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ペンダントに見た記憶
アルージエの向かう先。
それは何日も世話になった、フェアシュヴィンデ家だった。
彼は神殿騎士を引き連れ、早馬で到着する。
ヘアルスト王国崩壊の兆しは間違いなくここから発せられている。
「ここに……」
周囲を見渡せど、美しい庭園が広がるのみ。
いつもと変わらない静謐な空気が満ちていた。
だがしかし、無数の轍が散見された。ここに違和感を抱く。
「きみたちはここで待て。一名、護衛で来てくれ。僕は屋敷の者に話を聞いてくる」
「承知しました。お気を付けて」
一名の騎士を引き連れ、屋敷の中へ。
入り口でアガンが花瓶を手入れしていた。
アガンはアルージエの姿を見て首を傾げる。
「おや、アルージエ様……ルカロにお帰りになったはずでは?」
「所用があってヘアルストに訪問していた。ところで、この屋敷に変わったことはないだろうか」
「変わったこと、ですか。特には……さきほど商団が来たくらいですな。ご主人様に取り次ぎますか?」
「ああ、頼む」
どうやら外にある無数の轍は、商団のものらしい。
せっかくフェアシュヴィンデ家に来たのでシャンフレックと会いたいが、今はそれどころではない。ひとまずファデレンに尋ねるべきだろう。
少し待つと、アガンが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
***
執務室にやってきて、ファデレンの向かいに座るアルージエ。
再び教皇が唐突にやってきたことに驚いたファデレンだが、すぐに迎え入れる態勢を整えた。
「聖下。此度はいかがされましたか? 娘のルカロ留学の件でしたら……」
「いや、違う。さきほど来た商団は、どのような目的でここへ?」
「ウンターガング家の商人が娘に用があったそうでして。私も詳しいことは聞いていませんが、娘が商団と共に王都へ向かったようです」
「シャンフレックが……」
一聴すると、単純な商談を行ったように聞こえる。
だがアルージエの奇跡は、確かにここフェアシュヴィンデ家を危機の予兆に指し示した。わずかな違和も見逃してはならない。
「シャンフレックは護衛をつけて向かったのか?」
「サリナが言うには、一人で向かったと。護衛もつけずに出て行くとは危ういと思ったが、ウンターガング家は王家の御墨つき。そこまでの危険はないだろう」
「……ふむ。ファデレン、少し失礼する」
アルージエは立ち上がり、執務室の壁に掛けられたロザリオを手に取った。
「聖下?」
「…………」
ロザリオを握り締めて瞑目するアルージエ。
導を得るとき、いつも彼はこうして祈りを捧げていた。
ふとした瞬間に予兆を感じ取るときもあるが、自発的に未来を見る場合は祈らなければならない。教皇の奇跡は未来への導すらも見通す。
「──庭、か? 少し庭園に踏み入ってもいいだろうか」
「は、はい。もちろんです」
しかしながら、啓示はいつもぼんやりとしたものだ。
おぼろげながら庭に何かがあると、そう感じ取った。
アルージエはファデレンに礼をして、駆け足で庭の方へ走って行く。
既視感のある道だ。
そう、ここはたしか……シャンフレックと出会ったばかりのころ、二人で歩いた道。
花々が咲き誇る庭園だ。
護衛の神殿騎士は周囲をきょろきょろと見渡す。
「何もありませんね……ですが、聖下の奇跡に間違いはないはず」
「そうだな。神の啓示に誤りはない。ここら一帯を探ってくれ」
「承知しました」
二手に分かれて周囲を探す。
花々をかきわけて、何ひとつ見落とさぬように。
足の裏に伝わる柔らかい土の感触。
しかし、アルージエの足裏に硬い何かが触れた。
「む、これは……」
陽光を浴びて金色に光る鎖。
赤い宝石には土ぼこりが被っている。
そのペンダントを拾い上げて、アルージエは眉を顰めた。
「シャンフレックに贈ったペンダント……!?」
ペンダントに触れると、脳裏に光景がフラッシュバックする。
シャンフレックがここを通り、その先にある馬車に入って行き……その先で眠らされた。傍には商団と、かつて見た王子の姿が見える。
物の記憶を呼び出すのもまたアルージエの奇跡。
「聖下、何か見つかりましたか!」
「すぐにここを発つ。ウンターガング家……だったか? ファデレンにも伝えておけ、シャンフレックの身が危ういとな」
