最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

ダメでもともと……の前に殿下のごはんを

 王宮に転移の魔術陣で帰っていく二人を見送った俺は、ベッドから降りてきたブルーノ君にステファノ殿下を預けた。

「あー!」

 何やら抗議の声が上がるけれど、ブルーノ君が頬をつついたりゆっくり揺らしたりしたことで機嫌は直ったようだった。
 きょろきょろとしているのは、ミラ妃殿下を探しているのかもしれない。
 ごめんね、もう帰っちゃったんだよ。
 俺もぽやぽやの頬を指で撫でると、その指を小さな手がぎゅっと掴んだ。
 可愛い。そして小さい。こんな小さい殿下を害そうとするなんて。
 直接殿下に何かをしたわけではないとしても、その悪意が気持ち悪かった。
 何が将来を憂えてだ。
 もうラオネン病は治るって何度も言ってるのに。実証例が何件もあるのに。
 一人一人は単なる不安だとしても、合わさるとこんなに大きな悪意になるなんて。
 陛下がまだ若いとか、妃殿下が市井生まれだとか、そんなのは屁理屈でしかない。ちゃんと今国を治めて、そしてさらに先に進もうとしているんじゃん。他の人には絶対に出来ないことだよ。
 それなのになんで邪魔するのかな。
 今回王宮のことは、俺はステファノ殿下の世話以外は蚊帳の外になっているけれど、ミラ妃殿下にも兄様達にもブルーノ君にも王宮に行くのは止められているけれど、俺だって色々と把握したいんだよ。
 だったら、やることは一つじゃん。

「ブルーノ君、実はお願いがあって」
「なんだ? 王宮に行きたいってんなら却下だが」
「違います」

 ブルーノ君が殿下をあやしながら首を傾げる。
 考えたんだ。
 こんなことをしでかしたやつを炙り出す方法を。
 でも通常の生活をしていたら、関わる方法すら俺には全然思いつかなくて。
 だったら、俺が出来ることをしてみるのが一番なのでは、と。

「ちょっと初めて自分の意志で刻魔法を使ってみようと思います」

 俺がそう告げると、ブルーノ君は目を真ん丸にした。

「は? 待て、アルバ、それは無茶じゃないか……?」
「無茶でも。どうすれば未来視ができるのかもわかりませんが、光魔法はちゃんと自分の意志で魔法を発現出来るんですよ。だったら、刻魔法だって自分でできるかもしれないじゃないですか。もしそれで何かしらの情報が手に入れば万々歳」 

 ぐっと拳を握り締めると、ブルーノ君は苦い顔をした。

「やめとけ。やるならオルシスがいるときにしとけ。俺は今殿下が発作を起こしたら魔力を渡したいからアルバに渡せる魔力がない」

 俺の考えをブルーノ君は正論で止めた。
 でも、これでもし首謀者がわかれば、そこから色々切り崩していくことは出来るんじゃないかな。それに、もし証拠とかそういう物理的なものがなくても、その人は裏切ってる人、ってちゃんんとわかってればその後の対処もおのずと決まってくるだろうし。
 やってみる価値はあると思う。
 何より、これはもう国を揺るがしてるんだから。
 その国を揺るがそうとしている人は、王家の本当の秘密は知らないギリギリの場所にいるわけで。だって宝玉のことを知っていたら王位が欲しいとかそういうの思わないと思うんだ。最後には命がけで自分や自分たちの子孫が宝玉に魔力を注ぐんだから。
 でもそんなギリギリの場所にいて、普段はとても従順な上位貴族なんて、結構たくさんいる。
 さらには王子がラオネン病だということで国が崩れると思えるくらいには国の政治を担っている人がそんな甘ったれた考えを持っているなんて。
 せっかく国が助かったのに内部から腐っていくなんて最悪だよ。

