戦国ハイスクール 戦国乙女(仮題)

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第一話

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 時は、戦国時代。
 ではなく、少子高齢化が進む現代の日本。
 この日本には数多くの高校があるが、その高校を牛耳る校長は、織田信長など戦国時代の名高い大名たち。
 この物語は、戦国時代のお城の数々を現代の日本の高校に置き換え、更に現代の日本の要素に戦国時代の出来事などの要素を融合させた、パラレルワールドの学園ドラマである。



 日本列島の中心に、美濃みのの国(※いわゆる岐阜県の南側半分)、尾張おわりの国(※いわゆる愛知県の北側半分)、三河みかわの国(※いわゆる愛知県の南側半分)の3つの国で構成されたエリアがある。
 そのエリアの中にある大きな街の中心部から少し離れた小高い丘の上の閑静な高級住宅地の一角に、一際目立つ大きな洋風の一軒家がある。大きな弧を描くような曲線を用いたエレガントでしなやかで高級感が漂う2階建ての住居。更に、天然芝生が一面にびっしり詰まった広めの庭と、高級車3台分は余裕で駐車できる大きなガレージもある。周囲の高級住宅よりも一際格式高い家である事が分かる。
 53歳のチョビ髭を生やした小太りの冨喜とき頼明よりあきはこの家の家主。頼明の妻で40歳、キツネのような鋭い目つきのが特徴の冨喜とき牧子まきこ。頼明と牧子が大層甘やかした末に横柄な性格になった息子の冨喜とき彦太郎ひこたろう。そして、15歳の冨喜とき蒼蝶あげは。その4人が、この家の住人である。
 頼明と牧子と彦太郎は3人とも非常にプライドが高く、自己中心、腹黒くて、イヤミが多く、他人に対して威圧的で横柄な態度をとり、周囲の者達からは文字通り嫌われた存在。しかし、蒼蝶だけは全く違った。
 胸先まで届く長い黒髪を綺麗に三つ編みハーフアップにまとめ、小顔ですっきりとした顔立ちという持ち前の美貌と胸も十分あるスタイルの良さだけではなく、自分中心ではなく相手ファーストの思いやりの心、凛としていて、ゆとりある優雅な動きと清楚感を漂わせるなど、まるでどこかの名家のお嬢様を思わせる気品に満ちた心優しい女性。周囲からの目は、3人とはまるで雲泥の差だ。
 なぜ、この蒼蝶が3人とこれほども差があるのか。それは、この蒼蝶がこの冨喜家の生まれではないからである。
 頼明と牧子から産まれた子供は息子の彦太郎だけ。蒼蝶は、2人の子供ではない。この蒼蝶には本当の両親がいたが、母は病弱で、蒼蝶が生まれた数日後に死去。父はその前の年に蒸発して消息不明。その為、蒼蝶は実の両親の顔や名前さえ知らない。両親がいなくなった蒼蝶は、親戚中をたらい回しにされた後、10歳だった時に冨喜家に養子として引き取られたのである。
 しかし、この冨喜家にやって来てからも、蒼蝶には苦難の日々が続いた。
 この家に住む3人は実の家族ではない事を理由に、蒼蝶を家政婦同然のように扱い、荒々しい雑用ばかりをさせてきた。住む部屋も広々とした個室ではなく、1階の隅の物置のような狭い小部屋に押し付けた。更に、蒼蝶が学校から帰って来た後、自分を含め全員の毎日の食事の支度と食材の買出し、家や庭、浴室など毎日1人で掃除、そして度々ある3人からの色々な雑用を黙々とする日々。
 扱いこそ酷いが、蒼蝶は3人に一切反発する事はしなかった。もちろん反発心が無いわけではないし、反発しても良いのなら喜んでしたい。けれど、日々の荒い雑用をこなせられれば、必要最低限の衣食住は保障されている。
 お金に関しては、食材買い出しという家政婦特権を利用して、買出し予算と実際に掛かった実費分を差し引いた残金は、自分の小遣いになる。日々の食費のやりくりや、独学で料理の腕前を上げることによって、最初は微々たる残金が少しずつ多くなっていった。
 蒼蝶にとってそれが唯一の収入源ではあるものの、そのお金で自分の好きな物や洋服などを買ったり、学校の給食費など学校生活に必要な費用を諸々自分で払ったり、お金を貯めて最近ようやく念願だった自分の初の携帯電話スマートフォンも購入できた。それが膨れ上がる反発心やストレスを自分なりに抑え、なおかつ発散できる方法。少しでも反発すれば追い出されてしまうかもしれない日々瀬戸際な問題があるが、日々の生活で培った自信や知識が自分の力になる。これが今の蒼蝶を作り出したのである。
 そんな蒼蝶が15歳になり、高校受験当日の朝を迎えた。彦太郎は16歳だが彼女とは誕生月が少し早いだけで同学年の為、彦太郎も高校受験生である。
 今朝も蒼蝶がキッチンで朝食の支度をしている傍らで、頼明と牧子が彦太郎を囲んで身支度の準備に熱心に取り組んでいた。蒼蝶に洗面所から持ってこさせた大鏡の前に彦太郎を立たせ、髪型を綺麗に整えた。そして、夕べ寝ていた蒼蝶を叩き起こしアイロンを丁寧に掛けさせた中学の制服ジャケットを着させ、仕上げに頼明が彦太郎に度が入っていないメガネを掛けてあげた。
 「素晴らしい! どこからどうみても立派な好青年だ」
と、頼明が彦太郎を見て太鼓判を押した。牧子もそれに賛同した。
 「そうね。これならばきっと周りの子たちからも一歩先に進んだ存在になれるわ。合格も間違いなしね」
 「ありがとう。父さん母さん。俺、頑張るから」
 「ああ。母さんと応援しているからな。ベストを尽くしてこい」
 頼明は彦太郎の背中を叩いた後、急に険しい顔をして、キッチンにいる蒼蝶を睨んだ。
 「蒼蝶、いつまで調理しているんだ。さっさと終わらせんか。バスに乗り遅れて遅刻でもしたら、どう責任を取るつもりだ? ん?」
 「すみません、頼明おじ様」
 蒼蝶は急いで朝食の調理を終えると、食卓へと運んだ。頼明と牧子そして彦太郎の3人分の朝食を食卓へ運び終えると、3人は食卓に座った。そこに蒼蝶の席は無い。蒼蝶の席はキッチンでの立ち食い。朝食も昼食も夕食の時も、そこが蒼蝶の定位置だと、この家に来た時から決められていた事である。
 食卓に座るや否や、牧子がお皿の上に載った朝食のサラダ付きベーコンエッグのニオイを嗅いだ。
 「この目玉焼き、ちゃんと焼けているでしょうね?」
 「はい、しっかり半熟で」
 「半熟? 冗談でしょ」
 「えっ。でも彦太郎さんは、目玉焼きは半熟が好みで、いつもそのようにしていますが…」
 「口答えしない! それはいつもの場合でしょ。今日は大事な受験なのよ。彦ちゃんの今後の一生が掛かった大切な日なの。そんな時に、半熟の目玉焼きなんか食べて、お腹でも壊して受験に影響が出たらどうするの? 作り直し!」
 今から作り直すと、蒼蝶の朝食の時間が少なくなってしまう。しかも、夕べのアイロン掛けのせいで今朝は起床時刻が遅れてしまった為、蒼蝶はまだ身支度を整え終えてもいない。
 「別にいいよ、母さん。俺、半熟好きだし」
 「ダメよ、今日は。蒼蝶、今すぐ作り直して。しっかりと焼いて。いいわね?」
 「はい、すみません。今すぐ作り直します……」
 そう言って、蒼蝶は大至急、目玉焼きを最初から焼き始めた。目玉の卵がしっかり熟すまで丁寧に焼いた後、食卓へと運んだ。再度、牧子チェックが入ったが、今度は合格点だったようで、作り直した目玉焼きを彦太郎は食べた。半熟の目玉焼きは本来の自分の分の目玉焼きを含めて、蒼蝶が食べた。その分、朝食を済ますのに、いつもより時間が掛かってしまった。
 急いで朝食の片付けを終え、自分の部屋に戻って身支度を整え終えた時には、家を出る時間をとっくに過ぎていた。彦太郎はというと、蒼蝶が1人で朝食の片付けをしている間に、玄関先で頼明と牧子に盛大に見送られ、既に家を出発していた。蒼蝶が慌てて玄関先に出た時には、既に2人の姿はなかった。これが日常なので蒼蝶は気にもせず、急いで最寄りのバス停へと向かった。
 道中、行き交う近所の人々が走ってきた蒼蝶をみて、「おはよう」「受験頑張って」「応援しているよ」と笑顔で声をかけてきた。蒼蝶も「おはようございます」「頑張ります」と元気に返事した。今日も1日、元気に過ごせそうだ。これも、蒼蝶だけの生まれもった人徳によるものだ。
 全速力で最寄りのバス停に辿り着いた時には、既に何人かの受験生らがバスを待っていたので、蒼蝶は最後尾に並んだ。同時に、バス停に団体専用の貸切大型バスが到着。バス停で並んでいた受験生らが、次々にバスへと乗り込んで行った。その列の数番目のところで、先に家を出た彦太郎がバスに乗り込み、それから更に数人乗りこんだ後、最後尾の蒼蝶がバスに乗った。既にほぼ満員に近いバスの車内だったが、蒼蝶はなんとか空席を見つけて、そこに座った。奇しくも、通路を挟んだ隣の席に彦太郎が座っていた。
 「チッ、間に合ったのかよ。バスに乗り遅れていたら面白かったのに」
 彦太郎は蒼蝶に聞こえるようにボソッと言ったが、蒼蝶は聞こえなかったフリをした。
 蒼蝶ら受験生が乗ったバスが試験会場へ向かっている最中、バス車内では国民的女性アイドルグループのメンバー1人が、アイドルっぽく可愛らしい口調を交えながら試験についての説明する映像を上映した。


