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御子誕生編
お荷物(物理)
俺はそっとセルジオ先輩の班の一年生二人から目を逸らした。
あの二人はあれだ。俺のことも下に見ている人たちだ。どこの家の人かわからないけど。俺を侮るだけならいいけれど、それが兄様達にも及ぶようなら、その時はちょっとどうにかしないといけない。そして、さっき視たあの状態はどうかと思うので、回避したい。
そんなメンツに囲まれて、リリーアン嬢が大変そうすぎる。
そもそもどうしてあんな場面になったのか。なんで刻魔法でそんな場面を視てしまったんだろう。
公爵家のご子息様方ってことは、俺とセドリック君だよね。
俺はまあ、一緒に救護班をしたからそこそこ話をするけれど、セドリック君はまだリリーアン嬢と接点はないよね……? それともすでにどこかで邂逅してるのかな。
そんなことを考えている間に、俺たちはゴールにたどりついていた。
最後はもう俺は荷物となってセルジオ先輩に運ばれていただけだった。
幸いにもあの後は魔物が出てくることはなかった。あのダークブラウンベア特殊個体に恐れをなして他に逃げたと思われる。本当に、セルジオ先輩の班と合流していてよかったああああ。
ゴールにはロッソ先生も待機していて、俺が荷物よろしく運ばれているのを見た瞬間駆け寄ってきた。
「アルバ君、顔色が悪い。セルジオ君、ここまでお疲れ様。あとは皆が合流するまで休憩だ」
「はい。アルバ様はちょーっと最後で後遺症が出ちゃったので、運ばせてもらいました。それと報告することがあるので、向こうに行ってきます。はい」
やっぱり荷物のように、俺はロッソ先生に渡される。
「あの、自分で立てますから……」
「そうなのか……?」
ロッソ先生は疑いの眼差しで俺を地面に下ろした。
よろけそうになるのを踏ん張って、俺は振り返った。
班のメンバーが周りに集まり、心配そうに見ていた。
周りには数組のグループが来ている程度で、到着時間はかなり上位だったと言える。
「皆、お疲れ様。結構早く着いたね。それに途中に出てくる魔物への対処もとても素晴らしかったです。しっかりと報告させてもらうね」
挨拶くらいは自分の足で立ってしたかったからね。
あとはしばらくの間はロッソ先生の言う通り休憩するなり、他の生徒と交流するなり自由なので、ここでいったん解散になる。
「それから、コレット嬢、今日はとても助かりました。あとは他の班に……」
「この班で学ばせてください。本当に今日は申し訳ありませんでした!」
他の班に入れるよう先生に伝えておくね、と言おうとしたところを、コレット嬢の叫び声にも近い謝罪で遮られた。
「サリエンテ先輩がお荷物なんてとんでもないです……! あれほど魔物が簡単に倒せるものだとは、思いませんでした。先輩の助言がなければ、私の方が足手まといとなっていました。ランド先輩、ノア先輩の連携も、素晴らしかったです。そして……市井の生徒だと、侮って申し訳ありませんでした……」
コレット嬢がフレッド君とトミィ君とリリーアン嬢に頭を下げる。侯爵令嬢が頭を下げるなんて、なかなかないので、三人ともかなり困ったような顔をしていた。どう反応していいのかわからないみたい。
「リリーアン様、今までの態度、反省いたします」
「様とかつけられるとどうしていいかわからないので! あの、ブリーデン侯爵ご令嬢様! あの!」
「コレットと呼んでください」
コレット嬢の言葉に、リリーアン嬢はあわあわしながら「む、無理です……」と手をパタパタしている。
「あなたは……どうしてあれだけの大怪我を見て、動揺することもなくすぐに魔法を発動できたのです……?」
「慣れてますからね。私、市井でお小遣い稼ぎによく怪我人を治しているんですよ。中には大工仕事中に高いところから落ちた方や、落馬された方などもいるので、見慣れていたってだけです。経験です」
「経験……そう、ですか……私たちの方が、よほど未熟ね」
コレット嬢は憂いのある表情でまつげを伏せた。
「これからも、ぜひこの班で学ばせてもらえたらと思います……けれど、私の態度がいやだというのであれば、ご迷惑はかけたくありませんので……外すよう進言してくださいませ……」
コレット嬢の言葉に、他の皆は複雑そうな表情を浮かべている。
これは俺が決めないとだめなやつかなあ。
途中からはリリーアン嬢への態度も改められたし、進んで魔物を倒してくれるし、ランド君たちと三人での前衛も悪くなかったから、別にいいんだけど。
それに、さっきの映像では、コレット嬢は絡まれているリリーアン嬢を助けるためにセドリック君を呼んできてくれたっぽいから、リリーアン嬢的にはこれほどいい人材は他にいないのでは……?
