最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

さっそく囲んでいた子を探し出してみた

 一週間後、俺はセドリック君とジュール君を連れて、一年生の教室の並びの廊下を歩いていた。
 目指すは、一年生女子生徒のいるところ。
 リリーアン嬢を囲んでいた女子生徒たちの家名を調べるためだ。
 俺は家名どころか名前すら把握していないので、二人に見てもらおうと思ったんだ。
 わざわざ足を運んだわけは、こういう場合、その場に行く方がより場の雰囲気がわかりやすいから。高等学園生で表情を完璧に取り繕える人なんてほとんどいないよね。俺が一番表情を取り繕うのがうまいと感じるのは、ミラ妃殿下だ。あれほど即座に雰囲気を変えられる人を他に知らない。
 カモフラージュに、全学年にこの間のサバイバル訓練の反省と要望を書くためのプリントを配ることにしたんだけど、そのプリント片手に俺たちはまっすぐ一年の教室に来ているんだ。
 こういうのをしようと提案したとき、生徒会長がすぐに頷いてくれてよかったよ。
 一週間後には、ちゃんとこのプリントを集めて、クラス委員会議が開かれることになるので、無駄ではないのだ。
 今はちょうど授業が終わったところ。これから三十分ほど連絡事項などを伝える時間があるので、それを利用してクラスの状態を見ようと思うんだ。
 扉をノックすると、中から先生の返事が聞こえてきたので、ドアを開けて中に入る。
 セドリック君の姿を見て、教室内の女子生徒がざわめく。辛うじて黄色い声が上がっていないだけで、目がキラキラしている。さすがセドリック君。モテモテだね。
 先生が教卓から移動し、セドリック君がそこに立つ。
 俺とジュール君は助手の顔をして、紙の束を教卓に置いた。
 そしてざっと教室内を見回す。

(……窓際の後ろから三番目の生徒)
(セネット公爵家家門の伯爵家のご令嬢です)

 一人発見したので小声でジュール君に伝えると、即座に答えが返ってきた。優秀すぎる。
 さらにもう一人発見したので伝えると、それも即座に返答が返ってきた。もしかしてジュール君、生徒全員覚えていたりする? 内心戦慄しながら、あとはいないと頷く。
 皆目を輝かせてセドリック君の話を聞いている。その姿に俺が味わったような嫌な雰囲気はない。
 セドリック君の説明が終わると、すぐに次のクラスに向かう。
 そこも似たような状態で、雰囲気は悪くなかった。
 それでも、リリーアン嬢は睨まれた状態なんだよね。リリーアン嬢がクラスにいないからこその雰囲気ってことかな。そういうのってちょっと嫌だなあ。
 最後のクラスに入ると、一番後ろの席にリリーアン嬢、一番前の席にコレット嬢がいるのが目に入った。
 セドリック君が教卓に立つと、目に見えてコレット嬢の表情が変わった。
 その表情は、どう見ても恋をしている女の子だった。

「もし要望などがあれば、ぜひこれに書いてね。一週間後、クラス委員が回収するので、それまでにまとめること。これからの取り組みに役立てたいと思うので、皆もぜひ力を貸してほしい」

 そう締めくくると、とてもいい返事が聞こえた。
 リリーアン嬢は、小さくなってちょこんと座っている。
 隣の席が同じ市井の生徒なのが救いかな。

「それと、ついでになってしまうけれど。失礼して」

 セドリック君は、カティ先生から俺が頼まれていた書類を手に持って、机の間を縫ってリリーアン嬢の横に立った。
 途端にクラスの雰囲気がザワリ、と揺れる。特に女の子たちの視線に鋭さが増した。
 コレット嬢はセドリック君の動きを目で追って、一瞬だけぎゅっと眉を顰めた後、クラスの雰囲気に困ったような表情になった。

(三人ほどいます。リリーアン嬢の斜め前と、窓際中央のみつあみの子、それとコレット嬢の横の子)
(どれもセネットの家門のご令嬢です)

 ジュール君の返答で、そもそも雰囲気が悪くなったのが、もしかしたらコレット嬢の態度だったのかもしれないと思いいたる。この間のサバイバル訓練で一応和解状態にはなったけれど……
 セドリック君はまるで周りの子たちをあおるように王子然スマイルを浮かべた。

「カティ先生が、放課後手伝ってほしい旨をリリーアン嬢に伝えて欲しいと言っていてね。ここに手伝いの内容が書かれているから、もしよければ放課後カティ先生に声をかけて欲しいんだ」
「……はい。わかりました。ありがとうございます」