 その映像の内容を要約すると、以下の通り。

◇ 高校受験の会場は、各高校でそれぞれ行われるのではなく、エリア内の大きな体育館など1ヶ所に集めて合同で一斉に行われる。受験生らは、エリア内に複数ある高校から入学希望する高校を1つ選んで受験する。蒼蝶らが今バスに乗って向かっているのは、美濃みのにある大きな体育館を兼ね備えた大型公共施設で、美濃・尾張おわり三河みかわエリア内にある高校へ入学希望する受験生ら全員がこの場所に集まる。
◇ 試験内容は、全受験生が必須教科5科目の共通問題を同時に受験する、いわゆる大学のセンター試験を高校受験生向けにした「学力筆記試験」と、受験生1人に対し各高校の校長を一同に相手にする個人対複数の「面接試験」の計2つ。
◇ 高校試験の合否は、どちらかと言えば「面接試験」が重視される。
◇ 「面接試験」では、一堂に会した各高校の校長たち全員が面接官となり、それを受験生が1人で相手にする個人面接形式。面接官から直接色々質問されるのではなく、1人につき3分間という短い時間で、受験生が自ら自分をアピールする時間となっている。アピールするテーマに制限はなく、自分の得意とすること、中学時代の部活動経験、高校入学したら行いたい夢など、とにかく何でも良いので、自分を面接官にアピールすること。
◇ 合格基準は、「学力筆記試験」では、5科目すべての科目で合格基準点を超える。または、5教科の合計得点が必要最低合計得点を上回ること。「面接試験」では、明確な合格基準はなく、すべて校長の判断に左右される。校長ら面接官たちに向けて、自分を上手くアピールできれば、例え筆記試験の結果が悪くても、入学希望の校長が良しと判断すれば「合格」。自己アピールできていたが、入学希望の校長が良く思わなければ、例え筆記試験が1位通過だったとしても「不合格」となる。
◇ 面接の合否は、すべて校長の判断によるものが大きいが、「救済措置」というものがある。
◇ 入学希望する高校(ここでは仮にA高)の校長が不合格の烙印を押すと、そのまま志望校(A高)は不合格という扱いになる。しかし、同じ面接の場にで見ていた入学希望とは別の高校(ここでは仮にB高)の校長に熱意が伝わり認めた場合、その校長がいる高校(B高)への入学が認められる事があるのが、「救済措置(滑り止め合格)」である。
◇ この「救済措置」は、あくまで不合格による落第者の増加を防ぐ目的の為、本来入学希望した学校とは別の学校に滑り止め入学できるというメリットがある一方で、受験生本人の意思は尊重・考慮されないというデメリットがある。「救済措置」が適用された場合、例え入学できた高校が三流の不良高校だったとしても、受験生は入学拒否できず、ほとんど強制的にその学校へ入学することになる。


 「蒼蝶、オマエは滑り止めさえ無理なんだから、諦めて今すぐバス降りた方が良いんじゃないか?」
 彦太郎がニヤニヤした顔で蒼蝶に言ったが、蒼蝶は無視した。それをみた彦太郎は舌打ちをした。
 国民的女性トップアイドルグループのメンバーによる試験の説明は一通り終わったかと思ったら、映像はまだ続きがあった。
 『ちなみにぃ、今回の試験の結果次第ではぁ、皆さんの中の誰かが特待生に選抜されちゃうかもしれません。筆記試験だったらぁ、獲得合計点数の最も高かった1位の人から順番に数えて10番目までの人が、受験生の皆さんの中から選ばれます。その選ばれた人たちは「準・特待生」と言って、これから高校生活を送る上で必要な学費が、な、なんと半額になっちゃいます! 皆、ビックリだよね!? 私もビックリだよぉ』
 「なあ、最初から視ていて思うのだが、このアイドル、もっとまともに話せないのか? 口調がいちいち鼻について、まったく頭に入らん。正直、殴りたい」
と、彦太郎が嫌悪感を示した。蒼蝶は答えなかったが、意見に関しては少し同意できる。一部の受験生らからは概ね好評だが、それ以外の受験生らは総スカン状態だ。この映像を企画した人は、何故アイドルを起用したのだ。そのアイドルのどこかかんさわる口調での説明映像は、問答無用でまだまだ続く。
 『さらに、な、な、なんと! 面接試験でも「特待生」になれるチャンスが皆さんにあるんです! それはぁ……ええとぉ、なんだっけ? 忘れちった。てへ♪』
 「てへ、じゃねえよ! 今すぐ映像を撮り直せ。なぜ、この映像を採用したんだ?」
と、彦太郎がすかさずツッコミを入れた。
 『あ、思い出したぁ! 確か、面接試験で「特待生」に選ばれると、学費が全部無料タダになるんです! 無料タダ無料タダなんだよ。3年間の高校生活が全部無料むりょうで過ごせるんだよ。皆、凄いと思わない!?』
 「オマエのその口調を続ける勇気が、俺は凄いと思っているぞ」
 『でもね、みんな。この「特待生」に選ばれる条件は、意外と難しいんだ。だってね、みんなが入りたいと思う学校の校長先生が勝手にね、自分たちの学校の面接を合格した人達の中から、わずか1人だけしか選ばないんだよ。1人だけだよ、1人! 信じられる? もっと多く選べば良いのにねぇ~』
 「もっと、ちゃんとした口調で真面目に話してくれたら良いのにね~」
 『あ、でも、「特待生」に選ばれると、合格発表日に新聞やニュースなどで皆に発表するんだって。そしたら、皆から一躍ヒーローになれちゃうよ! 格好良いよね、私、憧れちゃうなぁ~』
 「もしオマエがヒーローになったら、世の中お先真っ暗だよ。少なくとも、俺はオマエを憧れの目でみたりはしない」
 『ヒーローになれるのは良いんだけどぉ、一部の人達から妬まれたり、恨まれたり、根も葉もない噂も流れちゃったりする事もあるんだって。こわっ!』
 「オマエと、この映像を作った人と許可した人全員が、怖っ!」
 『とにかく、皆さん、今回の試験頑張って合格して、素敵な高校生活を楽しんでくださいねぇ。応援してま~す♪』
 最後に映像が切替って、画面に字幕テロップで、この映像を制作したのが日本国政府であることが分かった。
 「いらんわ、クソが! その応援、そのまま全部お返しするわ! って言うか、この映像、政府が作ったんかい。本当に大丈夫か? 心配になるぞ、この国!」
 以上、後半ほとんど映像で説明するアイドルに向かって彦太郎が終始ずっと毒舌ツッコミを入れる漫才だった説明映像がようやく終わった。近くで聞いていた蒼蝶を含む彦太郎の周りにいた受験生らがずっと終始失笑していた。
 バスはそれから高速道路など1時間以上走った後、試験会場の最寄りのインターチェンジから高速道路を下りて一般道をしばらく走ると、片側一車線の一本道に出た。しかし、一般道に出た直後、事故があったのか、工事中なのか分からないが渋滞に巻き込まれた。ノロノロどころか一向に前へ進まない停滞状態だ。
 「おい、ウソだろ」
 「こんな時に渋滞かよ」
 「さっきから全然進まないよ」
 「これじゃあ試験に間に合わないよ」
 バスに乗っていた受験生たちが次々と声を上げて席から顔を出し、不安そうな顔立ちでバス前方を見た。彦太郎も蒼蝶も同じように顔を出した。前方を見たが、長い渋滞の車列が遠くの方までずっと続いていた。動き出す気配もまるでない。
 すると、バスの数台前にいた乗用車が突然方向転換し始め、渋滞している方向とは逆方向に走り去って行った。それに続いて、他の車も次々と後を追いかけはじめた。おそらく、渋滞の抜け道にでも向かったのだろう。
 「おい、運転手さんよ。俺達も引き返して別の道へ行った方が良いんじゃないか?」
と、受験生の1人が苛立ちを見せながら、運転手に聞こえるように大きな声で言った。
 「無茶を言うな。こんな片側一車線の幅が狭い道で、この大型バスが方向転換できるわけがないだろう」
 「じゃあ、どうするんだよ。ここでずっと待っていろ、って言うのか? 試験開始まで、もう時間無いんだぞ。間に合わなかったら、どう責任取ってくれるんだ?」
 「まあ待て。今、会場の試験本部に連絡して指示を仰ぐから!」
 「そんなんじゃ間に合わないだろ!」
 受験生たちは「もう無理だ」「諦めるしかないのか」と次々と意気消沈しだした。彦太郎も肩を落とし始め、周囲の者達が連鎖反応のように次々と落胆の表情を見せている。次第にバス車内の空気が重くなり、蒼蝶もそれに呑み込まれようとしていたが、蒼蝶は必死に抗っていた。葛藤の末、蒼蝶は座席から立ちあがり、運転手がいる運転席へと向かった。突然の行動に、受験生たちの目が一斉に蒼蝶に向いた。
 「なんだ、キミ。危ないから、自分の席に戻っていなさい」
 運転手は、携帯電話を片手に、試験本部に連絡しているところだった。
 「あの、聞きたいんですけれど、ここから試験会場まで、どのくらいですか?」
 「もう近くまで来ている。この道をまっすぐ行ったところだ。そう遠くはないはず」
 それを聞いて、蒼蝶の意は決した。運転手に「わかりました。ありがとうございます」と礼を言った後、蒼蝶は自分の席へと戻った。しかし、席には戻ったものの、座ろうとせず、そのまま自分の手荷物を持った。
 「おまえ、何しているんだよ」
 彦太郎の声に耳を傾けず、蒼蝶は自分の手荷物を持つと、再び運転席へと向かった。
 「今度は、いったい何だい? もうちょっと待ってくれ。今、本部に事情を説明したから……」
 「ドアを開けて下さい」
 「えっ?」
 「走ります!」
 蒼蝶の思わぬ一言に、運転手は面を食らった。それを近くで聞いていた受験生らも驚きの顔を見せた。
 「キミ、今、いったい何と言った?」
 「試験会場までここからそう遠くは無いんですよね。それも、この道をまっすぐ行った先。だったら、今から全速力で走って向かえば、ギリギリ間に合います」
 「お、落ち着きなさい、キミ。焦っているのは分かる。でも今、本部からの指示が出て、本部から代替えバスをここに至急向かわせるそうだ。そのバスで渋滞を迂回して会場に向かう。それを待ちなさい」
 「待ちません! 走っても間に合わなかったら、それはもう自分の責任です。それを覚悟の上でお願いしているんです。だから、ドアを開けて下さい。お願いします!」
 蒼蝶は運転手に頭を下げた。運転手はしばらく葛藤した末、ため息を深く穿き、バスの乗降口ドアを開けた。
 「本部に問い合わせたら、ここから会場まで道のりはまっすぐだが、距離にしてまだ5キロ程あるそうだ。全速力で走れば、もしかしたらキミの言うとおり、ギリギリ間に合うかもしれん。すべてキミ次第だ」
 「ありがとうございます!」
 蒼蝶は運転手に深く頭を下げると、バスを降りた。すると、運転手が「キミ!」と呼び止めたので、蒼蝶はその場で立ち止まって運転手を見た。
 「キミ、名前は?」
 「――蒼蝶です。冨喜蒼蝶とき あげは
 「試験、頑張れよ」
と、運転手は親指をグッと突き立てて言った。それを見た蒼蝶は笑顔で再びお辞儀し、会場に向かって一目散に走り出した。運転手がそれを車内から目で見送りながら、「若いって、良いなあ」と呟いていたら、走って行く蒼蝶を見て、受験生らが次々とバスを降りて蒼蝶の後を追いかけはじめた。運転手は再び面を食らったが、彼らを止めようとはしなかった。
 彦太郎は最後までバスに残るつもりだったが、気が付いた時には既にバス車内は彦太郎と運転手だけになっていたので、彦太郎は「クソッ!」と叫んで前の座席を足で強く蹴った後、急いでバスを降りて走り出した。
 蒼蝶を先頭に受験生らは試験会場に向かって、無我夢中で一目散に走り続けた。横の車道には、ずっと渋滞の車列が続いていて立ち往生している。その脇を蒼蝶ら受験生らがあっという間に走り抜けていくものだから、車列の中にいた人達はビックリして眺めていた。
 バスを降りて4キロほど過ぎた辺りで、ようやく渋滞の先頭に辿り着いた。渋滞の先頭にいたのは大型トラックで、片側一車線の道路の上下線を完全に塞ぐように止まっていた。どうやら単独事故を起こしたようだ。そのトラックを境に、今度は逆方向へ向かう下り線に長い渋滞の車列が続いていた。更に進んでいくと、試験会場からの代行バスが車列の中にいたのを発見したが、すっかり立ち往生して身動き取れない状態だった。
 あのバスにあのまま乗車していたら、もう絶望的だっただろう。今もこうして全速力で走って間に合うかどうかも分からない瀬戸際の状態ではあるが、バスを降りて走るという選択肢は正解だった。今まで走り続けて不安だったけれど、それがすっかり消え去り、自信がついた。全速力だった走りが、更に速度を上げたような感じがした。
 とにかくもう無我夢中で己の限界を超えるくらい走り続け、気が付いた時には試験会場の敷地内で疲れ果てて倒れていた。ギリギリの綱渡りだったが、どうやら試験に間に合うことができたようだ。
 結局、事情を考慮した試験本部は、試験の公平性を保つため、試験の開始が30分遅れる事になった。
 後から分かった事なのだが、最後にバスを出た彦太郎は最初こそ精一杯走っていたものの途中で間に合わないと思い、自転車を偶然見つけて強奪――もとい、拝借し、試験会場に到着。
 試験に間に合ったのは良いのだが、自転車のイスが汚れていたのに気づかないまま乗って来たので、せっかく仕立てた綺麗な制服のズボンのお尻の部分が少し汚れてしまったようだった。しかも、ブレーキ部分も壊れていて、タイヤの空気も少なく、途中でパンクして転倒。整えていた髪も乱れ、更に額に切り傷とコブができたようだった。
 ヨレヨレの彦太郎は、先に会場に着いていた蒼蝶を見つけると強引に連れだして、蒼蝶に自分のメイドの如く、ズボンの汚れを取らせ、自慢の髪も整えらせ、額に出来た切り傷を拭かせてコブを目立たせないように命じ、蒼蝶は渋々それらを行ったのだった。


