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出立
「……お嬢様。準備が整いました」
「そう。ありがとう」
サリナに告げられ、シャンフレックは立ち上がる。
荷物は多かった。
これから教皇領ルカロへ留学へ向かう。
緊張はしていても、迷いはない。
侍女のサリナもついてきてくれるのだから。
「まずはお父様、お母様に挨拶ね」
諸々の問題はあった。
しかし、シャンフレックが国王に直談判したことによりルカロへの留学が叶ったのだ。
今回の事件の代償として、反対する諸侯の抑え、及びフロル教への融通を図ってもらった。
決して政治的な意図はなく、単なる留学だと説明して。
シャンフレックは部屋を出る。
広間へ向かうと両親が待っていた。
「あら、シャル! もう荷物はまとめたの!?」
「はい、お母様。迎えの馬車をあまり待たせるわけにもいきませんので、慌てて用意しました。忘れ物がないといいですが……」
「大丈夫よ! 忘れ物があったらすぐに届けさせるわー!」
「ふふ、ありがとうございます」
屋敷の外では手配された馬車が待っている。
約束の日程通りに、アルージエが手配してくれたものだ。
「シャンフレック。お前がルカロで為すべきことは理解しているな?」
「はい。見識を広め、よりフェアシュヴィンデ家の拡大に向けて行動して参ります」
「う、うむ……やはりお前は損得勘定で動くのだな。それも悪くないが……」
完璧な返答をしたつもりのシャンフレック。
だが、ファデレンの返答は微妙なものだった。
フェアシュヴィンデ家に利をもたらすために、教皇領との関係性を構築すること。
それが自分の役目だと思っているのだが。
「お前は、お前なりにやりたいことをやるのだぞ。公爵令嬢としての責務だとか、役目だとかは忘れていい。少なくともルカロにいる間は、聖下と共に幸福に過ごすがよい」
「……! はい、ありがとうございます!」
ファデレンが最も重視することは娘の幸福だ。
なんだかんだで娘には甘い父親だった。
「それでは、行って参ります」
「ああ。サリナ、シャンフレックを頼むぞ」
「はい。お任せを」
そしてシャンフレックは馬車へと乗り込んだ。
***
一拍遅れて、客人がやってくる。
シャンフレックが発って数日後の出来事。
馬車に乗る金もなく、ユリスとアマリスは徒歩でフェアシュヴィンデ家に訪れた。
「はあ……なんで私がこんなに歩かなきゃ……」
「…………」
屋敷の前の門にて、守衛が目を光らせている。
ユリスは何度も顔を見た守衛に臆することなく歩み寄った。
「おい」
「ん……? ユリスでん……いえ、ユリスさん。何かご用でしょうか?」
あえて「殿下」から「さん」と呼び直した守衛に苛立ちを覚えつつ、ユリスは要求を守衛に伝える。
「シャンフレックに面会を要求したい。通してくれ」
守衛は困惑した。
元婚約者とはいえ、今のユリスは平民だ。
易々と通すことはできない。
今のユリスは薄汚れて、とてもじゃないが高貴な身分には見えない。
背後のアマリスもドレスはすべて売って平民の服装だった。
それに、彼はシャンフレックの誘拐犯の一人。
危険人物を通すわけにはいかない。
「お嬢様は現在、国外へ留学中です。門を開けることはできません」
「は……? 留学だって?」
「お引き取りください」
帰ることはできない。
なぜなら、ユリスには頼れる人物がもういないからだ。
この際、ファーバーでもいい。
誰か縁のある貴族と面会しなければ。
「ならファデレンは? いるだろ?」
「ご主人様を呼び捨てにするとは……平民の身分で不敬ですね。まあ、目を瞑りましょう。誰と面会を希望しようとも、通すことはできません」
守衛の頑な態度にユリスは痺れを切らす。
背後で見ているアマリスも守衛に詰め寄った。
「ちょっと! 元とはいえ、王族の頼みよ!? 話くらいは聞いてくれてもいいんじゃない!?」
「ご主人様はお忙しいので。困りましたね……」
ユリスの強情さ。
そしてアマリスの悪評。
悪辣な二人を前にして、守衛は困り果てた。
この両者はどうあっても帰ってくれそうにない。
面会が通るまで正門前に座り込むまである。
「やれやれ……困りますな、ユリス殿」
「アガン様……!」
守衛は響いた声に顔を上げる。
言い合いを聞きつけたのか、門の奥から初老の紳士がやってきた。
使用人アガンはため息を吐いた。
「おお、アガン! お前ならわかってくれるだろう? どうしてもしなければならない話があり、ファデレンと面会したい!」
「ユリス殿……いえ、いいでしょう。手荷物検査をしたうえで、屋敷に入ることを許可します。ただし、ご主人様と面会できるかどうかはわかりませんぞ」
「構わん! さあ、通してくれ!」
アガンには目論見……というか、予想があった。
ユリスがアマリスを連れてきた。
その狙いは想像に難くない。
ゆえにアガンは二人を屋敷へと引き入れたのだ。