「一人一人じゃ時間がかかりすぎて、ステファノ殿下とアドリアン君の子が安心して暮らせないじゃないですか。それに何より、陛下に何かがあったりしたら兄様が巻き込まれます。ヴォルフラム陛下ほど国王にふさわしい人はいないのに、他のろくでもない人が国王になったらそれこそ最悪だ」 

 相手を把握して、スパッと切り崩していきませんか。
 そう言うと、ブルーノ君は片手で顔を覆って天を仰いだ。その手の動きをステファノ殿下が追ってじたばたしている。可愛いなあ。

「……魔力回復薬、レガーレの飴を用意して、絶対に一人ではするな。なんならここでしろ。魔力が枯渇しそうなときはどれだけアルバが止めても俺が飴を口に突っ込む」
「心強いです。ああでも、こういう時こそ兄様色の鱗が力を発揮するんです」

 首元から竜の鱗を取り出し、そっと握る。

「まあ、失敗する確率の方が高いんですけど。普段全然制御できないし。そもそも刻魔法が発動するかすらわからないわけですし」
「そう言いながらなんだかんだでアルバはやっちまうからな……」

 ブルーノ君はそう言うと、手のひらに葉っぱを形成した。あれは伝言の魔法。
 葉っぱはフワリと宙に浮くと、すっと消えていった。

「フローロ様に連絡した。すぐ来てくれるだろうから、もし何か試すならそれからだ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、準備が整うまでは、殿下にミルクを飲ませておくか。そろそろ腹が減る頃だろ」
「あ、はい」

 ブルーノ君がベッドから起き上がって、ステファノ殿下を俺に戻してくると、部屋の魔道具でミルクを用意し始めた。
 その手つきがとても慣れていて、王宮でも日常的に用意をしていたんだというのが窺える。
 まあ、信頼できる人にしか殿下の口に入るものは任せられないっていうのはあるんだろうけれど。

「あー、ぁむ」

 心地よかったブルーノ君の腕からまた移動させられたステファノ殿下が抗議の声を上げる。
 それをあやしながら、俺はブルーノ君の動きを見ていた。
 殿下は手をパタパタさせたり足を突っ張ったりして、元気いっぱいに動いている。
 けれど、ブルーノ君がミルクを作って戻ってくる前に、フガフガと泣き始めてしまった。
 咳は出ていないので、発作ではないと思う。
 ふわぁ、ふわぁと赤子特融の泣き声を聞きながら、その元気な泣き声にさっきまで頭の中心にあった怒りが少しだけ霧散したことに気付いた。
 そして、少しだけ冷静になれた気がした。

「アルバ、これを」

 ブルーノ君にミルクの入った哺乳瓶を手渡されて、俺はふっと息を吐いてからそれをステファノ殿下に咥えさせた。

「本当は、ミラ妃殿下がこういう世話をしたかったでしょうね」
「まあな。あの方は暇があればステファノ殿下を構っていたし。それなのにたまにしか抱っこしないヴォルフラム陛下のほうが懐かれてると憤っていたな」

 ブルーノ君はその光景を思い出したのか、くすくすと笑いだした。
 陛下が困ったような顔をするのが目に見えるようだよ。仲が良くていいよね。

「……今回の騒動は、俺達の世代が上の世代から生意気に見えていたのが事の発端だろうな。いまだに首謀者がわからないのは、多かれ少なかれ俺らの世代が鼻につく者が多いからだ。どいつも疑わしく、けれど、どれも決定打にかける。まあ、先王陛下のやらかし、アイン殿下のやらかしを知らない者からしたら、いきなりの方向転換だったからな」

 国ってのはめんどくさいな、はーやれやれ、と溜息を吐いたブルーノ君は、ちゅっちゅっとミルクを吸い続ける殿下を慈愛の目で見下ろした。

「俺たちは、陛下の代を支える人材で、ルーナの世代あたりからは、ステファノ殿下を支える世代になる。俺らが周りを整えるのは難しくないが……殿下はちゃんとご自身が信頼できる者を見つけられたらいいな」
「ブルーノ君……」
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