最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

とってもいたたまれない……

 それからもぽつぽつと生徒たちがやってきた。
 昨日ほどの忙しさはないので、途中で大会を見る余裕もあった。
 今の流行は魔法連打なのかな。
 兄様達の時は大きな魔法一発で決まるような試合が多かったのに。
 もしあの時から魔術陣の仕様が変わっていなかったら、確かにこの状態では対処できない気がする。救いなのは、一撃必殺を連発できる生徒がいないことくらいだろうか。
 そして、その流れで魔力枯渇状態で運ばれてくる生徒も何人かいた。無理して大量の魔法を打ったらまあそうなるよね。

「魔力枯渇は命にかかわりますから、無理はなさらず」

 ロッソ先生が用意してくれた魔力回復薬を飲ませながら眉を下げると、その生徒はしゅんとしながらしおらしく返事をした。

「こういうところで負けるのは悔しくて……」
「そういう心意気はとてもいいと思います。けれど、君の命はたった一つ。まだ一年でしょう? まだまだこれからです。頑張ってください」

 空になった瓶を受け取りながらそう諭すと、生徒が「はい」と頷いた。

「そうだ。お訊きしたいことがあって」

 さっきよりもよほど元気に立ち上がりながら、生徒が俺を見下ろす。
 訊きたいことってなんだろう、と首を傾げると、生徒は躊躇ったのち、口を開いた。

「サリエンテ先輩が、『ラオネン病』だったというのは、本当ですか?」

 その質問に、周りにいた人たちが息を呑む音が聞こえた。
 ああそうか。俺の学年ですら疑う人たちがいたんだもんね。下の学年なら半信半疑だったのかも。

「サリエンテ公爵家が『ラオネン病』の特効薬を発表したのはわかっているんですが、先輩は、その、その特効薬を発表される前に九歳を迎えたと聞き……」

 父の弟が、二歳の時に同じ病で亡くなった話を聞いていたので、と付け足した生徒に、なるほどと納得した。

「たしかに、ブルーノ君たちが特効薬を作り上げるまでは、ラオネン病の子の寿命は一桁代の前半でしたからね。でもブルーノ君が作ったのは特効薬だけではなくて、ラオネン病の発作を抑える優秀な薬も開発しているんですよ。それを飲んでなんとか生き延び、こうして学園に通えています。今はもうブルーノ君や兄様、ツヴァイト閣下のおかげで病も克服しました」

 にこりと微笑むと、生徒はホッと息を吐いた。

「すみません、不躾な質問をしてしまって」
「大丈夫です。本当に『ラオネン病』だったのか、なんて声もありましたからね。むしろ、その質問に答えられるのは、僕の誇りです」

 声を大にして言いたいくらいだもん。うちの家族はすごいんだよって。
 ついニコニコしながら答えていると、リリーアン嬢が心配そうな顔つきで俺を見ていた。

「先輩、後は私が治癒魔法を掛けます! 先輩は片っ端から魔力枯渇の方にロッソ先生の回復薬を飲ませてください!」

 ぐっと手を握り締めて先輩は魔法使っちゃダメー! と騒ぎ始めたリリーアン嬢を止める人は誰もおらず、皆がうんうん頷いていた。
 いやいや、昨日兄様からああ~んな魔力補充をしてもらったから、今日はまだまだ治癒魔法使えるんだよ……
 ああ~んな魔力補充、今日もするねって約束したから、ぎりぎりまで使っても大丈夫なんだよ……
 治療に来ていた数人の生徒は、気まずい表情でリリーアン嬢の前に並びなおしている。
 ロッソ先生も何も言わず、俺に魔力回復薬をそっとわたしてくれた。

「一応飲んでおきなさい」
「今日は昨日ほどは魔力を使っていないので大丈夫ですよ?」
「倒れたら元も子もない。それに、魔力枯渇がつらいのはよく知っていると自分で言ってただろ。飲んでおきなさい」

 真顔で勧められて、俺は魔力枯渇で運ばれてきた生徒を差し置いて飲んでいいのかな、先に飲んじゃってごめんね、なんて思いながら、ロッソ先生の薬をぐいっと飲んだ。

 それからは、魔法による怪我はリリーアン嬢が治し、魔力枯渇で運ばれた生徒は俺がロッソ先生の回復薬を渡すというルーティンが出来上がった。
 楽ではあるんだけどね。
 ことあるごとにリリーアン嬢が心配そうに俺を見てくるのがとてもいたたまれない。

「もう治ったんだからね。だから治癒魔法をたくさん使って熟練度を上げないといけないんだよ」

 そう言っても、リリーアン嬢は心配すぎて無理、と治癒の方は譲ってくれなかった。笑顔で「私こそ魔法をもっと使いこなせるようにならないとなので!」と言われたら、どうしようもないよね。
 明日は大会はないから、救護班は今日で解散だけれど、こんなに手抜きでいいのかな。
 申し訳なく思いながら、俺は生徒たちに魔力回復薬を飲ませ続けたのだった。


