これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編5

魔大陸開墾編 12

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『南国エピ、復活』

 運営からの号外で、こんな文字が躍った。
 無事定数以上のエンブレムが地上に顕現され、それが国を覆ったことで、その国の魔素はさらに落ち着いたらしい。
 魔物もこっちのセィ城下街周辺あたりの強さに落ち着いたんだそうだ。
 でもそれじゃレベル上げ大変じゃないかな、と思っていたら、とあるアイテムをゲットするとシークレットダンジョン入り放題という噂が出てきて、皆気合いを入れてそのアイテムをゲットしようとしているんだって。
 グランデの四個目の街に売ってるのに魔大陸を探すのか……
 遠い目をしながら運営からの通知を閉じると、俺はうーんと伸びをして錬金釜を取り出した。
 ルーチェさんからの追加クエストをクリアするためだ。
 そのクエストの内容は、『古泉浄石』の追加発注。報酬はサラさんの持っている錬金素材。垂涎だ。俺にとって素材さえあれば『古泉浄石』は比較的簡単な錬金アイテムだから。
 前にすっごく苦労して作ったアイテム類は、今持っている釜で作るとあら不思議、めちゃめちゃ簡単に作れてしまう。
 謎液体を満たして素材を放り込んで、グルグルしながらレシピを覗く。
 ああ、新しいものが作れるようになってる。
 次これを作ろう、なんて思いながら回していたら、いきなりぐっと攪拌棒が重くなった。
 
「うわ! もしかして失敗? 調子に乗ったから⁉」
 
 慌てて力いっぱい棒を動かす。
 錬金術の失敗はボンと破壊音がして煙が出て素材がなくなる状態だから、少なくとも今はまだ失敗じゃないはず。
 
「お……おも……懐かしい、この感覚……っ」

 ぐぎぎとうめき声を上げながら回していると、小さくなったティーロイがそっと錬金釜の後ろから顔を出して、口に咥えていた何かをポトン、と錬金釜に入れた。
 原因はこれか!
 上腕二頭筋を叱咤激励しながら必死で微々たるものしか動かない棒を回していると、隣から「マック?」というイケボが聞こえてきた。

「今、錬金、お、おも……っ」

 必死で返事をしながら腕に力を入れていると、ヴィデロさんが慌てて工房に来てくれた。そしてそっと俺の後ろに立って棒に手を添えてくれる。
 グルン、と力強く棒が回り始め、錬金素材が瞬く間に掻き混ぜられていく。
 この力強さ、好き。
 そしてこの構図、懐かしい。前はこうやっていっぱい手伝って貰ったんだよね。幸せな思い出だよね。
 にへら、と顔を緩めながらヴィデロさんと共に回していると、ティーロイがさらにもう一つ何かを加えた。

「ティーロイ、今何を入れたんだ?」
 
 ヴィデロさんの問いに、ティーロイは小さな翅をパタパタさせて口を開いた。

『あのね、あのね。きのう聖域で見つけた実! リザお姉様がおやつにってくれたの! でもこれに入れたら絶対おいしいのができあがるのよ!』
「美味しいのって……石を作ってたのに。本当に美味しいのかな?」
「まあ、作ってみようか。まだ失敗じゃないんだろう?」
「うん。とりあえずは。俺の腕力がなさ過ぎて危なかったけど。ヴィデロさんこのまま手伝ってもらってもいい? ごめんね疲れてるところ」

 今まで外を飛び回り続けていて、絶対に疲れてるのに。家でゆっくりしようと思ったら俺に手伝わされるって、ヴィデロさん全然休めないよね。

「いや、こうしてマックとくっついていられるのは嬉しいし、久しぶりに手を貸せるのも嬉しいから。ぜひ手伝わせてくれ。こうしてマックと一緒に錬金するの好きなんだ」
「好き……! 俺も、俺も好き!」
「はは、俺に向けてその言葉を言って欲しいけどな」

 ちらりと横を見れば、ヴィデロさんもだいぶ力を入れているのか、上腕二頭筋がカッチカチのゴリゴリ状態だった。
 あああ好き。この筋肉、そしてこの包み込まれる安心感。そして悪戯しているようにしか見えないティーロイの行動も好き。
 色々な物を堪能しながら棒を回していると、ようやく釜の中身がコロンと固形になった。
 ティーロイがこっそり入れた薄いピンク色の実と同じ色をした石ができあがり、それを鑑定してみると。

『聖桃石:聖域に出来る偽桃の実の成分を含んだ浄化石。浄化作用がある』

「偽桃の実……?」

 聞き慣れないアイテムに首をかしげていると、ティーロイがゴソゴソと自分の身体にかかっている小さいポーチから薄いピンク色の石をコロンと取り出した。
 大きさは直径五ミリほどの丸い石のような固い実で、鑑定眼で見ても『可食』とは書かれていなかった。どこからどう見ても食べられる実には見えない。ただ、魔力はとても豊富に入っているらしく、石を主食にしているリザにとってはご馳走なのかもな、と納得した。香石をゴリゴリ食べておいしそうにしているし。
 問題は、ワクワク待っているティーロイがこれを食べられるかなんだけど。

