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俺はヤキモチを焼いたり焼かれたりする姿から目を逸らし、マンティコアの腸詰めにフォークを入れた。
あらかじめ切っておいたが、想像以上に皮が厚く、人間がのみこめる保証はない。
俺はと言えばそのまま口に運び、咀嚼。
一切れでももの凄く大きい為、いくら切り分けた物といえども口の中に入れると何もしゃべられなくなる。
もぐもぐしていると、まずは中のお肉がほどけ、腸の中に詰め込んだ肉汁ごと溢れて、自然と飲み込めた。
やはり、というべきか、最後まで残ったのは、腸の部分。ぐにょんぐにょんと口の中で踊りまくり、中々噛み切れない。
ぐにょんぐにょん。ぐにょんぐにょん。ごっくん。これ、人間は無理かもな。
「レイラは、これ、いけたか?」
「ボクにいけない物があるとでも?」
レイラはドラゴンらしく、綺麗に食べきっていた。いつの間にかスープの皿も、ステーキも、腸詰も消え、更に彼女の分だと切り分けたチャアシュウも消えていた。
今はパンに手を伸ばし、皿に付着しているスープの後を拭っているところである。
俺ももっと早く食べないとな。勇者の演説中はずっと食べてるけど! 演説中に食事の手を止めたら、冷めるし。
「いや、本当にミネストローネなんだよ! このトマトの酸味と、豊かな野菜の甘みと苦み。ここに加えられたマンティコアの肉の豊かな旨味が混ざり合い、スープとしての完成度を底上げしている! コンソメという物が存在しないながらも、ミネストローネの概念を破壊する事なく、美しくまとめ上げているこれは、明らかな恵み!」
「メグミって誰よ」
「食べ物だよ!」
駄目だこりゃ。俺は肩を竦めて、自分の分の食事を平らげた。
「レイラ、食べちゃったし帰るか?」
「帰りたいのは山々だが、魔王様はいいのか?」
「ん?」
何が?
「勇者の感想演説を、最後まで聞かなくても。出来れば腸詰は聞きたいんじゃないかと思ってな」
「あ、確かに」
勇者の演説はちょっとよくわからないが、美味しかったのか美味しくなかったのかがはっきりとして、俺は好きだ。が、それをレイラが気付いていたとは知らなかった。
俺の事を見ていてくれている。ありがたい事だ。
「勇者、勇者」
「な、何かな!」
「これ。これも食べて感想を言ってくれ」
奥さんVS旦那さんの喧嘩に口を出すのはよくないか? と思いつつも、気になって仕方がない。間に入って、腸詰を指差す。
勇者は渡りに船だとばかりに「直ぐにでも!」と嬉しそうにナイフを入れた。が、腸が切れない。
「んん?」
やっぱり切れない。ぐにょんぐにょんしてるもんな。
「それな、凄く硬かったから、ごっくん出来ないかも」
「凄く硬い……ごっくん……」
なんかこう、含みのある言い方だな。忠告しないで口に突っ込めばよかったのか?
「魔王様、帰ろう。今すぐ帰ろう。早く帰ろう」
「うわぁぁ、待って待って!」
レイラが笑顔で席を立とうとすると、勇者が慌てて止めた。
それからナイフを入れた腸の内側のお肉を口に運ぶと「美味しい」と目を煌めかせる。
「肉の旨みが逃げる事なく閉じ込められる調理法。この数々のハーブの香り。あぁ……ワインが……いや、ここはやはりビールが飲みたい」
出たな、ビイル。緑の何かと、麦で作るしゅわしゅわのお酒。
気になるが、全く想像がつかないので正直難しい。
「どちらかと言えばドイツ式の、塩味の強いソーセージ。これが燻され、茹でられる事により、弾ける美味しさへと変わる。外の腸が俺には硬すぎたのは残念だが、ここまでソーセージのようなものを食べる事が出来たのは、喜ばしいばかりだ!」
うんうん、美味しいんだな。
勇者の感想に惹かれてか、お嫁さん達も頷きあって食事を続けた。
……お腹が空いているから攻撃的になる。つまり、今はお腹が空いていたから、勇者に苛立ちを向けたって事か。
あれ? じゃあ、レイラって足りてないんじゃ……。
俺は恐る恐るレイラの方を見ながら、「容量は?」と尋ねた。
「何の話だ?」
「お腹の、容量?」
「……別にボクはお腹が空いている訳ではないぞ」
「そうなのか。勇者に攻撃的だから、お腹が空いているのかと思った」
どうやら違ったらしい。ちゃんとお腹いっぱいなのかな。それならいいんだけど。
「いや、あの男に関しては、満腹でも攻撃準備は出来ている」
ドラゴンって、勇者に対して攻撃的?