彼は身を翻し、全速力である人物のもとへ向かった。
それは何日も世話になった、フェアシュヴィンデ家だった。
彼は神殿騎士を引き連れ、早馬で到着する。
ヘアルスト王国崩壊の兆しは間違いなくここから発せられている。
「ここに……」
周囲を見渡せど、美しい庭園が広がるのみ。
いつもと変わらない静謐な空気が満ちていた。
だがしかし、無数の轍が散見された。ここに違和感を抱く。
「きみたちはここで待て。一名、護衛で来てくれ。僕は屋敷の者に話を聞いてくる」
「承知しました。お気を付けて」
一名の騎士を引き連れ、屋敷の中へ。
入り口でアガンが花瓶を手入れしていた。
アガンはアルージエの姿を見て首を傾げる。
「おや、アルージエ様……ルカロにお帰りになったはずでは?」
「所用があってヘアルストに訪問していた。ところで、この屋敷に変わったことはないだろうか」
「変わったこと、ですか。特には……さきほど商団が来たくらいですな。ご主人様に取り次ぎますか?」
「ああ、頼む」
どうやら外にある無数の轍は、商団のものらしい。
せっかくフェアシュヴィンデ家に来たのでシャンフレックと会いたいが、今はそれどころではない。ひとまずファデレンに尋ねるべきだろう。
少し待つと、アガンが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
***
執務室にやってきて、ファデレンの向かいに座るアルージエ。
再び教皇が唐突にやってきたことに驚いたファデレンだが、すぐに迎え入れる態勢を整えた。
「聖下。此度はいかがされましたか? 娘のルカロ留学の件でしたら……」
「いや、違う。さきほど来た商団は、どのような目的でここへ?」
「ウンターガング家の商人が娘に用があったそうでして。私も詳しいことは聞いていませんが、娘が商団と共に王都へ向かったようです」
「シャンフレックが……」
一聴すると、単純な商談を行ったように聞こえる。
だがアルージエの奇跡は、確かにここフェアシュヴィンデ家を危機の予兆に指し示した。わずかな違和も見逃してはならない。
「シャンフレックは護衛をつけて向かったのか?」
「サリナが言うには、一人で向かったと。護衛もつけずに出て行くとは危ういと思ったが、ウンターガング家は王家の御墨つき。そこまでの危険はないだろう」
「……ふむ。ファデレン、少し失礼する」
アルージエは立ち上がり、執務室の壁に掛けられたロザリオを手に取った。
「聖下?」
「…………」
ロザリオを握り締めて瞑目するアルージエ。
導を得るとき、いつも彼はこうして祈りを捧げていた。
ふとした瞬間に予兆を感じ取るときもあるが、自発的に未来を見る場合は祈らなければならない。教皇の奇跡は未来への導すらも見通す。
「──庭、か? 少し庭園に踏み入ってもいいだろうか」
「は、はい。もちろんです」
しかしながら、啓示はいつもぼんやりとしたものだ。
おぼろげながら庭に何かがあると、そう感じ取った。
アルージエはファデレンに礼をして、駆け足で庭の方へ走って行く。
既視感のある道だ。
そう、ここはたしか……シャンフレックと出会ったばかりのころ、二人で歩いた道。
花々が咲き誇る庭園だ。
護衛の神殿騎士は周囲をきょろきょろと見渡す。
「何もありませんね……ですが、聖下の奇跡に間違いはないはず」
「そうだな。神の啓示に誤りはない。ここら一帯を探ってくれ」
「承知しました」
二手に分かれて周囲を探す。
花々をかきわけて、何ひとつ見落とさぬように。
足の裏に伝わる柔らかい土の感触。
しかし、アルージエの足裏に硬い何かが触れた。
「む、これは……」
陽光を浴びて金色に光る鎖。
赤い宝石には土ぼこりが被っている。
そのペンダントを拾い上げて、アルージエは眉を顰めた。
「シャンフレックに贈ったペンダント……!?」
ペンダントに触れると、脳裏に光景がフラッシュバックする。
シャンフレックがここを通り、その先にある馬車に入って行き……その先で眠らされた。傍には商団と、かつて見た王子の姿が見える。
物の記憶を呼び出すのもまたアルージエの奇跡。
「聖下、何か見つかりましたか!」
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彼は身を翻し、全速力である人物のもとへ向かった。
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