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2章
2-12 後日もう一度調査に来ても宜しいでしょうか?
しおりを挟む「……申し訳ないのですが、後日もう一度調査に来ても宜しいでしょうか?」
「いいよ。次の時間があるんでしょ? ま、今回は僕も悪かったし」
俺が提案すれば、所長さんは直ぐに頷いた。
だらしなくしているように見えても、おそらくこの人は全体の様子をしっかり把握している。
「ありがとうございます。調整して、そちらの都合さえ宜しければ、明日にでもすぐ」
「うん、そうして。明日なら空いてるから」
「むしろ空いてないのはいつですか?」
俺と所長さんが決めていると、クルトさんが小さな声で恐ろしい事を尋ねた。
この何でも屋は、極端に流行っている店ではない。赤字が出ない程度には仕事をしているようだが、黒字はどの程度なのか……。
所長さんは苦笑いを浮かべながら「ウチを倒産寸前みたに言うの止めてよー」と言った。とりあえず、倒産する事はなさそうで、ちょっと安心した。
クルトさんもスティアさんもここでの仕事は気に入っているようなので、もしも無くなるような事があれば……。
いや、大丈夫か。ここにはアルメリアさんがいる。彼女は中々の手腕の持ち主なのだ。
「ルース! ちゃんと謝ろう。これは絶対良くない。ルースと俺が悪いだろ?」
「ベルは悪くねーッス」
「それ、ルースは悪いって認めてる」
ベルさんは不機嫌そうにフルゲンスさんを見る。
「確かにオレは職務を全うしてねーし、悪いッス。でも謝らねーッス」
そのフルゲンスさんも、ぷいっと顔を背けた。
……まぁ、いいんだけどさぁ。どうせ本局に帰ってから指導する羽目になってるだろうし。
「おい、それはどうなんだ」
だが、待ったをかけたのは意外にもクルトさんだった。
「アンタには言われたくねーッス。この泥棒猫」
「泥棒猫!?」
「何でクルトにそういう事を言うんだよ。クルトはお前の彼女を取ったりしてないだろ」
「彼女は取られてねーッス。けど……」
フルゲンスさんは言葉を濁しながら、チラっとベルさんを見た。
ベルさんがクルトさんと仲良くしているから、という事だろうか。男同士で泥棒猫とは、中々独創的だ。
「お前、彼女居るのにシアをナンパしたのか!」
……クルトさん、そこですか。
「彼女が一人じゃなきゃいけないってルールなんか、ねーッス。大体、オレに彼女が何人いようとルトルト君には関係ねーじゃねーッスか」
何人いようと!? 恋人というのは一人ではないのか!?
俺が驚いている内に、フルゲンスさん、クルトさん、ネメシアさんで「ルト」だの「ルトルト」だのと、クルトさんの名称を巡って何度も話していたようだ。
「もういいよ。とりあえずこの二人を回収してくれる?」
それらを打ち切ったのは所長さん。
少し苛立った様子で、ため息を吐いている。
「はい、直ぐにでも。では明日の時間は追って連絡致します」
「よろしくねー」
俺は深々と頭を下げてから、部下二人の首根っこを掴んで何でも屋を後にした。
「なぜわたくしが、このような扱いを受けなければいけませんの?」
「何ッスかー。チョームカつくんスけどー」
騒ぐ二人の首根っこから手を離すと、俺は彼らをジロッと見た。
「あまりにもお二人とも仕事をしないせいで、時間が押しています。後程本局に帰ってから指導をしますが、先に次の場所へと行きますよ」
「ウーッス」
悪いと思っていながら、態度を変える気が無いフルゲンスさんは……どうしたら伝わるのかを考えていかなければならないだろう。
ただ、ネモフィラさんに比べて、ではあるものの、ベルさんさえ絡まなければ比較的仕事はしてくれる。これは不幸中の幸いだ。
今後どうしていくのかの課題は大きいが、これはよく見て、考えていくしかないだろう。
「何故ですの?」
問題はネモフィラさんだ。この期に及んで、まだ理解していない。
「わたくしは何も悪い事をしていないのに、不当にお説教され、この上まだ、貴方からの指導があるのは納得がいきませんわ」
「理由もはっきりと理解出来ず、人に迷惑ばかりを掛けている現状が問題なんです」
俺はため息交じりに溢す。しかし、引くわけにはいかない。
「確かに貴女の、第四王位継承者という立場から考えれば、管理局の一局員である俺の立場は下でしょう」
何度も言い聞かせているように、俺は彼女を真っ直ぐに見ながら口にする。
「けれども、今は、管理局内の六枚の管理官と、その部下と言う立場が優先されます」
ネモフィラさんは眉間に皺を寄せ、ちゃんと聞いている素振りは見られない。
「したがって、私は貴女が間違った行いをしていると判断した場合、指導をする事が許されているのです」
納得がいかない、という様子がありありと見えるが、引く気はないと言う意思表示は大切だ……と思う。
「私は貴女の行いが間違っていると思った。故に、後程指導いたします。これは変えるつもりは有りません」
俺はそこまで言い放つと「次に行きますよ」と、促した。
フルゲンスさんは「ウーッス」とやる気のない返事をし、ネモフィラさんは納得のいっていない声で「……ええ」と答えたのだった。
***
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