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御子誕生編
どこかの悪役令嬢もの乙女ゲーム……?
『あなたがご自分で学園を辞めますと言えばいいのでは?』
『そうね。何を学びたいのかわかりませんが、ミラ妃殿下とはお立場が違いますのよ』
『妃殿下に憧れてこの学園を目指す市井の女が増えたらしいですけれど、身の程を知らないというのは恐ろしいものね』
『公爵家のご子息方に近付くなど、確かに身の程を知りませんわね』
『まあ、お一人の方はもともと男爵家生まれなのでとても親し気なようですけれども』
『それはアルバ先輩のことを侮辱しているということですか⁉ 先輩は誰よりも気品があり素晴らしい先輩です……!』
『あらあら、骨抜きねえ。あの方は婚約者がおりますのに……あの方には過ぎた婚約者ですが』
女生徒の笑い声と、リリーアン嬢の声が耳の奥で聞こえる。
そこに遠くから走り寄ってくるコレット嬢とセドリック君の姿があって——
映像と声とともに、身体から魔力がぐいぐいなくなっていく。
頭がガンガンしてきたところで、映像が途切れた。
もう一度フレッド君が飴を突っ込んでくれたらしい。
さすがに連続は魔力がかなり抜けちゃったかな。目を開けるのも億劫なくらいだ。口の中に広がる慣れた甘さにほっと息が漏れる。
でも今はサバイバル訓練の途中、ここで倒れたら迷惑以外の何物でもない。
何より、今まさに大物の魔物を倒した後で、皆疲れているのに。
「フレッド君、ごめんね、もう、大丈夫」
「アルバ様、全っ然大丈夫に見えませんよ。ちょっとごめんなさいね」
セルジオ先輩の声が聞こえたと思った瞬間、ひょいっと身体を持ち上げられた。
「うっわ、かる……」
小さな小さな声のセルジオ先輩の呟きは、抱き上げられてしまった俺にはしっかりと聞こえてしまった。
そうだね。筋肉も贅肉も身長もないからね。
「セルジオ先輩、すみません……」
「いいですよ。あとは俺が運びますね。それにしても、なんですあの魔物知識。俺あんな魔物ここに二年半いて初めて見たんですけど」
「僕も、実物は初めて見ました……」
「あれ、ブラウンベアとは色が違いましたよね。でかさと硬さも。ちょっとやばかった」
「あれは……ダークブラウンベアの、特殊個体でした。硬くて当たり前、です」
話しながらも、俺はセルジオ先輩に子供のように抱き上げられて、運ばれている。
皆心配そうに俺を見ながらついてきてくれる。コレット嬢まで心配そうな顔で俺を見あげていた。
「なんでそんなものの倒し方しってるんです……セドリック様が言ってたこと、本当だったんですね」
「知識だけは、豊富なので。ただ、自分では無理です。結局は魔法で役立つのも無理だったし」
口の中でころりと飴が転がる。
あの時舐めていなかったら、そもそもが映像なのか現実の光景なのかわからなくて余計に対処できなかった。とはいえ、見えていても一瞬後なんて、対処が無理に近い。もっと瞬発力とかそういうのがあれば、フレッド君に怪我をさせることなく冷静に対処できたのかな。
「……リリーアン嬢、冷静にフレッド君を治してくれて、ありがとう」
「いいえー、無事治ってよかったです。アルバ先輩は後遺症の方、大丈夫ですか?」
「はい。ただ、魔力が足りなくてこんな情けない姿ですけど……」
こんなやり取りも、セルジオ先輩の抱っこで行われている。情けない。
「先輩、もうそろそろ歩きます」
「だめでーす。俺を掴む手も全然力が入ってないじゃないですか。コレット、ちょっと魔物が出たらお前が倒してくれないか?」
「え、ええ。……あの、サリエンテ先輩、申し訳、ありません……」
ずっとだんまりだったコレット嬢が、俺の前で足を止め、頭を深々と下げた。
「ええ、なんで謝られてるんだろ? 僕、なんだかんだね足手まとい以外の何物でもなかったですね……コレット嬢がいてくれて、とても心強かったです。ごめんね、いやな思いをさせて」
