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御子誕生編
ステファノ殿下の様子は
「さて。俺は今重体だ。油断して無様に毒なんぞを飲まされたからな」
獰猛な笑みを浮かべたブルーノ君は、腕組みして俺の前に仁王立ちした。
「無様なんて……古今東西悪いことを考えた人が一番悪いのに……でも腕組みして僕を見下ろす重体患者なんているんですね」
「ここにいるだろ。俺はしばらくは表には出ない。王宮から状況確認と称して誰かが来た時に俺が元気に歩いていたら面倒だからな。そして、ステファノ殿下は、本邸から出さない。フローロ様に守ってもらうのが適任だが、外からくる奴らには会わせない。なんなら、本邸の俺の部屋にいてもらうか。ふむ、それがいいな。陛下か妃殿下がステファノ殿下に会いにくる場合は直接俺の部屋に跳んでもらうようにするか……」
俺の腕の中で眠るステファノ殿下の頬を、その指でゆっくりと撫でる。
「俺が飲まされた『青の結晶』って毒物は、無味無臭で水に溶けやすい鉱物由来の毒物だ。身体の中に入ると、眩暈、頭痛、嘔吐、肺の激しい痛み、意識混濁、最後には体内のあらゆる器官が機能停止するっていう結構やばい毒だ。自分で淹れた茶だったから油断した。沸かした湯の方に入ってたようだな。あの湯を使って殿下にレガーレを飲ませなくてよかったよ」
「……本当によくご無事で……。僕、ブルーノ君が死ぬかと思いました……」
「ギリギリ致死量じゃないのはわかってたんだ。が、あのままだと殿下一人にしそうだったから、それだけはだめだと思ってここに来た。俺がどういわれようと殿下だけは守らないとな。殿下」
ブルーノ君の殿下を見下ろす目は、俺が小さいときに薬を必死で開発してくれていた時と全く同じだった。
あんなにつらいとは思わなかった、と肩を竦めるブルーノ君に、本当に無事でよかったと目が潤む。
「アルバなら何とかしてくれるだろって思ってイチかバチかここに跳んだが、はは、正解だったな」
ニッと笑うブルーノ君に、僕は「何もできてません……」と口を尖らせた。
「……大変なことになりましたね」
「まあな。もともと色々と溜まる時期だったんだろ。いきなり中枢はガラッと変わったからな。改革には痛みを伴うのは世の常だ」
ブルーノ君はなんてことないように言うけれど、色々溜まったからって誰かを害するなんてそれこそふざけるなって話だ。気に入らないからって都度その人を排除していたらきりがないのに。しかもそういう人に限って人を羨むだけで自分で努力とかあんまりしないんだから。
「権力を手に入れていったい何がしたいんだ……ブルーノ君の功績が羨ましいなら同じくらいの功績をあげればいいのに」
頬を膨らませてぶつぶつ文句を言っていると、ブルーノ君がガリガリと頭を掻いた。
「俺の功績なんてそんなにないよ。レガーレだって特効薬だって本当はアルバの功績なんだから。ま、そう言っても信じる奴は少ないけどな。なんならアルバの功績として今から出すか?」
自嘲の笑みを浮かべたブルーノ君は、俺が何かを言う前に「冗談だよ。さ、母屋にいくぞ」と歩き始めてしまった。
ステファノ殿下はとてもおとなしかった。
抱っこして手から魔力を送ると、泣くこともなくご機嫌であたりをきょろきょろしている。
世話はルーナの世話をしてくれた人たちがやってくれるので、俺は本当に殿下をあやすだけ。
けれど、俺かブルーノ君の手が離れると、殿下は泣き始める。どうしてだろう。
今のところ発作は落ち着いているけれど、殿下は身体の中に爆弾を抱えているようなものだ。
王宮のごたごた、殿下のためにもなるべく早く片付いてくれないかな……なんて、他人事のように思ってしまう。
母は俺の世話でラオネン病の場合の対処に慣れていて、とても頼りになった。
咳をし始めた途端に用意しているレガーレの果汁を本当に薄くしたものを抱っこで飲ませ、安心させるように優しく声をかけている。そういえば俺も発作の時に母のこの声を聴いて安心したっけ、なんて思い出したりしながら、ルーナと共に母の手伝いをした。
ブルーノ君がステファノ殿下を連れてきてから一昼夜経った今も、ステファノ殿下は俺の腕の中にいる。
今のところ王宮から誰かが来ることはないけれど、反対に兄様と義父もなかなか帰ってこれないようだった。
ステファノ殿下は、かなり頻繁にけほ、と咳をし始める。
数時間に一度の発作。
「ちょっと発作が多すぎませんか?」
レガーレの果汁を口に含ませながら母に聞くと、母は「そうでもないわ」と首を横に振った。
「アルバも生まれたばかりの頃は、同じように発作を起こしていたわ。それこそ、夜中も目を離せないくらいに」
「そんなに……」
「ええ。でも、赤ちゃんの時よりも二。三歳ごろからが大変だったの。魔力の抜ける速さが少しずつ速く多くなっていって。発作の頻度は減っても、一度の発作で魔力の減り方が全く違ってくるのよ……」
「そうだったんですね……」
知らなかった。自分がどんな状態だったかなんて大きくなってからもわからないけれど。なにせオルシス様のご尊顔を拝むのに忙しかったから、自分の状態なんて二の次だったんだ。
でも、周りにいた人は想像以上に大変だったんだな。
「ステファノ殿下、ここにはラオネン病のプロフェッショナルな人がたくさんいるので、安心してくださいね」