 会場の入口で受付を済ませた蒼蝶と彦太郎ら受験生たちは、会場内の広々とした体育館へとやって来た。そこには床一面にテーブルや座席が1人1組ずつびっしりと並べられ、既に他方面からやって来た受験生たちが各々受験番号によって指定された座席に座って、これから合同で行われる筆記試験の準備をしていた。空気も外とは違ってピリピリとした重苦しい雰囲気に、蒼蝶は唾を飲んだ。息は整えたつもりだったが、心臓が再びバクバクと激しく動いているのを感じる。
 「落ち着け。この雰囲気に呑み込まれるな」
と、突然、横から男の声で誰かが蒼蝶に声を掛けた。先ほどバス車内で運転手に苛立ちしていた受験生の1人だ。
 「先ほどは助かった。あのままバスに残っていたら、今ここにいる事が出来なかった。結果的に試験開始時間が30分延びたけれど、キミが先陣をきってくれたから間に合ったんだ。感謝している」
 「そんな。私もあの時もう焦っていたから、気が付いたら走り始めていただけだよ」
 「とにかく、ここからが本番だ。お互い正々堂々と頑張ろう」
 「うん、頑張ろう!」
 その受験生は自分の席へと向かっていった。蒼蝶はそれを見送ると、自分の両方の頬を両手で強く叩き「よしっ!」と自分に意気込むと、蒼蝶も自分の席に向かった。
 その後、予定より30分遅れで筆記試験が始まった。各教科それぞれ1時間ずつ、間に休憩を入れながら、約半日かけて全5教科行われる。
 蒼蝶は最低でも「準特待生」に選ばれるのを目標としていた。お金に余裕が出てきたとはいっても、自分で学費を全額賄えるほどお金は持っていない。学費が半額免除になる「準特待生」になれれば、なんとか通える範囲内だ。ただ、それには相応の学力が必要になる。
 家では休む間もなく散々雑用されてきていて、あまり勉強することができなかったが、深夜など遅くまで起きて勉強したり、通学する道中や学校の休み時間など時間を見つけては勉強したりし続けてきた。おかげで中学での成績は上位、中学の担任から「準特待生」を狙えるレベルだとも言われている。
 その心強い言葉もあってか、2科目までは順調に回答が進んだ。しかし、3科目の終盤あたりで、順調に進んでいた蒼蝶に突然、強烈な眠気が襲い掛かった。夕べ叩き起こされて就寝時間が短くなってしまったツケが、ここでやって来たのである。更に、バスからここまで全速力で走って来て疲れが溜まっていたのも少なからず影響しているのだろう。
 居候先のあの家族3人を一生恨んでやろうかとも一瞬思ったが、そんな余裕は最早ない。強烈な眠気と戦いながら、試験問題に対処していかないと、目標を達成できない。
 我慢しながら3科目、4科目とこなしていったが、時間が経つにつれて、眠気の度合いが更に強くなっていく。
 最終科目の時にはもう限界に近かった。もう、ほとんど意識が朦朧としている。
 設問に対して、しっかり正答できているのかも分からない。シャープペンを握った手だけが無意識に動いているが、どういう風に動いているのかも分からない。いうなれば、もう手の感覚も分からない。自分が今、何問目の設問をしているのかも既に分からなくなっているほど、強烈な眠気を堪えるだけで精一杯の状況だ。
 「寝ちゃダメだ、寝ちゃだめ……寝ちゃ……」
 精一杯戦ってきたのだが、ここで力尽き、まだ試験途中だというのに爆睡してしまった。気が付いた時には、ちょうど最終科目の試験時間が終わったところだ。蒼蝶は、すぐに自分の解答用紙を見ると、半分以上白紙で、かろうじて記入できたところは意味不明の文字と線だけ。更に、その上にヨダレの池ができて汚れていた。最終科目は、ほぼ0点に近い。茫然とする中、解答用紙は試験官に回収された。
 ――終わった。
 蒼蝶の中で、何かが崩壊していくのがハッキリわかった。
 「ヘッ! その様子じゃ、どうやらダメだったようだな」
と、蒼蝶から少し離れた場所から試験中チラチラと気にしていた彦太郎が、今来なくても良いのに、絶望している蒼蝶の元へ、意気揚々とやって来た。
 「だから言っただろ。諦めてバスから降りていれば良かったんだ」
 その時、彦太郎のその言葉に、蒼蝶の我慢していた堪忍袋が激しく破れた。そして怒りと悔しさなど色々な感情が混じった表情で咄嗟に彦太郎の胸倉を掴み、半分悔し涙を出して無言で睨みつけた。その意表突いた表情と行動に、彦太郎は思わず圧倒された。
 すると急に我に返った蒼蝶は、掴んでいた彦太郎の胸倉をすぐに放し、顔を隠した。彦太郎は乱れた服装を自分で整えると、フッと微笑してその場を立ち去った。
 蒼蝶はそのまま体育館を出ると、建物内の誰もいない静かな廊下の片隅に座ってうずくまり、嗚咽おえつした。失意のどん底だった。
 「キミ、泣いているのかい?」
 突然、男らしき渋い低音の声が蒼蝶に届いた。気が付くと、いつの間にか蒼蝶の目の前に誰かが立っていた。
 「どうしてキミは泣いているんだい?」
 再び、大人の男の魅力が詰まった渋い低音ボイスが、蒼蝶の耳に届く。その声に聴き覚えはないのだが、何だか少し癒され、心が落ち着く。今すぐ顔を上げて、その男の顔を見て見たいが、泣き崩れて顔がグチャグチャなので、誰にも顔を見させたくはなかったが、隙間からその男の足だけ見えた。その男は、シワ一つない白色スーツパンツと、高級そうな白色の革靴を穿いていた。
 「筆記試験に失敗しちゃったのかい?」
 男の声は続くが、蒼蝶の嗚咽は続いており答えなかった。そのかわり、こくりと一度頷いた。男の声は続く。
 「そうか……。だが、もう時を戻すことはできない。何があっても、過去には戻れない。私も過去に犯してしまった自分の罪を、今でも悔やみ続けている。今もこうして罪と向き合っている。何とかキミを助けてやりたいが、先ほども言ったように、過去には戻れない。でも、1つだけ助言する事はできる。まだ終わりじゃない。キミには未来がある」
 「未来?」
 「そうだ。未来にチャンスがある。勝負はまだ終わっていないぞ」
 「それって……」
 ここで思わず蒼蝶が顔を初めて上げたが、そこに男の姿はどこにもなかった。見回しても誰もいない。まるで最初からそこに誰もいなかったかのように静まり返っていた。けれど、確かに男の声がしたし、足だけではあるが姿も見ている。確かに、誰かそこにいたのだ。
 蒼蝶は、男が言った言葉を思い出した。
 『未来にチャンスがある』
 「……未来」
 それがどういう意味なのか、蒼蝶は考えた。そして、ハッとした。
 「……そうか。チャンスはまだある。勝負はまだ終わっていない!」
 何かに気づいた蒼蝶は涙を拭き、立ち上がり、前を向いて歩きだした。
 その頃、筆記試験が終わったばかりの体育館では、次の面接試験の準備が試験官らによって行われており、その準備もじきに終わろうとしていた。
 彦太郎は蒼蝶の席をチラッと見ると、そこに蒼蝶の姿はない。おそらく、あのまま泣いて逃げ帰ったのだろう。そう思った彦太郎は、ニヤリと微笑した。
 そう思ったのも束の間、逃げ帰ったと思っていた蒼蝶が自分の席へと戻ってきた。しかも泣いてはおらず、それどころかやる気に満ちている。
 「しぶとい女だ」
 そう言って彦太郎は、再び舌打ちした。
 蒼蝶が次に狙うもの。それは学費が全額免除になる『特待生』だ。


