最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

権力って……

 なかなか王宮から連絡がこない中、俺は後ろ髪を引かれながら学園に登校した。
 ブルーノ君曰く、俺に学園で噂を拾ってきてほしいとのこと。もしかしたら重大事項などが拾えるかもしれないって。どの生徒が話しているかによって、どこから王宮事情が漏れたのかがある程度わかるんだって。
 そういう発想はなかったなあ。
 ステファノ殿下が心配だったけれど、ブルーノ君が研究棟じゃなくて兄様と俺の部屋の並びにある自室で本格的にステファノ殿下の世話をすることになったので、問題はないらしい。まあ、ブルーノ君だったら安心だよね。母とルーナも引きこもる覚悟で世話をしようと気合を入れていたから、余計な心配かもだけど。

 なんでも、ステファノ殿下がラオネン病であるという情報を聞くことのできる立場にある人たちの中にも、ステファノ殿下のアンチが結構いるらしい。たとえラオネン病が死病じゃなくなったとしても、まだ成功例は数件、そんな不確かな状態では、この国の将来が心配だと。
 完治したと言われている俺がいまだによく倒れるので、もし殿下が快癒したとしても、病弱なままで国を率いることが出来るかはわからないとかなんとか屁理屈を並べているらしい。
 陛下たちには新たな王位継承者を作っていただかないとという声が結構大きくなってきてるようなんだけど、それ、ミラ妃殿下の逆鱗に触れないかな?
 俺が旗印になるはずが、俺のせいでレガーレの足枷になってしまっているかもしれない状況に少しだけへこむ。
 確かにね。俺はすぐ魔力が暴走して倒れるけど! まあ俺のことは本当のことだからなんて言われてもいいけどさ、そうやってまだ見ぬステファノ殿下の未来を勝手に憶測して排除しようとする方向に向かうのはちょっと違うよね。大人の思惑に子供を巻き込んじゃだめだよ。
 それに、ステファノ殿下一人も支えられないような人達が、果たして国を支えられるのかな。
 いらないんじゃないかな。


 ミラ妃殿下は、とても激怒しているらしい。
 そして、今回はさらに激怒しているのが、宰相閣下だった。
 まあ自分の息子が殺されそうになったり濡れ衣着せられそうになったりなんかしたら普通に切れると思う。
 ブルーノ君の家であるヴァルト家は、代々宰相を輩出していることから、どこにも属さない中立として認知されていたんだ。
 けれどブルーノ君がサリエンテ家に入ったことでそのバランスが崩れると懸念され、そうなると他の力のある侯爵家が宰相職を分捕ろうと画策したり出し抜こうとしたり暗躍を開始していたんだ。
 けれど、ヴォルフラム陛下が国王になり、うちとセネット公爵家と元第二皇子であるツヴァイト閣下が三大公爵家として陛下を支えることになって国が安定し、裏で色々やっていた人たちはようやく諦めたんだそうだ。
 それなのにうちとセネット公爵家……正しくは俺とセドリック君の家門のご令嬢たちが揉めたことから、公爵家二家に隙が出来たとみられて、そいつらがまた暗躍し始めたらしい。
 ただしその暗躍している家が特定がまだハッキリとは出来ていないらしく、俺が少しでも学園で有力情報を手に入れることが出来れば万々歳、という状態なんだそうだ。
 すべて兄様と密に連絡を取っているブルーノ君からの情報だ。
 毒に寝込んでいるはずの人が頑張りすぎだよ……ステファノ殿下の世話と主治医までしているのに。寝る暇あるのかな。
 もう、貴族の皆が「殿下の病気大丈夫? 頑張って大きくなれよ」って気持ちでいれば余計な揉め事の労力をすべて国営に注ぐことが出来るのに。
 公爵家は三家だけだけど、上位貴族である侯爵家伯爵家は結構たくさんあるわけで。
 チャンス!! って思っちゃったのかなあ。権力なんて忙しいし責任重いし、あんまりいいことないと思うんだけどなあ。


「権力って怖いよねえ……」

 セドリック君とジュール君とサロンで昼食をとっているときについつい愚痴をこぼすと、ジュール君が暗い顔をしてうんうん頷いた。
 ジュール君も、ブルーノ君に起こったことを宰相さんに聞いたらしい。朝会った瞬間無言で空き教室に連れ込まれてめちゃくちゃ詰め寄られて、仕方なく話せることは話した。そうじゃないと解放してもらえなかったから。もちろんジュール君に水魔法で遮音の膜を張ってもらってだ。そして、泣きながらお礼を言われてしまった。それこそひれ伏すくらいに。宥めすかして何とかいつも通りに戻ってもらったけれども、大変だった! ジュール君も頑固だから!

