これは報われない恋だ。

朝陽天満

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722、オランさんでもわからない

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 石化が解かれたジャル・ガーさんは、今度こそヴィデロさんから手紙を受け取り、早速それを読み始めた。

 そして手紙を懐にしまうと、肩を竦めて「仕方ねえ、報酬のためにやるか」と呟き、宙を弄り始めた。



「ヴィデロよ。一応注文通りにはしてみたが、上手くいくかはわからねえぜ」

「最初から上手くいくとは思ってないだろうから、問題ない。数値が安定したら確認も兼ねて報酬を送るそうだから、その時はまた声を掛けるな。今日中には難しいだろうが」

「いいってことよ。俺はいつでもここにいるから、いつだっていい」

「確かにな」



 二人の会話を聞きながら、俺は卵をそっと覗き込んだ。

 手の平よりも少しだけ大きな白い卵は、相変わらず温かく、生きてるんだってことがわかる。

 ほっこりとしながらどうすればこれが孵るのかなと考えていると、ヴィデロさんたちの話がいつのまにか終わっていた。



「マック。オランのところに行くぞ」



 呼ばれて卵から顔を上げると、いつの間にやらケインさんが来ていた。

 ヴィデロさんに手を引かれながら、顔を覗き込まれる。



「その卵がどうかしたのか?」



 心配げな顔に、俺は慌てて首を振った。



「違うんだよ。暖かいから、生きてるんだな、って思って」



 本当にただそれだけだったんだけど、ヴィデロさんに心配をかけたみたいだった。



「ヴィデロ、その卵から悪い気は出てねえから、壊すのはやめろよ。どんな生き物でも子は宝だ」

「ああ、でも、もしマックに害を与えるものだったらと思ったら」

「そんなことはねえぞ。エルフの祝福の匂いがするから、むしろマックにとっていいモノじゃねえかな。なんにせよ、大事にしろよ」

「エルフの祝福、か。クラッシュはそんなことが出来るのか」



 ヴィデロさんが卵を見つめ、そして、思いついたようにインベントリからドロップ品の魔物の皮を取り出した。



「これに包んで背中に背負ったらどうだ?」



 そうしたら抱き締められる、と両手を広げたヴィデロさんに、ジャル・ガーさんが声を上げて笑った。もしかして、さっき抱き着けなかったのを気にしてたのかな。俺も抱き着きたい。

 そう呟いたら、ケインさんに呆れた様な目を向けられて、「ほら、さっさと行くぞ」と急かされた。





 オランさんは、突然来た俺たちを快く迎え入れてくれた。

 俺は卵を見せると、手に入れた経緯をオランさんに説明した。

 話を聞いたオランさんは、ちょっと困ったような顔をして、俺の手の卵を見下ろした。



「すまない、マック。俺は聖獣の言葉はわかるが、生態の方はあまりわからないんだ。聖獣は俺たちとはまた異なる生態系を持っているから、育て方などは教えることは出来ない」

「そうなんですね。卵から何か声が聞こえたりはしないんですか?」

「いや、聖獣は成長と共に知能も育っていくから、まだ生まれてもいない聖獣は言葉もないんだ。生きているのはわかるが、意識があるのかどうかすらわからない。力になれなくてもうしわけない」



 謝られてしまって、俺は首を横に振った。



「いいえ、もし何か知ってれば、って感じだったので、謝らないでください。地道にどうやったら孵るかを探しますから」

「聖獣のことは、聖獣に聞くのが一番なんだが……そこが難しいな。あのホワイトシェルリザードの幼獣はまだ知識も半端だろうし、ブラックオニキスウルフもまだ年若い。あのホワイトトパーズベアの聖獣は、最近見ていないからな……」



 オランさんがうーん、と悩む。え、待って。聖獣は聖獣に聞けってことは。

 俺はフレンド欄を開いて、ユキヒラがログインしているか確認した。

 リザは確かに最近話し始めたばっかりだし、ノワールもオランさんが言うには若いらしい。あとはシロクマの聖獣のテイマーさんはよく知らなくて、っていったら適任はユキヒラだよね。そして、相応の時間を生きて来てるから、ネーヴェなら何か知ってるかもしれないよね。

 残念ながらユキヒラはログインしていなかったけれど、チャットで時間があったら連絡を欲しい旨を書いて送って、俺は画面を閉じた。



「知ってそうな聖獣ならちょっと心当たりあるんで、そっちに聞いてみます。夜遅くにいきなり来てすいません」

「いや、大丈夫。夜行性の者もいるし、俺も暇をしていた。いつでも歓迎だ。ただし、次はぜひ昼に来て、アリオンと遊んでやってくれないか。前にマックがユイルを肩に乗せて歩いているのを見て、羨ましがっていた」

「わあ、ぜひぜひ。ふわふわドーナツ持ってきます! 今は手持ちがないんですけど」



 ニコニコと答えると、オランさんはフッと優しい顔で笑って、家の奥の方に視線を動かした。その顔つきと雰囲気がとても老成して見えて、孫を見守るお祖父ちゃん、っていう雰囲気がオランさんから漂っていた。孫じゃなくて子孫なんだけどね。







 帰りはケインさんに工房まで送ってもらった。

 お礼に作り置きしていたスイーツを渡すと、喜んで帰っていった。



「ヴィデロさんも一緒に帰ってきちゃったけど、用事は大丈夫だったの?」

「ああ。ジャル・ガーにあの手紙を渡した時点で今日のやることは終わりだったんだ。それにしても、赤片喰はこんな大変な仕事をしていたんだな。次にどんな指示をされるのか大雑把にしか伝えられないから、機転が利かないととんでもなく手間取られる物ばかりだ」

「大変なんだね。俺、すごく楽してる気がして来た」



 寝室の座り心地抜群のソファーに二人で腰掛けながら、ヴィデロさんの仕事の話を聞く。軽く仕事内容は聞いたことがあったけど、詳しくは知らなかったんだ。ヴィデロさんはこっちの地理に詳しいから、思いっきり仕事を振られるらしい。主に対人以外で。そのおかげか、赤片喰さんが対人調査に集中できるから効率が良くなったとかなんとか。



「でも俺は不器用だから、料理をするよりはこうやって歩き回っている方が楽だと思う。あんな美味しいご飯を作ることなんて、俺には天地がひっくり返っても無理だ。一日でリタイアする自信がある。マック……ケンゴを、尊敬する」

「大げさだよ。俺は料理が好きなだけ」



 大げさじゃない、とヴィデロさんは俺の肩に腕を置いて、俺の身体を引き寄せた。ちゃんと卵に配慮しながら。

 引き寄せただけじゃなくて、俺を持ち上げて、膝の上に乗せた。子供抱っこ?

 背中越しにヴィデロさんの温もりがある。

 ヴィデロさんの手は、俺の身体を支えながら、一緒に卵を包んでいた。



「クラッシュはこれに祝福を乗せてくれたのか」

「そんなことをしてるそぶりはなかったけどね。もしかして、前から祝福を施しててくれたのかな」

「無意識だったりしてな」

「クラッシュならあり得そう。最近よくわからないくらい能力上がったみたいだし。ヴィルさんのお陰で」

「兄のせいでな」



 ヴィデロさんはくすくす笑うと、ちゅ、と俺の頬にキスをした。

 振り返ると、今度は軽く唇にキスをして来たので、お返し、と下唇をパクっと食べると、頭を手で押さえられて、深いキスを貰ってしまった。





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