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しおりを挟む「ああ、アリス。今回の君は、その男を愛する事を選んだんだね」
沢山のモニターのある薄暗い部屋で、彼女はうっとりと一つの画面を眺める。
モニターの明かりで照らされる彼女の顔も、この場で吐き出した声も、あのアリスと瓜二つだ。
「いつだって私はアリスが一番好きだ。愛している。私は、私が好きなんだ」
彼女はとある研究者であった。沢山の人に愛されながらも人を愛する感覚を有せず、けれども愛すると言う事に憧れ、多くのクローンを作り出した。
それも、自分自身の。
「だからどうか、私のアリス」
「アリス」を愛する者を集め、それぞれに順番に「アリス」をあてがう。そうして彼女は、クローンである自分自身の愛の行方を見つめては、自らの物であるかのように酔いしれていた。
相手は様々。今回のウヅカという男は、どうしようもない女好きであったか。
けれども「アリス」の事は懸命に愛し、ついには他の女と縁も切ったらしい。これはとても見ごたえのある愛の形で、少なくとも退屈はしなかった。
「君は、君達は、私に愛を教えてね。私も私以外の誰かを愛してみたいんだ」
モニターには沢山の「アリス」。
ある者は殺され、ある者は永遠に愛し合い、またある者は心中。一人で狂う「アリス」、二人ではしゃぐ「アリス」、三人で壊れる「アリス」。
今回の「アリス」は、愛する人を閉じ込めた。
あの「アリス」達は知らない。誰が本当に監禁をしているのか。誰が本当に愛しているのか。
「あぁ、素晴らしい……」
うっとりと見ていた彼女は、熱っぽい息を吐きだした後に机の引き出しを開けた。
「けれどもまた、私はあの男を愛する事は無かった。残念だが、次のアリスを用意しよう」
引き出しの中に入っていたのは、大量の履歴書のような紙。その内の一枚を取り出し、連絡先をなぞる。
「君こそ、私に愛を教えて」
次の「アリス」の相手を決めた。この世には、「アリス」を愛する人が山程いる。それこそ、順番待ちが存在する程に。
箱庭の主人は薄く笑うと、再びモニターへと視線を向けた。画面という箱庭の中には、今日も様々な「アリス」の、様々な生き様が映される。
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