「兄上に害をなした人をすべてひねりつぶせば一番簡単なんでしょうけれど……」

 ジュール君の手に握られていたカトラリーが、不自然な方向に曲がっている。

「こらこらジュール。お前までアルバ思考になってるから」

 セドリック君が困惑しながらジュール君の発言を嗜める。いやこればかりは大事な人を傷つけられて怒らない方がおかしいよ。

「でもセドリック君、それが一番手っ取り早いんですよ?」
「アルバも。さも当たり前のことを言ってるような顔してるけど。それが出来たらうちの父上たちがすでにすっかり片付けてるんだよ……。でもそれを本気でやったら王宮がスッカスカで大変なことになるんだよ……! 父上たちが家に帰ってこれないくらい仕事山積みになるんだよ……!」
「そ、それは兄様も……?」
「当たり前だろ、残ったまともな人たちの肩に全部かかってくるんだから。過労で倒れるぞ」
「それは絶対だめなやつです。少しずつ切り崩していく方に方向転換しましょう。真綿で絞めるようにじわじわと……あっむしろ調きょ……」

 しゅぱっとセドリック君に口を押えられて、もごもごしてしまう。
 セドリック君は俺が黙ったのを確認すると、そっと手を外して溜息を吐いた。

「余計にやばい方に舵取るなよ……落ち着けアルバ。そうならないように今必死で父上たちが動いてるんだから。それに、ブルーノ様が色々考えてくださってるんだろ。だったら、僕たちが余計な手を出したら計画が狂って思うように進まない場合もあるだろ」
「……そうでした。連携大事」

 兄様が大丈夫って言ってた言葉を信じよう。
 ふー、と深呼吸して落ち着こうとしていると、同じように思いつめた顔をしていたジュール君も表情を緩めた。

「そうですね。連携は大事ですね」

 ジュールっ君も表面上は落ち着いたように見えたのか、セドリック君ははぁぁぁ~……と大きく息を吐いた。

「でも、ブルーノ様が無事で本当によかったよ。全世界の希望をなくすところだった」

 またしてもジュール君がすごい勢いでうんうん頷いている。
 ジュール君は最近ブルーノ君への崇拝を隠しもしてないからね。仲良きことはいいことだけれど。
 今回のことは、俺もそうだけどジュール君的にも許せないよね。もう目が座ってる。
 二人のお父さんである宰相閣下がどう動くのかが気になるところだよね。
 

 食事を終えて教室に戻り、午後の授業が開始になると、先生から森での実習はしばらく行われないことが告げられた。

「メノウの森で想定外の魔物が出現しているのが多数確認されていることを懸念され、しばらくは森を封鎖することになりました。安全が確認されるまでは森への立ち入りを禁止しますので、もし不用意に入る生徒を見かけた場合は教師に伝えてください」

 生徒たちが「えー」と不満の声を上げる。
 実習に充てるための時間は学園内の鍛錬所と魔術訓練所で行われるらしい。
 腕に自信のあるいわゆる脳筋と呼ばれる生徒ほど不満を表しているらしいけれど、我らがランド君とノア君はあの特殊個体と戦っているからか、ちゃんと納得してくれている。
 そうなると俺はまたみそっかすに戻るわけか……慣れてるからいいけどね。
 放課後クラス委員の集まりで、メノウの森の入り口に土壁がつくられたことが報告された。

「えっ、そこまでするんだ」

 その報を聞いて驚いていると、セドリック君は意味深な笑みを浮かべた。

魔物・・を逃がさないためらしい」
「魔物が逃げる……?」

 メノウの森からこっちの方に魔物が出てくるなんて、聞いたことがないんだけどな。
 俺が知ってる光デスの中でも、通常の生活圏内で町の中に魔物が出るとか聞かなかったし。
 これが宝玉の魔力が枯渇して終焉を迎えようとしている時ならまだわかるけど、うちはそれもないしなあ。
 ブルーノ君がひょろっと森で実習をさせないって言ってた時、俺とセドリック君の家が揉めたのが全員入り乱れるメノウの森での実習中だったから、今他に手が裂けないから止めるためだと思ってたけど、土壁で覆うくらい徹底的なら、もしかして他に理由があるのかな。
 そんなイベントやストーリーは聞いたことがないし、何より本編はすでに終わって久しいのに。
 うむむ、と頭を捻っている間に、クラス委員の会議は終わってしまった。
 初日はそれといった噂は俺の耳には入ってこなかった。
 

 
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