最初に言われたお荷物そのままの格好だよねえ。情けない。
「今日は大丈夫と思ったんだけどね、病の後遺症でたまに魔力が減っちゃうんだよね……」
本当は刻魔法が暴走するんだけど、それは言えないからね。すべてを知っているフレッド君はとてもとても心配そうな顔で俺の横を歩いてくれている。対処を知っているのがフレッド君だからとても心強いんだけど、俺に言わせればフレッド君の服の方がやばいからね……何ならアビスガーディアンが出てきた時のヴォルフラム陛下の服よりも酷い。
「フレッド君の服は僕がなんとかしますね……」
「いえ、大丈夫です」
「だめです。僕を庇ったんだから、それくらいはさせて欲しい」
フレッド君が断れないようにしっかりとくぎを刺す。だってね。本当に見るも無残な状態なんだもん。予備も含めて何枚用意すればいいかな。今月の俺の小遣いはフレッド君の実習用騎士服に充てよう。本当に申し訳ない。
「あ、そうだ……」
ポケットをごそごそとして、体力回復の魔術陣を取り出した。
それをフレッド君に差し出す。
「これ、使ってください。フレッド君多分貧血でしょ」
「アルバ様が使ってください。アルバ様の顔色の方がよほど悪いです」
「僕のは魔力枯渇だから、この魔術陣では回復しないんだ。あとで魔力回復薬を飲むよ。今は持っていないから、学園に戻ってからになるけど」
でもありがとう、とお礼を言いながら、魔術陣をフレッド君に握らせる。
「自作魔術陣……」
セルジオ先輩の目が普段よりギンっとしてる気がするけど、気のせいかな。
「セルジオ先輩も使いますか?」
もう一枚くらいはあったからと訊いてみると、先輩はいやいやいやいやいやいやと首を振った。いやが多いな。
「俺はめっちゃ元気なんでしまってしまって。あっ、ほら、ゴール見えてきましたよ。一年生、遅れるなよー」
セルジオ先輩が振り返り、少し後ろを歩いている女子生徒二人に声をかける。
二人は頷きながらも、やっぱり距離があいていた。
そして、よく見ると、さっき映像で見えたうちの二人だった。
あちゃあ……
『そうね。何を学びたいのかわかりませんが、ミラ妃殿下とはお立場が違いますのよ』
『妃殿下に憧れてこの学園を目指す市井の女が増えたらしいですけれど、身の程を知らないというのは恐ろしいものね』
『公爵家のご子息方に近付くなど、確かに身の程を知りませんわね』
『まあ、お一人の方はもともと男爵家生まれなのでとても親し気なようですけれども』
『それはアルバ先輩のことを侮辱しているということですか⁉ 先輩は誰よりも気品があり素晴らしい先輩です……!』
『あらあら、骨抜きねえ。あの方は婚約者がおりますのに……あの方には過ぎた婚約者ですが』
女生徒の笑い声と、リリーアン嬢の声が耳の奥で聞こえる。
そこに遠くから走り寄ってくるコレット嬢とセドリック君の姿があって——
映像と声とともに、身体から魔力がぐいぐいなくなっていく。
頭がガンガンしてきたところで、映像が途切れた。
もう一度フレッド君が飴を突っ込んでくれたらしい。
さすがに連続は魔力がかなり抜けちゃったかな。目を開けるのも億劫なくらいだ。口の中に広がる慣れた甘さにほっと息が漏れる。
でも今はサバイバル訓練の途中、ここで倒れたら迷惑以外の何物でもない。
何より、今まさに大物の魔物を倒した後で、皆疲れているのに。
「フレッド君、ごめんね、もう、大丈夫」
「アルバ様、全っ然大丈夫に見えませんよ。ちょっとごめんなさいね」
セルジオ先輩の声が聞こえたと思った瞬間、ひょいっと身体を持ち上げられた。
「うっわ、かる……」
小さな小さな声のセルジオ先輩の呟きは、抱き上げられてしまった俺にはしっかりと聞こえてしまった。
そうだね。筋肉も贅肉も身長もないからね。
「セルジオ先輩、すみません……」
「いいですよ。あとは俺が運びますね。それにしても、なんですあの魔物知識。俺あんな魔物ここに二年半いて初めて見たんですけど」
「僕も、実物は初めて見ました……」