 それから少しして、面接試験の準備が終わり、受験生らの前にヘッドマイクを付けた全身黒スーツ姿の係員が立った。その係員が発した言葉はヘッドマイクを通じて、体育館内にある全てのスピーカーに繋がっている。
 「受験生の皆さん、筆記試験お疲れ様でした。さて、これより面接試験へとうつりますが、その前に今から皆さんを面接する面接官、つまり美濃、尾張、三河の国にある各高校の校長先生方にご登場してもらいましょう。皆さん、拍手でお迎えください」
 その言葉を合図に、1人ずつ順番に各高校の校長が次々に登場した。どの校長も自分の学校の特色などをイメージした絢爛豪華な正装を見に纏い、颯爽と歩き、それぞれ檀上の定位置に立った。その人数はざっと数えても40人以上はいる。その大勢の校長一同を相手に、これから受験生は単独で、そのうえ1人につき3分という短い持ち時間で面接を受けなければならないのだから緊張する。
 最後から2番目に登場した校長が姿を見せた時、多くの受験生らの目が変わった。入学希望者が最も多い学校の校長が現れたからである。
 その受験生人気ナンバーワンの学校の名前は、『尾張おわりの国 織田おだ末森すえもり高校』。その校長に君臨するのは、織田おだ信行のぶゆきという若き男である。
 校長の織田信行がイケメンで女性人気が高い、というのも人気ナンバーワンに選ばれる理由の1つであるが、それ以上に『織田末森高校』は、優秀な生徒が多いうえに、美濃・尾張・三河のエリア内だけでなく全国でトップクラスの進学率と就職率を誇る優秀な進学校だからである。この学校の卒業履歴があれば、大学進学や企業への就職が他の高校と比べ受かりやすいほど、世間や保護者からの評判は常に上々だ。毎年入学希望者が圧倒的に多いが、合格枠の人数は限られているので競争率も高い。その学校に『準特待生』または『特待生』で入学する事ができれば、鼻が高くなるのは間違いない。まさに、蒼蝶も彦太郎も、それを狙っている者達の1人だ。
 「……あれ?」
 ここで蒼蝶が、織田信行の服装を見て、何かに気づいた。信行が着ていたのは、シンプルだけれど上品な白のスーツ姿だった。下も白のスーツパンツを穿いている。
 「あの服……」
 蒼蝶は、その服装に見覚えがあった。つい先ほど、廊下で泣き崩れていた蒼蝶に声をかけ助言してくれた男性が、白のスーツパンツを穿いていたのだ。という事は、もしかしたらあの男性は織田信行だったのかもしれない。しかし、信行の声をまだ聴いていないので、まだ確証できない。あくまで現時点での可能性の1つに過ぎない。
 最後に登壇したのは、『尾張の国 織田おだ清州きよす高校』の校長である織田おだ信長のぶながだったが、その姿に一同唖然とした。
 織田信長が着ていたのは、上をアロハシャツ、下が白の半ズボン、ビーチサンダルを履き、額には黒のサングラスをのせて、いかにもたった今ハワイから帰国してきたばかりを十分思わせる格好だったのだ。思わぬ格好に、受験生たちだけでなく各高校の校長たちも言葉を失ったが、信長は平然とした顔で檀上に立っている。しかも、おそらくガムを噛んでいるのであろう、口が終始もぐもぐ動いていた。
 織田信長が校長に君臨している『織田清州高校』。その評判は、目の前の信長の恰好を見れば勘付くだろう、お世辞にも良いとは言えない不良高校である。文字通り、ガラの悪い生徒たちが多く、問題行動を数知れず起こす。弟の織田信行が校長をしている『織田末森高校』とは何もかも、まるで正反対だ。
 とはいえ、数年ほど前までは『織田清州高校』も『末森高校』に引けを取らないほど優秀な高校で入部希望者も多く、お互い競っていたが、先代の校長が死去し、信長が跡を継いだと同時に、その評判はあっという間に地に落ちた。今では入学希望者も元から不良の受験生や、成績が著しく悪い生徒を除けば圧倒的に少ない。できれば救済措置を使ってでも入学したくはないが、ここ最近、信長が積極的に救済措置で入学者を集めているので、何としてでもそれは避けたいところだ。
 ごく一部の受験生からすれば抜群の人気を誇り、信長の登場時には歓声も上がったが、多くの一般生徒からすれば今の信長の恰好はドン引き状態である。もちろん他の校長たちも、信長の恰好はあり得ないとドン引きしている。それを察知した隣にいた弟の信行が、慌てて兄の信長に詰め寄った。
 「ちょっと兄さん! なんて格好をしているんですか!」
 「見ての通り、ハワイ帰りだ」
 「ハワイに行ったのは去年だったでしょう」
 「おまえ、ハワイの海で溺れていたもんな」
 「あれは、桟橋の上で釣りをしていたら、兄さんが背後から僕を海へ突き飛ばしたからでしょう。泳げないのを知っているくせに! って、そんな話、今はどうでも良いんです。なぜ、正装じゃないんですか! 正装で来ることが、常識なんですよ」
 「これが俺の正装だ」
 「それは、兄さんの普段着でしょう。どこに行っても、その恰好なんですから」
 「だから、ここでもその恰好だ」
 まるで話にならなかった。これ以上続けても無駄だと思った信行は、呆れて深くため息をついた。
 面接の時間も限られているので、結局、信長の服装は常識外れなハワイ帰りの恰好のままとなった。
 蒼蝶と彦太郎を含む大半の受験生らは、この信長の姿を見て、改めて「面接で良い結果を残さないといけない(信長の学校へは何が何でも行きたくはない)」と強く自分に言い聞かせた。