「そう。ありがとう」
サリナに告げられ、シャンフレックは立ち上がる。
荷物は多かった。
これから教皇領ルカロへ留学へ向かう。
緊張はしていても、迷いはない。
侍女のサリナもついてきてくれるのだから。
「まずはお父様、お母様に挨拶ね」
諸々の問題はあった。
しかし、シャンフレックが国王に直談判したことによりルカロへの留学が叶ったのだ。
今回の事件の代償として、反対する諸侯の抑え、及びフロル教への融通を図ってもらった。
決して政治的な意図はなく、単なる留学だと説明して。
シャンフレックは部屋を出る。
広間へ向かうと両親が待っていた。
「あら、シャル! もう荷物はまとめたの!?」
「はい、お母様。迎えの馬車をあまり待たせるわけにもいきませんので、慌てて用意しました。忘れ物がないといいですが……」
「大丈夫よ! 忘れ物があったらすぐに届けさせるわー!」
「ふふ、ありがとうございます」
屋敷の外では手配された馬車が待っている。
約束の日程通りに、アルージエが手配してくれたものだ。
「シャンフレック。お前がルカロで為すべきことは理解しているな?」
「はい。見識を広め、よりフェアシュヴィンデ家の拡大に向けて行動して参ります」
「う、うむ……やはりお前は損得勘定で動くのだな。それも悪くないが……」
完璧な返答をしたつもりのシャンフレック。
だが、ファデレンの返答は微妙なものだった。
フェアシュヴィンデ家に利をもたらすために、教皇領との関係性を構築すること。
それが自分の役目だと思っているのだが。
「お前は、お前なりにやりたいことをやるのだぞ。公爵令嬢としての責務だとか、役目だとかは忘れていい。少なくともルカロにいる間は、聖下と共に幸福に過ごすがよい」
「……! はい、ありがとうございます!」
ファデレンが最も重視することは娘の幸福だ。
なんだかんだで娘には甘い父親だった。
「それでは、行って参ります」
「ああ。サリナ、シャンフレックを頼むぞ」
「はい。お任せを」
そしてシャンフレックは馬車へと乗り込んだ。
***
一拍遅れて、客人がやってくる。
シャンフレックが発って数日後の出来事。
馬車に乗る金もなく、ユリスとアマリスは徒歩でフェアシュヴィンデ家に訪れた。
「はあ……なんで私がこんなに歩かなきゃ……」
「…………」
屋敷の前の門にて、守衛が目を光らせている。
ユリスは何度も顔を見た守衛に臆することなく歩み寄った。
「おい」
「ん……? ユリスでん……いえ、ユリスさん。何かご用でしょうか?」
あえて「殿下」から「さん」と呼び直した守衛に苛立ちを覚えつつ、ユリスは要求を守衛に伝える。
「シャンフレックに面会を要求したい。通してくれ」
守衛は困惑した。
元婚約者とはいえ、今のユリスは平民だ。
易々と通すことはできない。
今のユリスは薄汚れて、とてもじゃないが高貴な身分には見えない。
背後のアマリスもドレスはすべて売って平民の服装だった。
それに、彼はシャンフレックの誘拐犯の一人。
危険人物を通すわけにはいかない。
「お嬢様は現在、国外へ留学中です。門を開けることはできません」
「は……? 留学だって?」
「お引き取りください」
帰ることはできない。
なぜなら、ユリスには頼れる人物がもういないからだ。
この際、ファーバーでもいい。
誰か縁のある貴族と面会しなければ。
「ならファデレンは? いるだろ?」
「ご主人様を呼び捨てにするとは……平民の身分で不敬ですね。まあ、目を瞑りましょう。誰と面会を希望しようとも、通すことはできません」
守衛の頑な態度にユリスは痺れを切らす。
背後で見ているアマリスも守衛に詰め寄った。
「ちょっと! 元とはいえ、王族の頼みよ!? 話くらいは聞いてくれてもいいんじゃない!?」
「ご主人様はお忙しいので。困りましたね……」
ユリスの強情さ。
そしてアマリスの悪評。
悪辣な二人を前にして、守衛は困り果てた。
この両者はどうあっても帰ってくれそうにない。
面会が通るまで正門前に座り込むまである。
「やれやれ……困りますな、ユリス殿」
「アガン様……!」
守衛は響いた声に顔を上げる。
言い合いを聞きつけたのか、門の奥から初老の紳士がやってきた。
使用人アガンはため息を吐いた。
「おお、アガン! お前ならわかってくれるだろう? どうしてもしなければならない話があり、ファデレンと面会したい!」
「ユリス殿……いえ、いいでしょう。手荷物検査をしたうえで、屋敷に入ることを許可します。ただし、ご主人様と面会できるかどうかはわかりませんぞ」
「構わん! さあ、通してくれ!」
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ユリスがアマリスを連れてきた。
その狙いは想像に難くない。
ゆえにアガンは二人を屋敷へと引き入れたのだ。
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