『固い。おいしくない。いい匂いなのにたべられない』 

 泣きそうな雰囲気でポツンと言葉を零したティーロイに、俺はそっとインベントリに入っていたペスカの実をあげた。匂いはおんなじだから、食べられる実を食べるといいよ。

「きっとこれはリザの好物なんだね。ティーロイのことが好きだから、好物を分けてくれたんだよ」
『リザお姉様優しいのよ。じゃあこれ、お礼にあげていい?』

 ティーロイが羽をパタパタさせながら、今出来上がった『聖桃石』を口に咥えた。
 聖獣二人の交流にほっこりした俺は、相好を崩して「いいよ」と答えた。
 すると、ティーロイが声高にピー―――――ィィィィィィィロロロロ、と長い鳴き声を上げた。

「ぅわ!」
 鳴き声が二巡する間に、そんな叫び声と共に工房から見える窓の外に光が集約した。
 何だ、と思ってヴィデロさんと共に窓から外を覗くと、そこにはリザが首に巻き付いた状態で『リターンズ』のメンバーが立っていた。
 あの光はリザの光魔法だね。
 急いで『リターンズ』の名前の横にチェックを入れると、ヴィデロさんと共に外に出た。

「おお、マック。ここどこだ? マックがいるってことは、トレか?」
「まだ目がちかちかする……」
「今のやつリザの魔法か?」
『呼ばれたのよ。ティーロイに。来て頂戴って。緊急事態かもしれないから、すぐ来ないとダメでしょう?』

 エリモさんの首に巻かれていたリザが、俺の頭に乗っているティーロイに視線を向けた。

『リザ姉様! マックに素敵なプレゼント作ってもらったの!』
『ティーロイ、無事なのね。怪我はない?』
『ないよ。ここにいたから』

 かみ合わない会話に首を傾げながら、『リターンズ』を工房に招き入れる。
 リザの羽はしばらく見ない間に前よりもさらに育っていた。まるで蝙蝠の羽の様で、可愛らしかった。けれど、まだ身体を支えられるほどではないみたいだった。エリモさんにへばり付く姿はとても可愛らしい。

「ここ、俺の工房なんで、どうぞ」
「へぇ、だいぶ立派だな」
「増築を重ねたからね」
「すっげ―立派」

 ティーロイのために。
 一生懸命リザに工房の案内をするティーロイを微笑ましく見ながら、改めていきなり呼び出したことを謝った。
 リザも緊急だと思って、エリモさんたちの都合も考えずに光魔法で跳んで来てしまったらしい。一度リザの小さい手でティーロイは顔をむにゅっと挟まれて、反省を促されていた。リザが立派なお姉さんに見える。

「ティーロイ、非常時じゃない限りは、相手の都合を確認するのが大事だぞ」
 ヴィデロさんにも怒られて、ティーロイはちょっとション……となって小さくごめんなさいと謝った。
 その姿を見て、『リターンズ』のメンバーは「いいよいいよ」と快く許してくれた。
 魔大陸の中央から下の方を探索していたんだって。リザも一緒に魔大陸でハッスルしていたらしいんだけど。

「でも、これさっき皆で力を合わせて作ったやつ、リザにあげたかったのは本当。リザが前にティーロイに好物をプレゼントしてくれたんだって」

 俺の言葉に、ティーロイが先程出来上がったばかりの石をくちばしに挟んで、リザの前に運んだ。
 リザの前にコロンと小さな薄桃色の石が転がる。

『すごく、いい香り。これ、偽桃? でももっと美味しそう』
『あの綺麗なピンクを、マックの釜に入れて作って貰ったの!』

 ちゃんと出来上がったのは本当に偶然で、ヴィデロさんが来なければ、組み合わせが悪ければ、きっと失敗していたと思う。ちらりとティーロイを見ると、俺と目が合った瞬間嬉しそうに笑った。
 ご機嫌なティーロイを指で撫でていると、リザが目を輝せて目の前に転がった石をぺろりと舐めた。

「リザ、待て、それ滅茶苦茶高価なやつじゃないか? 香石みたいに。釜に入れたってことは普通に作るの無理なやつだろ」
「マック、対価はどれくらいだ?」
「やべえ、最近シークレットダンジョン用に装備一新したばっかだぞ」

 三人は顔を寄せて、ティーロイからリザへのプレゼントの対価の話をしている。
 いや、それ対価取れないから。ティーロイが拗ねちゃうし。
 苦笑している間に、リザがぱくっとそれを食べてしまった。

「リザ!」

 エリモさんが名を呼ぶ間にも、リザの口からはゴリゴリと石を噛み砕く音がしてくる。

『あぁあああ! これ、美味しい!』

 噛み砕き呑み込んだリザが、恍惚とした表情で声を上げた。
 すると、リザの身体がキラキラとし始めた。
 それは、リザが未成獣の時に成長していたのと同じ感じで。

「実はヤバいモノだった……?」
「リザが進化……?」
「成獣になったからもう進化しないんじゃないのか?」

『リターンズ』も固唾を飲んでリザのキラキラを見守っている。
 そんな中、ティーロイはニコニコとリザに寄り添った。

 リザの鱗がポロリと床に落ち、一つが二つに、ついでザアァァァと全体的に鱗が剥がれ落ちる。それと同時に眩しくてリザが見えないくらいにその身体が発光し、思わず目を覆ってしまった。
 眩しさが消えて、目を開けると、そこには白から薄ピンクに染まり、背中の羽がまるでドラゴンのようになったリザがいた。
 今までの身体に見合わない大きさの羽は、鱗が剥がれたと同時に成長したらしい。
 今度こそ、その羽で空を飛べそうな大きさになっていた。

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