魔王様とスローライフ

二ノ宮明季

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 俺は四角柱のそれの前面のドアを開けると、一番下にウッドクンをセットした。
 これの中にはいくつか網が最初から張ってあり、一度ウッドクンの煙を充満させたら、その網の上に食材を置いてしっかりと煙を定着させる。
 の、だが、今日は一々説明しながら進行する。なぜなら勇者に教えるのがメインだからだ。

「このウッドクンに火をつけて、充分に煙が立ったら扉を閉める。さっき見せたタイプのを使う時は、蓋を締めるだけでいい」
「これは一体何の意味があるの?」
「この中を煙で充満させて、食べ物が煙を纏いやすい環境を作ってやるんだ」

 尋ねてきたオリヴィアに答えると、彼女は小さく「食べ物……」と言いながら視線をお肉に向けた。
 何か不満でもあるのだろうか。コカトリスは立派な食材だが、人間からすると食べなれないものに抵抗でもあるのか。
 あー、でも、食べ慣れないのは当たり前か。人間は脆弱だから、コカトリスに勝てない。コカトリスに勝てないと、コカトリスを食べる機会がない。
 つまり、食べなれていないから抵抗がある。よーし、繋がったぞ。

 たまに捕まえたらおすそ分けしてやった方がいいいかな。あいつら、狩りも下手だろうし。
 俺がそんな事を考えながらウッドクンに火をつけていると、やがて十分すぎるほどの煙が上がったので、扉を閉めた。

「あとは、なんかこう、中が煙でいっぱいになっただろうなーって頃に開けて、さっき焼いたお肉を突っ込む」

 煙を充満させている内に、次の行程の説明。

「これでドライアドの成分を纏わせられるから、毒素が中和されるんだ」

 何故かレイラが隣でうんうん頷いていた。俺の言ってる事、間違ってないっていう意味か? それなら安心……なの、か? ……いや、間違っていないなら安心だな!

「あ、毒素って言っても、瘴気の影響の毒素だけだぞ! 間違っても毒蛇とか毒虫の毒を中和させるわけじゃないから、その辺は気を付けて、食べる時は毒になる場所を切ってから食べてくれ」
「毒虫なんて食べないわよ!」
「う、うん。毒虫はちょっと……」

 一応教えておこうと思ったが、二人とも毒虫に難色を示した。毒の部分さえ取っちゃえば、食べられない事も無いんだけどな。栄養価が高い虫って案外多いし、人間は食べるのかと思ってたし。

「虫なら直ぐ捕まえられるぞ」
「そういう問題じゃないわよ!」

 そういう問題じゃないのか。
 それなら、さっきのコカトリスが食べなれない食べ物であるという説明と繋がらない。
 コカトリスは捕まえられないから食べなれない。でも虫は捕まえられるけど食べない?
 うーん、難解だ。

「勇者も虫は食べないのか?」
「食べないなぁ。サイラスは食べるの?」
「いや、俺もレイラも何でも捕まえられるから」

 「な?」とレイラに話を振ると、彼女はフフンと笑って「当然だ!」と胸を張った。

「食糧難ならオススメだぞ。毒……は、処理が難しいとしても、毒が無いやつ。捕まえやすいし、栄養がある」
「あ、ありがとう。もう少し逼迫したら考えるよ」

 一応人間達にはまだ余裕があるっていう事か。だったら、あまり腹の足しにならないサイズの物よりも、大きめの物の方を求めるか。
 虫は小さいからあまり食べてない、って事だな。理解した。
 そうこうしている内に煙が良い感じになったようなので、ドアを開けて中にお肉を入れて再度閉める。

「これで、どのくらい?」
「どの、くらい?」

 どのくらいと言われてもなぁ。

「美味しそうだな! って、お腹がなった頃に開けるぞ」
「え!? ここまで来て急に大雑把!」

 そんなに大雑把だっただろうか。

「別に大雑把ではない。魔王様の腹時計は正確だ」
「違う、そういう事を言ってるんじゃない」
「具体的に言えば、食材にしっかりと煙の香がつくくらいまでだ。食材によって時間はまちまちだから、その位は貴様達でどうにか探せ」
「それだよ!」

 どれだよ。
 レイラが対応していると、勇者が急に叫んだ。もう一度言おう。どれだよ。

「まちまちなのは分かった。ありがとう!」
「そんな事、ボクが言わなくったって魔王様の言葉から察して貰いたいものだな」
「いやいやいや、サイラスの発言は時々よくわからないんだよ」

 そっくりそのまま、お返ししたい。俺の発言は勇者の発言よりは遥かに分かりやすいと思う。

「サイラスは外見がちょっとショタっぽいし、何なら、服装さえもっと可愛くすれば男の娘属性をつけられる程度には可愛い。ちょっとよくわからない発言を含めて天然キャラとして推せるんだけど、やっぱり上手く理解出来ない事があるって言うかさー!」
「さっきの言葉、そっくりそのまま貴様に返す」
「俺も同意見だ」

 絶対勇者の方が意味不明だ。

「オリヴィアはどう思う?」

 勇者に尋ねられたオリヴィアは、一瞬にして視線を逸らす。お前もこっち側の考えか。

「ラ、ランドルフは特別だから……」

 それ、遠回しに「たまによくわかんない」って言ってるぞ。

「……」
「……」

 両者共に何も口にしません! まぁ、俺もレイラも無言なのだが。
 結果として、何とも言い難い沈黙がこの場に降りた。沈黙そのものに意思があるのなら、「チンモクパーティー!」と喜んでいるところだろう。

「レイラ、チンモクパーティーは気まずいから何かしようか」
「チンモクパーティーって何だ?」
「沈黙が喜ぶパーティーだ」

 話題を変えようかと思ったのだが、レイラは不思議そうに首を傾げた。

「両者痛み分けだな。存在の分だけ魔王様の方が勝ったようなものだとは思うが」
「い、いえ、それを言ったら、存在的にランドルフの方が勝ったようなものよ」

 まさかとは思うが、どっちが変な事を言っているかの軍配の話をしているのだろうか。心外だ。

「この小娘の発言は気に入らないが、沈黙パーティーとやらがあまり良いものではないのは確かだな」

 咳払い一つ。レイラは立ち上がった。

「出来上がるまでに時間がある。先に乾杯といこうではないか」

 確かにそれはいい案だ。直ぐに出来上がる物ではないのだから、折角なら座ってゆっくり話したい。
 勇者が興味を抱いたショーユの話とか。
 俺達はレイラの一言で席に座り、お茶を淹れ、ゆっくりと会話を始めたのだった。

   ***
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