを取り出した。
「俺の骨とは違う場所だな」
「だね。俺がゲットした奴は……これって腰? ヴィデロさんのは」
「腕か足か、そこらへんだと思う」
ヴィデロさんがテーブルに置いた骨は、まんま犬が咥えて喜びそうな「骨!」って感じの形で、俺のは8の字のような形だった。
鑑定してみると、アイテム名自体は同じだった。もしかして、あの骸骨の骨がランダムで手に入るのかな。ってことは、倒し続ければあの骸骨の標本とか出来上がったりして。まあ、レア魔物だろうし、そんなことは難しいだろうけど。
「これ、砕いて粉にすれば調薬に使えるみたい。ええと……猛毒アイテム……」
「……マック。この骨はマックに。猛毒を作れとは言わないけど、活用してくれ」
「売ったら結構な値段になりそうなのに」
「猛毒の素が世に出回るのはちょっとな」
「そうだね。ありがとう」
素材を貰ってしまった。
素直に受け取ってインベントリにしまうと、お礼というわけでもないけど、ヴィデロさんのご飯を作ろうとキッチンに立った。
簡単に作れるものを作って、ヴィデロさんに差し出す。
ヴィデロさんは寛いだようにキッチンの椅子に座ってこっちを見てニコニコしてる。
なんか、うん、新婚さんってこんな感じなのかな。なんて思ってみたり。
鍋をテーブルに運ぶと、ヴィデロさんが立ちあがって所定の位置から食器を取り出して並べてくれた。
二人で食卓に着いて、ご飯を食べる。ああ、幸せ。
「そういえばさ、ロイさん、ご飯とか全然「美味しい」って言わないらしくて、フランさんにキレられたんだって」
「あいつ変なところで照れ屋だからな。言いたくてもきっとかんだり真っ赤になってぎこちなくなったりするんじゃないか?」
「そうなんだ。美味しいって言ってもらえるとすごく嬉しいのに」
「そうなのか? じゃあ俺もしっかりと言っておこう。マックの飯はいつでも一番美味い。毎日食べていたいくらいだ」
「ってヴィデロさんはいつも美味しいって言ってくれるじゃん」
何気なくさらっと言ってくれたけど、今の言葉はプロポーズとして受け取っておきます!
毎日、食べさせたいよ。美味しいご飯で笑顔になってくれるヴィデロさんをずっと見ていたい。今の顔みたいなね。好き。
夜まで存分にイチャイチャして、ヴィデロさんは詰所に帰って行った。
俺もログアウト時間が迫ってるんだけど、たまには気合いを入れて調薬しないと、と調薬の部屋に向かった。
そして素材がなくなるまでひたすら調薬しまくる。素材がなくなったものはメモしておいて、後日採取。および購入。
たんまりと出来上がった回復薬各種をインベントリに突っ込み、ようやく満足した俺は、いつもより少し遅くログアウトした。
それから二日、俺は今、詰所の中で団長さんと向き合っている。
前にも話をしたことのある会議室みたいなところで。
目の前にあるテーブルには、ハイポーションの山。さすがにハイパーポーションは受け取ってもらえないと思って、クラッシュの所にも卸すハイポーションランクSを差し入れることにしたんだ。
ちなみに、他の各ポーションも満遍なく持ってきた。
それを入り口で正直に「差し入れ!」と言ったら、マルクスさんが団長さんに取り次いでくれたんだ。
その団長さんは、ちょっとだけ険しい顔をしていた。
「正直喉から手が出るほど欲しいが、君にメリットが見当たらないので、受け取る理由がない」
団長さんは腕を組んで、じっと俺を見ている。
「理由っていうか、俺が貰って欲しいから持ってきました」
「こちらとしては、ちゃんとした理由がないと受け取れない。賄賂ととられてしまってはこちらも困るのでな」
「賄賂……考えてもみなかった。俺、ヴィデロさんが怪我した時ちゃんとしたハイポーションが配られてたらいいのにって思ってただけなんで」
「ヴィデロ本人に渡せばいい、とは思わないのか」
「もう渡してあります」
「では、余計に受け取ることは出来ない」
その言葉に思わず溜め息を呑み込んでいると、団長さんも溜め息を吐いて、表情を苦笑に変えた。
「君が善意でこういうことをしてくれようとしているのは知っているんだ。悪いな、融通が効かなくて。買い取るのであれば問題ないんだが、それもまた難しい。魔王が討たれてからは、騎士団の予算も縮小しているんだ」
「予算。辺境ですら予算削減されてるみたいだから、やっぱりそうなるのか……わかりました。じゃあこれ、押し売りします」
買取なら問題ないっていたよな。
ってことは。
俺はクラッシュの店に売られている最低ランクと同じ値段を設定した。そして。
「ヴィデロさんの職場ということで、特別価格、8割引きで。多少は金銭絡んでくるからごまかしも効くんじゃないですか。しかも個人と取引だから、数字を入れなければなんとでもなるし。どうですか」
「……」
宰相さんに訴えようとしても、あの人滅茶苦茶忙しそうだから隅々まではさすがに手が届かなそうだしなあ。かといって国の中枢がすべてあんな感じとも限らないし。っていうか宰相さんと同じくらい色々考えて周りを見れる人がいたら、各街の騎士団がこんなことになってないよね。中枢の人、楽天的な人が予算決めしてるのかな。どう考えてもこの魔物量で騎士団予算削っちゃダメでしょ。
……もしかして、俺たちプレイヤーが魔物を狩る様になったから、もう大丈夫だろとか思ってたりして。まさかね。まさか。
「……君のメリットが全くないが……すまない、では、それで購入させて貰ってもいいか?」
「もちろん。言い出したのは俺ですし」
ようやく買ってもらえたことに満足して、俺は薬のお金を計算した。その料金は、公を通してだとちゃんと痕跡が残るから賄賂には相当しなくなるということで、あとでギルドを通して払ってもらうことにして、俺は立ち上がった。
そして、今の売上の分のお金を取り出す。
「これ、ロイさんのお祝いに」
とテーブルの上に置いて、さっさと退散。よし、これでプラスマイナス0だ。
詰所の扉を、清々しい気分で出た俺は、門に立っているマルクスさんに手を上げた。
「残念だったな。今日はヴィデロ外回りで」
「うん、すっごく残念だった」
「ちっ、素直すぎて揶揄う気にもなれねえよ」
舌打ちするマルクスさんに思わず笑う。
あんな魔物が出たあとで森の見回りかあ。ヴィデロさん、気を付けて。きっとよほどの魔物じゃなければ大丈夫だとは思うけど、怪我しないで。
森の方に視線を向けながら、俺はそう祈るのだった。
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