恋と人生ゲーム

二ノ宮明季

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恋と人生ゲーム

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 一度は飲み込んだ感情が、溢れ出した。

 まるで彼女の足元に水溜りを作るかのように。

「わ、私は!」

 彼女はその、少女めいた長い睫に水滴を纏わせ、震えながらも言葉を紡ぎだす。

「私は、ずっと……ずっと好きだったの!」

 誰がどこからどんなふうに、全力で捻じ曲げようとも、それは告白だった。

 もう何年のみこんでいた事だろうか。

「……そう」

 一方の相手はと言えば、大分低くなってしまった声で、小さく相槌を打つ。

 迷惑だっただろうか。もっと駆け引きが出来るほどの大人であれば。彼女の後悔は渦のよう。

 彼女が相手の様子を観察できるだけの余裕があれば、それは杞憂であると直ぐに分かった筈なのだが。何しろ彼は、耳まで真っ赤なのだ。





 事の起こりは、少し前。

 幼馴染が珍しく家に来たところから始まった。

 正確には彼の両親が彼女の両親と約束しており、子供同士で暫く遊んでいなさいと放置されたところから。

 暇だろうから、と、何年も前に家族とやったきりになっていた人生ゲームを取りだして、二人で遊び始めた。

 彼女は、ずっと彼が好きだった。

 小学生時代は仲が良かったが、高学年にもなると周りに茶化され、中学生になれば自然と距離が遠くなっていった。

 それでも遠くから、ずっと好きで見ていたのだ。好きだと言う感情を捨てきれず、未練がましく視線を送る日々。必死に飲み込んできた感情。

「はい、3マス進むから」

 いち、に、さん……。

 進んだ先には結婚の文字。

「ねぇ」

「……何?」

 彼女は思わず彼に尋ねる。

「結婚、誰としたいの?」

「は?」

「いや、あの、す、好きな人、とかさー」

 早口に質問しながらも、ルーレットを回す。ご祝儀を決める為に。

「別に。そっちは?」

 問われて彼女は、何度も思い悩む。

 こうして、今までのみこんだ感情が、溢れ出した。

 まるで彼女の足元に水溜りを作るかのように。

「わ、私は!」

 彼女はその、少女めいた長い睫に水滴を纏わせ、震えながらも言葉を紡ぎだす。

「私は、ずっと……ずっと好きだったの!」

「……そう」

 決死の覚悟の告白。相手の声がなんとなく冷たく聞こえて、彼女は手の甲で涙をぬぐった。

 ルーレットの数字は1。一番高いご祝儀を貰えるらしい。

「はい」

 彼は彼女に、その金額を渡す。

「……うん」

 無かった事にされたか、と、残念なような、ほっとしたような。

「それから」

 彼は自分の駒の車から人を取り外すと、彼女の横へと乗せ直した。

「結婚、までの約束はまだできないけど」

 意図を理解し、彼女は何度も目を瞬かせる。

「……す、好きな相手、これで分かるよね?」

 昔よりもずっと低くなってしまった声は、どこか優しい。

 彼女が顔をあげれば、耳まで赤くなった彼の顔があった。

 なんだ、同じだったのか、と、彼女は涙ぐんだ瞳のまま、笑った。

 人生ゲームのその行方は、通じ合った想いの先に――。
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