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連載
625、例の店、発見しました!
しおりを挟む二人でブラブラとメインストリートの店を覗く。
ここって結構職人が多いのかな。
裏通りは殆どが何かしらの工房だったし。
そのことをヴィデロさんに言うと、ヴィデロさんは頷いた。
「腕のいい服飾系の職人は大抵ここで修業をすると言われているな。そして、鍛冶は辺境が主流になっている」
「街ごとに結構特色があるんだね」
「そうだな」
「トレは? ずっとトレにいるけど、あんまり特色って知らないかも」
「トレはな、統括が居を構えているだろ。だから、冒険者ギルドの依頼が一番充実していると言われている。冒険者ギルドがメインというか特色って感じだな」
「成程」
納得していると、ヴィデロさんが苦笑した。
「逆に言うと、統括がいなかったら特に特色もない街ってことだけどな」
「住みやすくていい街なのに。皆アットホームでさ」
何せ俺とヴィデロさんの結婚を、メインストリートにあるほとんどの店員さんがお祝いしてくれたくらいだし。ヴィデロさん知名度高かったんだろうなあ。何せ強いしカッコイイもんね。
ヴィデロさんを見上げて見惚れていると、ヴィデロさんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「俺もそう思う。だからこそ、守りがいがある」
誰か、うちの旦那様がとてもかっこいいって自慢を聞いてください。
ヴィデロさんの手を握って悶えていると、ヴィデロさんは何かを見つけたらしく、あ、と声を出した。
「マック、あの店、異邦人の店じゃないか?」
ヴィデロさんの声につられて、指さしたほうに視線を向けると、服飾系の工房の看板がぶら下がっていた。その看板のマーク、見たことがある。
そう、あの、結婚祝いに貰った下着を製作した工房のマークだった。ヴィ、ヴィデロさんもあのマーク知ってる……?
「前に海里に聞いたことがある。とても腕のいい職人だって。海里もブレイブも愛用してるんだって? 前に見せて貰った上着が、とてもしっかりと作られていて、マックのローブとか売っていたら欲しいなと思ってたんだ。とはいえ、ローブは兄に凄い物を贈られたからもういらないんだけどな」
にこやかに話すヴィデロさんの横で、俺は少しだけ動きを止めてしまった。
貰ったプレゼント、実は一度も使ってないんだ。出してもいないし、見せてもいない。
海里の上着で知ったのはちょっとホッとしたけど、確かあの店、メインはインナー……。
俺はヴィデロさんの手を、無意識にギュッと握りしめてしまった。
行って、ヴィデロさん用の下着を見てみたい欲がむくむくと湧いてくる。でも、あの総レース的な下着を見ると心が萎れそう。
下着、下着……。
「マックに似合う物が売ってたら嬉しいな。よければ俺の服も見立ててくれないか?」
「誠心誠意見立てましょう……!」
ヴィデロさんのお願いに、陥落した俺だった。
素敵なヴィデロさんにお似合いの下着、気合い入れて探すね……!
二人で入り口を入ると、そこには無難なインナーが所狭しと飾られていた。
でも生地はしっかりしていて、下手すると最初の鎧よりも防御力が高い物まである。耐寒付加されてる物から耐熱の物まで。シンプルなのが逆にいい。買って行こうかな。
ヴィデロさんと二人でインナーを見上げながら、真剣に検討を始める俺。
すると、奥の方から店主と思われるプレイヤーが顔を出した。
「いらっしゃい。何が欲しい? インナー? 下着? それ以外?」
「こんに……」
店主さんに顔を向けた俺とヴィデロさんは、挨拶を返そうとして、思わず固まった。
え、その姿で店番? それ、コウジョリョウゾクに反してない?
