これは報われない恋だ。

朝陽天満

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723、蒼獣という名の

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 ユキヒラとは次の日すぐに連絡が取れたので、仕事が終わってから早速セィに行くことにした。

 ヴィデロさんは相変わらずまだ仕事をしているみたいだ。ヴィルさんこき使いすぎじゃないかな、と思ったけれど、ヴィルさんも佐久間さんも夜遅くまで職場にいたりするので、俺一人甘やかされている状態っぽい。そのことをヴィルさんに言ったら「健吾はまだ育ち盛りだろ。寝ないと育たないぞ」と言われてしまって気遣われて悔しいやら嬉しいやらかなり複雑だった。もっと育つなら頑張って寝るんだけど!

 ログインして工房から、ユキヒラに指定された教会の執務室に跳ぶ。

 そこでは、ニコロさんとユキヒラとネーヴェが俺を出迎えてくれた。

 ニコロさんに挨拶して、ネーヴェに挨拶しつつ撫でまわして、ユキヒラに挨拶すると、ユキヒラは苦笑しながら「マックの優先順位がわかった」と呟いていた。



『主は何か我と同胞のものを持っているか? 微かに匂いがする』



 ネーヴェはさすが獣、鼻が利くらしく、俺の卵を目ざとく見つけていた。



「そう。ネーヴェに聞きたいことがあったんだ。俺、友人から卵を貰ったんだけど、起きないと孵化しないってなってて、どうやって孵化させるのか知りたくて」

『卵とは……我の同胞で卵の形で生まれるものは極稀だ。蒼獣そうじゅうと呼ばれる者と玉龍ぎょくりゅうと呼ばれる者の二種のみ。それのどちらかだろう』



 首を傾げつつ教えてくれるネーヴェに、そっと卵を見せると、ネーヴェは『ほう』と目を瞠った。



『これは蒼獣と呼ばれる者のしゅだな。確かに眠っている。しかし……蒼獣の卵はもう少し大きいはずなのだが……聖なる魔力の及ばない場所に生み落とされてしまったか、成長する前に魔力の供給が断たれたか、だ。今は身体を最低限の魔力で維持するために眠っている状態だな。弱弱しい気配しかない』

「え、そうなの!? 何とか元気になる方法はない?」

『聖なる気に満ちた場所に戻すか、聖なる気を分け与えるか、二択よ』

「それはどうやればいいの?」



 このまま放っておくと弱って死ぬんじゃないか、とちょっとだけ焦りながらネーヴェの方に身を乗り出すと、ネーヴェは難しい顔をした。



『本来であれば、蒼獣は親獣が子に自身の魔力を分け与えて育てるという不可思議な成長を見せるのだ。我らは生まれた時からこの姿故、卵にどうやって気を分け与えるのかはあずかり知らぬところ。我が正気に戻ったように主たちの聖魔力を分ければいいのであろうが、この手のものは気配に聡い。親獣に関係の全くない者からは、拒絶するだろうな』

「え……じゃあ、育てられないってこと……?」

『いや、そもそもこの蒼獣は運を預かる聖獣。全く関係のない者の手に渡ることの方が稀であるし、主は微かに蒼獣の気配がするので、何とかなるやもしれぬ』



 がっくりしていると、ネーヴェが驚きの発言をした。蒼獣の気配が俺からするってどういうこと。



「っていうか、蒼獣ってどんな聖獣?」



 首をかしげていると、ネーヴェがぐいぐいと俺の胸を鼻先で押した。



『この羽根の持ち主である、大空と同じ蒼い色彩の鳥獣ちょうじゅうだ』

「ブルーテイル!」



 なるほど蒼い獣! と納得する。もうずっとこれをぶら下げてるからブルーテイルの気配がするのかな。だったらまさにヴィデロさんのお陰だよ。



『でも、その装飾品からは蒼獣の気配はほぼない。主のどこから蒼獣の気配がするのか……』



 ネーヴェも首をひねる。あ、ちがうんだ。

 ちょっとがっかりしながら、自分の身体を見下ろした。俺が持ってるブルーテイルのものはこれ以外ないから、じゃあどこからブルーテイルの気配がするんだろ。それにしてもまだちゃんとラック補正入ってるのにブルーテイルの気配がないってどういうことだろ。効能だけが残ったりとかするのかな。