 その後、受験生らは受験番号ごとにグループ分けされ、それぞれ同じ建物内の広い会議室のような部屋に移動した。この別室で、自分の面接の順番が来るまで待機する事になる。
 蒼蝶と彦太郎は受験番号が離れている為、別々の部屋。彦太郎とはここで別れる事になった。面接が終わればそのまま各自解散となる為、もう彦太郎の様子は分からない。
 しばらくして面接試験の開始時間時刻となり、担当の係員が、都度、順番が来た受験生らを呼び、呼ばれた受験生は凄く緊張した様子で、次々に別室を去っていった。それを蒼蝶ら残った受験生たちは、緊張した顔で黙って見送りつつ、自分の順番をひたすら待った。
 この部屋に移動してきてから1時間以上が経過した。その間に、この別室で待機している受験生は3割ほどになった。待たされている間、自分の番はまだなのかと焦りと、時間経過と共に高まりつつある緊張が相まって落ち着かない。一刻も早く終わってほしい気分だ。
 「受験番号1535番。面接会場へ移動します。荷物を持ってついてきなさい」
 「はい」
 ようやく蒼蝶が呼ばれたのは、それから更に30分後のこと。緊張で今にも倒れそうだった。荷物を持って部屋を出て行こうとしたが、足取りもどこか重かった。
 案内の係員に誘導されつつ、蒼蝶は体育館入口前の廊下にやって来た。そこには四脚の折り畳みパイプ椅子が置かれ、それぞれ先に呼ばれた受験生らが座っていた。どうやら、この廊下で再び自分の番が呼ばれるのを待つ、簡易的な待合室のような場所らしい。面接の時間は1人につき3分と短い。先ほどの会議室から体育館までは意外と移動に時間が掛かったので、ここで再度待たせた方が効率良いからだろう。
 体育館から面接が終わった受験生らが1人出てくる度に、廊下で待機していた受験生が1人ずつ入れ違いに入って行く。順番が近くなる度に、緊張の度合いが更に増していく。
 蒼蝶の前番だった受験生の女性が、蒼蝶の隣のパイプ椅子に座って順番を待っている。次が彼女の番だ。蒼蝶が顔をチラッと覗くと、その女性も蒼蝶と同様かそれ以上に緊張していて、体が小刻みに震えていた。蒼蝶が「大丈夫ですか?」とその女性に声を掛けると、女性は顔を震わせながら、コクリと頷いた。もう頷くので精一杯のようだ。
 その女性の番がきた。呼ばれた瞬間、女性は緊張のあまり、先ほどよりもかなり震えている。震えながら立ち上がったと思ったら、次の瞬間には床に倒れてしまいそうなくらい危ない様子なので、見かねた蒼蝶が「大丈夫ですか?」と再度声をかけて体を支えてあげると、その女性は「だ、大丈夫です。あ、ありがとう…」と弱々しい声で答えた。正直、大丈夫そうには全く見えない。それでも、その女性は、おぼつかない足取りで体育館の中へと自力で歩いていった。その女性がとても心配になるが、今はもうそれどころではない。次はいよいよ蒼蝶の番だ。
 女性が面接会場である体育館の中に入ってから2分も経たない頃、突然、体育館の中が騒がしくなった。体育館の中にいた数人の係員が慌てた様子で、蒼蝶たちの前を通って走ってどこかに行った。廊下で待っていた蒼蝶たちが何事かと思っていたら、その係員たちが救護用の担架をもって戻ってきて、慌ただしく体育館の中へと走って入っていった。
 「いったい中で何があったの?」
 数分後、体育館から先ほどの係員たちが救護用の担架に人をのせて出てきて、蒼蝶の前を通って行った。救護用担架に載せられていたのは、蒼蝶の前の番だった、あの女性だ。どうやら、面接途中に緊張度が限界に達し、そのまま気を失って倒れたらしく、建物内の救護室に搬送されていくようだ。
 「あの女の人、どうなっちゃうんですか?」
と、蒼蝶は思い切って、廊下にいた係員に聞いてみた。
 「救護室で休ませてあげれば大丈夫だと思うけれど、面接の結果は、残念だけれど相当難しいだろうね。面接開始時からパニックで頭真っ白になって、ほとんどアピールできなかったようだし。滑り止めの救護措置もほぼ絶望的なんじゃないかな」
 「そんな……」
 あの女性は、今日まで時間を掛けて入念に準備してきたに違いない。それなのに、緊張と空気感でパニックになるという想定外の事態によって、今までの努力がすべて水の泡になるかもしれないなんて、とても可哀想だ。かけてあげる言葉も見つからない。それ以上に、あの女性を、ここまでさせてしまうなんて、この面接を甘く見てはいけないのかもしれない。もっと気を引き締めないと。
 一時騒然としていたが、すぐに空気は元通りになり、とうとう蒼蝶が呼ばれた。緊張度が一気に戻ってきた。あの女性みたく、今にも倒れてしまいそうなくらいだ。
 「大丈夫、大丈夫だから。落ち着け…、落ち着け…」
 蒼蝶は深呼吸したのち、覚悟を決めて、体育館の中へと入った。


