婚約破棄された令嬢、教皇を拾う

朝露ココア

文字の大きさ
31 / 44

契約要求

 ほの暗い牢の中、シャンフレックは目を覚ました。
 意識を取り戻してすぐに取った行動は状況の把握。

 目の前には鉄製の檻。
 私物はすべて奪われており、衣服以外は持っていない。
 ゲリセンに馬車へ連れていかれ、自分は迂闊にも気絶させられてしまい……牢に入れられた。

 そのとき、確かに見上げた人物。
 アレは間違いなくユリスとアマリスだった。
 王都で失踪中だと聞いたが、まさかこんな凶行をしでかすとは。

 「あら、お目覚め?」

 暗がりの奥から声が響く。
 ヒールの音を鳴らしてやってきたのは、アマリスだった。

 「アマリス嬢、これはどういうこと? 説明してちょうだい」
 「まだ自分の立場がわかっていませんの? 殿下の友人であるゲリセンの協力によって、あなたの身柄を拘束させてもらったんですよ。攫われた理由は、もちろんおわかりですよね?」

 いや、わからない。
 シャンフレックは単純に商談に応じただけだし、特に心当たりはない。

 確かに自分が迂闊だったことは認める。
 事前の通告もなしに、王家の紋章を持つ商団が来ることが異様だったのだ。
 せめて護衛をつけて馬車に向かうべきだっただろう。

 「シャンフレック様、あなたが殿下の要求を拒否したのが悪いのよ? 大人しく王子の命令に従わないのは不敬ですから」
 「はぁ……要求って、政務をしろって頼みのこと? 自分ですればいいじゃない。婚約者でもない私が、どうして手伝いをしなくてはならないの?」
 「だって王族の命令だもの!」

 駄目だ、話にならない。
 どうやらアマリスは王族という身分をやたら高く評価しているらしい。
 権力的には、王家と公爵家はそこまで大差ないのだが。

 無学ゆえの醜態をさらすアマリスに、シャンフレックはため息をつく。
 今ごろ実家はどうなっているだろうか。
 この事実が明るみになれば、ユリスとアマリスの処断は避けられない。

 「とりあえずユリスを呼んでちょうだい。あなたは話にならないわ。まあ、あの馬鹿王子も話が通じない人間だけど」
 「ま、また殿下への侮辱を……!」

 アマリスが怒りに震えているところに、もうひとつの足音が響く。
 話をすれば主犯のお出ましだ。

 「話し声がするから来てみれば、シャンフレックが起きたのか」
 「殿下! 聞いてください、またシャンフレック様が殿下の悪口を……」
 「ああ、わかってるさ。まあ誘拐されれば罵倒したくなるのも理解できる。これから俺はシャンフレックと『建設的』な話し合いをするからな。アマリスは上に行ってくれるか?」
 「……はい。それでは、ごきげんよう」

 アマリスは勝ち誇った笑みをシャンフレックに向けて、牢から離れて行った。
 一人面倒な相手が減ったところで、牢越しにユリスと向き合う。

 「それで。何がしたいの?」
 「やけに落ち着いているな。そういうところがシャンフレックの可愛げのない点だが。この契約書を見てもらおうか」

 ユリスは懐から一枚の紙を取り出す。
 隙間から差し込まれた紙を手に取り、シャンフレックは内容に目を通す。

 「なにこれ……雇用契約書?」
 「そうだ。俺の専属の秘書になってもらう。王子という身分が忙しいのは、元婚約者のお前が一番知っているだろう?」
 「断ると言ったはずだけど」
 「それなら、ここから出すことはできないな」

 まさかそんな下らないことのために、公爵令嬢を誘拐したというのか。
 後先を考えないにも程がある。

 「もしも私が契約書を書いて、ここから出してもらったとしましょう。その後、私が実家に逃げ込んで抗議すると思わないの?」
 「だとしても、契約書が書かれた事実は変わらない。いち公爵令嬢の言葉と、王子である俺の言葉。周囲はどちらを信じるだろうな?」
 「いや、普通に私の言葉の方が信用性は高いと思うけど」

