640 / 744
連載
723、蒼獣という名の
しおりを挟むユキヒラとは次の日すぐに連絡が取れたので、仕事が終わってから早速セィに行くことにした。
ヴィデロさんは相変わらずまだ仕事をしているみたいだ。ヴィルさんこき使いすぎじゃないかな、と思ったけれど、ヴィルさんも佐久間さんも夜遅くまで職場にいたりするので、俺一人甘やかされている状態っぽい。そのことをヴィルさんに言ったら「健吾はまだ育ち盛りだろ。寝ないと育たないぞ」と言われてしまって気遣われて悔しいやら嬉しいやらかなり複雑だった。もっと育つなら頑張って寝るんだけど!
ログインして工房から、ユキヒラに指定された教会の執務室に跳ぶ。
そこでは、ニコロさんとユキヒラとネーヴェが俺を出迎えてくれた。
ニコロさんに挨拶して、ネーヴェに挨拶しつつ撫でまわして、ユキヒラに挨拶すると、ユキヒラは苦笑しながら「マックの優先順位がわかった」と呟いていた。
『主は何か我と同胞のものを持っているか? 微かに匂いがする』
ネーヴェはさすが獣、鼻が利くらしく、俺の卵を目ざとく見つけていた。
「そう。ネーヴェに聞きたいことがあったんだ。俺、友人から卵を貰ったんだけど、起きないと孵化しないってなってて、どうやって孵化させるのか知りたくて」
『卵とは……我の同胞で卵の形で生まれるものは極稀だ。蒼獣と呼ばれる者と玉龍と呼ばれる者の二種のみ。それのどちらかだろう』
首を傾げつつ教えてくれるネーヴェに、そっと卵を見せると、ネーヴェは『ほう』と目を瞠った。
『これは蒼獣と呼ばれる者の種だな。確かに眠っている。しかし……蒼獣の卵はもう少し大きいはずなのだが……聖なる魔力の及ばない場所に生み落とされてしまったか、成長する前に魔力の供給が断たれたか、だ。今は身体を最低限の魔力で維持するために眠っている状態だな。弱弱しい気配しかない』
「え、そうなの!? 何とか元気になる方法はない?」
『聖なる気に満ちた場所に戻すか、聖なる気を分け与えるか、二択よ』
「それはどうやればいいの?」
このまま放っておくと弱って死ぬんじゃないか、とちょっとだけ焦りながらネーヴェの方に身を乗り出すと、ネーヴェは難しい顔をした。
『本来であれば、蒼獣は親獣が子に自身の魔力を分け与えて育てるという不可思議な成長を見せるのだ。我らは生まれた時からこの姿故、卵にどうやって気を分け与えるのかはあずかり知らぬところ。我が正気に戻ったように主たちの聖魔力を分ければいいのであろうが、この手のものは気配に聡い。親獣に関係の全くない者からは、拒絶するだろうな』
「え……じゃあ、育てられないってこと……?」
『いや、そもそもこの蒼獣は運を預かる聖獣。全く関係のない者の手に渡ることの方が稀であるし、主は微かに蒼獣の気配がするので、何とかなるやもしれぬ』
がっくりしていると、ネーヴェが驚きの発言をした。蒼獣の気配が俺からするってどういうこと。
「っていうか、蒼獣ってどんな聖獣?」
首をかしげていると、ネーヴェがぐいぐいと俺の胸を鼻先で押した。
『この羽根の持ち主である、大空と同じ蒼い色彩の鳥獣だ』
「ブルーテイル!」
なるほど蒼い獣! と納得する。もうずっとこれをぶら下げてるからブルーテイルの気配がするのかな。だったらまさにヴィデロさんのお陰だよ。
『でも、その装飾品からは蒼獣の気配はほぼない。主のどこから蒼獣の気配がするのか……』
ネーヴェも首をひねる。あ、ちがうんだ。
ちょっとがっかりしながら、自分の身体を見下ろした。俺が持ってるブルーテイルのものはこれ以外ないから、じゃあどこからブルーテイルの気配がするんだろ。それにしてもまだちゃんとラック補正入ってるのにブルーテイルの気配がないってどういうことだろ。効能だけが残ったりとかするのかな。
