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29、お迎え
しおりを挟む身体が浮く感覚で、意識が浮上した。
「マーレ、大丈夫か」
アラン様の声が聞こえて来て、何とも素敵な幻聴だな、なんて思いながら目を開けたら、目の前にアラン様の顔があった。
「あれ……? なんで……?」
「伝言を持ってきてくれたノームに聞いた。沢山召喚するからマーレが大変だろうと。いてもたってもいられなくてオニキスに頑張って貰ってしまった。そういう時はちゃんと私を呼べ」
眉間にしわを寄せながらも、アラン様の声は優しく、俺を心配してくれる気持ちが込められていた。
「だって、アラン様忙しいじゃないですか。それに早くアラン様の領地を発展させたくて」
「無理は禁物だと、前にも言わなかったか」
「これくらい無理じゃないですよ」
「その割に、顔色が真っ白だ」
そのまま抱き上げられ、荷馬車から運ばれる。
空は暗くなっていて、周りでは焚火や布にくるまれた領民たちの姿が見える。
「野営地……?」
「そうだ。ようやくここで落ち合えた。遅くなって悪かった」
「アラン様忙しいのに……」
「仕事よりもマーレの方が大事だ」
嬉しいことを言ってくれるアラン様に、身を任せる。
ノームたちは交代制で働いているのか、魔力が回復してもまたなくなる状態が繰り返されている。
運ばれながら野営地の様子を見ると、しっかりと傭兵団の人たちが見張りを行ってくれていた。
「こんな北の何もない地に流れてくるのは、あらゆる意味で居場所がない者たちだ。私が、その筆頭だな。けれど、せめて辛いばかりではない地にしたいとずっと考えて来た」
アラン様も足を止めて、疲れて火の側で寝ている領民たちを見回した。
眠そうにしている人たちも、皆ふと笑顔を浮かべてくれる。歩いている時も、疲れていても、ここにいる人たちは皆笑顔を浮かべている。
ちゃんと笑えるってことは、辛いばかりじゃないってことだ。
「アラン様がそういう人だからこそ、俺も一緒に頑張りたいって思ったんです……」
またしても魔力が抜ける感覚がして、くらりとする眩暈に抗えずアラン様の肩に頭を乗せる。
ああ、眠い。寝てしまえば、この不快感も忘れる。
思考も散漫になり、心地よい揺れが俺をいざなう。
「少し休め」
アラン様の優しい響きの声が、俺の心を蕩けさせた。
次の日、やたら寝心地のいい場所で目を覚ました。
温かいものにつつまれて、心地よい重さが俺の身体を抑え込んでいる。
身動ぎして目を開ければ、目の前にはアラン様の寝顔がドーンとあった。
俺たち専用の馬車の中で、二人でベッドに寝ていたらしい。
二人でも寝れるようにと親方が設計してくれたので、そんなに狭くはない。けれどやっぱりピッタリくっつかないと余裕はない広さ。
俺の頭の下にはアラン様の腕があり、俺の腰の上にはアラン様の腕がある。
要するに、抱き枕状態。
暖かいし狭くないし心地いいけれど、ちょっとこれは恥ずかしい。
そっと腰の上の腕をどかそうとした瞬間、アラン様の目がゆっくりと開いた。
「……おはよう。気分はどうだ」
「昨日程じゃないですけど……まあ、いつもの視察と同じくらいです」
「そうか。無理するな」
フッと微笑んだアラン様は、俺の腰をぐいと引き寄せて、挨拶のような軽いキスをした。
「今日は一緒に移動しよう。向こうの仕事はサウスに任せてきたから、今日はこちらがメインだ」
「やった。アラン様と一緒」
素直に喜べば、アラン様も嬉しそうな顔をして、今度は唇に軽くキスした。
「馬車はマーレが使いなさい。マーレの代わりは私がしよう。ゴウドとも話をしないといけないしな」
「お願いします。初の騎士団ですよ。楽しみですね」
「そうだな。何年もくすぶって、ようやく領としての形が整ってくるんだな」
まだ寝ていろ、と俺の髪を指で梳くと、アラン様は起き上がって近くにあったタイを付け、上着を羽織って外に出ていった。
「……あー、アラン様朝からカッコいいな」
アラン様のキリッとした背中を見送りながら呟いた瞬間、外から『マーレサマデレデレ!』というオニキスの声が聞こえてきた。そうだよ悪いかよ。
道中何もなく、一人の脱落者を出すこともなく、領民の移動は無事終わりを迎えた。
今度は建物の割り当てと荷解き、それぞれの仕事の契約などが待っている。
アラン様とテレン室長がいたことで、思った以上にスムーズに進んだ。
領都と新しい酒の街の間あたりに建築中の砦は、一階部分は既に出来上がっていた。ただ、今荷物を入れると砂埃を被るので、出来上がるまでは待て、とのこと。
指示を出していた親方は、俺たちが着いたとき、俺が乗っていた馬車を見て、ニヤリと口角を上げた。揶揄う気満々の顔だった。
「流石新婚じゃの」
「まあ、ね。親方が伝えてくれたの?」
「わしじゃないぞ。一族の誰かが気を利かせたんじゃろ。主も北のも仕事を優先するからの。もう少し相手に甘えればいいんじゃよ」
「甘えるって……もうすでに大分甘えてるじゃん」
「わしにいわせりゃまだまだじゃな。初心者もいい所じゃ。甘え上手なのは次期当主じゃよ。少しは見倣え」
「ネーベルを? 無理だろ」
肌に合わねえよ、と口を尖らせれば、親方はカッカッカと楽しそうに笑った。
ノームたちはわらわらと砦づくりに励んでいる。ついでに領都まで囲む壁を建設して一つの大きな街にしたいのう、という親方に、俺は少しずつねとお願いした。
ずっと魔力枯渇で体調不良だったら、アラン様との暮らしがつまらないものになってしまうから。
たまにはゆったりと二人で散歩したり、話をしたり、色々したい。
「疲れた顔してたら絶対アラン様うんって言ってくれないだろうし」
「ん? なにがじゃ?」
「こっちの話」
ここからなら領都は歩いても半日。領都自体もそこまで広いわけじゃなく、領主の館までそこまでかからない。馬を出せばもっと早いし、子フェンが飛ばせば一時間かからない。
一通り新しい村を見回ったところで、俺たちは領都に戻った。勿論、いつも領内を視察する快適な馬車で。まだしばらくは魔力枯渇が続くから。アラン様も中で書類を捌いていたしね。
執務室に入る前に二人でゆっくりとテラスで夕食を取ることになり、とても心地よい光の中、俺はアラン様と向き合って美味しい食事に舌鼓を打った。
食後はゆったりとソファに並んで座った。
「調子はどうだ? あまり食事が進まなかったが」
「魔力が足りなくてちょっと胃が本調子じゃないんです。あ、でも仕事は頑張ります」
「却下だな。マーレの今の仕事は砦建築。誰よりも一番大変な仕事をしている。だから他のことは考えず、ゆっくりとノームたちに魔力を渡しなさい。もし枯渇したら、私がノームに酒を届けるから安心する様に」
「わあ、俺の旦那様が素敵すぎる」
「旦那様……」
俺の呟きに、アラン様はフッと口を手で押さえて視線を逃がした。
あれ、嫌だったのかな、と顔を覗きこめば、少しだけ耳が赤い様な気がした。
照れてる……?
そこで照れられると俺も何やら照れ臭い。
けれど、これがまた心地よくて面白かった。
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