「僕は問題ありません。というか、実はコレット嬢がもし他の班に行ってしまった場合、次に来る人がよりよろしくない人だったらと思うと、その方が問題がある気がします」
ちらりとセルジオ先輩の班に組み込まれている二人のご令嬢に視線を向けると、コレット嬢はその意をくんでくれたようだった。
「彼女たちにも言い聞かせておきます」
「そうだね。そうしてもらえると助かるよ。一年生のご令嬢で筆頭はコレット嬢になるようだしね」
そしてセネット公爵家の家門でもかなり近い地位にある家だから、コレット嬢はかなりのご令嬢をまとめられるはずなんだよね。
今まではコレット嬢まであの態度だったから皆右にならっていたけれど。
コレット嬢の態度が軟化したら、少しでもいい方に行くんじゃないかな。
そんな打算的なことを考えながら、どうかなと皆をぐるっと見回す。
「アルバ様がいいんであれば、俺たちは反対はしないです」
ノア君の言葉に、皆がうんうん頷く。
リリーアン嬢も一生懸命うんうん頷いている。いやじゃないってことかな。
「じゃあ、決まり。これからよろしくお願いします」
「ありがとうございます……っ」
コレット嬢は、ほっとしたように笑みを浮かべて、とてもきれいな所作で頭を下げた。
集合の合図があるまで自由にすることにして、俺はロッソ先生と共に救護テントにしけこんだ。
もうそろそろ体力が尽きそうで、ここまで抱っこで運ばれたのにさらにヘロヘロの姿を見せるわけにもいかないからね。
これから集合時間が過ぎたら皆で学園に戻ることになるけれど、その道のりを考えただけでげんなりする。
リリーアン嬢はフレッド君たちが一緒にいてくれるそうなので、安心してお任せした。
テントの中の簡易ベッドを一つ借りて転がると、ロッソ先生が魔力回復薬を出してくれた。
「とりあえず飲んでおきなさい。あとはここでゆっくり回復させるように」
「ありがとうございます」
「一人でも大丈夫か?」
「大丈夫です」
飴は一応まだある。発動中に一人で口に飴を放り込むのはかなり至難の技だけれど。
ロッソ先生がテントから出て行ったのを確認してから、俺は目を閉じた。
あー、魔力枯渇で瞼を閉じていても視界がぐるぐる回ってる気がする。こめかみのあたりがじわじわと締め付けられるように感じて、そういえば久しくこんなつらさを味わってなかったなと思う。
たいてい魔力が枯渇したら、兄様がすぐに飛んできてくれて、魔力を補充してくれていたから。
でも、俺は学園、兄様は王宮。
これからはこういうのが増えていくのかな。
でも、他の人からの魔力補充なんてもう考えられない。
さっきロッソ先生からもらった魔力回復薬は、効いているのか効いていないのかわからないくらいで、全然魔力が回復してないっていうのが自分でわかる。
ロッソ先生の回復薬も効能は悪くないんだろうけど、俺の魔力のコップには全然足りないんだろうなあ。
ブルーノ君の魔力回復薬ですら、数本飲まないと通常通りにならないから。この、やたら魔力の器だけがでかいのって何とかならないのかな……
あー……兄様のお顔が見たい……
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