婚約破棄された令嬢、教皇を拾う

朝露ココア

文字の大きさ
24 / 44

ユリスの熱弁

 王室にて、ユリスは懊悩していた。

 「……やはり政務が終わらない。俺の見立てでは、シャンフレックが協力してくれてすぐに終わるはずだったのに」

 まさか断られるとは。
 そして教皇の婚約者になったという。

 ユリスには未だにあの一件が信じられない。
 本当に例の若者が教皇なのか?

 「ユリス様ー! 今いいかしら?」
 「アマリス……どうしたんだ?」

 天井を見上げるユリスに、アマリスが走り寄ってくる。
 側近は王城を駆け回るアマリスを怪訝な目で見ていた。

 ドタドタと足音を立て、実に品がない。
 以前それとなく注意した側近がいたが……アマリスは逆上。
 ユリスも彼女に同調して、その側近は左遷されてしまった。
 だから周囲は誰もアマリスの無礼を注意できない。

 「今度、誕生祭があるでしょう? ユリス様とデートしたいと思って!」
 「ああ、そうだな! ぜひともデートしたい!
 ……のだが、父上は外出を許してくださるだろうか」

 未だにユリスの外出禁止令は解かれていない。
 国王はこの婚約破棄事件をどうにかしようと、今もなお抵抗を続けているのだ。

 少なくとも山積みの政務を終わらせなければ、国王が外出を認めることはないだろう。ユリスはどうにか他人に押しつける手段を模索していた。

 「やはりシャンフレックにやってもらうしか……」
 「ねえ、ユリス様!? もうその人の名前を呼ぶのはやめてよ!」
 「あ、あぁ……すまない。誕生祭までには外に出してもらえるよう、父上に交渉してみる。楽しみに待っていてくれ」
 「本当!? 楽しみだわ!」

 アマリスが政務に協力してくれれば、少しは楽になるのだが。
 恋人には口が裂けてもそんなことは言えない。
 ユリスにも王族としてのプライドがあったのだ。

 「新しいドレスも買ってほしいわ! 気になるアクセサリーもあるし……」
 「そ、そうだな。ああ……」

 実を言うと、ユリスは金もなくなっていた。
 父が激怒したせいで、湯水のようにアマリスに貢いでいた金も止められてしまったのだ。やはり誕生祭までに国王の許しを得るしかないだろう。

 シャンフレックは商才があり自分で金を稼いでいたたので、物や金銭を要求してくることもなかった。
 まさかアマリスがここまで金のかかる女だとは。

 ユリスは立ち上がり、側近に命令する。

 「ちょっと外に出てくるよ。おい、仕事やっとけよ」
 「はい……」

 側近は渋々といった様子で頷く。
 騒動が起きてからというもの、ずっとユリスの代行で政務をさせられている。
 部下の不満に気づくこともなく、ユリスは部屋を出て行った。

 ***

 ユリスが窓の外をぼんやりと眺めていると、長身の男が通りかかった。
 紺色の髪を後ろに束ねた、長身の美青年。

 名をデュッセル・ヘアルスト・ヒンメルという。
 この国の第一王子であり、ユリスの腹違いの兄だ。

 「兄上! 本日は城を離れる予定だったのでは?」
 「フェアリュクトが急に領地に帰った。数日で戻る予定だというので、予定を先延ばしにした。急ぐ公務でもないからな」

 彼はフェアリュクトと昵懇じっこんの仲である。
 デュッセルとフェアリュクトは、ヘアルスト王国にて並び立つ両雄、戦友として名が知られていた。

 長い付き合いで、フェアリュクトが急に仕事を放棄するなど数えるほどしかない。デュッセルものっぴきならない事情があるのだと察していた。
 そういえば目の前の弟は、フェアリュクトの妹に婚約破棄を言い出したのだと思い出す。

 「新たな婚約者はどうだ。私はまだ顔を合わせていないが」
 「はい。とても懇意にしております」
 「そうか。シャンフレック嬢よりも逸材とは思えんがな」

 城の者からも、アマリスに対する悪評を聞いている。
 彼女と顔を合わせたことはないが、デュッセルは婚姻に懐疑的だった。
 ユリスとアマリスの婚姻が成立するとは思えない。

 いかんせん前の婚約者であるシャンフレックが優秀すぎた。

 「い、いえ……能力や血筋の問題ではありません! 愛があるかどうか、それが大事なのです」
 「ふっ……青いな。まあ、学ぶといいさ」

 悪女にひっかかるのも一つの経験。
 デュッセルはそう考えていた。

 だが、国に損失をもたらすことは許されない。
 何かユリスとアマリスが不穏な動きを見せれば、すぐに対処する。

 「兄上。どうか父上に取り合ってはいただけないでしょうか。せめて誕生祭の日だけは……婚約者と幸福に過ごしていたいのです」
 「ふむ。父上の怒りはもっともだ。独断で婚約を白紙とし、あまつさえ自らの後ろ盾となる公爵家を裏切った。当然の処断ではないか?」
 「し、しかし……一度決めてしまったからには戻れません! これから円満な関係をアマリスと築くためにも、兄上の協力が必要なのです!」

