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御子誕生編
伝言の魔法練習中
「伝言の魔法は、思考を魔力に乗せるのです」
「思考を魔力に乗せる……」
難しい。
ムムム、と唸りながら、伝える言葉を頭に思い浮かべる。
そもそも思考を魔力に乗せるってどうやればいいんだ。
兄様もジュール君も皆簡単そうに魔法を飛ばすけれど、いざやってみるとその構造すらわからない。
「何か伝言を伝えるための形を作ると割と簡単です。このように」
ジュール君の手の上に、透明な水の金魚がシュルっと形作られる。
伝言を伝えるための形……形……兄様は蝶で、義父は鳥、陛下も鳥で、ブルーノ君は葉っぱ!
本当に何でもありなんだな、と思いながらも、どれもピンと来なくて眉の間にしわが寄る。
俺の手の上では、形にならない光がふよ……と小さく浮いている。
もし俺の属性が『刻属性』だけだったら、もしかしたら伝言の魔法は使えなかったということかな。それとも純粋な魔力だからできなくはないのかな。難しい問題だ……。
「違うことを考えていませんか?」
「はっ」
どうもやり方がまだしっくりこないので、せっかくジュール君が時間を取って俺に教えてくれてるのに注意力散漫になっていた。
「すみません……思考を魔力に乗せる、ということが全然わからなくて……あああ不甲斐ない……」
肩をがっくりと落として、俺は溜息を飲み込んだ。もう泣きごとに近いかもしれない。
落ち込んだことで、手のひらの光はすっかり消えてしまっている。
ジュール君は苦笑すると、仕方ありません、と首を横に振った。
「もともと魔法の勉強を始めたのが遅かったので仕方ないと思います。ましてやラオネン病だったのですから、魔力を放出することが命がけと身体が思ってしまっているでしょうし……じゃあ、どうしましょうか」
うーん、と考え込んだジュール君は、ハッとしたように顔を上げた。
「最初に送るのは、オルシス様でいいのでしょうか」
「はい!」
「では、今オルシス様が目の前にいることを想像してみてください」
「それぐらいなら余裕です!」
兄様が目の前にいる、それはそれは素晴らしい想像ですね。
優しく女神のように微笑む兄様を想像し、でれーっとしてしまう。
想像の中の兄様もとても美しいけれど、でも実物の兄様にはとてもとても負けてしまう。今朝もお見送りの時に少し顔を見ただけ。王宮への連勤出仕に少しだけ疲れが顔に出ているのは見逃さない。
でも今が大事な時だっていうのもわかってるから、安易に休んでとも言えない。
兄様、過労だけは気を付けて。
「目の前のオルシス様に、一番お見せしたいものをその手に想像してください」
「兄様に渡したいもの……」
お疲れの兄様には、疲れをとる魔術陣を渡したい。
他の誰でもない、俺が描いた魔術陣を。
ふわり、と上に向けた手の平に、光りながら治癒の魔術陣が浮き上がる。
「すご……、っと、それに、魔力を口から紡ぐようにして、言葉を囁いてください」
「『俺の最愛の兄様……無理だけはしないでほしい』」
魔力を手じゃなくて口から。
それを意識するように声を出すと、その言葉はフワリと光って手のひらの魔術陣に消えていった。
そして、魔術陣もまるで転移するかのようにふっと消えた。
ええと、今のは成功なの? 失敗なの?