 そして今日の反省会。
 今日もまた一人一人今日の出来事を報告していく。
 俺は気になることを訊くことにした。

「救護班は今日もたくさんの生徒がやってきました。主に魔力枯渇状態と攻撃魔法の怪我です。本来であれば魔術陣で攻撃魔法は防げると聞いていたのですが、それで凌げない生徒がたくさんいたようです。魔術陣が壊れてから攻撃すると、反則になるんですよね?」
「ああ。ただ、今年の主流というか皆連続魔法の練習が流行ったらしく、それを使って大会に臨んだ生徒が多かったのが見受けられる。明確に反則行為ととらえられたのは誰もいない」

 生徒会長の言葉に、俺は頷いた。

「でしたら、今のままの魔術陣ではしのげないということなのかもしれませんね。もし予備があるのでしたら、僕に防御の魔術陣を見せてもらえないでしょうか」

 真顔で頼むと、隣に座っていたセドリック君が懐から取り出し、はいっと見せてくれた。

「すごい、綺麗なまま残ってますね」
「相手の魔法に当たらず僕の魔法を当てればそんな状態で勝てるんだよ。ここにいる人たちは全員魔術陣は壊れてないよ」
「すごいですね……」

 流石だ、と思わず拍手してから、魔術陣を覗き込むと、やっぱりというか、一撃必殺には強く、連続魔法では全然しのげない仕様になっていた。そして、個人の魔力量に見合った防御が発動し、魔力量が多い人ほど防御力が高くなるというとてもトリッキーな魔術陣だった。すっごく面白い。
 でもその上限を突破した瞬間これが破裂し、防御が消えてしまうのはよろしくない。

「これは、八割攻撃を受けたら警告音が鳴るようにして、それが鳴ったら負け、残り二割で追加の連続魔法の攻撃を凌げるようにしたらきっと怪我人は減ると思います。これは王宮で作り上げている物でしょうか。今度開発の方に提案してみますね。セドリック君、これを貰うことは出来ますか?」
「いいよ。大会が終わったら回収される予定だしね。って言ってもこんな風に綺麗に残っている生徒の方が少ないけど。っていうかそんなことがこの魔術陣から読み取れるのか? 単なる模様じゃなくて?」
「文字がたくさん書いてあるじゃないですか。これは個人の魔力によって防御力が変わってくる仕様ですね。面白いですよ。もしかしたら大会も魔力値が同じような人同士が対戦した方が純粋に魔法の強さで勝敗を決めることが出来るかもしれませんね」
「だからなんでそんなことまで読み取れるんだよ!」

 魔術陣にはそういう情報がわんさか載っているんだけど、それがわかるようになるのはちょっとコツがいるかもしれないね。そう呟くと、「コツとかそんなんじゃないと思うんですが……」とセドリック君と反対隣に座っていたジュール君が呟いていた。

「くっ、これだからアルバは……! 」

 セドリック君が笑いをこらえながら呟く。笑うところじゃないよね。
 お目当ての魔術陣が手に入ってセドリック君の笑いも気にならなかった俺は、「僕からは以上です」と腰を下ろした。
 けれど、進行役の生徒会長の口から次の人への指名が出てこなかった。
 ほんの少し、静寂があたりを包み込む。
 あれ、まだ言わないといけないことがあったっけ。……そうだった。薬品の使用料とかなんか細かい数字を言わないとだめなんだっけ。俺はちょっと気まずい顔でもう一度立ち上がり、

「……あの、魔力回復薬の使用数を伝え忘れていました。合計三十二名の魔力枯渇者が出まして、魔力回復薬は計四十三本使いました。補充はロッソ先生がしてくれるそうです。魔力回復薬で使用した費用ですが、ロッソ先生が安く材料を手に入れてくださり、先生が調薬してくださったため、原価のみの記載となっているので確認をお願いします


 よし、ともう一度腰を下ろすと、隣でセドリック君が違う違うと首を横に振っていた。

「……宮廷魔術陣技師か……」

 ぽつりと生徒会長の口からこぼれる。
 もしかして、学生と職を並行するのってよくないの⁉ と思い至った俺は、慌てて口を開いた。

「あの! 学生との兼業は今のところ問題ないと王宮からお墨付きを貰ってます!」
「……すでに見習いとして休みの日はその職場に行く三年の生徒もいるので、そこは問題ないんだ。ただ……この魔術陣の内容が、伝え聞いたことしか知らなかったことに少し衝撃を受けてな……」
「そもそも魔術陣を読み解ける者が稀ですから会長気にしない気にしない。アルバはこういう生徒なんだってことだけ理解してもらえれば」

 セドリック君のフォローとも言えないフォローに、生徒会長はやっぱり複雑な顔つきになった。
 俺は、問題ないと言われてホッとして、会長が呟いた言葉を聞き逃していた。

 
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