 面接会場は、先ほどまでいた体育館が丸ごと使用される。
 先ほどまで受験生たちが使っていたテーブルや椅子は全て片付けられ、三段ほどの豪華な装飾が施されたひな壇が左右の端から端まで敷かれ、その各檀上に、まるで王様が座る玉座のような超高級椅子が一人一脚ずつ置かれている。
 その玉座に座るのは、もちろん面接官の各高校の校長たち。対して、そのひな壇と対面する30メートルほど距離が離れた向かい側には、ひな壇など特に何もなく、ただ体育館の床の上に受験生が1人座る折り畳み式パイプ椅子が一脚、そして体育館のスピーカーに繋がっているスタンドマイク1本が、ポツンと寂しく置かれているだけだ。
 形式上では面接という形だが、受験生の立場からすれば、まるでひな壇の上にいる大勢の裁判官たちに、今から自分が裁かれる被告人にでもなったかのような居心地だ。
 体育館はとても広くて大きいのに、異様な重苦しい空気と重圧と威圧に満たされている。あの女性が気を失って倒れてしまうのも、身を感じて分かる。
 蒼蝶は、その重々しい雰囲気に圧倒されながらも、パイプ椅子の前に立った。同時に、40人以上いる面接官たちの視線が一斉に蒼蝶に向いた。蒼蝶の正面には、ちょうど織田信長と弟の織田信行がいる。2人とも、蒼蝶を黙ってジッと見ている。できれば全員違う方向を向いていてほしいのだが、それは到底無理な話だ。
 「では、貴女あなたの受験番号と名前を、目の前のスタンドマイクに届くように声を出して言って下さい」
と、数時間前にここで面接官をする校長らを紹介したヘッドマイクを付けた係員が、蒼蝶に言った。蒼蝶は落ち着く為に一旦、一呼吸置いた後、前を向いて言った。
 「受験番号1535番、冨喜とき蒼蝶あげはです。本日は、宜しくお願い致します」
 深く一礼した蒼蝶の顔を見た面接官の校長の何人かが、手元にある資料をチラッと見て確認した。その資料は、おそらく、以前提出した蒼蝶の顔写真付きの内申書だろう。蒼蝶の今までの中学の成績や、部活動での実績などが事細かく掲載されている。もちろん、どんな風に書かれているのかは蒼蝶を含む受験生らに知る由はない。だが、蒼蝶は内申点に響くような不良生徒ではなく模範生徒だ。悪い事や面倒事も特に起こしていないので、内申書の内容で印象が悪くなるような事はないだろう。
 ヘッドマイクを付けた係員が、蒼蝶を見て言った。
 「では、冨喜蒼蝶さん。貴女が入学を希望したい学校の名前を、この場で面接官の皆さんにお伝えして下さい」
 「はい」
 そう言って、蒼蝶は目の前のスタンドマイクより更に奥の檀上にいる織田信行を見た。
 「私が入学を希望する学校は、『尾張おわりの国 織田おだ末森すえもり高校』です」
 それを聞いた信行は蒼蝶にニッコリと笑顔をみせて「ありがとう。期待していますよ」と応えた。
 「そんな不気味な顔を見せるんじゃねえよ。気持ち悪ぃ」
と、突然、信行の隣にいた織田信長が横から口出した。
 「気持ち悪いって何ですか、気持ち悪いって! 兄さん、私ね。緊張している彼女を安心してさしあげているだけですから。先ほどの受験生みたく、また気絶でもされたら困りますから…って、ちょっと聞いているんですか?」
 織田信長は口の中に入れた風船ガムを膨らませて破裂させ、聞いていないフリをしていた。信行は、悔しそうに歯ぎしりした。まだガムを噛んでいたのか。2人の様子を、蒼蝶やヘッドマイクを付けた係員は、ただただ苦笑するしかなかった。他の面接官らは呆れた様子だった。係員は気を取り直すと蒼蝶に言った。
 「では、冨喜蒼蝶さん。これから貴女に3分間の時間をあげます。この3分間で、貴女をここにいる皆さんに向かってアピールしてください。アピールする内容は、どんなことでも結構です」
 「わかりました」
 蒼蝶は目を閉じ、意識を集中させた。
 ここまで紆余曲折あった。ここが正念場だ。
 係員は、手元の時間を測るストップウォッチで、時間をゼロに戻した。
 「では、今から3分間のアピールタイム。始めてください!」
 係員がスイッチを押すと同時に、蒼蝶は目を開けた。
 「私は……」
 蒼蝶が口を開けて話そうとした瞬間、突然、言葉が出なくなった。話す内容をしっかり考えてきたのに、極度の緊張で、頭が真っ白になってしまったのだ。
 「私は……」
 蒼蝶は必死に思い出して口に出そうとするが、「私は……」から先の言葉が全く出てこない。何も浮かばない。最悪の事態だ。
 「私は……」
 「冨喜蒼蝶さん、どうしましたか? 大丈夫ですか?」
 係員が心配そうな顔で蒼蝶を見ている。大丈夫だと答えたいが、言葉を思い出す事に意識が向いて返事ができない。
 次第に面接官らも顔つきがどんどん変わっていく。また前の女性みたいな事が起こるのではないかと危惧しているのだ。信行の顔も次第に変わっていく。
 「冨喜蒼蝶さん。大丈夫ですから、落ち着いて下さい」
 係員が、何度も落ち着かせようと声をかけてくれる。
 「私は……、私は……」
 何も変わらず、ただ時間だけがむなしく過ぎていく。逆に、焦りが増していく。
 どうしよう。
 このままでは、ダメだ。何もかも全て終わってしまう。
 伝えたい言葉があるのに。
 アピールしたい事を、ちゃんと考えてきたのに。
 なぜ思い出せないんだ。しっかりしろ。
 「残り時間、あと30秒です。何か話してください、冨喜蒼蝶さん」
 係員が無上の通告をする。いや、もはや警告だ。イエローカードが既に2枚溜まっている。このままでは何もできず、イエローカード3枚になって強制退場だ。そうなっても良いのか。
 「私は……」
 ここまで来ても、やはり出てこない。
 もう面接官の何人かはガッカリして、次の受験生の内申書を取り出そうとしている。目の前の信行も首を左右に振ってガッカリした顔だ。
 対して、信長はガムを噛みながら、焦り続けている蒼蝶をずっと見ている。
 「残り10秒!」
 係員が無上にもカウントダウンを始めた。カウントは1秒ずつ減っている。
 万事休す。このまま終わってしまうのか。
 覚悟を決めた、その時だった。
 突然、パンッと何かが破裂した音がした。
 信長がまた噛んでいた風船ガムを膨らませ、それを破裂させたのだ。
 その音に、ようやく蒼蝶の脳内に言葉が思い浮かんだ。そして、ついにそれを発した。
 「あの!」
 待っていたかとばかりに面接官や係員の視線が、一斉に蒼蝶に集中した。
 「わ、私の前の番だった受験生、いましたよね。ここで気を失って倒れちゃった、お、女の人…。そ、その人、どうか助けてやって下さい。見捨てないであげて下さい! お願いします!」
 そう言って、蒼蝶は面接官たちに深く頭を下げた。面接官らは黙ったままだ。
 それは、自分でも全く予想外の言葉と行動だった。
 「……時間切れです。お疲れ様でした」
 係員が、静かにタイムアップを告げた。


 その日の夜、蒼蝶はあの家の自室にいた。
 小さな換気用の窓が1つしかない狭い部屋の片隅に置かれたベッドの上で、蒼蝶は制服を着たまま、顔面を枕に押し付けて、俯せになっていた。
 面接が終わって、試験会場から家まで、どうやって帰ってきたのか分からない。気が付いた時には、既に今のこの状態になっていた。
 蒼蝶の頭の中は、あの面接で言った言葉が、ずっと渦巻いていた。

 どうして、あの場になって、言葉が急に全く出てこなくなったのか。
 どうして、あんな思いもよらない言葉が出たのか。
 どうして、自分をアピールするべきなのに、今日が初対面で、たまたま面接の順番が自分より一つ前だった人を助けるという、まるで敵に塩を送るような事を言ってしまったのか。

 幾つもの疑問が浮かぶが、ハッキリしている事がある。

 筆記だけでなく、面接も失敗した。
 せっかくのチャンスを、無駄にしてしまった。
 せっかく今まで頑張ってきたのに。
 全部が無駄になった。
 全部、なにかも終わった。一瞬にして、すべて崩壊した。

 疑問の後に出てきたのは、後悔の嵐だ。

 受験に失敗した。
 どう考えても不合格だ。
 救済措置もない。
 自分が面接官だとしても、救済措置を出さないだろう。
 この世の中、そう甘くはない。それは自信をもって言える。
 きっと面接官の全員が、内申書の上に大きく不合格の烙印を押していることだろう。
 私は、受験に落ちた。
 この先、どうしたら良いのだろうか。全く見当もつかない。

 ただただ、時間だけがまた過ぎていく。時計の針が1秒ずつ動いている音しか聞こえない。

 泣きたい。
 今ここで、大きな声で泣き叫びたい。
 近くに海があるなら、バカヤローと世界中に響き渡るくらい大きな声で叫びたい。
 その冷たい海に飛び込んで、泡となって消えてなくなってしまいたい。
 もう何もかも嫌だ。自分自身さえも嫌になる。

 蒼蝶がすっかり自暴自棄になっている時、蒼蝶の部屋にドシドシ音を立てて近づく足音が聞こえた。その足音の主は、居候先の冨喜家の母である冨喜とき牧子まきこだった。牧子はドアの前に立ち、強くノックして言った。
 「ちょっと、蒼蝶! いつまで遊んでいるんだい。さっさと夕食の支度をしな。もう夜7時を過ぎているんだよ! アタシ達を飢え死にさせるつもり?」
 お腹が空いているのなら、自分で用意すれば良いのに。今の蒼蝶には、そう思う事はできても、返事をする気力はない。そもそも、牧子の声も蒼蝶の耳にはっきり届いていない。そのまま聞き流しているだけだ。
 「ちょっとアンタ、聞いているのかい? そこにいるんでしょ?」
 牧子がドアに聞き耳を立てた。部屋の中にいる気配を感じるが、全く蒼蝶の返事がない。いつもならば「はい、分かりました。すぐにやります!」という声が即座に返ってくるものなのに。
 「アタシの話、聞いている? 返事をしな! 返事!」
 牧子が再び聞き耳を立てたり、ドアをノックしたりしたが、やはり無反応だ。ため息をついた牧子は怒りのあまり、勢いよくドアを開けて中に入った。そして、ベッドの上で俯せの状態でいた蒼蝶を強引に叩き起こし、そのまま台所へと強制的に引きずっていった。
 牧子が台所に蒼蝶を強制的に立たせる事はできたものの、蒼蝶はまるで田んぼにいるカカシのようにボケッと突っ立っているだけで、全く動こうとしない。それを、冨喜頼明と牧子、そして彦太郎の3人が、食卓からジッと見ていた。
 「おい、生きているか?」
と、頼明が蒼蝶に声を掛けたが、返事も無く、やはり動かない。すると、彦太郎がおもむろに隠し持っていた輪ゴムを1本取り出し、手で輪ゴム鉄砲を発射する構えをしたかと思うと、蒼蝶の額に向かって発射した。見事、蒼蝶の額に命中した。だが、蒼蝶は少し微動したものの、すぐに元に戻った。
 「これ、結構痛いんだけどな」
と言いつつ、彦太郎は同じように今度は父である頼明の額に向かって再度発射した。頼明の額にパチンと良い音を立てて命中した。頼明は「いたっ! 痛いじゃないか!」と反応した。でも、これが予想していた正常な反応なのだが、今の蒼蝶にはそれが無かった。
 「おい、牧子、彦太郎。コイツ、すっかり元気ないと思わないか?」
 「もう今の時間だったら、『ご飯できましたよ~』って、憎たらしい声と顔で言っているわよね」
 「彦太郎、何か知っているか?」
 「あの落ち込みの感じだと、間違いなく受験に失敗したんだと思うよ。筆記試験終わりに泣いていたし」
 「本当か、それ?」
 「ホント、ホント。なのにさ、アイツ、俺の胸倉を急に掴んできたんだぜ」
 「え~、ウソ、ホント? この女、そんな事をしたの? 彦ちゃんの胸倉を掴むなんて、失敗したのは自分のせいでしょ。私の可愛い彦ちゃんのせいにするなんて、とんだ女狐めぎつねね。見損なったよ」
 「自業自得だ」
 彦太郎の説明に、頼明と牧子はすっかり納得しているが、そもそも蒼蝶が筆記試験に失敗した要因を作ったのは、この3人である。
 「それはそうと、彦ちゃんは受験、ちゃんと出来た?」
 「もちろんバッチリさ。筆記も、面接も完璧だよ。特待生、狙えると思うよ」
 「やったじゃない、彦ちゃん」
 「いやあ、父さんと母さんのおかげだよ」
 「それでこそ、我が息子だ。どこかの女狐とは大違いだな」
と、頼明がジロッとした目で蒼蝶を見た。それでも相変わらず、蒼蝶の様子は変わらない。
 その時、家の呼び鈴を鳴らす音がした。こんな夜分に誰か来たようである。頼明と牧子と彦太郎の3人は互いの顔を見合わせた。来客が来た時、最初に出迎えるのは蒼蝶の役目だ。しかし、蒼蝶は今カカシ状態だ。蒼蝶の代わりに、誰かが応対しなければならない。
 3人は互いに目で押し付けあったが、なかなか決着つかない。その間にも、再度、呼び鈴が鳴る。
 このままでは埒が明かないと思った牧子は、蒼蝶の傍にやって来て、「これはアンタの仕事でしょ!」と言って、蒼蝶の尻を強く叩いた。その瞬間、今までカカシ状態だった蒼蝶に、ようやく生気が戻った。
 「あれ…、私、どうして……」
 「まったく。本当に呆れた女だね、この子は。ホラ、玄関の呼び鈴が鳴っているよ。応対しな!」
 牧子はそう言うと、今度は蒼蝶の背中を突き飛ばした。
 まだ意識が完全に戻っていなかったのか、リビングに応答できるインターホンがあるのを忘れて、蒼蝶は急いで玄関に向かった。玄関に1人誰かいるのが見えた。
 「誰だろう?」
 こんな時間に来客が来るのは珍しいし、今日は来客の予定は無かったはずだ。
 3回目の呼び鈴が鳴った。
 「はい、ただいま行きます!」
 蒼蝶はそう言って、鍵が閉まっていた玄関のドアを開けた。
 「あれ? あなたは…」
 「お久しぶりですね。と言っても、今朝のバスの車内以来ですけれど。少し、お邪魔しても宜しいでしょうか?」
 来客したのは、紺のスーツを着用し、白のアタッシュケースを持った男。その男は、試験会場に行くときに蒼蝶と彦太郎が乗ったバスの運転手だった。


