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622、ヴィルさんからの注意
傍観者をしっかりと決め込んでいた俺にも、しっかりと二人からお願いが舞い降りた。
長光さんには、ヴィルさんが渡した剣に付けれるような石を作ってくれと。ヴィルさんからは、たまに連れて行けと。どこにとは言っていない。でも魔大陸だってことはわかる。
剣を渡したヴィルさんは、これで満足とばかりに頷いた後、何気なく長光さんの工房の方に目を向けた。その後少しだけ動きを止めると、何事もなかったかのように俺の方を振り返り、手を差し出す。
「さ、マック。帰ろうか」
「あ、はい」
長光さんとお別れして、俺とヴィルさんは店の中からトレの工房に跳んだ。
ヴィルさんは俺に「すまないがお茶をくれないか」と言うと、椅子に座った。
俺がお茶を淹れてヴィルさんに差し出すと、ヴィルさんはありがとう、と手を伸ばした。
一口飲んで一息つくと、ヴィルさんは真顔で俺を見た。
「あの村は正常な状態に戻ってた。それはしっかりと俺も認識した。でも健吾、ヴィデロを連れていくのはダメだぞ。あと、獣人たちも。魔力値適性のあるものならいいんだけどな」
「連れてかないですけど……あの村の中でもダメってことですか?」
「ダメだな。あの村の中でだけなら何とかなる。でも、あの魔道具が壊れたら、間違いなくまたあそこは村の外と同じ魔素になるし、一歩でも村から出たらアウト。もし健吾が村の前で魔物に襲われでもしたら、あの弟が飛び出さないわけがない」
「あ……そう、ですね。怖い」
「辺境に行ったとき、あいつは二刻ほどしか持たなかったと言っていた。ということは、魔大陸ではほんとに数分も持たず魔物になるということだ。それは肝に銘じておけよ」
「はい」
ヴィルさんの忠告に、俺は青くなりながら返事をした。
確かにそうだ。もともと連れていく気は全くなかったけれど、でも。
ヴィルさんにそう言われなかったら、あの村にいれば大丈夫、なんて簡単に考えて、連れて行ってたかもしれない。
ヴィデロさんだけじゃない。獣人さんたちだって同じだ。本当に魔王を消して、あの地を正常にしない限り、絶対に連れて行けない。
俺は、ぐっと手を握りしめて、心に刻み込んだ。
ヴィルさんはそれを俺に言いたかったらしく、それ以後は表情を緩め、お茶を飲んだら隣の建物に消えていった。
こういう忠告、ドキッとするけど、ありがたい。
「よし! さっき長光さんに貰った素材で錬金するぞ!」
気分を切り替えるため、俺は声を出して気合いを入れた。
大半の素材をつぎ込んで次々錬金していく。
でも、光属性、聖属性の物はなかなか出来上がらない。
レシピの本二冊ともパラパラめくってみたけれど、そもそも錬金レシピは自分で作ってみて初めてそのページが埋まる物だから、作ったことのない物は素材名しか書かれてないのが辛い。
聖属性の、聖剣の元は素材がないし。
難しいよ、長光さんたちの注文。
とはいえ、期限は設定されてないから、気長にやるしかないのかな。
数日に一回、雄太たちと待ち合わせして、魔大陸に連れて行ってもらう。
守護樹は順調に根を張っているらしい。聖水をあげて育つのを見るのは、なかなかに楽しい。これぞまさに草花薬師って感じだ。
そして村の周りの薬草をゲットして、雄太たちと共にその他の素材もゲットして帰って来る。ユイたちが採取した薬草も俺の元に集まってくるから、薬草は大量だ。
それをハイパーポーションに作り替えて、雄太たちに還元するローテーションが出来上がりつつある。
そして、雄太たちのパーティーにその都度入れてもらってる俺は、いつの間にやらレベルがかなり上がっていた。
魔大陸の魔物ってホント経験値がヤバい。これ、旅の間ずっと4人で戦ってた勇者たちにもしレベル概念があったら、今のレベルってどれだけなんだろう、とちょっと遠い目になる。セイジさんたち、人外レベル。
そして雄太たちも人外レベルになりつつあるらしい。勇者のひと振りを、大剣でしっかりと止められるようになっていた。前は一振りの風圧で瀕死だったらしい雄太たちは、着々と人外に……。勇者に「お前さんもやるか?」って声を掛けられたけど、俺は今も風圧で瀕死レベルですから。無理。レベルは上がってても、攻撃力は一向に上がってないからね。上がるのは器用さとか運とかそっちばっかりなんだよ。何でだ。
今日も今日とて、さっきまで行っていた魔大陸の素材をハイパーポーションにしていく。
それをインベントリに詰め込んで、ふと顔を上げた。
顔を上げると、魔法陣の光が弱まっていた。そろそろ休憩かな。
ケインさん印の作業台を隅に移動して、カーテンを開けた。
キッチンに向かうところで、玄関が開いたので、方向転換して玄関に向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
抱き着いていくと、力強い腕が俺の身体を抱き寄せた。
石鹸のいい香りのするヴィデロさんは、嬉しそうに目を細めて工房の玄関を閉めた。
「ご飯これから作るんだ。今日は早いね」
「ああ。今日は森巡回だったからな。そうだ、お土産があるんだ」
「お土産?」
首を傾げると、ヴィデロさんはカバンの中から魔物の肉を山ほど取り出した。
今日は森で大物に出会ったらしい。皆で倒して、肉を山分けしたとか。
早速その肉で夜ご飯を作ることにした。
ステーキ風に焼いた肉に、アランネソースをかけて、茹でた野菜で彩りをつける。うん。おいしそう。
「でな、皆肉が出たのに、ロイだけ爪が出て、物凄く悔しがってたんだよ。あの肉、フランが大好物なのに、って」
「うわあ、可哀そう」
「皆が少しずつ分けたから、結局は一番多く手に入れたのがロイだったんだけどな。今度フランさんの手作り菓子を差し入れるって皆と約束してたよ。マルクスが「人妻の手作り菓子」とか呟いた瞬間蹴りを入れてたけどな」
「あはははは相変わらずだね。マルクスさんには「人妻の手作り菓子」差し入れなくていいと思う」
「だな」
肉を切り分けながら面白エピソードを話してくれるヴィデロさんにつられて、俺も笑う。ご飯も美味しい。最高。好き。
食べ終わった皿を並んで洗うのもすごく好き。
終わった後に二人でまったりするのも好き。
「ソファでも置こうかな。ヴィデロさんと二人でフワフワのソファで一緒にゆっくりしたいなあ」
何気ない俺の一言で、明日のヴィデロさんのお休みは、最高のソファを探しに行くことになった。
デートデート。やった。
もうすぐ社会人になっちゃうから、一日デートはすごく貴重!
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。