これは報われない恋だ。

朝陽天満

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493、お約束

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 熊さんの洞窟まで転移の魔法陣で跳んで、そこから先は雄太たちの飛翔……。

 森の中を俺の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

 雄太がヴィデロさんを、海里が俺を運んだんだけど、そのスピード感が半端なく。

 木々を縫うその速度感がまるで天然要塞ジェットコースター。ってかなんで皆楽しそうなの!?

 そして何でぶつからないの!

 目がいいにも程があるだろ!

 無茶すんな!

 危ないからもっとゆっくり飛びなさい!

 スピード違反だよ!

 魔物もついてこれないじゃん!



 そんなことを喚いていたせいか、道中は雄太たちの笑い声に包まれていた。



「あー、おかしかった。マックの悲鳴は他とは違う。褒めたり注意したり魔物の心配したり」

「ほんとに。交通ルールを叫ぶのは反則だよ」

「……また、運ばせて?」

「焼きもちすら妬かせない面白さがマックだなって」



 他とは違うってなんだよ。交通ルールを守るのは大事だよ。そしてもう運ばなくていい。寿命が縮む。ってか人が怖がってるのを面白がるな!

 涙目で足をガクガクさせている俺を、心配してくれるのはヴィデロさんだけだよ。



「マック、もう大丈夫だ。湖に着いたから。高橋たちのおかげで魔物に遭遇することもなくすごく早く湖に着いたな」

「そうだけどさ、そうなんだけど……!」



 俺の気持ちもちょっとは考慮してほしい。

 とはいえ、徒歩で来るより滅茶苦茶早かったし、馬を飛ばすよりも全然早く湖に着いたのは、転移と飛翔の混合技のおかげで。



 目の前の湖は、確かにノヴェの門番さんが言っていたように、水がとても澄んでいてキラキラとした湖面が綺麗だった。

 そんな湖を見て、俺たちの目も輝いている。



「『時は金なり』って言うだろ。ほら、釣りしようぜ釣り。この場で捌いて食えるヤツだといいなあ!」



 雄太がしれっとそんなことを言いながら、カバンから取り出したのは、釣り竿。全員が持っている。どうしたのそれ。

 訊いたら、コースト村にわざわざ行って講習を受けて来たらしい。釣竿をゲットできるっていうのにつられて。

 雄太の独断で向かったけれど、思った以上に面白かったらしい。全員がワクワクしながら各自持ち場に着こうとしている。



 俺も二人分の釣り竿を取り出して、ヴィデロさんに渡した。

 でもさっきの恐怖からか足がカクカクする。なんで皆スピード狂なんだ。



「ヴィデロさんは怖くなかった?」

「最初は慣れない感じで驚いたが、クイックホースと似たようなスピードだし、マックの可愛い声が聞こえ続けてたから、なかなか興味深かったな。喉痛くないか? 少し掠れてる」

「喉はすぐ治るから大丈夫。ヴィデロさんが怖くないならよかった……けど、帰りは転移で帰ろうね……」



 ヴィデロさんの袖口をきゅっと握ると、ヴィデロさんがくすくすと笑って「そうだな」と了承してくれた。





 釣り糸を垂らしている雄太たちの隣に陣取って、俺たちも釣り竿をセットする。



「釣り餌は?」

「マック知らねえのか? ここの釣りにはそんなもんいらねえんだぞ」

「え?」

「えって、マックも講習受けたんじゃねえの?」

「俺はクエストで釣り竿をゲットしただけだよ。釣りの極意は習ってない」

「マジかよ……大分やり方違うぞ」

「マジ!?」



 雄太から衝撃の事実を聞いて、俺は目を丸くした。

 そんな俺の手に握られた釣り竿を見て、雄太は「だからマック達の釣り竿はいいやつなのか」なんてしみじみ呟いている。



「コースト村一の腕利き職人さんが作ったやつだって言われたけど」

「うわ、羨ましい」



 鑑定眼を使ってみると、雄太たちのは『初心者用釣り竿』となっていて俺とヴィデロさんのは『上級釣り竿』となっている。

 何が違うのかというと、初心者用釣り竿はあんまり大きな魚は釣れないらしい。初心者が釣るような小さな魚をターゲットにしているらしく、大きな魚が掛かるとものすごく釣りあげるのが難しいんだって。でもって、俺のやつは大物及び深いところにいる魚も釣れるとか。しなり具合が全然違っていて、魚に引っ張られても踏ん張れるんだとか。