 「氏家うじいえ直元なおもと?」
 頼明たちは、突然の来客を食卓が置かれたリビングへと通した。食卓の片隅に座ったその男が、対面する頼明と牧子、そして彦太郎に向かって1枚名刺を出した。その名刺には役職と名前が書かれており、頼明がその名前を読み上げたのだ。蒼蝶は、台所でお茶の支度をしながら、彼らの様子を伺っていた。
 「改めまして、夜分遅くに申し訳ありません。わたくし、『高等学校教育統括本部・美濃みの支部局』に所属しています、氏家うじいえ直元なおもとと申します。以後、お見知りおきを」
 この『高等学校教育統括本部』は、日本国政府によって各地方の主要都市に支部を設立した公共団体。このエリアでは美濃に拠点となる支部をおき、美濃・尾張おわり三河みかわエリア内の高校を統括指揮、管理するだけでなく、試験の管理や運営なども執り行っている。今日の入学試験も、この統括本部が運営しているのだ。
 「アナタ、本当に統括本部の人間なの?」
 「ええ、そうですが」
 「だって、彦ちゃんから今さっき聞いたんだけど、アナタ、今朝、試験会場へ向かうバスの運転手だった、って言うじゃないの」
 「ええ、その通りです。確かに、私は今朝バスでお宅の息子さんを含む受験生たちを試験会場へお連れしました。しかし、それも統括本部の担当なのです。それに、私はこう見えて大型バスの運転免許を持っております。疑っているようであるなら、今この場で本部の人間に問い合わせてもらっても構いません」
 頼明と牧子は互いの顔を見合わせた後、牧子が「分かった。ここは信じる」と言った。
 「それで、その統括本部の方が、うちに何の用があって来たのですか?」
 「実は、今日伺ったのは、これをお渡ししたかったのです」
 氏家はそう言うと、アタッシュケースを開けて、中から一通の少し大きい茶封筒を取り出し、食卓の机の上に置いた。
 「冨喜とき彦太郎ひこたろうさん」
 「俺だけど」
 「この封筒の中に入っている書類を取り出して、ご覧になっていただいても良いですか?」
 「どうして、息子の彦太郎に? 保護者の俺らではダメなのかい?」
 「この書類は彦太郎さん本人に充てた、とても重要な機密書類です。その為、最初にご覧になるのはご本人と規則で決められております。ご本人様が一度目を通しましたら保護者の皆様がご覧になられても構いません」
 「結局、すぐ後で見られるのに、最初に見せないなんて、なんだか面倒くさい規則だわね」
 「申し訳ありません」
 やや疑心暗鬼の彦太郎は、氏家の指示に従い、その封筒を手に取って中を確認した。確かに、書類が数枚ほど入っている。彦太郎は、中に入っていた書類をすべて封筒から取り出し、一番上の書類に書かれている内容に目を通した。
 「ウソだろ? マジかよ」
 その書類に目を通した彦太郎の手が震えている。それを見た頼明が「もう良いだろ」と言って、その書類を彦太郎から奪い取ると、内容を読んだ。

 『合格通知書
 冨喜とき彦太郎ひこたろう殿。此度こたびの入学試験において厳正なる審査の結果、貴殿を本年度の「準・特待生」として、「尾張おわりの国 織田おだ末森すえもり高校」への入学を許可する。
尾張の国 織田末森高校 校長 織田おだ信行のぶゆき

 「え?」
 「うちの彦ちゃんが、準特待生?」
 その書類を見た頼明と牧子は目を疑い、何度も読み返した。氏家がニッコリ笑顔で彦太郎に向かって拍手して言った。
 「誠に、おめでとうございます! 冨喜彦太郎さん、あなたは本年度、織田信行が校長の織田末森高校へ、準・特待生の1人として選ばれ、同校への入学が決まりました」
 「やったじゃないの、彦ちゃん!」
 「準特待生って言う事は、学費半額だぞ、半額! さすが、我が愛しの息子だ!」
と、頼明と牧子が大喜びし、彦太郎を交えて互いに喜びを分かち合った。さぞ嬉しかったのか、彦太郎は蒼蝶に向かって誇らしげな顔をした。蒼蝶はそれを見てムッと顔をしかめた。
 準特待生を目標に蒼蝶も頑張ってきた。しかし、原因は何であれ、結果は惨敗。それだけでも十分悔しいのに、自分ではない誰かが準特待生に選ばれたところを目の当たりにすると、もっと悔しい気持ちになる。
 「でも、なぜ今なんだ? そもそも、今日は受験日当日の夜だぞ。合格発表日は2週間後だったんじゃないのか」
と、頼明が首を傾げた。
 「それは2枚目以降の書類をご覧ください。準特待生の手続き関連の書類となっていまして、準特待生は学費が半額免除となりますが、学費の2分の1を冨喜様がご負担いただき、残りの半分は日本国が負担することになっています。その手続きに時間と準備が掛かりまして、その手続き書類に彦太郎様本人の直筆サインをいただきたく、今宵参った次第なので御座います」
 「なるほど、よし分かった! 彦太郎、さっそくサインしてやりなさい」
 「恐れ入ります」
 嬉しそうに喜ぶ頼明と牧子の2人に見守られながら、彦太郎は書類に次々とサインしていった。氏家の説明も一通り終わったと思った蒼蝶は、ちょうど出来上がった自分の分を除く4人分のお茶を食卓まで運んだ。すると突然、そこで思いもよらぬ事が起こった。
 「はい、どうぞ」
 食卓にお茶を運び終えた瞬間の蒼蝶に向かって、にこやかな笑みをした氏家が彦太郎と同じ茶封筒を差し出したのである。
 「えっ!?」
 氏家の突然の行動に、蒼蝶を含め、その場にいた全員が驚いた。
 「おい、それってまさか……」
 この今の状況で、封筒の中身が何なのか、誰もが簡単に予想できる。
 彦太郎たちも驚いているが、更に驚いているのは蒼蝶である。蒼蝶は驚きのあまり、差し出された封筒を受け取ることができず、その場に立ち尽くした。氏家はにこやかな笑みのまま蒼蝶を見ている。
 「何かの冗談ですよね?」
と、蒼蝶が恐る恐る氏家に聞いた。
 「いいえ。冗談なんかで、こんな大事な封筒を出せませんよ。これは貴女に、です」
 そう言われても、蒼蝶はまだ信じられず、やはり受け取れなかった。
 「いらないのですか?」
 蒼蝶はゴクリと唾を飲み、恐る恐る、ゆっくりとその封筒に手を差し伸ばし、封筒を受け取ろうとした。
 「冗談じゃない。コイツに、そんな事、あってたまるか!」
 蒼蝶が封筒に手を差し伸ばした瞬間、頼明がその封筒を氏家から奪い取ろうと腕を伸ばした。しかし、氏家が瞬時にそれを軽やかに避け、そして、強奪に失敗した頼明の手の指が、そのまま食卓の上に置かれた熱いお茶の1つに沈んだ。
 「熱ちゃちゃちゃ! 水、水!」
と、熱いお茶に指を突っ込んだ頼明は悲鳴を上げて、咄嗟にそのお茶から手を引っ込めた。牧子も彦太郎はその出来事に思わずパニックになり、食卓の上にある残りの3つのお茶を全部冷水と勘違いし、それら3つのお茶を頼明の火傷した指に一気にぶっかけた。その瞬間、頼明は言葉にならないくらい大きな悲鳴を上げた。
 「このバカ! 火傷している指の上に、更に熱いお茶をぶっかける奴があるか!」
 「アナタ、どどど、どうしましょう!」
 「水だよ、水!」
 「父さん、台所の水道を使ったらどうかな」
 「おお、さすが我が息子。そうしよう!」
と、頼明と牧子と彦太郎の3人は、まるでコメディドラマでも見ているかのように、慌ただしく台所へと消え去った。その光景を呆気にとられながら、蒼蝶と氏家は見ていた。
 「なんだか騒がしくて面白いご家庭ですね」
 氏家のその一言に、蒼蝶は苦笑するしかなかった。
 今、この家の食卓には蒼蝶と氏家の二人だけになった。急に静まり返った食卓に、氏家は改めて蒼蝶に封筒を差し出した。蒼蝶も再びゴクリと唾を飲み、その封筒を手にした。
 「封筒の中を開けて、中をご確認下さい」
 氏家に言われるがまま、蒼蝶は封筒の中に手を入れた。そして、複数枚入っている書類の一番上の書類を取り出し、それを声に出して読んだ。氏家は、微笑んだ顔をしながら見届けた。

