最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

王子殿下誕生

 王宮からの発表も、兄様達からの連絡もないまま、二日が経った。
 学園祭が終わると三日の休日が入るので、俺はひたすら温室で絵を描いていた。
 ルーナも横で花の世話をしており、時折ルフト君とおしゃべりするのを聞いていたので、かなり心に余裕が出来た。
 薄紫のリモニウムの花は、まるで兄様とルーナの瞳の色のようで、色を塗るのが楽しい。
 俺の上半身くらいの大きさのキャンバスをすべて絵の具で埋めて、最後の仕上げをし終えて筆を洗っていると、目の前に兄様の蝶が現れた。

『無事、御子が産まれたよ。御子は王子殿下だったよ。そして、アルバの懸念した通り、ラオネン病だった。今ブルーノが対応している』
「わあ、産まれたのかあ」

 思わず呟くと、周りにいた研究所の人達がわっと歓声を上げた。
 あっと、俺の呟きでバレてしまったけれど、これはまだ外に出しちゃいけない情報かもしれない。

「兄様に情報をどこまで研究所と共有したらいいか訊かないと駄目だね」
「じゃあ私がオルシス兄様にご連絡をするわね」

 隣にいたルーナがニコニコと掌に兄様と同じ蝶を出した。
 蝶がひらりと飛んで、ふっと消える。

「兄様とおんなじ蝶だね。綺麗ー。ルーナは魔法の天才だね」
「あら、これくらいできるわよ。オルシス兄様も九歳のお祝い前にはもうできていたって聞いたわ」
「僕が兄様の蝶を初めて見たのは兄様が九歳の時だったなあ。あ、今のルーナとほぼ同じ時期だ。二人ともすごいなあ」

 ルーナの頭を撫でると、ルーナがふふっと微笑んだ。

「アルバ兄様に褒めてもらえるの、私大好き」

 嬉しそうなルーナにつられるように微笑んでいると、目の前に兄様が現れた。

「アルバ、ルーナ、連絡ありがとう。僕から説明するから」

 兄様は俺とルーナに軽くハグをすると、研究所の人達を全員が入れる会議室に集めた。

「皆、忙しい中集まってもらってありがとう。ブルーノはまだ王宮から戻れそうもないから僕から伝達事項がある。このことはまだ公にできず、秘匿事項となるので心して聞いて欲しい」
「「「「はい」」」」

 今の返事で、ふわりと魔力の動きがあった。もしかしたら魔法契約の言葉だったのかもしれない。
 兄様はフワリと微笑むと、ぐるりと皆を見回してから、口を開いた。

「先ほど、妃殿下が王子殿下をご出産なされた。妃殿下は体調も良く、お元気なのだが、王子殿下がラオネン病を患っている」

 兄様の言葉に皆が息を呑んだ。
 おめでたいはずの王子誕生が、喜べない事態になっちゃったからね。

「これから先、皆の力が必要になる。まだ生まれたばかりの御子なので、手さぐりになるだろうが、協力して欲しい。幸い、皆の尽力でラオネン病は死病ではなくなった。その知識と経験を王子殿下にもいかんなく発揮して欲しい」
「「「「はい」」」」
「もし詳しい資料があれば写しを作って欲しい。王宮の方で必要となる。それと、王子殿下がレガーレを食すことのできるようになる歳になるまで、定期的にレガーレを王宮に持っていくことになる。これから数個王宮に持ち込むので、用意を頼む」

 兄様の言葉が終わった瞬間、皆が一斉に動き出した。

「アルバも用意をして、離宮の方に一緒に行ってくれる?」
「はい。魔術陣は必要ですか? レガーレも持っていくのですよね。あ、あと、出産祝いに絵を描いたんですが、落ち着いてからの方がいいでしょうか」

 兄様の袖をつかんで矢継ぎ早に訊くと、兄様は大丈夫と微笑んだ。

「もし持って行けるのであれば、持っていこう。ミラ妃殿下はアルバの絵の大ファンだから、とてもお喜びになると思う。レガーレは何個か用意するようにブルーノに言われているから、戻るときに持っていくよ。魔術陣は王宮の方でも何枚か用意してもらっているから大丈夫」
「絵は本当に先ほどできあがったばかりなんですが、絵の具がまだ乾いてなくて」
「そのまま持って行って、陛下にわたしてしまおう。そうしたら陛下がどうするか決めるから。そのまま飾ってしまってもいいわけだし。さっきの場所にあった絵だよね。とても素晴らしいから、きっと応接室か執務室に飾られると思う」

 にこやかに話す兄様の言葉に、俺は動きを止めた。
 応接室か執務室……

「それは、離宮の、ですよね……?」

 俺の言葉は、兄様の曖昧な笑顔でけむに巻かれた。



 兄様はレガーレの入った箱を、俺は手にキャンバスを持って、転移の魔術陣で王宮入りした。
 場所は、ヴォルフラム陛下とミラ妃殿下の離宮だった。
 王子殿下がある程度大きくなって、一度目のお披露目をするまでは離宮で育てるらしい。
 離宮は前よりも明るくて柔らかい雰囲気になっている。どうしてだと思ったら、王子殿下が動いても怪我をしないようにと、色々なものを角の丸い家具に変えたからだった。
 心なしか離宮の空気も柔らかい気がする。
 ルーナが産まれた時も義父が家の家具などを一新したり絨毯を柔らかいものに変えたりしていたから、これが普通なのかもしれない。
 兄様は使用人の一人に声をかけて、そのまま箱を手に奥へ向かった。
 応接室に連れてきてもらった俺は、兄様にそこで待っていてと言われて、額装された絵をそっと立てかけてソファに腰を下ろした。兄様はそのまま奥へ行って、ブルーノ君にレガーレを渡すらしい。
 待つこと数分、ノックと共に顔を出したのは、ヴォルフラム陛下だった。
 急いで立ち上がると、陛下が「楽にしてほしい」と入ってくると、俺が立てかけていた絵に目を向け、動きを止めた。

「ヴォルフラム陛下! この度は王子殿下のお誕生おめでとうございます!」
「あ、ああ、ありがとう」

 声をかけると我に返ったように陛下は俺に視線を向けた。
 そして、俺をソファに座るように促して、自分も腰を下ろす。
 視線はスッと横に逸れ、またしても出産祝いの絵に向かう。

「あの絵は、アルバが描いてくれたものだろうか……」
「はい。もうすぐ産まれるという連絡がきたとき、僕は何の力にもなれないので、気持ちを落ち着けるためにとお祝いの絵を描いて朗報をお待ちしてました」

 ヴォルフラム陛下はふむふむと頷きながらも、ずっと絵に目を取られている。

「……なんと、美しい絵だ……」

 その呟きは、感想というよりも思わずこぼれてしまった一言のような響きだった。
 お気に召してもらえたなら嬉しいけれど。

 出産祝いは、白のドレスを身に着けてレースのヴェールを被ったミラ妃殿下が、腕に小さな御子を抱いている絵だった。

 周りにはルーナが育てたリモニウムの花を描いている。紫と白の対比が自分でも美しく描けたと思う。
 レースのヴェールからは、ちゃんとミラ妃殿下とわかるようにうっすら顔を描いていて、こういう技法がとても楽しく描けた。
 あとはお二人に気に入ってもらえるだけ、と思ったんだけれど。
 どうやらヴォルフラム陛下は気に入ってくれたみたいで、ほっとした。

 
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