消えちゃったけど。
「あっ、しかも俺とか言っちゃった!」
「ふふ、アルバ様がご自分のことを俺というのはとても新鮮ですね。ちょっと僕も今の魔法が成功したのか失敗だったのかはわかりませんが……慣れると声を出さずとも出来るようになります。それにしても……魔力で描かれた魔術陣、とても綺麗ですね」
「ありがとうございます。何やら変な感じになってしまいましたが……。なんで魔術陣だったんだろう……?」
首をかしげると、ジュール君も一緒に首を傾げた。
「きっと小さいころから手に馴染んだものが、魔術陣だったのでは? と思いますが……」
「そっか。五歳ごろから練習してたから、そのせいかもしれないですね。今まで何度も魔術陣には助けられていますし、僕のライフワークですから」
「ライフワーク……ですか?」
「そう。魔術陣があれば、不可能が可能になるんですよ。行きたい場所にすぐ行けるし、絶対に防げないと思われる魔法でも魔術陣があれば防げる。体調が悪くと治癒の魔術陣を持ってさえいれば少しでも良くなり、全属性の魔法が使えますから。それにかなりのお金になりますし、そうしたら兄様に色々と貢げます……!」
「貢ぐのはどうかと思いますが……」
できないことも結構あるけれど、それでも、俺一人の力ではどうしようもないことを魔術陣があったから何とかなったっていうことだって少なくなかったからね。アビスガーディアンのときとか色々と。
「なるほど……そうですね。少なくとも、アルバ様が魔術陣を嗜んでいなかったら、今の世はなかったですし……」
「ええ……え?」
ジュール君は、どこまで知ってるんだろう。
アビスガーディアンが出た時は、ジュール君を置いて魔術陣で跳んだはずだから、詳細は知らないと思うんだけど……
困惑してジュール君の顔を見つめると、ジュール君はそっと口元に指をあてて「兄上に」とだけ呟いた。なるほど。
「じゃあ、もう一度やってみますか」
「はい」
ジュール君に促され、手のひらを上に向けた瞬間、ぱっと目の前に兄様の蝶が現れた。
『アルバ、初めてのメッセージをありがとう。とても嬉しい。今夜、時間を空けてもらってもいい?』
蝶が解けるように消えるなか、耳元に兄様のミラクル美声が流れ込んできた。
「お返事がきました……! ってことは、成功……?」
「そのようですね……! やった!」
やった! と両手を挙げて喜ぶと、ジュール君もまるで我がことのように両手を挙げて俺の手にタッチしてくれた。嬉しい。
「じゃあ、さっそくお返事を……!」
「はい! では、さっきのことを思い出して」
「声をいただいたので想像は容易……!」
目の前の想像上の兄様は、とても素晴らしい笑顔で『今夜どう?』と訊いている、気がする。
夜のお誘いありがとうございます! めちゃくちゃ楽しみすぎて早く夜にならないか指折り待ってしまいそうです……!
誘惑が素晴らしすぎて胸のドキドキが止まりません……! 兄様のお誘い最高が過ぎる……! 最高オブ最高、もう思い残すことはないです! 愛しの兄様の夜の姿、とても楽しみすぎる……!
ただただ兄様のことを考えただけだったのに、手のひらに浮かんだ魔術陣はまたしてもしゅっと消えてしまった。
「あ、言葉……乗せてないのに……」
今度こそ失敗?
「脳裏に描いた言葉も、しっかりと魔力を乗せれば飛ばせますから! アルバ様覚えが早くて素晴らしいです!」
「え……っ」
もしかして、さっきの駄々洩れな言葉、全部伝言の魔法で兄様に飛んだとか言わないよね……?
し、失敗、失敗で! 頼む、俺の魔法、失敗していてくれ……!
「思考を魔力に乗せる……」
難しい。
ムムム、と唸りながら、伝える言葉を頭に思い浮かべる。
そもそも思考を魔力に乗せるってどうやればいいんだ。
兄様もジュール君も皆簡単そうに魔法を飛ばすけれど、いざやってみるとその構造すらわからない。
「何か伝言を伝えるための形を作ると割と簡単です。このように」
ジュール君の手の上に、透明な水の金魚がシュルっと形作られる。
伝言を伝えるための形……形……兄様は蝶で、義父は鳥、陛下も鳥で、ブルーノ君は葉っぱ!
本当に何でもありなんだな、と思いながらも、どれもピンと来なくて眉の間にしわが寄る。
俺の手の上では、形にならない光がふよ……と小さく浮いている。
もし俺の属性が『刻属性』だけだったら、もしかしたら伝言の魔法は使えなかったということかな。それとも純粋な魔力だからできなくはないのかな。難しい問題だ……。
「違うことを考えていませんか?」
「はっ」
どうもやり方がまだしっくりこないので、せっかくジュール君が時間を取って俺に教えてくれてるのに注意力散漫になっていた。
「すみません……思考を魔力に乗せる、ということが全然わからなくて……あああ不甲斐ない……」
肩をがっくりと落として、俺は溜息を飲み込んだ。もう泣きごとに近いかもしれない。
落ち込んだことで、手のひらの光はすっかり消えてしまっている。
ジュール君は苦笑すると、仕方ありません、と首を横に振った。
「もともと魔法の勉強を始めたのが遅かったので仕方ないと思います。ましてやラオネン病だったのですから、魔力を放出することが命がけと身体が思ってしまっているでしょうし……じゃあ、どうしましょうか」
うーん、と考え込んだジュール君は、ハッとしたように顔を上げた。
「最初に送るのは、オルシス様でいいのでしょうか」
「はい!」
「では、今オルシス様が目の前にいることを想像してみてください」
「それぐらいなら余裕です!」
兄様が目の前にいる、それはそれは素晴らしい想像ですね。
優しく女神のように微笑む兄様を想像し、でれーっとしてしまう。
想像の中の兄様もとても美しいけれど、でも実物の兄様にはとてもとても負けてしまう。今朝もお見送りの時に少し顔を見ただけ。王宮への連勤出仕に少しだけ疲れが顔に出ているのは見逃さない。
でも今が大事な時だっていうのもわかってるから、安易に休んでとも言えない。
兄様、過労だけは気を付けて。
「目の前のオルシス様に、一番お見せしたいものをその手に想像してください」
「兄様に渡したいもの……」
お疲れの兄様には、疲れをとる魔術陣を渡したい。
他の誰でもない、俺が描いた魔術陣を。
ふわり、と上に向けた手の平に、光りながら治癒の魔術陣が浮き上がる。
「すご……、っと、それに、魔力を口から紡ぐようにして、言葉を囁いてください」
「『俺の最愛の兄様……無理だけはしないでほしい』」
魔力を手じゃなくて口から。
それを意識するように声を出すと、その言葉はフワリと光って手のひらの魔術陣に消えていった。
そして、魔術陣もまるで転移するかのようにふっと消えた。
ええと、今のは成功なの? 失敗なの?
