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御子誕生編
王子殿下とご対面
「落ち着いたかな?」
場が和んだところで、セネット公爵が口を開いた。
「そのことに関しても、私が陛下から一任されたので、よければ任せて欲しい」
「はい。お願いします」
ぺこりと頭を下げると、セネット公爵は頷いた後、口角を上げた。
「我が家門の不始末として、女子生徒たちは停学ののち再教育。再教育後、再度確認し、それでも余地なしの場合は退学のちしかるべきところへ。一家一家内情把握。領地を持つ家はそちらも確認をし、最終的に我が家門に必要ない家と私が判断したら手を切る。そんなところで納得してもらえるだろうか」
セネット公爵家は、どうやらこれを機に内部を掃除する気らしい。
いいきっかけができたね、セドリック君。家の足を引っ張る人を一掃できる機会ができてよかったね。
俺は兄様が誤解しないのであれば、あとは全部お任せでいいんだ。セドリック君が噂を何とかしてくれるっていうし。俺はそんな、噂を消す方法なんてわからないしね。そもそもが、友達が少ないので人海戦術で一気に違う噂を流すとかそういうことが出来ないからね……
はー……と重い溜息を吐いて、セネット公爵が視線を俺から義父に向ける。
「サリエンテ公爵家は優秀すぎるな……このような問題は聞いたことがない……」
それはきっと、単なる独り言というか泣き言の部類だったんだろう。
けれど義父はしっかりと反応した。とてもいい笑顔だった。
「もうすっかり片付けたからな」
えっと声が上がりそうになった。
片付けた。片付けたって?
ちらりと兄様を見上げると、兄様も義父同様とても穏やかな笑顔を浮かべていた。
……あっはい。あれですね。二人で何かしたんですねわかります。さすがかっこよすぎか兄様と義父。
うっとりと兄様を見あげると、兄様はもう一度俺のおでこにキスをした。
「アルバのおかげだよ」
俺のおかげかあ。そっかあ……もしかしてうちの粛清はすでにもう十二年ほど前に終わっているのでは?
思わぬところでうちの内情を知ってしまったことに、胸をドキドキさせたのだった。
「セドリック、お手本にするならお義父様よりサリエンテ公爵が一番よ」
「ミラ義姉様……」
ミラ妃殿下が義父を指さすと、セドリック君ががっくりと肩を落とした。
「そもそもお義父様は甘いのよ。だからあんなお義母サマのような人をあてがわれてしまうのよ」
「ミラ妃殿下……」
セネット公爵もがっくりと肩を落とした。
今はセドリック君に家を追い出されたんだよね。兄様に執着してるっぽかったから正直ほっとしたことを思い出す。
義父はしれっと我関せずな顔をしている。
確かセドリック君のお母さんは、義父が結婚していても関係なく迫ってたんだっけ。それでセネット公爵家に降嫁してったんだっけ……そのころは義父は王太子の側近だったんだよね。
そのことに対してセネット公爵はどう思ったんだろう……気にはなるけれど聞きたくないからそっとしておこう。
静かにセネット公爵から目を逸らすと、ちょうど視界に入ったヴォルフラム陛下の目に前にひらりと葉っぱが現れて落ちてきた。あれはブルーノ君の伝達魔法?
