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2章
2-48 お前が知る必要のない事だ
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夜が明けてからも事後処理。それから新たな仕事をこなす。
昨日までの事が嘘のように、フィラさんが俺を手伝ってくれる。
ルースがいないのが少し寂しい。あいつはあいつでムードメーカーのような物だったのだと気が付いた。
「ジギタリス、一応お前の耳に入れておく」
「はい」
執務室で仕事をこなしていると、バンクシアさんが身を滑り込ませながら話をしてきた。
俺と同じように表情の浮かばない顔には、何の色も見えない。
近くで書類整理をしていたフィラさんは、急に背筋を伸ばして息を飲んだ。どうやらバンクシアさんに苦手意識を持っているらしい。
「お前達が対峙したと言う、アマリネ・ツヴェルフ・ボールシャイト、ビデンス・エルフ・ブライトクロイツ、ヴェラ・ヴィントホーゼの三名は、何らかの反政府組織であると言う見方を強くしている。シュヴェルツェが復活したという件もあり、そちらとも敵対している様子から、今後は大きな騒ぎを起こす可能性が高い。見つけ次第、捕まえろ」
「はい」
この情報に関しては、あの場で殆ど答えを聞いた物だった。結局、就職管理局での見解も、本人達の言った事と照らし合わせて相違はなさそうだ、という報告のようだ。
「……これは関係があるかは分からないが、ヴニヴェルズム兄妹が言うには、ヴィントホーゼが反抗期でグレた、らしい」
……これに関してはよく分からないが、とにかくあの三人が何か大事を起こす前にまた見る事があれば、捕縛しろ、という命令か。
「グロリオーサ・エルフ・アーレルスマイアーの意識は戻ったが、あまり話せる状態ではない。治療を続け、その後は保護観察対象にする」
俺は仕事の手を止め、立ち上がろうとした。が、立ち上がるのはバンクシアさんに手で制された。
無駄な動作は要らない、という事か。
「サフラン・ツヴェルフ・ガイスラーは、情報を引き出そうにも、殆ど何の情報も持っていない。あいつ自身が、あまり周りに興味を持っていなかったようだ。分かったのは、まだ捕まっていないブッドレア・ツヴェルフ・ドナートの元教え子で、シュヴェルツェの関係者として引き込んだのはそいつだった、という事くらいか。ハズレを引いたな」
人が死んでも、ハズレで済ませるのか……。ああ、この人なら済ませるだろうな。
「今回の件は、サフランが指名手配されたおかげで、憧れていたグロリオーサが心を揺さぶられ、結果としてシュヴェルツェの良い様に使われた、という話だ」
……まだ本格的には調べられていないようだ。
「また何か分かり次第、報告する」
「あの」
「何だ」
帰ろうとしたバンクシアさんに声を掛けると、彼は冷たい目を俺に向ける。
「シュヴェルツェが、ルースやクルトさんのお父様と関係があるような話をしていましたが」
「お前が知る必要のない事だ」
バッサリと切り捨てられる。
「シュヴェルツェに関しては」
「調査中だ。過去の件は、表に出している資料以上に話せる物はない」
俺が聞きたい事は、俺が知る事が出来ないのか。例え、今回の関係者であっても。
「閲覧も制限している。勿論、ネモフィラ様を使おうとしても無駄だ」
そんな事は考えてもいなかったが、近くのフィラさんがビクリと肩を揺らした。
「とにかく、不穏分子に会ったら、直ぐに捕まえろ」
話したい事は、この一点に限るのだろう。再度言われたそれに、俺は小さく「はい」と答えた。
「どうせお前の事だ。近い内に関係者に話をしに行くだろうが、私が今回話した事以外に、報告する事は無い。言えるのはこれだけだ」
何かが起こっている。それは分かる。
だが、その何かが俺に知らされる事は、きっと無いのだろう。
「以上だ。仕事に戻れ」
「はい」
結局俺は、無力のままだ。
***
昨日までの事が嘘のように、フィラさんが俺を手伝ってくれる。
ルースがいないのが少し寂しい。あいつはあいつでムードメーカーのような物だったのだと気が付いた。
「ジギタリス、一応お前の耳に入れておく」
「はい」
執務室で仕事をこなしていると、バンクシアさんが身を滑り込ませながら話をしてきた。
俺と同じように表情の浮かばない顔には、何の色も見えない。
近くで書類整理をしていたフィラさんは、急に背筋を伸ばして息を飲んだ。どうやらバンクシアさんに苦手意識を持っているらしい。
「お前達が対峙したと言う、アマリネ・ツヴェルフ・ボールシャイト、ビデンス・エルフ・ブライトクロイツ、ヴェラ・ヴィントホーゼの三名は、何らかの反政府組織であると言う見方を強くしている。シュヴェルツェが復活したという件もあり、そちらとも敵対している様子から、今後は大きな騒ぎを起こす可能性が高い。見つけ次第、捕まえろ」
「はい」
この情報に関しては、あの場で殆ど答えを聞いた物だった。結局、就職管理局での見解も、本人達の言った事と照らし合わせて相違はなさそうだ、という報告のようだ。
「……これは関係があるかは分からないが、ヴニヴェルズム兄妹が言うには、ヴィントホーゼが反抗期でグレた、らしい」
……これに関してはよく分からないが、とにかくあの三人が何か大事を起こす前にまた見る事があれば、捕縛しろ、という命令か。
「グロリオーサ・エルフ・アーレルスマイアーの意識は戻ったが、あまり話せる状態ではない。治療を続け、その後は保護観察対象にする」
俺は仕事の手を止め、立ち上がろうとした。が、立ち上がるのはバンクシアさんに手で制された。
無駄な動作は要らない、という事か。
「サフラン・ツヴェルフ・ガイスラーは、情報を引き出そうにも、殆ど何の情報も持っていない。あいつ自身が、あまり周りに興味を持っていなかったようだ。分かったのは、まだ捕まっていないブッドレア・ツヴェルフ・ドナートの元教え子で、シュヴェルツェの関係者として引き込んだのはそいつだった、という事くらいか。ハズレを引いたな」
人が死んでも、ハズレで済ませるのか……。ああ、この人なら済ませるだろうな。
「今回の件は、サフランが指名手配されたおかげで、憧れていたグロリオーサが心を揺さぶられ、結果としてシュヴェルツェの良い様に使われた、という話だ」
……まだ本格的には調べられていないようだ。
「また何か分かり次第、報告する」
「あの」
「何だ」
帰ろうとしたバンクシアさんに声を掛けると、彼は冷たい目を俺に向ける。
「シュヴェルツェが、ルースやクルトさんのお父様と関係があるような話をしていましたが」
「お前が知る必要のない事だ」
バッサリと切り捨てられる。
「シュヴェルツェに関しては」
「調査中だ。過去の件は、表に出している資料以上に話せる物はない」
俺が聞きたい事は、俺が知る事が出来ないのか。例え、今回の関係者であっても。
「閲覧も制限している。勿論、ネモフィラ様を使おうとしても無駄だ」
そんな事は考えてもいなかったが、近くのフィラさんがビクリと肩を揺らした。
「とにかく、不穏分子に会ったら、直ぐに捕まえろ」
話したい事は、この一点に限るのだろう。再度言われたそれに、俺は小さく「はい」と答えた。
「どうせお前の事だ。近い内に関係者に話をしに行くだろうが、私が今回話した事以外に、報告する事は無い。言えるのはこれだけだ」
何かが起こっている。それは分かる。
だが、その何かが俺に知らされる事は、きっと無いのだろう。
「以上だ。仕事に戻れ」
「はい」
結局俺は、無力のままだ。
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