ADO始めました《こぼれ話より》

朝陽天満

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高橋

ADO始めました【高橋の場合・2】

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 高橋は街を走り、そのまま草原に出る。  

「ネズミがいるのはだいたい東の方、だっけ」  

 昨日までに熟読していたADO掲示板を思い出しながら足を進めていると、マップの中に赤いマークが現れた。   
 次の瞬間、足元に何かがぶつかって来た感覚があった。   
 まるで脛をどこかにぶつけたような痛みに、思わず「いてっ」と声を出してしまう。 
 足元を見ると、大きめのラットが足を齧ろうとしていた。  

「うわ、噛むなよ!」   

 慌てて足元のラットに初期装備の剣を刺す。   
 その一撃でラットは瀕死になってぴくぴくと痙攣し、もう一度剣を振り降ろすと、キラキラと光となって消えていった。   
 ステータス欄のHPは、『1』だけ減っていた。  

「攻撃受けちまった。って、マップの開示範囲狭っ!」 

 ラットが現れた位置を目視で確認して、高橋はちっと舌打ちした。ほんの一~二メートルしか映らないマップの範囲に、高橋は装備を整えたら索敵スキルは上げようと心に誓った。  
 一時間ほど剣を振りまわしてラット狩りをすると、クエスト欄はいつの間にやら討伐達成になっていた。インベントリ内を調べると、ラットの皮二十三枚、ラット肉五個、ラットの魔石三個が入っていた。防具屋の方のクエストの方の素材も無事規定数ゲットしたようだった。  

「次はウルフか」   

 抜き身のままの剣を手にした高橋は、今度はそのまま回復することもなく、ウルフが出ると言われているウノの街の西に進んだ。  



 ウルフはさすがにラットのようにはいかなかった。   
 HP回復用の薬草も無視して突き進んだ高橋がポーションなどという物に金を払うはずもなく、ラットに減らされた体力のままウルフに突っ込んでいく。  
 ラット討伐でレベルは上がっていたとはいえ、流石にウルフは一撃で倒すことは出来ず、スピードもバカにならず、一度の攻撃でHPが二も減ってしまうため、すぐに高橋は手詰まりになった。  

「やべ、こら、体当たりすんなよ! HP残り四じゃねえか! あと二発で死に戻る!」

 叫びながら目の前のウルフを葬っていると、近くからくすくす笑いが聞こえて来た。
 視線を巡らすと、少し離れたところに三人のプレイヤーが立っていた。   
 男一人と女二人のパーティーのようで、剣と杖だけはしっかりしたものを持っている三人組もADOを始めたばかりらしく、防具は初期装備のままだった。   

「大丈夫? 死にそうだよ。私、さっき回復覚えたんだ。ちょっと掛けさせてもらってもいい?」  
「対価は払えねえよ」 

 杖を構えた一番小さい女プレイヤーがニコニコと声をかけてきたので、高橋はとりあえずそう返していた。前にやっていたオンラインゲームで回復の押し売り詐欺にあった親友を見て大爆笑したことを思いだしたからだ。 

「大丈夫。対価なんて取らないよ。私もレベル上げの一環だから。君も回復して、私もレベルが上がってすごくよくない?」  

 あくまで無邪気なプレイヤーに、高橋は毒気を抜かれながら、「ああ」と素で返事をしていた。  

「ええと、『安らぎを運ぶ風の聖霊よ、その光であの人を癒して。ヒール』」  

 回復魔法の呪文に呼応するように、HPが回復していく。レベルの低い高橋のHPバーは回復魔法一発で満タンになった。   
 身体を動かして、不具合がないか確認する。   
 そして改めて三人の所に近付いた高橋は、回復してくれたプレイヤーに笑顔で「サンキュ」と礼を言った。  

「俺、今日が初日なんだ。だから今必死でウルフ狩ってた。高橋っていうんだ」  
「高橋君? 私はユイ。魔導士職だよ」  

 ヒールをしてくれたプレイヤーが答える。すると今度はその隣にいた女プレイヤーと男プレイヤーが順番に名乗った。

「私は海里。私たちも最近始めたばっかりよ。ようやくADO解禁になって」  
「俺も。俺はブレイブ。狩人だ、よろしくな。それにしても初日でウルフって早くねえ?」 
 
――これが後に名を馳せる『高橋と愉快な仲間たち』の初邂逅である。  


 これからもっとレベルを上げるという三人と別れた高橋は、ひたすらウルフを狩り続けた。慣れてくるとウルフの攻撃が読めるようになる。
 ウルフを狩り始めた時よりも格段に攻撃を食らう回数が減った高橋は、ギリギリのHPのまま、その後最後まで一度も回復することなく、ウルフの皮を規定数以上手に入れた。
 皮の数を確認した高橋は、鼻歌でも歌いそうな勢いで、冒険者ギルト……ではなく、防具屋に向かって突進した。  

「おっちゃーん。皮集めてきたから鎧売ってくれ」  
「ちゃんとギルドに依頼達成の報告しに行ったのか!」  
「まだ」  
「ったくよお!」 

 防具屋の店主に呆れられながら、高橋は初日にして、初心者が身に着けるにはまだまだ早い、とても立派な全身鎧フルプレートアーマーをゲットしたのだった。  
 その後、二番目の男のロマン、大剣を必死で値下げ交渉してゲットした高橋は、大満足でADOの世界を満喫した。
 身なりだけは立派に、けれど所持金はいつでもカツカツで、ひたすら鎧のためにレベル上げていく高橋と、初日に偶然出会った三人組が意気投合してパーティーを組むのはそう遠くない話。   
 前に高橋が一緒にやっていたネットゲームで回復の押し売りにあっていた親友がADOにログインできるようになるまでの二か月の間、パーティー名を『高橋と愉快な仲間たち』と命名された高橋は、ひたすら鎧のため、大剣のために魔物を屠り、素材を売っては散財し、知らず知らずのうちにレベルを上げていった。

 もちろん回復はすべてユイ頼み。
 今日も今日とてポーションに掛ける金はないとばかりにユイに甘えまくっている。  



「なあマック。お前は何する気なんだ?」  
「俺はどうしようかな。魔物を倒すのはあんまり興味ないんだ」  
「あのウノの街にいるゴツイおっさんに相談してみろよ」  
「高橋は相談してみた?」  
「いや、俺はやりたいことは決まってたから。今の目標は、レベル四十以上で装備できる全身鎧を着るためにレベルアップ。あ、もしかして俺のパーティー入りたいか? パーティー名は『高橋と愉快な仲間たち』っていうんだけど」  
「……全力で遠慮する。ってかよくそのパーティー名でメンバーが了承したよね……」
「決めたのは俺じゃなくて、海里とブレイブ。面白がって付けただけだってさ」  
「……そっか。楽しそうでよかったな。じゃあ俺、あの人に相談してくる」  

 始めたばかりの親友の背中を見送った高橋は、これから先は買った鎧を親友に自慢しまくるぞと鼻息を荒くして、今日も魔物の跋扈する荒野に走り出すのだった。 

―― 高橋の冒険はまだまだ続く。  
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