 ユリスの熱弁に、デュッセルは瞳を閉じた。
 自分は弟の気持ちがわからない。
 貴族や王族ならば、自分の愛ではなく民の安寧を考えるべきだ。愛は婚約が決まってから徐々に育めばいいと思っている。

 だが、フロル教の教義に照らせば……愛する者と時間を過ごすこともまた大切だ。
 彼は王族であると共に、敬虔なフロル教徒でもあった。

 「──いいだろう。ただし、期日までに課せられた政務は終わらせることだ。また、アマリス嬢のマナーに関してよろしくない噂を耳にする。せめて淑女らしい振る舞いを彼女に教えるように。王城の外にアマリス嬢と出るからには、王族の婚約者らしい振る舞いをしてもらわねば」
 「ありがとうございます……兄上はやはり話のわかる方だ! 必ず政務は終わらせます。では、父上によろしくお願いいたします」

 ユリスは恭しく頭を下げ、自室へ戻って行った。
 あの謙虚さを兄や親以外にも示してくれればいいのだが。

 「ふむ……ま、ダメだろうな。フェアシュヴィンデ嬢がどれだけ偉大な存在だったのか、ユリスの奴は思い知ることになるだろう。一応父上と交渉はしてみるが……」

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢として追放された私、辺境の公爵様に溺愛されています〜趣味の魔法薬作りが本物の聖女の力だったと気づいてももう遅い〜

黒崎隼人
恋愛
「お前のような女との婚約は、この場をもって破棄する」 妹のような男爵令嬢に功績をすべて奪われ、悪役令嬢として国を追放された公爵令嬢ルミナ。 行き場を失い、冷たい床に崩れ落ちた彼女に手を差し伸べたのは、恐ろしいと噂される北の辺境公爵、ヴィンセントだった。 「私の妻として、北の地へ来てくれないか」 彼の不器用ながらも温かい庇護の下、ルミナは得意の魔法薬作りで領地を脅かす呪いを次々と浄化していく。 さらには、呪いで苦しんでいたモフモフの聖獣ブランまで彼女にべったりと懐いてしまい……? 一方、ルミナという本物の聖女を失った王都は、偽聖女の祈りも虚しく滅亡の危機に瀕していた。 今さらルミナの力に気づき連れ戻そうとする王太子だったが、ヴィンセントは冷酷にそれを跳ね除ける。 「彼女は私の妻だ。奪い取りたければ、騎士団でも何でも差し向けてみるがいい」 これは、誰からも愛されなかった不遇の令嬢が、冷徹な公爵とモフモフ聖獣に底なしに溺愛され、本当の幸せと笑顔を取り戻すまでの心温まる雪解けのロマンス。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

【完結】ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜

水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」 ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。 彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。 人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。 そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。 いや、唯一彼女を心配する者がいた。 それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。 「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」 本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。 そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが…… 「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」 シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。 ★全14話★ ※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。 ※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』

[完]出来損ない王妃が死体置き場に捨てられるなんて、あまりにも雑で乱暴です

小葉石
恋愛
 国の周囲を他国に囲まれたガーナードには、かつて聖女が降臨したという伝承が残る。それを裏付ける様に聖女の血を引くと言われている貴族には時折不思議な癒しの力を持った子供達が生まれている。  ガーナードは他国へこの子供達を嫁がせることによって聖女の国としての威厳を保ち周辺国からの侵略を許してこなかった。      各国が虎視眈々とガーナードの侵略を図ろうとする中、かつて無いほどの聖女の力を秘めた娘が侯爵家に生まれる。ガーナード王家はこの娘、フィスティアを皇太子ルワンの皇太子妃として城に迎え王妃とする。ガーナード国王家の安泰を恐れる周辺国から執拗に揺さぶりをかけられ戦果が激化。国王となったルワンの側近であり親友であるラートが戦場から重傷を負って王城へ帰還。フィスティアの聖女としての力をルワンは期待するが、フィスティアはラートを癒すことができず、ラートは死亡…親友を亡くした事と聖女の力を謀った事に激怒し、フィスティアを王妃の座から下ろして、多くの戦士たちが運ばれて来る死体置き場へと放り込む。  死体の中で絶望に喘ぐフィスティアだが、そこでこその聖女たる力をフィスティアは発揮し始める。  王の逆鱗に触れない様に、身を隠しつつ死体置き場で働くフィスティアの前に、ある日何とかつての夫であり、ガーナード国国王ルワン・ガーナードの死体が投げ込まれる事になった……………!   *グロテスクな描写はありませんので安心してください。しかし、死体と言う表現が多々あるかと思いますので苦手な方はご遠慮くださいます様によろしくお願いします。