これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編5

魔大陸開墾編 13

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『素敵。これでエリモたちをあの場所に連れていけるわ』

 大きくなった羽をバッサバッサと動かし、リザの身体がふわりと浮く。

『見て! エリモ、魔法使い、陽炎! これであなたたちを乗せて進めるわ!』

 初めて飛んだとは思えないスムーズな動きで、リザが三人の間をスイスイと飛び回る。
 
「これがリザの最終進化系か」

 確実にさっきの石が最終進化促進の石だね。
 スルスルと飛び回るリザをそっと掴まえて、エリモさんがそっとその背中を撫でた。

「リザ、前の姿も可愛かったがその翼もかっこいいな」
『フフフそうでしょう』
「鱗も前より綺麗だな。可愛いぞ」
『綺麗な色よね。お気に入りよ』
「俺らを乗せるために進化頑張ったのか?」
『そうよ。だって私が飛べたらあなたたちを行きたいところに連れて行けるもの』

 ありがとな、と三人がリザに抱き着く。
 リザは嬉しそうにそうでしょそうでしょ、と揺れている。
 勝手に変な物食べさせてって怒られるかもと思ったけれど、杞憂だったことにホッとした。
 ティーロイも嬉しそうに、また部屋の中を飛び始めたリザについて一緒に飛んでいる。飛行仲間が出来たことがよほどうれしそうだ。
 時間は大丈夫とのことなので『リターンズ』の最近の活動内容を聞きながら皆でご飯を食べることにした。
 リザは相変わらず聖水茶がお好みで、香石をガリガリとしながらお茶を飲んでいる。
 皆は俺のご飯に舌鼓を打ち、ヴィデロさんの持ってきた酒で乾杯した。

 実はエリモさんたち、最近ではシークレットダンジョンを攻略することに夢中らしい。
 リザも大きくなって尻尾で叩いたり食べたりと充分戦力になっているようで、自分の話が出た時は心なしか誇らしげにしている。可愛い。

「それもこれも、これを手に入れてからだな」

 見せてもらったのは、『蛇紋石』のついたアクセサリー。
 あの、めっちゃすごいスキルが生える割にはどこにでもあるような感じで何気なく『呪術屋』で売られているアクセサリーだ。
 たまたま覗いた露天商で見つけて、その露店の店主が「高く売れると思ったら誰も使えねえと騒いで売れないから」と言って捨て値で売ってくれたらしい。
 確かにね。色々特定スキルを伸ばしてないと使えないよね、これ。

「誰か目の上位スキル持ってるんだね」
「目っつうか、感知系の上位スキルだな。やっぱマックは知ってたか。それと魔法使いの魔法陣魔法を組み合わせてみろってセイジに会った時に教えて貰ってようやく使えるようになったんだけどな。それまではやっぱりダメアクセだったかと思ってたくらい」
「マックは持ってねえの? 絶対持ってると思ってた。だって魔法陣魔法使ってんだろ」
「持ってないよ。だって俺一人で入っても瞬殺されて終わりだもん」

 ね、と隣のヴィデロさんに同意を求めれば、ヴィデロさんは肩をゆすって笑っていた。
 
「俺も一緒に行きたいところだが、なかなかそうもいかないしな」
「あーあっちの大陸はな。門番さんはまだ行かない方がいいよな」

 本当は仕事の内容が被らないから一緒に行動できないという意味だったんだけど、陽炎さんがしみじみそう呟いたので、訂正もしないで曖昧に微笑んでおく。
 
「そうそう。んで、この目を使ってて、丁度崖の所に次元の亀裂を見つけて、どうやって行けばいいか相談してたんだよ。魔法使いの転移魔法陣では崖の下の方――――に見えるさけめになんてピンポイントに跳べねえから」
「あ、だったら、ちょっとマックに手伝ってもらってあそこに入れないかな」
「マックが一緒だと心強いよな」
「シークレットダンジョンか……」

 この間行ってきた錬金素材のお宝一杯の所だったらいいんだけど、と思いつつ、ヴィデロさんをちらりと見てから、頷いてくれたので「いいよ」と答える。
 こうして穏やかな顔でフレンドとのやり取りを見守っていてくれるヴィデロさんは、最近包容力がものすごくて、こういう何気ない仕草の一つ一つが大人の魅力にあふれている気がする。
 こうして自由に俺を遊ばせてくれるところもヴィデロさんの魅力。でも、ヴィデロさんも適度に休んで遊ぶといいと思うんだけどね。

「行きたい。待って、今準備するから」

 工房に駆け込んで、必要だと思われるアイテムを次々インベントリに突っ込んでいく。
 
「備えあれば憂いなし」

 ヴィデロさん含む皆にもハイパーポーションを数本ずつ渡すと、リザが飲みたそうに瓶をピタピタと手でたたいていて、とても可愛かった。


 これからまた移動するというヴィデロさんと別れ、俺たちはソレイルの南端に移動した。
 リザの光魔法で跳んでもらった。
 目の前は、もう崖だった。この心境いかばかりか。