店主さんは、とてもセクシーで美人なお姉さん的な人だった。それだけならいい。でも、その恰好が。めちゃくちゃミニなスカートの裾から、ガーターベルトと思われるレースの紐がバーンと主張しており、胸はほぼ半分しか布の中に入っておらず、ちょっとでも揺れるとポロリしそうな状態。おへそもバーンと出ており、半分だけレースで薄く隠れている程度。それが余計に際どい。
口元には黒子があり、髪はふわふわと巻かれたロングを垂らしている。首もとにある単独の襟は、何か意味があるのかな。小さなリボンが谷間にかかってとても強調されている。
これは、ヴィデロさんは見ちゃダメなやつだ。
存在自体がヤバいやつだ。
あのたわわな肉にヴィデロさんが見惚れたら滅茶苦茶やだ。
思わず背伸びしてヴィデロさんの目を押さえると、お姉さんがブハッと吹き出した。
「ちょ、おま、なに目隠ししてるんだよ。そんなに俺の姿は目に毒かあ?」
男性的な言葉と声がお姉さんから飛び出し、俺はさらにパニックになった。
「ヴィデロさんは見ちゃダメ。刺激が強すぎるから!」
「マック、落ち着け」
「だってあの胸……! ヴィデロさんの胸には負けるけど、コウジョリョウジョクに反してるから……!」
「わはははは! おい、言えてないから。「公序良俗」な。っつうか何そんなお子様な反応してくれてんだよ。気に入った!」
がはははとやはり男らしい声で笑うお姉さんから目を逸らして必死でヴィデロさんの顔を押さえていると、ヴィデロさんが俺の腰に腕を回して、顔を押さえた手の平にちゅ、とキスをした。
「お子様には刺激が強すぎたな。わりいわりい」
ガリガリと頭を掻くその仕草は、どう見ても男らしく、ヴィデロさんのキスで冷静になった俺には、見た目はアレでも中身は男なんだということが明確に分かった。もしかしてこの人、アバターを作るとき、自分の好みそのまま作った人じゃなかろうか。一度そんなアバターを作ろうとして断念した俺は、立ち止まらず突っ走ったであろうそのプレイヤーから、さりげなく視線を逸らした。
「入って早々失礼した。ここの服がとてもいいという話を聞いていたから来てみたんだ」
「お、嬉しいねえ。俺の技術をこれでもかと詰め込んだ物が溢れてるから、どれでもお薦めだぜ」
「ゆっくり見せてもらう」
ヴィデロさんの答えに満足したのか、店主さんは満面の笑みで手をひらひら振りながら、ごゆっくり、と奥に引っ込んでいった。
「はー恐ろしい……ヴィデロさんが誘惑されるかと思った……」
何せ胸の谷間は男のロマンらしいからね、とホッと息を吐くと、ヴィデロさんがすごく変な顔をした。
「俺がああいうのに誘惑されると思ってるのか?」
「されたらやだなって思っただけ」
「焼きもちか?」
「……だって。俺、魅力的な胸もお腹も何も持ってないから」
精神が未熟だから、その魅惑的な胸を作ることもできなかった小心者だし。いきなり目の前にあんなセクシー極まりない姿を出されるとちょっと焦る。
ヴィデロさんはくすっと笑うと、尖った俺の口を指で抓んだ。
「焼きもちもなかなか。でもちょっと俺がそんなにすぐ目移りするやつだと思われたのは許せないな」
「ごめんなさい」
素直に謝ると、ヴィデロさんはふむ、と息を吐いた。
「マックはどうなんだ? あれだけ必死に隠すってことは、マック自体もああいう体つきだと色々と反応しちゃうんじゃないのか?」
「俺?」
ヴィデロさんの言葉に、俺は一瞬何を言われているのかわからなかった。俺が、あの肉感的な身体に反応? 何の反応?
首を傾げると、ヴィデロさんはくすくすと笑いだした。
「マックが俺の身体の方が好きだってことが、よくわかったよ」
そう言って俺の腰に回した腕を離したヴィデロさんに、俺はさらに首を傾げた。え、何でわかったの。ヴィデロさんエスパー?
二人でインナーを見ていて、奥に行く通路があることに気付いた俺たちは、更に進んでみることにした。多分この勿体ぶった感じが、奥にヤバい物があると思わせられる。ヴィデロさんにお似合いのセクシー下着とか、わんさか出て来そうな予感がする。
通路の壁にもあの人が作ったと思われる装備品が飾られていて、ヴィデロさんが飾られた腰巻を見上げて「これマックに似合いそうだな」なんて呟きが聞こえた。腰巻なら雷無効の立派な物があるからいらないよ。それよりもどこかカフェエプロンみたいで、ヴィデロさんの方が似合いそう。あれを着けて一緒にキッチンに立ったら、すごくいい気がする。
「買おうかな……もう少し薄めの色があればな」
「マックだったらもう少し濃い色でもいいんじゃないか?」
「薄い色の方が……それよりも黒の方がヴィデロさんに似合うかも」
「俺?」
自分で装備するなんて想像もしてなかったと笑うヴィデロさんに、似合うと力説する。だって細い腰にしまった腹筋。その下にこれが巻かれてるのを想像すると、それだけでちょっと興奮するから。
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