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為すべきこと
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求めていた魔法書を発見し、ミレイユとテオドールは離宮に戻った。
書物の頁をめくり、なるほどとうなずくテオドール。
「抗原を特定する魔法は……かなり扱うのが難しいようだな。俺がこの書物を読み解き、魔法を習得する。任せておけ」
「わかりました。私はあまり魔法には自信がないですから……殿下にお任せしますね」
多才な彼にはいつも助けられている。
ミレイユは深々と頭を下げた。
「数日あれば書物の内容はすべて解読できるだろう。ミレイユはその間、他の研究を進めていてくれ」
「はい。あの……殿下。研究とはあまり関係ないのですが」
「どうした」
言うべきか迷っていた。
だが、ミレイユはどうしても尋ねたくなったのだ。
テオドールとネストレの衝突を見て。
「宰相閣下は殿下を認めているかのようなことをおっしゃっていました。殿下はたしかに多くの人から恐れられていますが……本質を知る人もいるのではないでしょうか?」
ミレイユの言葉を受け、テオドールはしばし瞑目した。
それから瞳を開きかぶりを振る。
「宰相からすれば、ネストレを王位に就かせたくないのだろうな。あの無能ではすぐに国を傾けるだろう。父上が寝たきりになっていても、王位の継承が為されないのはそのためだ。第三王子はまだ幼いし、宰相の葛藤もうなずける」
だが、とテオドールは二の句を継ぐ。
「紋章を持たない俺が王位を継ぐわけにはいかん。他の王族に何かがあったときのために、宰相は俺の顔を立てているだけだ。決して俺が認められているわけではない」
自己肯定感があまりにも低い。
もはや自棄になっているのだろう。
彼の過去を振り返れば、その理由は明白だ。
ミレイユはどうにかテオドールが前を向けるように導きたい。
だが、彼の事情をあまり知らない自分が何を言っても響かないだろう。
ならば……やはりレクサリア病の治療薬を開発するしかない。
「殿下……私、がんばりますね! 必ず治療薬を作ってみせます!」
「フッ……そうか、心強いな。頼んだぞ」
◇◇◇◇
「おい、どういうことだ! この薬……まったく効き目がないじゃないか!」
一方そのころ、ミレイユが勤めていた店では。
店頭にて怒鳴り散らす客の姿があった。
店長のシュゼットは不服そうな表情を浮かべながらも、渋々頭を下げた。
「申し訳ございません、お客様……不良品が混じっていたのかもしれませんわ」
「最近どうにもおかしいと思ってたんだ。まさか効果のない薬を売りつけて、売上を伸ばそうって魂胆じゃないだろうな!?」
「い、いえ……滅相もございません!」
「まったく……もう別の店を使うことにするよ」
客は憤りをあらわにして店を出て行った。
最近、こうした客が急激に増えている。
理由は単純明快。
ミレイユに製薬を任せきりだったからだ。
この店は店長のシュゼット、娘のロゼール、そしてミレイユの三人だけで成り立っていた。
本来はさらに数名を雇わなければ店が回せないのだが、そこをミレイユが死ぬ気でカバーしていたのである。
しかし店にとって奴隷のような存在だった彼女が消えた。
もう長らく店に来ておらず、どんどん余裕がなくなってきている。
シュゼットは店を閉じ、怒りに任せて机を叩きつけた。
「まったく! なんだってんだい、あの客は! ウチの薬を馬鹿にしてるのかい!?」
新たに従業員を雇うような余裕はない。
普段から金遣いの荒いシュゼットとロゼールは、ろくに金を貯めていなかった。
法外な低賃金で働いてくれるのはミレイユくらいしかいなかったのだ。
「全部ミレイユのせいだよ! あの小娘……まさか事故にでも遭って死んだんじゃないだろうね?」
そのとき、傍らでシュゼットの愚痴を聞いていたロゼールが顔を上げる。
「ミレイユならこの前、街中で見たわよ。すぐに人ごみに消えて見失ったけど……」
「本当かい? だとしたら、なおさらタチが悪いじゃないか。世話を焼いてやってるウチに連絡もせず、無断で休むなんて」
「しかもあいつ、綺麗な男の人と歩いてたのよ。男でも捕まえて調子に乗ってるんじゃないの?」
「そんなの許すわけないだろう!? ロゼール、今すぐあの娘を連れ戻してくるのよ!」
娘の言葉を聞いたシュゼットの怒りは頂点に達した。
なんとしてもミレイユを連れ戻さなければ、店は倒産まっしぐらだ。
客観的に見れば正当な賃金も支払わず、奴隷のように働かせていた店側に非がある。
だがこの母子に罪悪感など欠片もなく、すべての責任をミレイユに押しつけていた。
「仕方ないわね……お母さん、あいつの家ってどこだっけ?」
「ちょっと待ちな。いま確認してくるよ」
苛立ちを隠さずにロゼールは立ち上がった。
あのミレイユのことだ。
どうせまたくだらない魔法薬の開発に夢中になり、時間を浪費しているのだろう。