「のっけから玉ヒュン案件……」

 俺の呟きに、エリモさんが噴き出した。

「下覗けるか? 丁度、見えるか見えないかのところに切れ目があるんだが」
「無理」

 はっきりと首を横に振った俺に、三人は苦笑した。

「ごめん、これは流石に見れないし、俺は見えないからちゃんと跳ぶなんて無理」
「だよな。そうだよな。普通にアレ、マックも見えてると思ってた、ごめん」

 崖から離れてカタカタ震える俺に、リザが元気づけるように巻き付いてくる。
 そして、シュルっと離れると、ムクムクと大きくなった。
 皆の前に身体を伸ばし、小さい時と変わらない円らな瞳で俺たちを見つめた。

『今度こそ乗れるの! 皆、乗って!』

 リザの誇らしげな顔に、俺以外の全員が歓声を上げた。
 下を見ないように陽炎さんと魔法使いさんの間に座って、リザの背中に落ち着く。
 先頭のエリモさんがリザの羽を邪魔にならないように握り、その身体に俺たちが抱き着く形で、リザを宙に浮いた。
 皆が乗ってるのが楽しいのか嬉しいのか、リザはノリノリで下に下っていった。一人も下に落ちなかったのが僥倖だった。
 
 無事魔法使いさんの見えている次元の亀裂に辿り着き、皆で中に入る。
 それからは『リターンズ』無双だった。
 さすがというかなんというか。
 シークレットダンジョンなのに皆楽勝で魔物を倒していき、何より空を飛べるようになったリザの活躍目覚ましく、俺が一度も手を出すことなく、シークレットダンジョンのボスを撃破した。

「全然力になれなかった……」
「途中の回復薬が心配ないってのはデカいよ。アイテムサンキュ」
「ほんとそれ。回復にMP回すことなく攻撃だけに使えるって最高」
「薬師はアイテム貢献してくれたらもうしっかり仲間だろ」
「嬉しいから秘蔵のアイテム出しちゃうね!」

 あまりの嬉しさに最近できあがったばかりのサーチ系感度が上がる錬金アイテムを三人にあげると、三人とも「これだよ」と苦笑していた。
 まだ使ったことないから効果のほどはわからないんだけどいいのかな。

 ボスが撃破された場所にある宝箱に近付いて、早速陽炎さんが蓋を開ける。
 すると、中にはメダルが一つ入っていた。

「ここは中央だから……『ソ、レイ』文字が古すぎて読めない」

 古代魔道語レベル上げ中の魔法使いさんがひとしきり悔しがってから、俺に「読んで」と渡して来たので、そこに書かれている国名を読み上げる。

「中央の国のメダルだね」
「その『ル』って文字複雑すぎ。マックレベル何?」
「古代魔道語は最近105になったよ」
「高すぎだろ」
「なんでも読めて楽しいよ」

 はい、とメダルを返すと、魔法使いさんは今度は陽炎さんたちに視線を向けた。
 目で会話してから、メダルを改めて俺に見せた。

「俺ら、このメダル二枚所持してるんだ。もしマックが欲しいなら」
「俺はメダルを持つ気はないよ」

 やるよ、という前に断る。
 俺の所属はグランデだから。
 付け足すと、三人とも妙に納得していた。

「だったら、どうする? どの国に所属する?」
「流石に戦国みたいな国取りにはならねえだろうけど、今のうちにどっかに所属するのは悪くねえよな」
「ソレイルって中央の大国だろ。もうここでいいんじゃね? 丁度これで三枚目だし」
「一枚ずつ持ってる他の国のは、じゃあセイジに売っちまってもいいな」

 よし、と方針を決めたらしく、陽炎さんがメダルを所持することを俺に伝えてくれた。

「んじゃ、外に出るか」
「あ、待って、俺に魔法陣描かせて」

 魔法使いさんが魔法陣を描こうとしたので、慌てて止める。
 そのまま外に出たら真っ逆さまでお陀仏だからね。大丈夫だとは思うけど、もし目の前での行き来しかできない状態だったら、ヤバいからね。
 一応リザの背中に座らせてもらってから、俺はさっきリザが光魔法で出てきた地点を指定して魔法陣魔法を描いた。
 
 出てきたところは、俺の指定通りの場所だった。ホッとしてリザから降りて、足を地面につけた瞬間、ブワッと周りの空気が揺れた。

「なんだ!?」
「イベントか!?」
「魔物じゃないよな!?」

 足元から湧き上がる何かを感じているのは俺だけじゃなかったらしく、三人とも動揺して武器をサッと構えていた。
 けれどリザは全く動揺もなく、ゆったりとあたりを見回している。

『復活したわ』 
 
 リザが零した呟きは、状況を的確に表した言葉だった。
 地面が温かい魔素で覆われ、今までのどんよりした空気は霧散した。
 いくら浄化しても厚い雲で覆われていた空は、今は少しずつ光が射している。
 不快な感覚だった風は爽やかになり、まるで魔大陸じゃなくてグランデの森に立っているようで。

 なるほど、と納得した。
 エンブレムがもたらす力は、思った以上に大きいらしい。
 これはもう、人が来てもちゃんと生活を営めるレベルだ。
 陽炎さんが手にしたメダルで、きっとソレイルのメダルの個数が規定値を超えたんだろうというのがわかった。
 決定的瞬間を、感じてしまった。
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