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連載
621、逃げることだけは出来るみたい
しおりを挟む『芽吹かせよう
守護樹の枝を彼の地に移植し
彼の地と守護樹を繋げよう
(守護樹の枝は弱く脆いので 植える場所を清浄にし安全を確保すること)
クリア報酬:魔の総力低下8% セーフティポイントの出現 彼の地との連携 地脈の歯車
クエスト失敗:移植に失敗したもしくは枝を枯らした セーフティポイント消滅
【クエストクリア】
クリアランク:C
守護樹の枝を彼の地で根付かせることが出来た
(限定的範囲のため、見守り安全確保必須)
クリア報酬:魔の総力低下7% 簡易セーフティポイント 彼の地とエルフの里の連携 地脈の歯車』
「クエストクリアした」
クエスト欄を開いて呟くと、全員が俺に注目した。
でも内容はほんとギリギリクリアだよ状態。
「見守りと安全確保は必須だって」
「んじゃ俺らが見守るか。マックは、ここになら一人で跳べるのか?」
雄太に訊かれて、俺は首を傾げた。
距離的にどうなんだろう。
「ユイはMPどれだけ使う?」
「ええとね、このメンバーでここまで跳ぶと、2600くらい使うよ。転移ってMP消費が馬鹿にならないよね。4人の時は2000くらいだから、単純に一人増えたらMP消費いくつ、とかいう計算ではないみたいだし。一人でも結構消費すると思う」
「やってみるね。ちょっと待ってて」
俺は誰も俺に触れてない状態で魔法陣を描いてみた。
辺境までの転移魔法陣が発動すると、一瞬にして目の前には辺境の詰所があった。よかった、飛べた。けど、MPギリギリ残り32。
MPを回復して、もう一度魔大陸に戻ろうと魔法陣を描き……。
最後の文字を描き切る前に、魔法陣は消え去った。MPだけを馬鹿食いして。
くらくらするのを堪えてMPを回復する。
そういえばあっちの大陸は魔力消費が少ないんだっけ。だから一人で跳べたってことか。でも一人では行けないと。え、どうしたらいいんだ。
『戻れなくなった』
とりあえず雄太にチャットを送ると、目の前にユイが現れた。
そして、にこやかに手を差し出された。
「お迎えに来たよ」
「ありがとうユイ」
「でも一人で帰ることは出来たんだね」
「うん。でもあの村より先に行っちゃったら多分無理。ギリギリだったから」
「逃げることはできるってわかっただけでもいいよ。行こ」
取り敢えずユイのMPを回復して貰うために、差し出された手にマジックハイパーポーションを握らせると、ユイは一度びっくりした顔をしてから、嬉しそうにお礼を言って一気飲みした。
「いつ飲んでもマック君のは美味しいよね。ごちそうさま。じゃあいこっか」
今度こそユイと手を繋いで、俺とユイは魔大陸に戻った。
俺たちが魔大陸の地を踏んだ瞬間、雄太の「迷子の中学生保護」という呟きと、ヴィルさんの笑い声が聞こえて来て、俺は問答無用で雄太に跳び蹴りを食らわせたのだった。びくともしなかったけど! くそ!
もう一度枝の状態を見て、ヴィルさんにも鑑定してもらって、マメに俺たちもヴィルさんも来ることを決めると、俺たちは辺境をあとにした。
ヴィルさんもちゃんと守護樹と話せたみたいで、しっかりと自立している枝に向かって笑顔でエールを送っていた。
でもヴィルさんがここに来るってことは、クラッシュが連れて来るってことなんだよね。頑張れ、クラッシュ。この間の飲み会のクラッシュを思い出してちょっとだけ同情してしまった。色々無理難題を言ってるみたいなんだもんなあ。
雄太たちは勇者の所に行って、魔大陸の報告とこれからの相談をするらしく、俺たちとは別の道に進んでいった。
俺とヴィルさんは、辺境の長光さんの店へ。
長光さんはしっかりとログインしていて、チャットを送るとすぐに返事をしてくれた。
「こんにちは」
「よ、マック君にヴィルさん」
出てきてくれた長光さんは、両手に一杯の鉱石を抱えていた。
そして、満面の笑みでそれを俺に差し出した。
「来るの待ってたぜ。これを渡したくてよ。渡しそびれてたら溜まっちまった」
大量の『謎素材』鉱石は、中には魔物からしか取れない『なんとかの臓腑』とか『なんとかの目玉』とかも混じっていた。それ、長光さんが単独で倒すんですか。ほんとにこの人鍛冶師なのかな。トップランカー的強さあるよねいつも思うけど。
ありがたくその素材を貰って、出来上がった物を渡す約束をすると、ヴィルさんがこの間の飲み会で出した剣をインベントリから取り出した。
「君に頼みがあってきたんだ。これを加工して欲しい」
なんかただごとじゃない空気感を纏っているその剣は、丁寧な装飾でとても綺麗な剣だった。クラッシュの魔力を吸って、それがレガロさんの手に渡って、それをヴィルさんが買い取ったとかいういわくありげな剣を受け取った長光さんは、顔を顰めて剣を見下ろした。
「これ……なんつーもんを持ってきやがるんだ……アーティファクト級だぜこれ」
「前はそこまでじゃなかったんだ。育ったというか育てられたというかなんというか。その剣に一つ欠けているところがあるだろう。それをどうにかして欲しくて。君なら完璧に仕上げられるだろう」
そう言って、ヴィルさんは柄の部分の一か所を指さした。そういう装飾だと言えば納得してしまう程のその指差された場所は、確かに欠けていると言われれば、何かを填めるのかもしれないとも思わされるような気がする。小さな薄めの宝石とか付けたらしっくりきそうだった。
「これくらいならお安い御用だ、が、しかし、マック君の手伝いが必要になるな。この剣に負けねえ石って言ったら、マック君しか作れねえだろ」
長光さんは顔を上げて、俺をガン見した。
それに錬金で作った属性付与的な石なんてくっつけたら、どれだけ恐ろしい性能になるんだろ。っていうか、ヴィルさんが使うのかなあ。
「できれば、そうだな。聖属性を助け、闇を切ることのできるものがいい」
「そりゃ、同じ聖属性か光属性しかねえな。っても、今は在庫がねえ」
「早いにこしたことはないが、いつでも構わない。俺が使うわけでもなし。その石を作るための素材集めは俺も全力で取り組むから、頼む」
ヴィルさんは、長光さんに、そして、俺に頭を下げた。
え、光属性とか聖属性? あの妖精の木だっけ。あれがあれば一発で輝石が作れるから簡単なんだけど。今は守護樹が力をつけたから、早々には手に入らなそうだよな。
頑張ってみるけどね。
ヴィルさん、報酬は言い値でって。もしここで俺が新しい工房を立て替えられるだけの値段を言ったら、出すのかな。冗談だけど。あの工房で大満足だけど。言い値って怖いからやめた方がいいと思う。
「んじゃ、情報だな。ヴィルさんの情報は何物にも代えがたい。なんか面白い情報をくれりゃ、尽力しよう」
「わかった」
お金はいらない長光さんと、長光さんが欲しがりそうな情報をしっかり持ってるヴィルさんって、実は俺とは住む世界が違う気がする。
二人のやり取りを見ていて、俺はちょっとだけ後ろに下がって傍観者を決め込んでいた。
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