さっさと命令して連れ戻してやろう。
そうロゼールは考え、彼女のもとへ向かった。
書物の頁をめくり、なるほどとうなずくテオドール。
「抗原を特定する魔法は……かなり扱うのが難しいようだな。俺がこの書物を読み解き、魔法を習得する。任せておけ」
「わかりました。私はあまり魔法には自信がないですから……殿下にお任せしますね」
多才な彼にはいつも助けられている。
ミレイユは深々と頭を下げた。
「数日あれば書物の内容はすべて解読できるだろう。ミレイユはその間、他の研究を進めていてくれ」
「はい。あの……殿下。研究とはあまり関係ないのですが」
「どうした」
言うべきか迷っていた。
だが、ミレイユはどうしても尋ねたくなったのだ。
テオドールとネストレの衝突を見て。
「宰相閣下は殿下を認めているかのようなことをおっしゃっていました。殿下はたしかに多くの人から恐れられていますが……本質を知る人もいるのではないでしょうか?」
ミレイユの言葉を受け、テオドールはしばし瞑目した。
それから瞳を開きかぶりを振る。
「宰相からすれば、ネストレを王位に就かせたくないのだろうな。あの無能ではすぐに国を傾けるだろう。父上が寝たきりになっていても、王位の継承が為されないのはそのためだ。第三王子はまだ幼いし、宰相の葛藤もうなずける」
だが、とテオドールは二の句を継ぐ。
「紋章を持たない俺が王位を継ぐわけにはいかん。他の王族に何かがあったときのために、宰相は俺の顔を立てているだけだ。決して俺が認められているわけではない」
自己肯定感があまりにも低い。
もはや自棄になっているのだろう。
彼の過去を振り返れば、その理由は明白だ。
ミレイユはどうにかテオドールが前を向けるように導きたい。
だが、彼の事情をあまり知らない自分が何を言っても響かないだろう。
ならば……やはりレクサリア病の治療薬を開発するしかない。
「殿下……私、がんばりますね! 必ず治療薬を作ってみせます!」
「フッ……そうか、心強いな。頼んだぞ」
◇◇◇◇
「おい、どういうことだ! この薬……まったく効き目がないじゃないか!」
一方そのころ、ミレイユが勤めていた店では。
店頭にて怒鳴り散らす客の姿があった。
店長のシュゼットは不服そうな表情を浮かべながらも、渋々頭を下げた。
「申し訳ございません、お客様……不良品が混じっていたのかもしれませんわ」
「最近どうにもおかしいと思ってたんだ。まさか効果のない薬を売りつけて、売上を伸ばそうって魂胆じゃないだろうな!?」
「い、いえ……滅相もございません!」
「まったく……もう別の店を使うことにするよ」
客は憤りをあらわにして店を出て行った。
最近、こうした客が急激に増えている。
理由は単純明快。
ミレイユに製薬を任せきりだったからだ。
この店は店長のシュゼット、娘のロゼール、そしてミレイユの三人だけで成り立っていた。
本来はさらに数名を雇わなければ店が回せないのだが、そこをミレイユが死ぬ気でカバーしていたのである。
しかし店にとって奴隷のような存在だった彼女が消えた。
もう長らく店に来ておらず、どんどん余裕がなくなってきている。
シュゼットは店を閉じ、怒りに任せて机を叩きつけた。
「まったく! なんだってんだい、あの客は! ウチの薬を馬鹿にしてるのかい!?」
新たに従業員を雇うような余裕はない。
普段から金遣いの荒いシュゼットとロゼールは、ろくに金を貯めていなかった。
法外な低賃金で働いてくれるのはミレイユくらいしかいなかったのだ。
「全部ミレイユのせいだよ! あの小娘……まさか事故にでも遭って死んだんじゃないだろうね?」
そのとき、傍らでシュゼットの愚痴を聞いていたロゼールが顔を上げる。
「ミレイユならこの前、街中で見たわよ。すぐに人ごみに消えて見失ったけど……」
「本当かい? だとしたら、なおさらタチが悪いじゃないか。世話を焼いてやってるウチに連絡もせず、無断で休むなんて」
「しかもあいつ、綺麗な男の人と歩いてたのよ。男でも捕まえて調子に乗ってるんじゃないの?」
「そんなの許すわけないだろう!? ロゼール、今すぐあの娘を連れ戻してくるのよ!」
娘の言葉を聞いたシュゼットの怒りは頂点に達した。
なんとしてもミレイユを連れ戻さなければ、店は倒産まっしぐらだ。
客観的に見れば正当な賃金も支払わず、奴隷のように働かせていた店側に非がある。
だがこの母子に罪悪感など欠片もなく、すべての責任をミレイユに押しつけていた。
「仕方ないわね……お母さん、あいつの家ってどこだっけ?」
「ちょっと待ちな。いま確認してくるよ」
苛立ちを隠さずにロゼールは立ち上がった。
あのミレイユのことだ。
どうせまたくだらない魔法薬の開発に夢中になり、時間を浪費しているのだろう。
さっさと命令して連れ戻してやろう。
そうロゼールは考え、彼女のもとへ向かった。
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