消えちゃったけど。
「あっ、しかも俺とか言っちゃった!」
「ふふ、アルバ様がご自分のことを俺というのはとても新鮮ですね。ちょっと僕も今の魔法が成功したのか失敗だったのかはわかりませんが……慣れると声を出さずとも出来るようになります。それにしても……魔力で描かれた魔術陣、とても綺麗ですね」
「ありがとうございます。何やら変な感じになってしまいましたが……。なんで魔術陣だったんだろう……?」
首をかしげると、ジュール君も一緒に首を傾げた。
「きっと小さいころから手に馴染んだものが、魔術陣だったのでは? と思いますが……」
「そっか。五歳ごろから練習してたから、そのせいかもしれないですね。今まで何度も魔術陣には助けられていますし、僕のライフワークですから」
「ライフワーク……ですか?」
「そう。魔術陣があれば、不可能が可能になるんですよ。行きたい場所にすぐ行けるし、絶対に防げないと思われる魔法でも魔術陣があれば防げる。体調が悪くと治癒の魔術陣を持ってさえいれば少しでも良くなり、全属性の魔法が使えますから。それにかなりのお金になりますし、そうしたら兄様に色々と貢げます……!」
「貢ぐのはどうかと思いますが……」
できないことも結構あるけれど、それでも、俺一人の力ではどうしようもないことを魔術陣があったから何とかなったっていうことだって少なくなかったからね。アビスガーディアンのときとか色々と。
「なるほど……そうですね。少なくとも、アルバ様が魔術陣を嗜んでいなかったら、今の世はなかったですし……」
「ええ……え?」
ジュール君は、どこまで知ってるんだろう。
アビスガーディアンが出た時は、ジュール君を置いて魔術陣で跳んだはずだから、詳細は知らないと思うんだけど……
困惑してジュール君の顔を見つめると、ジュール君はそっと口元に指をあてて「兄上に」とだけ呟いた。なるほど。
「じゃあ、もう一度やってみますか」
「はい」
ジュール君に促され、手のひらを上に向けた瞬間、ぱっと目の前に兄様の蝶が現れた。
『アルバ、初めてのメッセージをありがとう。とても嬉しい。今夜、時間を空けてもらってもいい?』
蝶が解けるように消えるなか、耳元に兄様のミラクル美声が流れ込んできた。
「お返事がきました……! ってことは、成功……?」
「そのようですね……! やった!」
やった! と両手を挙げて喜ぶと、ジュール君もまるで我がことのように両手を挙げて俺の手にタッチしてくれた。嬉しい。
「じゃあ、さっそくお返事を……!」
「はい! では、さっきのことを思い出して」
「声をいただいたので想像は容易……!」
目の前の想像上の兄様は、とても素晴らしい笑顔で『今夜どう?』と訊いている、気がする。
夜のお誘いありがとうございます! めちゃくちゃ楽しみすぎて早く夜にならないか指折り待ってしまいそうです……!
誘惑が素晴らしすぎて胸のドキドキが止まりません……! 兄様のお誘い最高が過ぎる……! 最高オブ最高、もう思い残すことはないです! 愛しの兄様の夜の姿、とても楽しみすぎる……!
ただただ兄様のことを考えただけだったのに、手のひらに浮かんだ魔術陣はまたしてもしゅっと消えてしまった。
「あ、言葉……乗せてないのに……」
今度こそ失敗?
「脳裏に描いた言葉も、しっかりと魔力を乗せれば飛ばせますから! アルバ様覚えが早くて素晴らしいです!」
「え……っ」
もしかして、さっきの駄々洩れな言葉、全部伝言の魔法で兄様に飛んだとか言わないよね……?
し、失敗、失敗で! 頼む、俺の魔法、失敗していてくれ……!
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