 相変わらず自己評価の高い王子だ。
 普段から醜態を見せているユリスと比べれば、シャンフレックの方が社会的な信用はある。

 「署名はしない。そのうち父上が異変を感じ取るでしょう」
 「フェアシュヴィンデ家に対しては、ゲリセンが手を回してある。助けを待っても来ないぞ。そこにペンと契約書を置いておくから、さっさと書いてしまうことだな」

 ゲリセン・ウンターガング。
 ユリスとアマリスはどうでもいいが、あの狡猾で大勢力を誇る商人が厄介だ。
 おそらく、この牢屋もゲリセンの領地にあるものだろう。

 地上がどうなっているのか推察できないが、ゲリセンの私兵が警備の目を光らせているはず。牢から脱出できたとしても屋敷の外で捕まる可能性が高い。

 ゆえに、シャンフレックの選択肢は待つことだけだった。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢として追放された私、辺境の公爵様に溺愛されています〜趣味の魔法薬作りが本物の聖女の力だったと気づいてももう遅い〜

黒崎隼人
恋愛
「お前のような女との婚約は、この場をもって破棄する」 妹のような男爵令嬢に功績をすべて奪われ、悪役令嬢として国を追放された公爵令嬢ルミナ。 行き場を失い、冷たい床に崩れ落ちた彼女に手を差し伸べたのは、恐ろしいと噂される北の辺境公爵、ヴィンセントだった。 「私の妻として、北の地へ来てくれないか」 彼の不器用ながらも温かい庇護の下、ルミナは得意の魔法薬作りで領地を脅かす呪いを次々と浄化していく。 さらには、呪いで苦しんでいたモフモフの聖獣ブランまで彼女にべったりと懐いてしまい……? 一方、ルミナという本物の聖女を失った王都は、偽聖女の祈りも虚しく滅亡の危機に瀕していた。 今さらルミナの力に気づき連れ戻そうとする王太子だったが、ヴィンセントは冷酷にそれを跳ね除ける。 「彼女は私の妻だ。奪い取りたければ、騎士団でも何でも差し向けてみるがいい」 これは、誰からも愛されなかった不遇の令嬢が、冷徹な公爵とモフモフ聖獣に底なしに溺愛され、本当の幸せと笑顔を取り戻すまでの心温まる雪解けのロマンス。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

【完結】ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜

水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」 ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。 彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。 人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。 そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。 いや、唯一彼女を心配する者がいた。 それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。 「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」 本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。 そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが…… 「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」 シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。 ★全14話★ ※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。 ※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』

[完]出来損ない王妃が死体置き場に捨てられるなんて、あまりにも雑で乱暴です

小葉石
恋愛
 国の周囲を他国に囲まれたガーナードには、かつて聖女が降臨したという伝承が残る。それを裏付ける様に聖女の血を引くと言われている貴族には時折不思議な癒しの力を持った子供達が生まれている。  ガーナードは他国へこの子供達を嫁がせることによって聖女の国としての威厳を保ち周辺国からの侵略を許してこなかった。      各国が虎視眈々とガーナードの侵略を図ろうとする中、かつて無いほどの聖女の力を秘めた娘が侯爵家に生まれる。ガーナード王家はこの娘、フィスティアを皇太子ルワンの皇太子妃として城に迎え王妃とする。ガーナード国王家の安泰を恐れる周辺国から執拗に揺さぶりをかけられ戦果が激化。国王となったルワンの側近であり親友であるラートが戦場から重傷を負って王城へ帰還。フィスティアの聖女としての力をルワンは期待するが、フィスティアはラートを癒すことができず、ラートは死亡…親友を亡くした事と聖女の力を謀った事に激怒し、フィスティアを王妃の座から下ろして、多くの戦士たちが運ばれて来る死体置き場へと放り込む。  死体の中で絶望に喘ぐフィスティアだが、そこでこその聖女たる力をフィスティアは発揮し始める。  王の逆鱗に触れない様に、身を隠しつつ死体置き場で働くフィスティアの前に、ある日何とかつての夫であり、ガーナード国国王ルワン・ガーナードの死体が投げ込まれる事になった……………!   *グロテスクな描写はありませんので安心してください。しかし、死体と言う表現が多々あるかと思いますので苦手な方はご遠慮くださいます様によろしくお願いします。