 なんて説明を受けている間に、ブレイブとヴィデロさんが一体魔物を倒していた。



「ところでお前らパーティー組んでるのか?」



 釣り糸を垂らした雄太に聞かれて、俺はうんと頷いた。



「ヴィデロさんが魔物を倒すと経験値が入ってくるよ」

「そっか。んじゃ、レイド組んどくか」

「ん」



 雄太が宙を操作して、ピロンと通知が来る。「はい」をタップすると、レイドメンバーに雄太たちの名前が載った。



「よし、これでマックが変なもんを釣っても、経験値は分け合えるぜ!!」



 わははと雄太が笑ったので、ついつい手刀をビシッと入れる。



「なんで俺が変なものを釣る前提なんだよ!」

「だって絶対に変なもん釣りそうじゃん!」



 皆が同意したので、俺はそんなわけないじゃん、とヴィデロさんの横に移動して、釣り糸を水面に飛ばした。







 雄太たちは順調にそこそこの大きさの魚を次々釣っている。

 ヴィデロさんも、さっきカレイのような平べったいデカい魚を一匹釣った。

 そして、俺はというと。



「全然釣れない……」

「お約束だな」



 ワクワクした顔で雄太が突っ込んできたけど、なんだよそのお約束って。

 もう、と溜め息を吐いて、マップに現れた赤い点を指摘する。

 丁度魚を釣り上げた海里が「じゃあ行ってくるね」とそっちに向かっていくのを見送りながら、俺はピクリともしない釣り竿に溜め息を呑み込んだ。

 さすがレベル限界突破クラスというかなんというか。

 俺以外の全員が、ノヴェ付近の魔物なんていう物は一人で倒せていた。しかも苦戦することもなく。ユイですら魔法を三回繰り出した程度で魔物を屠っていた。最強の護衛だよほんと。

 皆がにっこりとマックは釣りに集中していいよと言ってくれるのがありがたいやら情けないやら。



「もう釣り竿置いて魚捌こうかな……」

「いや、お前はまだ釣りをすべきだ」



 泣き言を零した瞬間、雄太に真顔で諭された。ってか魚食べたいよ。もう昼近いよ。

 釣れないんだからもう諦めるよ。



「諦めるなよ!」



 いつになく熱くなる雄太は、一体俺に何を期待しているのか。

 怪訝な顔で見た瞬間、感知で背中がぞくりとなった。

 ハッとしてマップを見ても、魔物マークは付いてない。

 ってか感知が指し示す方向、湖なんだけど!!

 雄太なんかのフラグ立てやがったのか!?







 一気に釣り竿がぐいっとしなり、湖に身体ごと持っていかれそうになる。

 咄嗟に隣にいたヴィデロさんが俺の身体を捕まえてくれて引きずり込まれるのは免れたけど、釣り竿が折れるんじゃないかと心配になるくらいにしなっている。



「きたあああああ! 大物来た!」



 よっしゃあ! と俺よりも雄太の方がテンションが上がっている。

 ヴィデロさんが俺の腰を押さえつつもう片腕で釣り竿を支えてくれたおかげで糸を巻くことが出来るようになった俺は、上腕二頭筋の筋肉をフル稼働して、リールのような物を必死で巻いた。

 魚かな。魔物かな。感知の感覚からして魔物っぽいんだけど、湖にヌシがいるなんて門番さんたちは教えてくれなかったよ。そもそもこの湖で釣りをする人もそうそういないとは思うけど。



「ぐぬぬぬ……ヴィデロさんが力負けするはずは……なし……っ!」



 近付いてきた大物を、2人で一気に引き上げる。

 勢いに乗って水面から引き揚げられた大物は、頭上に緑色のHPバーがついている魚だった。

 魔物かよ!



 飛び跳ねて上陸した魚型の魔物は、俺の釣り竿の糸を口にくわえたまま、ひれを使って器用に襲い掛かってきた。全員が瞬時に戦闘態勢になる。



「魔物がいるのによく魚が生きてられるな」



 大剣を構えながら雄太が感心したように呟く。

 皆確かに、って顔してるけど、魔物って他の生き物を食べるものなのかな。そこが疑問。



「釣り針返せよ……」



 魔物に繋がっているせいか、釣り竿を手放せない俺は、必死で糸を緩めながら魔物の突進を躱していた。

 糸がピンと張ってると魔物に引き摺られそうになるんだよね。

 邪魔にならないように逃げて、そこにブレイブの矢が飛んで、ヴィデロさんと雄太の剣が魔物を攻撃し、その間に俺は後ろに逃げて。

 気付いたときには、魔物は釣り糸に絡まっていた。

 ひれと尻尾で攻撃していた魚の魔物は、糸に絡まって攻撃方法が半減していた。

 チャンスとばかりに皆が一斉に攻撃する。

 海里が双剣で止めとばかりに頭を切り落とすと、でかい魚はキラキラと宙に消えていった。本当に魔物だったよ……。喰いでがありそうだったのに、なんてことは思わないけど。



 あれだけ攻撃を受けたのに、釣り糸が切られることはなかった。俺が手放さなかったのを見て、糸が切れない場所を攻撃してくれたらしい。ありがたい。

 ホッとしながらインベントリを見てみると、そこには、燦然と輝く『魔魚の肝』があった。



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