精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
4 / 228
一章

1-4 あたしの感覚にビビっときたからです

 それにしても、ハイル出身、か。ハイルはこの国の首都。そこに位置するのが国立魔法科所属第一学園だ。あの周辺に住んでいる者が通う学校なのだが、何と言ったって首都。上流階級のヤツが多かったり、そうじゃなくても金持ちが多い。
 つまりこいつは、こんな姿かたちをしていながらもお嬢様である、という事なのだ。

「んじゃ、聞きたいんだけど、ハイル出身のお嬢さんが、何だってこんな小さな何でも屋なんかの面接に? 履歴書を見た感じ、前の職場も中々良い所じゃん。しかも魔法の開発、なんて花形だよ」

 所長はだらしない格好をしながらネメシアに尋ねる。それは是非、オレも聞いてみたい所だ。
 良い暮らしをしていて、どうやら良い所に就職したらしい女の子――それも10枚なら、引く手はあまただろう。

「んー、家から離れた所に就職したいな、って思ったのがまず一つ」
「それはどうして?」
「よくある話だと思うんですけど、大魔法使いの娘って、結構なステータスらしいんです。で、あたしはそれが嫌。でも今まで育てて貰ってるし、そっちは感謝してるんですけど、ちゃんと一人立ちしてこそ立派なレディかなーとか思って」
「そ、そう」

 聞き返した所長は、よくわからないというように首を傾げた。

「あと、あたし、どうやら変わってるらしくて」
「あぁ、うん。それは今話していてもそんな気配は感じる」
「そうですか? まぁ、いいや」

 彼女は然程気にした様子もなく話を続ける。

「とにかくそういう感じなので、同じ部署の人とも話が合わなくて、だったらいっそ家を出て再就職をしてみよっかなー、って」
「それじゃあ、ここを選んだ理由は?」
「住み込み可で食事付きに惹かれたのと、何でも屋っていうのが、何でもやってみたかったあたしの感覚にビビっときたからです」

 所長は答えを聞くと、ゴトっと頭をテーブルに沈めた。
 オレ、13枚見たのは初めてだけど、多分これから先見たとしてもこんな風に振り回されている様を見る事は無いと思う。
 あと、ネメシアは落ちた気がする。アホだ、こいつ。

「所長、俺、何か飲み物を淹れてきます」

 唐突に、ミリオンベルがため息と共に立ち上がった。

「あー、うん、お願い。あとアリア、今の一応メモしておいて」
「もうやってますよ」
「ありがとー」

 所長はテーブルに頭を沈めたまま答える。アルメリアさんが、今のネメシアの発言をどうメモしたのかが気になるなぁ。

「何飲む?」

 オレがアルメリアさんを気にしていると、視線を感じる。視線の先を辿ると、立ち上がったミリオンベルだった。
 凄く背が高く、足も長い。ますます女にモテそうだ。冷たそうに見下ろす緑色の瞳すら、女をときめかせるに違いない。

「あたし、ミルクティーがいいです! とっても甘いやつ!」
「では私も同じものを。甘さは程ほどで」

 女だがこいつにときめいている様子を見せずに、ネメシアが直ぐに手を上げ、スティアが便乗する。

「コーヒー。ブラックで」

 悪魔の甘い香りが漂ってきそうな隣から、自分を守るための盾を頼んだ。

「所長とアリアは?」
「僕もコーヒー。ブラック」
「カフェラテを、ミルク多めでお願いしてもいい?」

 ミリオンベルは静かに頷くと、またこちらへと視線を向ける。
 上から突き刺さるような視線はあまり気分の良いものではなかったが、これはオレが卑屈になっている証明なのかもしれない。
 何しろ相手は、ただ飲み物のリクエストを聞いていただけなのだから。
 でもなー、イケメンで背が高いっていうのは、オレの敵だと思うんだよなぁ。だからと言って、面接で落ちたい訳じゃないけど。

「で、食べられないものは?」

 オレの内心など気付くはずもなく、彼は再び問う。
 食べ物って事は、お茶菓子って事だよな。……菓子。悪魔の食べ物。うえー。

「私は何でも平気です」
「あたしもー!」
「オレ、甘いものだけは無理」

 ミリオンベルは「分かった」と頷くと、部屋から出て行った。おそらくキッチンに向かったのだろう。

「じゃ、次にクルト君とスティアちゃんに質問するね」

 所長は顔を上げて、オレを見た。

「なんかさー、職歴を見ると書き切れないくらい転職してるじゃない? それに、場所によっては三日しか勤めてなかったりとか。もう君の村周辺の職場コンプリートしちゃってる感じじゃん。スタンプラリーなら完璧だよ、これ」
「んぐっ」

 オレは思わず呻いた。何しろ、所長の予想は正しかったのだ。
 オレは、オレの村と周辺の町の就職先からそっぽを向かれてしまっていたのである。

「スティアちゃんもそうだよね。クルト君ほどじゃないけど、結構な転職じゃない? まだ卒業して一カ月ちょっとだよね?」
「理由はおそらく兄にあるかと」
「スティア、てめぇ!」
「本当の事だろう」

 悪びれず答える妹。こいつ、本当に厄介だ! そりゃあ、ここの求人を見つけて来たのも、一緒に受けないかと誘ったのもスティアだった。
 だが、面接の場でごく自然に蹴落とそうとする様は、全く可愛くない。我が妹ながら、可愛くない!

