魔王様とスローライフ

二ノ宮明季

文字の大きさ
13 / 30

13

しおりを挟む
 俺は四角柱のそれの前面のドアを開けると、一番下にウッドクンをセットした。
 これの中にはいくつか網が最初から張ってあり、一度ウッドクンの煙を充満させたら、その網の上に食材を置いてしっかりと煙を定着させる。
 の、だが、今日は一々説明しながら進行する。なぜなら勇者に教えるのがメインだからだ。

「このウッドクンに火をつけて、充分に煙が立ったら扉を閉める。さっき見せたタイプのを使う時は、蓋を締めるだけでいい」
「これは一体何の意味があるの?」
「この中を煙で充満させて、食べ物が煙を纏いやすい環境を作ってやるんだ」

 尋ねてきたオリヴィアに答えると、彼女は小さく「食べ物……」と言いながら視線をお肉に向けた。
 何か不満でもあるのだろうか。コカトリスは立派な食材だが、人間からすると食べなれないものに抵抗でもあるのか。
 あー、でも、食べ慣れないのは当たり前か。人間は脆弱だから、コカトリスに勝てない。コカトリスに勝てないと、コカトリスを食べる機会がない。
 つまり、食べなれていないから抵抗がある。よーし、繋がったぞ。

 たまに捕まえたらおすそ分けしてやった方がいいいかな。あいつら、狩りも下手だろうし。
 俺がそんな事を考えながらウッドクンに火をつけていると、やがて十分すぎるほどの煙が上がったので、扉を閉めた。

「あとは、なんかこう、中が煙でいっぱいになっただろうなーって頃に開けて、さっき焼いたお肉を突っ込む」

 煙を充満させている内に、次の行程の説明。

「これでドライアドの成分を纏わせられるから、毒素が中和されるんだ」

 何故かレイラが隣でうんうん頷いていた。俺の言ってる事、間違ってないっていう意味か? それなら安心……なの、か? ……いや、間違っていないなら安心だな!

「あ、毒素って言っても、瘴気の影響の毒素だけだぞ! 間違っても毒蛇とか毒虫の毒を中和させるわけじゃないから、その辺は気を付けて、食べる時は毒になる場所を切ってから食べてくれ」
「毒虫なんて食べないわよ!」
「う、うん。毒虫はちょっと……」

 一応教えておこうと思ったが、二人とも毒虫に難色を示した。毒の部分さえ取っちゃえば、食べられない事も無いんだけどな。栄養価が高い虫って案外多いし、人間は食べるのかと思ってたし。

「虫なら直ぐ捕まえられるぞ」
「そういう問題じゃないわよ!」

 そういう問題じゃないのか。
 それなら、さっきのコカトリスが食べなれない食べ物であるという説明と繋がらない。
 コカトリスは捕まえられないから食べなれない。でも虫は捕まえられるけど食べない?
 うーん、難解だ。

「勇者も虫は食べないのか?」
「食べないなぁ。サイラスは食べるの?」
「いや、俺もレイラも何でも捕まえられるから」

 「な?」とレイラに話を振ると、彼女はフフンと笑って「当然だ!」と胸を張った。

「食糧難ならオススメだぞ。毒……は、処理が難しいとしても、毒が無いやつ。捕まえやすいし、栄養がある」
「あ、ありがとう。もう少し逼迫したら考えるよ」

 一応人間達にはまだ余裕があるっていう事か。だったら、あまり腹の足しにならないサイズの物よりも、大きめの物の方を求めるか。
 虫は小さいからあまり食べてない、って事だな。理解した。
 そうこうしている内に煙が良い感じになったようなので、ドアを開けて中にお肉を入れて再度閉める。

「これで、どのくらい?」
「どの、くらい?」

 どのくらいと言われてもなぁ。

「美味しそうだな! って、お腹がなった頃に開けるぞ」
「え!? ここまで来て急に大雑把!」

 そんなに大雑把だっただろうか。

「別に大雑把ではない。魔王様の腹時計は正確だ」
「違う、そういう事を言ってるんじゃない」
「具体的に言えば、食材にしっかりと煙の香がつくくらいまでだ。食材によって時間はまちまちだから、その位は貴様達でどうにか探せ」
「それだよ!」

 どれだよ。
 レイラが対応していると、勇者が急に叫んだ。もう一度言おう。どれだよ。

「まちまちなのは分かった。ありがとう!」
「そんな事、ボクが言わなくったって魔王様の言葉から察して貰いたいものだな」
「いやいやいや、サイラスの発言は時々よくわからないんだよ」

 そっくりそのまま、お返ししたい。俺の発言は勇者の発言よりは遥かに分かりやすいと思う。

「サイラスは外見がちょっとショタっぽいし、何なら、服装さえもっと可愛くすれば男の娘属性をつけられる程度には可愛い。ちょっとよくわからない発言を含めて天然キャラとして推せるんだけど、やっぱり上手く理解出来ない事があるって言うかさー!」
「さっきの言葉、そっくりそのまま貴様に返す」
「俺も同意見だ」

 絶対勇者の方が意味不明だ。

「オリヴィアはどう思う?」

 勇者に尋ねられたオリヴィアは、一瞬にして視線を逸らす。お前もこっち側の考えか。

「ラ、ランドルフは特別だから……」

 それ、遠回しに「たまによくわかんない」って言ってるぞ。

「……」
「……」

 両者共に何も口にしません! まぁ、俺もレイラも無言なのだが。
 結果として、何とも言い難い沈黙がこの場に降りた。沈黙そのものに意思があるのなら、「チンモクパーティー!」と喜んでいるところだろう。

「レイラ、チンモクパーティーは気まずいから何かしようか」
「チンモクパーティーって何だ?」
「沈黙が喜ぶパーティーだ」

 話題を変えようかと思ったのだが、レイラは不思議そうに首を傾げた。

「両者痛み分けだな。存在の分だけ魔王様の方が勝ったようなものだとは思うが」
「い、いえ、それを言ったら、存在的にランドルフの方が勝ったようなものよ」

 まさかとは思うが、どっちが変な事を言っているかの軍配の話をしているのだろうか。心外だ。

「この小娘の発言は気に入らないが、沈黙パーティーとやらがあまり良いものではないのは確かだな」

 咳払い一つ。レイラは立ち上がった。

「出来上がるまでに時間がある。先に乾杯といこうではないか」

 確かにそれはいい案だ。直ぐに出来上がる物ではないのだから、折角なら座ってゆっくり話したい。
 勇者が興味を抱いたショーユの話とか。
 俺達はレイラの一言で席に座り、お茶を淹れ、ゆっくりと会話を始めたのだった。

   ***
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...