 『合格通知書
 冨喜とき蒼蝶あげは殿。此度の入学試験において厳正なる審査の結果、貴殿を「特待生」として、「尾張の国 織田おだ清州きよす高校」への入学を許可する。』

 「ええっ!? と、と、特待生!?」
 予想していた結果を上回る内容に、蒼蝶は声を出して驚いた。その声に反応して、台所に消えた彦太郎たち3人が、驚きの顔をして慌てて戻って来た。頼明は火傷した手に包帯を巻いて戻ろうとしたが、蒼蝶の驚きの声に驚き、その直後に誤って壁に激突。額から血が滲み出た状態で遅れて戻って来た。
 蒼蝶は、思わぬ内容に目を疑っていた。見間違えか読み間違えと思い、何度もその文章を読み直したが、当然の如く同じ文章のままだ。蒼蝶は驚きのあまり、声を失った。
 すると、「見せろ!」と彦太郎が、蒼蝶が手にしていたその書類を奪い取って見た。頼明も牧子もそれを一緒に見た。
 「ウソだ…。こんなの絶対ウソだ! そんな事、絶対あるワケが無ぇ!! コイツが、準特待生に選ばれた俺より上の特待生だって!? そんなの絶対ありえねぇ!! これは何かの間違いだ!!」
と、彦太郎が氏家に向かって怒った顔で叫んだ。氏家は落ち着いた口調で言った。
 「間違いではありません。そこに書いてある通りで御座います」
 「じゃあ、あれか……。バスが遅れそうだった時に、コイツが真っ先にバスを降りて会場へ走って向かおうとした。それがあったから、特待生に選ばれた、って言うワケじゃないよな? しかも、その時のバスの運転手はアンタだった。アンタが、上にかけあってコイツを特待生にしたんじゃないだろうな!?」
 「いいえ、違います。確かに、私はあの時はバスの運転手でありましたが、私は統括本部に勤める末端の人間。私に特待生を推薦するような権限や、発言権もありません。そもそも、特待生を決める権限があるのは、ただ1人。蒼蝶様の入学を認めた学校の校長だけです」
 「私の入学を認めた学校の校長……、まさか、それって……」
 蒼蝶は、すぐに彦太郎が持っていた蒼蝶の合格通知書を再び奪い返すと、改めてその内容を最後まで確認した。そこに蒼蝶を特待生として入学を認めた校長の名前が記載されているからだ。
 「『尾張の国 織田清州高校 校長 織田おだ信長のぶなが』……」
 織田信長。
 その人物は試験会場で、ハワイ帰りの恰好をして現れて、面接時には風船ガムを噛んでいた、あの常識を逸脱した男だ。
 「織田信長が、私を選んだ……。なんで?」
 「それは私には分かりません。校長の織田信長殿にしか分かりません」
 蒼蝶の頭には、ずっと「なんで?」の疑問が拭えなかった。その横で、織田信長の名前と学校名を聞いて、先ほどまで怒っていた彦太郎が、今度は急に高笑いをしだした。
 「アハハハ…! おい、オマエ。あのガラが悪くて評判がとても悪い清州高校に特待生として入学か!? しかも、校長は風変わりなアレだぜ? こりゃあ面白いや!! アハハハ……、ざまぁみろ!!」
 落第するかと思われていた蒼蝶に、織田信長から織田清州高校に特待生としての入学を許可するという突然の通知。
 予想していなかった事が次々に起こり、同時に疑問も芽生え、蒼蝶の頭の中は複雑な感情が渦巻いていた。
 そして、4月から、蒼蝶の織田清州高校での波乱万丈な学校生活が始まろうとしていたのだった。


 蒼蝶が、氏家から合格通知書を受け取っていた同じ時刻。
 夜景が広がるどこかの大きな街を眼下に一望できる高層ビル最上階のフロア。そのフロア一帯がホールのような広い空間となっており、南側の壁が一面すべて透明ガラス張りで、そこから眼下の夜景の街を一望できる。それ以外にこの無駄に広いホールにあるのは、その夜景を独り占めして見られるように、一脚の高級革椅子が透明ガラス張りの窓の傍にポツンと置かれているだけ。ホール全体に電気は点いておらず真っ暗だが、外からの夜景の灯りで、ほんのり少し明るくなっている。
 その高級椅子に、暗くてハッキリとは分からないが、『誰か』が深く腰を下ろし、眼下の夜景を静かに眺めていた。そこへ、白のスーツとスカートを着て、長い髪を束ねた若い女性がやって来た。女性は、その椅子とはかなり離れたホールの入口に近い場所で立ち止まると、椅子に座っている『誰か』に向かって言った。
 「今年度の高校入学試験は、無事に終了しました。途中、面接時に意識を失って倒れた受験生もいましたが、回復して今は無事帰宅できたようです。準特待生の選出や、各校長の特待生の選出も滞りなく終わり、すでに担当の者が特待生への手続き書類を渡しに出向いております」
 椅子に座った『誰か』は、夜景をずっと眺めたまま何も返事をしない。女性は、報告を続けた。
 「そして、お気になさっていた受験生の冨喜とき蒼蝶あげはという女性ですが、織田信長が校長を務める織田清州高校へ特待生として入学が決まった、との事です。先ほど氏家が本人に合格通知を手渡したとの報告を受けました」
 『誰か』はそれを聞くと、無言のまま、椅子から女性に見えるように片手だけをサッと出した。
 「畏まりました」
 手の動きだけを見て何かを察した女性は、『誰か』に向かって一礼すると、ホールを出ていった。そして『誰か』はゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外の景色を見た。そこで、夜景の灯りによって、その『誰か』が着ている服装が照らされた。
 その『誰か』は、白のジャケットを着て、白いスーツパンツを穿き、高級そうな白の革靴を履いていた。


 それから少し経った後の、同じ日の夜遅く。
 尾張おわりにある織田清州高校に、織田信長が自家用車の赤い高級スポーツカーを運転して颯爽と帰還した。夜なのにサングラスを格好よく掛けたまま、車から降りた。すると、高校の玄関から誰かが信長の元へ駆け寄ってくるのが見えた。織田清州高校に最も長く勤務する織田信長の直属部下で、学校全体を取り仕切る筆頭教職員のはやし秀貞ひでさだである。
 「信長様、お帰りなさいまし……って、何ですか、その格好は!?」
 「見ての通り、ハワイ帰り」
 「ハワイ帰りじゃないでしょう。高校入学試験に面接官として行ったのに、なんでアロハシャツなんて相応しくない服を着ているんですか!?」
 「相変わらず、うるさいな、林は。別に何を着たって良いじゃないか」
 「ちっとも良くないですよ! 校長のアナタがこんな格好をしていては、ますます我が校の評判が地に落ちますよ。入学希望者ももっと減ってしまいます。そうなると、我が校は著しい定員割れになって最終的には廃校ですよ、廃校!」
 「あ~、もう! うるさい!!」
 「うるさくなりますよ!! 校長なんですから、もっとしっかりして下さい!! そもそも、今朝ここを出るときは、ちゃんと身支度していったじゃないですか。シワ一つない白いジャケットに、白のスーツパンツに、白の高級革靴。全部、私がコーディネイトして差し上げたのに、今じゃその面影もないじゃないですか!」
 「このハーフパンツは白だ」
 「そこが白だから良いっていうワケにはいかないんですよ!! なんで着替えちゃったんですか!? 結構高かったんですからね」
 「被っちゃったんだよなぁ……」
と、信長は頭の後ろを手で数回かきながら、ボソッと小さな声で呟いた。
 「えっ、何か言いましたか? まあ、良いや。良いですか殿、私の話をお聞きください。本来あるべき校長の姿と言うものはですね……」
 「それより、林」
 「何ですか、せっかく私が大事な話をしようとしている時に……」
 「4月から何だか面白い事になりそうだぞ」
 「はい?」
 なんだか嬉しそうに言う信長の言葉に、首を傾げる林だった。


【 第二話に続く 】
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