 ネーヴェと一緒に首を捻ってると、ユキヒラが何かを思い出したように手を打った。



「結構前にギルドからのクエストで、トレの河の上流でブルーテイル関係のクエストが発令されたことがあった気がする。俺、すげえ行きたかったのに申し込んだらすでに満員で断られたことがあったんだよ。もしかして、マックそれに参加したか?」

「あ、した。河の水位が下がった原因を皆で探りに行ったら、ブルーテイルがすっごく大きな巣を作ってて。そこにいた人はほぼ自動でクエスト受けれたんだ。それプラス早い者勝ちだったからすぐに定員いっぱいになっちゃったんだよ。俺は行ったけどね」

「かかわったとしたら、それじゃねえ? ブルーテイルが聖獣だってんなら」

「そうかな。そうかも。そしたらヴィデロさんの方が卵を温めるの適任かな。その時貰った産毛でアクセサリーを作って贈ったから」

『生まれたばかりの雛の産毛なら、気配もまだまだ濃厚だろうな。主の羽根は抜けてから百年は過ぎているようだから古いものだ』

「そんなに!? すごくつやつやで綺麗だよ!?」

『加工した者の技術と、使う者の扱い方ではないか。そういう命の宿った装飾具はおざなりに使うとそれなりの耐久力しかないからな』

「そんなことまでわかるんだ。ネーヴェ凄い」

『単なる知識でしかないから凄くはないぞ』



 その知識を持つこと自体が凄いと思うんだけども。そういうと、ネーヴェはフンと鼻を鳴らした。



『しかし主の必要な知識は持ち合わせていない。それが残念だ。玉龍は未だ自分の知識をしっかりと口に出来るほどの知能が育っておらなんだし』



 申し訳なさそうに項垂れるネーヴェの頭を、ユキヒラが乱暴に撫でる。

 ネーヴェがユキヒラを見上げたところで、スッと目の前にお茶が差し出された。



「まずは一息つきましょう。何かを成す知識と手だてがなくとも、これから経験を重ねて行けばいずれは解に辿り着くこともあるでしょう。すぐにその尊き鳥の雛を孵さないといけない訳ではないのでしょう。まずは、その雛が力尽きてしまわぬよう、回復でもして差し上げてはいかがでしょう。生まれずとも、力尽きることはなくなるはずです」

「あ、そうします!」



 ニコロさんの助言を聞いて、俺は早速聖短剣を取り出した。

 前に魔王と戦った時の直接攻撃が元でひび割れた蔦の模様が痛々しい。



『ルミエールダガールーチェ・プラーティノ【1482/*****(-189)】:闇を吸収変換し、聖を吸収しおのれの力とする聖なる短剣。闇属性以外のものを傷つけると少しずつ力を失っていくので注意が必要。祭典儀式用であり、装備したものは特有の聖魔法『サークルレクイエム』が使えるようになる。状態異常回避率+20% 魔力+5%(直接攻撃による損傷により補正値-2%)(損傷値がー300を超過で進化不可となる)』



 確認してみると、かなり数値は上がっていたものの、マイナス値もやっぱり上がっていた。鑑定眼のレベルも上がっていたせいか、カッコ内の数値が損傷値だというのがわかる。そしてそれが300を超えるとこれ以上の進化をしなくなることも初めてわかった。もう絶対直接攻撃はしないから。装飾がひび割れると心が痛む。手に入れた経緯が経緯だから余計に。

 不思議だったのは、魔王が闇属性のはずなのに直接攻撃で剣が傷ついたってことなんだけど。闇以外の属性でもあったのか何なのか。そこらへんは答えって絶対に出なそうだからやっぱりこの短剣で攻撃はしちゃいけないんだと思う。

 傷ついた装飾部を撫でて、短剣に小さくごめんね、と声を掛けると、俺は卵に聖属性の回復魔法を掛けた。





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