だとしたら、ずっとここに居るのも悪いか。幸い俺達は食事を終えていたし、この辺で失礼してもいいだろう。
「……えーっと、帰るか」
「そうだな。ここに居ると、男女の諍いに巻き込まれそうだ」
「ちょ、ちょっと待った」
俺達が席を立とうとすると、慌てて勇者が止めた。それからポケットをごそごそと漁り、俺に近づくと、そっと何かを握らせる。
手のひらサイズの薄い木の板に、なんだか綺麗な模様が掘ってある。そして、生ぬるい。生ぬるいのは勇者の温もりだとして……。
あらかじめ切っておいたが、想像以上に皮が厚く、人間がのみこめる保証はない。
俺はと言えばそのまま口に運び、咀嚼。
一切れでももの凄く大きい為、いくら切り分けた物といえども口の中に入れると何もしゃべられなくなる。
もぐもぐしていると、まずは中のお肉がほどけ、腸の中に詰め込んだ肉汁ごと溢れて、自然と飲み込めた。
やはり、というべきか、最後まで残ったのは、腸の部分。ぐにょんぐにょんと口の中で踊りまくり、中々噛み切れない。
ぐにょんぐにょん。ぐにょんぐにょん。ごっくん。これ、人間は無理かもな。
「レイラは、これ、いけたか?」
「ボクにいけない物があるとでも?」
レイラはドラゴンらしく、綺麗に食べきっていた。いつの間にかスープの皿も、ステーキも、腸詰も消え、更に彼女の分だと切り分けたチャアシュウも消えていた。
今はパンに手を伸ばし、皿に付着しているスープの後を拭っているところである。
俺ももっと早く食べないとな。勇者の演説中はずっと食べてるけど! 演説中に食事の手を止めたら、冷めるし。
「いや、本当にミネストローネなんだよ! このトマトの酸味と、豊かな野菜の甘みと苦み。ここに加えられたマンティコアの肉の豊かな旨味が混ざり合い、スープとしての完成度を底上げしている! コンソメという物が存在しないながらも、ミネストローネの概念を破壊する事なく、美しくまとめ上げているこれは、明らかな恵み!」
「メグミって誰よ」
「食べ物だよ!」
駄目だこりゃ。俺は肩を竦めて、自分の分の食事を平らげた。
「レイラ、食べちゃったし帰るか?」
「帰りたいのは山々だが、魔王様はいいのか?」
「ん?」
何が?
「勇者の感想演説を、最後まで聞かなくても。出来れば腸詰は聞きたいんじゃないかと思ってな」
「あ、確かに」
勇者の演説はちょっとよくわからないが、美味しかったのか美味しくなかったのかがはっきりとして、俺は好きだ。が、それをレイラが気付いていたとは知らなかった。
俺の事を見ていてくれている。ありがたい事だ。
「勇者、勇者」
「な、何かな!」
「これ。これも食べて感想を言ってくれ」
奥さんVS旦那さんの喧嘩に口を出すのはよくないか? と思いつつも、気になって仕方がない。間に入って、腸詰を指差す。
勇者は渡りに船だとばかりに「直ぐにでも!」と嬉しそうにナイフを入れた。が、腸が切れない。
「んん?」
やっぱり切れない。ぐにょんぐにょんしてるもんな。
「それな、凄く硬かったから、ごっくん出来ないかも」
「凄く硬い……ごっくん……」
なんかこう、含みのある言い方だな。忠告しないで口に突っ込めばよかったのか?
「魔王様、帰ろう。今すぐ帰ろう。早く帰ろう」
「うわぁぁ、待って待って!」
レイラが笑顔で席を立とうとすると、勇者が慌てて止めた。
それからナイフを入れた腸の内側のお肉を口に運ぶと「美味しい」と目を煌めかせる。
「肉の旨みが逃げる事なく閉じ込められる調理法。この数々のハーブの香り。あぁ……ワインが……いや、ここはやはりビールが飲みたい」
出たな、ビイル。緑の何かと、麦で作るしゅわしゅわのお酒。
気になるが、全く想像がつかないので正直難しい。
「どちらかと言えばドイツ式の、塩味の強いソーセージ。これが燻され、茹でられる事により、弾ける美味しさへと変わる。外の腸が俺には硬すぎたのは残念だが、ここまでソーセージのようなものを食べる事が出来たのは、喜ばしいばかりだ!」
うんうん、美味しいんだな。
勇者の感想に惹かれてか、お嫁さん達も頷きあって食事を続けた。
……お腹が空いているから攻撃的になる。つまり、今はお腹が空いていたから、勇者に苛立ちを向けたって事か。
あれ? じゃあ、レイラって足りてないんじゃ……。
俺は恐る恐るレイラの方を見ながら、「容量は?」と尋ねた。
「何の話だ?」
「お腹の、容量?」
「……別にボクはお腹が空いている訳ではないぞ」
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どうやら違ったらしい。ちゃんとお腹いっぱいなのかな。それならいいんだけど。
「いや、あの男に関しては、満腹でも攻撃準備は出来ている」
ドラゴンって、勇者に対して攻撃的?
だとしたら、ずっとここに居るのも悪いか。幸い俺達は食事を終えていたし、この辺で失礼してもいいだろう。
「……えーっと、帰るか」
「そうだな。ここに居ると、男女の諍いに巻き込まれそうだ」
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俺達が席を立とうとすると、慌てて勇者が止めた。それからポケットをごそごそと漁り、俺に近づくと、そっと何かを握らせる。
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