ネーヴェと一緒に首を捻ってると、ユキヒラが何かを思い出したように手を打った。
「結構前にギルドからのクエストで、トレの河の上流でブルーテイル関係のクエストが発令されたことがあった気がする。俺、すげえ行きたかったのに申し込んだらすでに満員で断られたことがあったんだよ。もしかして、マックそれに参加したか?」
「あ、した。河の水位が下がった原因を皆で探りに行ったら、ブルーテイルがすっごく大きな巣を作ってて。そこにいた人はほぼ自動でクエスト受けれたんだ。それプラス早い者勝ちだったからすぐに定員いっぱいになっちゃったんだよ。俺は行ったけどね」
「かかわったとしたら、それじゃねえ? ブルーテイルが聖獣だってんなら」
「そうかな。そうかも。そしたらヴィデロさんの方が卵を温めるの適任かな。その時貰った産毛でアクセサリーを作って贈ったから」
『生まれたばかりの雛の産毛なら、気配もまだまだ濃厚だろうな。主の羽根は抜けてから百年は過ぎているようだから古いものだ』
「そんなに!? すごくつやつやで綺麗だよ!?」
『加工した者の技術と、使う者の扱い方ではないか。そういう命の宿った装飾具はおざなりに使うとそれなりの耐久力しかないからな』
「そんなことまでわかるんだ。ネーヴェ凄い」
『単なる知識でしかないから凄くはないぞ』
その知識を持つこと自体が凄いと思うんだけども。そういうと、ネーヴェはフンと鼻を鳴らした。
『しかし主の必要な知識は持ち合わせていない。それが残念だ。玉龍は未だ自分の知識をしっかりと口に出来るほどの知能が育っておらなんだし』
申し訳なさそうに項垂れるネーヴェの頭を、ユキヒラが乱暴に撫でる。
ネーヴェがユキヒラを見上げたところで、スッと目の前にお茶が差し出された。
「まずは一息つきましょう。何かを成す知識と手だてがなくとも、これから経験を重ねて行けばいずれは解に辿り着くこともあるでしょう。すぐにその尊き鳥の雛を孵さないといけない訳ではないのでしょう。まずは、その雛が力尽きてしまわぬよう、回復でもして差し上げてはいかがでしょう。生まれずとも、力尽きることはなくなるはずです」
「あ、そうします!」
ニコロさんの助言を聞いて、俺は早速聖短剣を取り出した。
前に魔王と戦った時の直接攻撃が元でひび割れた蔦の模様が痛々しい。
『ルミエールダガールーチェ・プラーティノ【1482/*****(-189)】:闇を吸収変換し、聖を吸収しおのれの力とする聖なる短剣。闇属性以外のものを傷つけると少しずつ力を失っていくので注意が必要。祭典儀式用であり、装備したものは特有の聖魔法『サークルレクイエム』が使えるようになる。状態異常回避率+20% 魔力+5%(直接攻撃による損傷により補正値-2%)(損傷値がー300を超過で進化不可となる)』
確認してみると、かなり数値は上がっていたものの、マイナス値もやっぱり上がっていた。鑑定眼のレベルも上がっていたせいか、カッコ内の数値が損傷値だというのがわかる。そしてそれが300を超えるとこれ以上の進化をしなくなることも初めてわかった。もう絶対直接攻撃はしないから。装飾がひび割れると心が痛む。手に入れた経緯が経緯だから余計に。
不思議だったのは、魔王が闇属性のはずなのに直接攻撃で剣が傷ついたってことなんだけど。闇以外の属性でもあったのか何なのか。そこらへんは答えって絶対に出なそうだからやっぱりこの短剣で攻撃はしちゃいけないんだと思う。
傷ついた装飾部を撫でて、短剣に小さくごめんね、と声を掛けると、俺は卵に聖属性の回復魔法を掛けた。
2,440
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。