「あれ、ブラウンベアとは色が違いましたよね。でかさと硬さも。ちょっとやばかった」
「あれは……ダークブラウンベアの、特殊個体でした。硬くて当たり前、です」
話しながらも、俺はセルジオ先輩に子供のように抱き上げられて、運ばれている。
皆心配そうに俺を見ながらついてきてくれる。コレット嬢まで心配そうな顔で俺を見あげていた。
「なんでそんなものの倒し方しってるんです……セドリック様が言ってたこと、本当だったんですね」
「知識だけは、豊富なので。ただ、自分では無理です。結局は魔法で役立つのも無理だったし」
口の中でころりと飴が転がる。
あの時舐めていなかったら、そもそもが映像なのか現実の光景なのかわからなくて余計に対処できなかった。とはいえ、見えていても一瞬後なんて、対処が無理に近い。もっと瞬発力とかそういうのがあれば、フレッド君に怪我をさせることなく冷静に対処できたのかな。
「……リリーアン嬢、冷静にフレッド君を治してくれて、ありがとう」
「いいえー、無事治ってよかったです。アルバ先輩は後遺症の方、大丈夫ですか?」
「はい。ただ、魔力が足りなくてこんな情けない姿ですけど……」
こんなやり取りも、セルジオ先輩の抱っこで行われている。情けない。
「先輩、もうそろそろ歩きます」
「だめでーす。俺を掴む手も全然力が入ってないじゃないですか。コレット、ちょっと魔物が出たらお前が倒してくれないか?」
「え、ええ。……あの、サリエンテ先輩、申し訳、ありません……」
ずっとだんまりだったコレット嬢が、俺の前で足を止め、頭を深々と下げた。
「ええ、なんで謝られてるんだろ? 僕、なんだかんだね足手まとい以外の何物でもなかったですね……コレット嬢がいてくれて、とても心強かったです。ごめんね、いやな思いをさせて」
最初に言われたお荷物そのままの格好だよねえ。情けない。
「今日は大丈夫と思ったんだけどね、病の後遺症でたまに魔力が減っちゃうんだよね……」
本当は刻魔法が暴走するんだけど、それは言えないからね。すべてを知っているフレッド君はとてもとても心配そうな顔で俺の横を歩いてくれている。対処を知っているのがフレッド君だからとても心強いんだけど、俺に言わせればフレッド君の服の方がやばいからね……何ならアビスガーディアンが出てきた時のヴォルフラム陛下の服よりも酷い。
「フレッド君の服は僕がなんとかしますね……」
「いえ、大丈夫です」
「だめです。僕を庇ったんだから、それくらいはさせて欲しい」
フレッド君が断れないようにしっかりとくぎを刺す。だってね。本当に見るも無残な状態なんだもん。予備も含めて何枚用意すればいいかな。今月の俺の小遣いはフレッド君の実習用騎士服に充てよう。本当に申し訳ない。
「あ、そうだ……」
ポケットをごそごそとして、体力回復の魔術陣を取り出した。
それをフレッド君に差し出す。
「これ、使ってください。フレッド君多分貧血でしょ」
「アルバ様が使ってください。アルバ様の顔色の方がよほど悪いです」
「僕のは魔力枯渇だから、この魔術陣では回復しないんだ。あとで魔力回復薬を飲むよ。今は持っていないから、学園に戻ってからになるけど」
でもありがとう、とお礼を言いながら、魔術陣をフレッド君に握らせる。
「自作魔術陣……」
セルジオ先輩の目が普段よりギンっとしてる気がするけど、気のせいかな。
「セルジオ先輩も使いますか?」
もう一枚くらいはあったからと訊いてみると、先輩はいやいやいやいやいやいやと首を振った。いやが多いな。
「俺はめっちゃ元気なんでしまってしまって。あっ、ほら、ゴール見えてきましたよ。一年生、遅れるなよー」
セルジオ先輩が振り返り、少し後ろを歩いている女子生徒二人に声をかける。
二人は頷きながらも、やっぱり距離があいていた。
そして、よく見ると、さっき映像で見えたうちの二人だった。
あちゃあ……
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