箱庭アリス

二ノ宮明季

文字の大きさ
4 / 9

4

しおりを挟む
 一体いつ夜になり、いつ朝になっているのか。

 この場所では全てが曖昧だ。そんな中でも私が曜日感覚を忘れずにいられるのは、彼が毎日カレンダーを変えてくれるからだ。

 彼はチェストの上に置かれた積み木のようなカレンダーを、毎日飽きもせずにカタカタと変えてくれるのだ。

 それに、目が覚めた時には彼の腕の中で、毎日「おはよう」と微笑んでくれる。

 足に執着があるようで、私がうとうととしている間に舐めれていたのは一度や二度ではなかったが、不思議と三日も経てば不快感はなくなっていた。

 毎日食事を与えてくれる。毎日服を変えてくれる。毎日抱きしめてくれる。

 痛い事も苦しい事も私に強いる事は一度もなく、ただひたすらに大切にされていた。

 「僕のアリス。今日も可愛いね」、「この服もとっても似合っている」、「愛しているよ、アリス」。毎日こんな調子で、彼は食事を用意する時以外は外に出る事もなくずっと一緒にいてくれる。

 毎日毎日毎日。ずっとずっと愛していると囁かれ、壊れ物のように優しく扱われ、ぬくもりを私に分け与えられる。

 そうしている内に、もともと希薄だった外に出たい願望は薄れ、このまま彼と一生一緒にいたいと思い始めた。

 私もこの男を愛していると気がついたのは、一週間後の事だった。



「私、あなたを愛しています」

「本当? 嬉しいなぁ!」



 彼に素直に伝えると、嬉しそうにぎゅっと抱きしめられた。



「嬉しいな。僕も君が好きなんだ。ずっとずっと好きで、そんな好きな人に愛されるなんて、とっても奇跡的で嬉しい。本当に本当に嬉しくて、全然言葉が出ないや」



 うるうると瞳を潤ませた彼は、私の頬を両手で包む。



「ねぇ、いいかな」



 この状況で何がいいか、など、聞かなくてもわかる。私はわずかに頷くと、そっと瞳を閉じた。

 柔らかで暖かな唇の感触が、私の唇から伝わる。

 物を食べる為に、呼吸をする為に、話をする為についている筈の器官が、今は他の用途で使われていた。息が出来なくなった頃に、彼の腕をポンポンと軽く叩けば、ようやっと開放された。



「呼吸は鼻ですればいいんだよ」



 クスっと笑った顔の、なんと柔らかな事。私は一瞬見惚れて、それから恥ずかしくなって目をそらした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、謂れのない罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
明琳は国を統べる最高位の巫女、炎巫の候補となりながらも謂れのない罪で処刑されてしまう。死の淵で「お前が本物の炎巫だ。このままだと国が乱れる」と謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女として四度人生をやり直すもののうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは後宮で巻き起こる怪事件と女性と見まごうばかりの美貌の宦官、誠羽で――今度の人生は、いつもと違う!?

処理中です...