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しおりを挟む「これは?」
「即興クレジットカード……えーっと、モラエルカード、だっけ? 作ったし、街の人にも説明しておいたから、明日から使えるよ」
おー! これがモラエルカードか!
俺が喜んで見ている内に、勇者はレイラにも手渡していた。彼女も受け取ると、上機嫌にエプロンのポケットに突っ込む。
「勇者よ、悪くない計らいだな」
「なー。ありがとう。ベエコンが出来たら、またおすそ分けしにくるからな!」
「いや、こちらこそいつもありがとう」
お礼を言ったらお礼を言われた。俺はお腹が空いているご近所さんに、ご飯をあげている程度の感覚だったんだが。
「特にこの数日は、君達に随分と助けられた」
「いやいや、今日はレイラを助けて貰ったし、お互い様だろ」
俺が笑うと、勇者も笑う。
人間は弱い。それなりに守ってやった方が良いだろう。
けれども弱いからこその知恵も多い。この知恵に、俺も助けられているのだ。
お互いに補い合って、美味しい物を食べられたなら、それでいい気がするのである。
「勇者、今後も楽しくご近所付き合いしていこうな!」
「ご近所付き合い!?」
俺が笑って手を差し出すと、握りながらも勇者は驚いた。どこに驚く事があるのか。
「いや、だって、ご飯のおすそ分けするのって、ご近所付き合いになるんだろ?」
「……確かに、アパートの隣の部屋に住む美人OLから、これ作り過ぎちゃったので、とか言われて煮物を渡されるのはご近所付き合いのジャンルになるよね……」
美人オーエルって何だろう。ニモノも。作り過ぎちゃったって事は、服か、棚か、ご飯だよな? うーん、やっぱり勇者には謎が多い。
「ちょっとサイラス、ミニタイト穿いてみない? こう、指の隙間から見ればいける気がする」
「嫌だ」
ミニタイトが何であるかは知らないが、ろくでもない物だという気配だけはひしひしと伝わる。
「……でも、こんな風に仲良くしてくれるのなら、美人OLじゃなくても嬉しいよ」
「お、おう」
褒められた、の、か?
「あ、そうだ! 忘れるところだった」
俺はふと思い出し、握ったままの勇者の手をぶんぶんと振った。
「な、何? 僕の腕は食べ物じゃないよ」
「知ってるけど、あの、解体するやつ欲しい!」
「何の話!? 不穏なんだけど!」
あっ、えっと、えーっと。
「あの、お前達に借りた、あのー、大きいお肉を簡単に解体出来る、あのー」
駄目だ、全然名前は出てこない。
「大きい包丁みたいな刃物」
「あぁ、剣か! ロングソードの事だよね?」
「それ!」
あー、名前が出てきた。すっきりしたー。
「大物のお肉を切り分ける時に便利だったんだよ」
「い、良いけど」
「あら、本当にいいの?」
一度は頷いた勇者にストップをかけたのは、オリヴィアだった。
「もしもあれを自在に操って、私達を……なんて事になったら」
「オリヴィア、サイラスがそんな奴じゃないのは知っているだろう?」
「そうだそうだ! 人間は細いし、寧ろ世話をしてご飯を食べさせたい位だ!」
「魔王様、流石だ。こんな脆弱かつ失礼な奴らに慈悲を与えるなんてな」
俺の抗議にレイラが続けたせいで、一瞬空気がピリッとしたが、それを宥めたのは勇者だった。彼は咳払いをすると「ありえないから」と続ける。
「大体、人間を恨んでいるだとか、食べるだとか、そんな事をサイラスが考えているのなら、剣なんかなくたって、簡単にどうにか出来る。オリヴィアには前にも言ったよね?」
まぁ、本当に食べようと思ったら、鍬と鎌で襲いに来るわな。レイラと一緒に。
「特に僕達を嫌っているというのであれば、尚更だよ」
……あ、よく考えたら、ずっと手を握ってた。離してもいいかな。
俺はそろーっと手を開いたが、逆にギュッと勇者の握る手に力が入る。まだ離しちゃ駄目なのか。
「力加減をせずに攻撃を食らわせれば、街なんて跡形もなく消し飛ぶ。なんていったって、ほんの少し力を入れただけで、地面を割ってしまうんだから」
あ、笑ってごまかしておこう。これには心当たりがある。今日、マンティコアを狩っている最中に地面にめり込んだ時の話だ。
「……それも、そうだったわね。ごめんなさい」
「ふん、分かればいいのだ。小娘が」
オリヴィアが謝った! と驚くべきか、偉そうなレイラを「こらこら」と窘めるべきか。迷うところだな。
「えーっと、これからもご近所付き合い、よろしくな!」
結局俺はどちらもスルーして、再度勇者の手を握った。尤も、勇者は握った手を離さなかったので、俺が再度その手に力を入れただけなのだが。
「よろしくね。剣もそのまま使ってて」
「おう、ありがとう!」
ここまで話すとようやく手が解放され、後は人間達でゆっくり食事を楽しみ、残った分は明日にでも食べてくれと伝えて、元魔王城を後にした。
俺達にとって住み慣れた筈の場所は、やはり居心地の悪い物ではなかった。だが、今のコツコツ作り上げた小さな家が、程よい居場所のように感じて、レイラと共に家路についたのだった。
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