ゆっくりと魔力を流しながら声をかけると、殿下がニコリと微笑んだ……気がした。
獰猛な笑みを浮かべたブルーノ君は、腕組みして俺の前に仁王立ちした。
「無様なんて……古今東西悪いことを考えた人が一番悪いのに……でも腕組みして僕を見下ろす重体患者なんているんですね」
「ここにいるだろ。俺はしばらくは表には出ない。王宮から状況確認と称して誰かが来た時に俺が元気に歩いていたら面倒だからな。そして、ステファノ殿下は、本邸から出さない。フローロ様に守ってもらうのが適任だが、外からくる奴らには会わせない。なんなら、本邸の俺の部屋にいてもらうか。ふむ、それがいいな。陛下か妃殿下がステファノ殿下に会いにくる場合は直接俺の部屋に跳んでもらうようにするか……」
俺の腕の中で眠るステファノ殿下の頬を、その指でゆっくりと撫でる。
「俺が飲まされた『青の結晶』って毒物は、無味無臭で水に溶けやすい鉱物由来の毒物だ。身体の中に入ると、眩暈、頭痛、嘔吐、肺の激しい痛み、意識混濁、最後には体内のあらゆる器官が機能停止するっていう結構やばい毒だ。自分で淹れた茶だったから油断した。沸かした湯の方に入ってたようだな。あの湯を使って殿下にレガーレを飲ませなくてよかったよ」
「……本当によくご無事で……。僕、ブルーノ君が死ぬかと思いました……」
「ギリギリ致死量じゃないのはわかってたんだ。が、あのままだと殿下一人にしそうだったから、それだけはだめだと思ってここに来た。俺がどういわれようと殿下だけは守らないとな。殿下」
ブルーノ君の殿下を見下ろす目は、俺が小さいときに薬を必死で開発してくれていた時と全く同じだった。
あんなにつらいとは思わなかった、と肩を竦めるブルーノ君に、本当に無事でよかったと目が潤む。
「アルバなら何とかしてくれるだろって思ってイチかバチかここに跳んだが、はは、正解だったな」
ニッと笑うブルーノ君に、僕は「何もできてません……」と口を尖らせた。
「……大変なことになりましたね」
「まあな。もともと色々と溜まる時期だったんだろ。いきなり中枢はガラッと変わったからな。改革には痛みを伴うのは世の常だ」
ブルーノ君はなんてことないように言うけれど、色々溜まったからって誰かを害するなんてそれこそふざけるなって話だ。気に入らないからって都度その人を排除していたらきりがないのに。しかもそういう人に限って人を羨むだけで自分で努力とかあんまりしないんだから。
「権力を手に入れていったい何がしたいんだ……ブルーノ君の功績が羨ましいなら同じくらいの功績をあげればいいのに」
頬を膨らませてぶつぶつ文句を言っていると、ブルーノ君がガリガリと頭を掻いた。
「俺の功績なんてそんなにないよ。レガーレだって特効薬だって本当はアルバの功績なんだから。ま、そう言っても信じる奴は少ないけどな。なんならアルバの功績として今から出すか?」
自嘲の笑みを浮かべたブルーノ君は、俺が何かを言う前に「冗談だよ。さ、母屋にいくぞ」と歩き始めてしまった。
ステファノ殿下はとてもおとなしかった。
抱っこして手から魔力を送ると、泣くこともなくご機嫌であたりをきょろきょろしている。
世話はルーナの世話をしてくれた人たちがやってくれるので、俺は本当に殿下をあやすだけ。
けれど、俺かブルーノ君の手が離れると、殿下は泣き始める。どうしてだろう。
今のところ発作は落ち着いているけれど、殿下は身体の中に爆弾を抱えているようなものだ。
王宮のごたごた、殿下のためにもなるべく早く片付いてくれないかな……なんて、他人事のように思ってしまう。
母は俺の世話でラオネン病の場合の対処に慣れていて、とても頼りになった。
咳をし始めた途端に用意しているレガーレの果汁を本当に薄くしたものを抱っこで飲ませ、安心させるように優しく声をかけている。そういえば俺も発作の時に母のこの声を聴いて安心したっけ、なんて思い出したりしながら、ルーナと共に母の手伝いをした。
ブルーノ君がステファノ殿下を連れてきてから一昼夜経った今も、ステファノ殿下は俺の腕の中にいる。
今のところ王宮から誰かが来ることはないけれど、反対に兄様と義父もなかなか帰ってこれないようだった。
ステファノ殿下は、かなり頻繁にけほ、と咳をし始める。
数時間に一度の発作。
「ちょっと発作が多すぎませんか?」
レガーレの果汁を口に含ませながら母に聞くと、母は「そうでもないわ」と首を横に振った。
「アルバも生まれたばかりの頃は、同じように発作を起こしていたわ。それこそ、夜中も目を離せないくらいに」
「そんなに……」
「ええ。でも、赤ちゃんの時よりも二。三歳ごろからが大変だったの。魔力の抜ける速さが少しずつ速く多くなっていって。発作の頻度は減っても、一度の発作で魔力の減り方が全く違ってくるのよ……」
「そうだったんですね……」
知らなかった。自分がどんな状態だったかなんて大きくなってからもわからないけれど。なにせオルシス様のご尊顔を拝むのに忙しかったから、自分の状態なんて二の次だったんだ。
でも、周りにいた人は想像以上に大変だったんだな。
「ステファノ殿下、ここにはラオネン病のプロフェッショナルな人がたくさんいるので、安心してくださいね」
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