 睨まれている状態だからか、リリーアン嬢がカチカチになっている。
 でもね、リリーアン嬢のところにセドリック君もいるから、睨むと全部見られちゃうんだよ、憧れのセドリック君に。いいのかな。
 俺もセドリック君をまねした笑顔を浮かべて、口を開いた。

「ザック君、リリーアン嬢、学園はどうですか。もう慣れましたか」
「「は、はい」」

 市井の生徒二人に声をかけると、二人とも慌てて返事をした。
 それに頷いて、さらに言葉をつなげる。

「昨年から始まった、市井の優秀な子を育てようとなさっているヴォルフラム陛下の施策です。陛下もとても心を砕いておられました。もし不便や不都合があれば、来年以降の課題としたいとおっしゃっていたので、どんな些細なことでも、いつでも僕たちに伝えてください。そして、たくさんのことをこの学園で吸収してほしく思います。陛下もミラ妃殿下も、期待しています」

 不便や不都合のところで、かなりの生徒が反応していた。
 何かしたら即座に陛下にチクるからね、という俺の忠告は、一応効いているいるといいんだけれど。
 それでもこの間見たあのいじめ状態に持っていくのなら、その時はもう遠慮しないよ。
 ああでも、ほぼすべてセドリック君ちの下につく子たちの暴走だったんだよねえ。
 あ、だから兄様はセドリック君の管轄だって言ったのか。もしかして、そこらへん兄様は全て把握してるの? 天才かな。天才だった、さすが兄様。すごすぎて拝むくらいしかできない……

「精一杯頑張ります!」
「私も、頑張ります!」

 二人の力強い言葉に、俺はうんうん頷いた。
 セドリック君は、教卓の方に戻ってくる途中、コレット嬢に「よろしくね」と微笑み、そのまま俺達と共に教室を後にした。
 二年三年にも説明をしないといけないのが少々面倒な気がするけれど、一応当初の目的は達成した。



 すべての教室を回って会議室に来た俺たちは、そのままセドリック君に促されて生徒会室の方に連れていかれた。
 セドリック君が少々萎れながらお茶を淹れる。

「……全部、うちのところのやつらだった……」

 がっくりと肩を落とすセドリック君に、ジュール君がちらりと視線を向ける。原因はコレット嬢だったみたいだけれど、コレット嬢とリリーアン嬢が和解したら、他の生徒たちはどう動くんだろう。

「まあ、一度警告したから、これで動いたらこっちも堂々と動けますね」

 どうなるかなと呟いたら、セドリック君とジュール君がおびえたような顔つきになった。二人は関係ないからそんな顔をしないでほしいんだけど。こんな非力な俺に向かって。

「まあ、メンバー的にセドリック君に教育的指導を徹底的にしてもらうということで。陛下たちのお墨付きなので、徹底的にでいいと思います」

 俺は口を出せなそうだからね。
 乙女ゲームが始まる前に、現実を突きつける感じでフラグをベッキベキにへし折ってしまえばいいんだよね。またしても隠しキャラとか言って兄様が参戦してしまったらとても嫌だしね。

「あ、むしろ同じ家門で注意しづらいなら、僕から注意した方があとくされないかな」
「アルバがしちゃったらあと腐れまくりだからやめて。僕が本気で徹底的に指導するからやめて。アルバが危険視している生徒の家名もわかったからほんと勘弁してぇぇぇ……陛下の意を汲めないようなのがまだいたなんて、ちょっとがっかりだよね……」

 げっそりしているセドリック君の横で、少しだけ目の座ったジュール君がお茶を飲んでいる。

「セドリック様、むしろまだ僕たちが家を継ぐ前に発覚してよかったと思いますよ。これを機にその家名の心持を判別できますし。セネット公爵様が動いてしまっては、皆粛々と従うことしかできないので、黙らすのは一瞬ですが、判別はできませんでしたし」

 冷静なジュール君の言葉に、俺は「はー……」と感嘆の声を上げてしまった。さすが将来の宰相候補。すごいなあ。俺は追い詰めることしか考えられなかったのに。
 セドリック君もやる気になったようなので、うちの家名を使うことがなさそうだね。

「コレット嬢は反省しているようなので、セルジオ先輩に免じて勘弁してあげてください。きっとこれからはリリーアン嬢の世話を焼いてくれると思いますし。ただ、セドリック君が関わってくるとそれもちょっと難しいかもしれないですけど」
「僕が? コレットって素直でいい子だと思ってたけど」
「それはセドリック君の前だからこそですね」

 だって、割と本気で恋している顔をしていたから。

「……やっぱりセドリック君にお願いしたら余計にこじれる気がしてきた……」

 恋する気持ちって結構激しいからね。
 
 
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