それを手にした陛下は、手のひらに小さな鳥を作って飛ばした。
次の瞬間、部屋の中にブルーノ君が現れた。
腕には何かを抱いている。
「ふあ……、ふぁあ、ふぁ」
可愛い泣き声により、ブルーノ君の抱いていた子が王子殿下だったことに気付いた。
けれどその鳴き声はか細く、陛下もすぐに立ち上がってブルーノ君に近付いた。
「どうした、ステファノ。苦しいのか?」
王子殿下を受け取り、抱きしめ、その小さな小さな手を握る。
ふわりと微笑むヴォルフラム陛下の顔は、とても慈愛に満ちており、神々しかった。
「ふあ……あむ、あー……」
手を握られて、王子殿下はピタリと泣き止んだ。
ちらりと柔らかそうな毛布の間から見えるその手は、陛下の指よりもさらに小さく、ルーナの赤ちゃんの頃を思い出した。
そういえばあの時は義父も同じ顔をしていたね。
陛下もお父さんになったんだな、とその表情一つで納得してしまった。
「先ほど軽い発作があり、魔力が少ないのか泣き止みませんでした」
「そうか。ありがとう。私が魔力をあげよう。ブルーノも少しここで休んでいくといい」
「はっ。ありがとうございます」
ブルーノ君は王子殿下を覗き込み、顔をほころばせてから、俺たちに「失礼します」と頭を下げて兄様の隣に立った。
俺はまだ兄様の腕の中。
ブルーノ君が今度は俺を心配そうに見ている。
「また何かあったんだな……大丈夫だったか? 今日はオルシスは迎えに行っていないようだが」
「大丈夫です」
ブルーノ君は俺の顎を掴み、顔を横にして上にして、納得したように頷いて手を離した。俺の診察をするときによくやるので、俺も兄様もされるがままだ。
「今日は大丈夫そうだな」
ブルーノ君は顔色一つで俺が魔力暴走したかどうかわかるもんね。
「アルバ君そういえばステファノを見るのは初めてかしら」
ミラ妃殿下の言葉に頷くと、手招きされたので、兄様に下ろしてもらう。
陛下は王子殿下の手をふわりと握りながら、また妃殿下の横に腰を下ろした。今魔力供給しているのかもしれない。
俺は驚かせないようにそっと近づいて、王子殿下を覗き込んだ。
ぱっちりと目を開けていた王子殿下は、ダークブロンドの髪もまるで海を思わせる青い瞳の色もヴォルフラム陛下と全く同じ色だった。めちゃくちゃに可愛い。
「このおめめぱっちりは妃殿下似ですね。ああでも、色合いが陛下とおそろいでかっこいい。小さいなあ……この大きさって抱っこも怖いんですよね。病気が早く良くなるといいですね。でもブルーノ君がいるから安心してくださいね」
声をかけると、王子殿下は俺をそのクリクリの目で見上げて、足を一生懸命パタパタと動かした。
「ステファノという」
「素敵なお名前ですね。でも国民にはまだ名を公表していませんよね」
「そうだな。王族は三歳の披露目で名も発表することになる。名を知っているのは、ここにいる者と離宮にいる者だけだ」
「そうなんですね。うっかり名を言わないようにしないとですね」
「いや、アルバは離宮に遊びに来た時に、たくさん呼んでやってほしい。自分の名を忘れてしまっては大変だからな」
「あー」
誰だこいつ、とでもいうように、ステファノ王子殿下はじっと俺を見上げている。絶対に視線をそらさないとでもいうように。ルーナもこんな時あったよね。ずっと義父を見つめてて、そうされるたびに義父はデレっとしていた気がする。
隣からミラ妃殿下も手を伸ばし、王子殿下の髪を優しく撫でた。
その時に、王子殿下の服にきらりと光るものがついているのが目に入った。薄灰色のそれは、よく見るととても見覚えのあるもので。
「服に竜の鱗がついてる」
薄灰色ってことは、ヴォルフラム陛下の魔力を込めていて、かなりその魔力が抜けているってことか。
「ああ。着脱可能な形にしてもらったものだ。去年ミラにもらったお土産なんだが、これに私の魔力を込めておくとある程度だったらステファノが持ちこたえられるのではと思ってな。また魔力を補充しておくか」
王子殿下はしっかりと陛下の手を握っており、もう片方の手はその小さな身体を大事そうに抱えている。
「この子ね、私がこれに魔力を込めると抗議の目を向けるのよ……よほどヴォルの魔力が好きみたいなの」
私がお母さんなのに、と口を尖らせたミラ妃殿下に、ヴォルフラム陛下が笑いをこらえながら身体を寄せる。
「ちゃんとミラのことも慕っているじゃないか」
「ごはん係としてじゃないかしら?」
「妃殿下、人前ではそのようなことを口に出さないようにお願いします」
妃殿下のあまりの言葉に、セネット公爵が頭を抱えた。
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