「つーか、どいつもこいつも精術師が時代遅れの魔法使いだとかバカにするから我慢なんねーんだろ! オレが悪い事はオレが悪い。けど、精術師を理由にバカにしたりするのは話が別じゃねーか!」
「と、こんな具合に直ぐにキレるので、兄は何度も解雇になりました。私はその妹という事で、運よく就職出来ても、少しでも相手の思惑と違う行動をとると解雇になった、という訳です」

 オレが興奮に任せて話した事に、スティアが続く。やっぱり可愛くない!

「つまり、全ては精術師のせいっていう事かな?」
「いえ、精術師である事は誇りであるので、そうではありません」
「そうだ! 問題は、精術師だって言ってバカにするヤツらの方だろ!」

 どこをどうとったら、精術師のせいになるんだよ。チクショー。
 オレが怒りを抑えられなくなっていると、「あの」と声がかけられた。声の方向を見ると、先程飲み物を取りに行っていたミリオンベルが、お盆に飲み物を乗せて立っていた。

「コーヒーとか淹れて来た」

 彼はそう言うと、オレ達の前に、オレ達が頼んだものを置く。ちゃんと注文を覚えていたらしい。
 何でも屋っていう職業は、カフェでの仕事も含まれているのだろうか。そのくらい、手慣れていた。
 オレは自分の興奮を収める為にも、淹れたてを一口頂く事にした。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~

ネコ軍団
ファンタジー
 魅惑の新大陸へようこうそ! 冒険者支援課にお任せください!  二十年前に発見された新大陸ノウリッジでは、未踏の地である大陸の東端を目指して開発が進んでいた。  港町テオドールはノウレッジの南西に位置する新大陸の玄関口だ。魔王の出現により遅れていた、新大陸の開発が本格的に始まってから五年、この町には一攫千金を夢見る冒険者たちが日々たくさん訪れていた。同時に未知の魔物や厳しい自然、罠が張り巡らされた遺跡やダンジョンなどで幾多の冒険者が傷つき命を落としていた。港町は夢と希望を抱く者たちが希望に満ちて旅立つ場所であり、夢破れ新大陸から去っていく者たちを静かに見送る場所でもあった。  冒険者ギルドは冒険者たちの新大陸離れを危惧し、新たに冒険者支援課を設立した。彼らの仕事は道案内から始まり、冒険者が発見した遺物などの研究や運搬の手伝い。他にも支給品の配布や死体回収などの地味な作業から、魔物が巣食う遺跡やダンジョンの休憩所であるセーフルームの確保、さらには大型モンスターの討伐を手助けしたりと様々だ。それに時には有害と判断された冒険者を秘密裏に処理したりするこも……  支援課に所属するグレンはかつて冒険者だった。しかし、五年前に仲間に裏切られ死にかけ、支援員の先輩であるクレアに救われた。クレアはグレンの特異な才能に気づき、彼を引き取り冒険者支援員として育てたのだった。  今日もたくさんの冒険者が新大陸へやって来る。その中にエリィとキティルという二人の少女冒険者がいた。彼女らも他の冒険者と同じく新大陸で一旗揚げることを夢を見ていた。  ある事件をきっかけに二人と親しくなったグレンは、新大陸に存在すると言われる伝説の”白金郷”をめぐる争いへ巻き込まれていくのであった。 ※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。 ※3/15~3/19 は投稿を休みます。

【最終話執筆済完結保証】悪役令嬢の『影』に転生した俺、ポンコツな主の破滅を物理で無言回避させる

積野 読
ファンタジー
喋れない。触れない。警告できない。——それでも俺は、このポンコツ令嬢を死なせない。 ブラック企業で過労死した中間管理職・黒田忠司(34)が目覚めたのは、乙女ゲーム『月光のエトワール』の悪役令嬢ロゼリアの「影」の中だった。 声は出せない。主から10メートルも離れられない。光の強い場所では力が半減する。できるのは、物をほんの少しだけ動かすことだけ。 それでも——破滅フラグは待ってくれない。 ドレスの裾を引っ張り、シャンデリアを落とし、毒杯を弾く。影の全力の裏方工作で主の破滅をへし折るたび、なぜかロゼリアは「底知れぬ黒幕令嬢」として周囲に畏怖されていく。 情報の女帝。軍神。守護者。革命家。——全部、影のせい。 本人は何もしていない。 だが令嬢は知らない。自分の足元で、存在が薄くなりながら守り続けている者がいることを。 「いるなら、おやすみなさい」——その一言が、影のすべてを変えた。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!