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一章
1-17 管理官からの依頼で、お前たちの調査に来た!
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彼は渋々、といった様子で「ごめんなさい、姉様」と零すと、オレ達を蔓から解放した。
が――オレは、ぐしゃっと地面に倒れ込む。あんにゃろ!
素早く体制を整えると、スティアは悠々と立ち、一足先に蔓から解放されていたベルは、シアを抱き留めていた。
何やってもイケメンだ……。
「アーニー、駄目でしょ! 謝る相手はわたしじゃない事、分かってるんじゃないの?」
「……ごめんなさいね、お客様」
「よし、殺そう」
ほら、渋々謝るからウチの悪魔が大変お怒りですよ! にっこり笑って殺そう発言とか怖すぎ。
「悪いけど、君にはあまり興味ないんだよね。男か女かも微妙だし」
「アーニー!」
「よし、殺そう」
ほら、大魔王がキレる前に本気で謝った方が良い! 怖い!
「そうだよ! あたしとスティア、スカートめくれちゃったんだよ! びっくりしたんだよ! こ、怖かったんだよ……」
「おい、泣かなくてもいいだろ。無事だったんだし」
シアも必死に訴えると、見る見るうちにやたらとデカい目に涙がたまっていく。都会っ子にはある筈の無い体験に、いっぱいいっぱいになってしまったのかもしれない。それをベルが慰めている。
「ごめん、君には悪い事をしたと思ってるよ。水色のフリフリさん」
「ぴー! それ、それ、それ、ぱ、ぱぱぱぱぱ、ぱんつ!」
「お前、謝る気ないだろ!」
ここはオレが怒る所だ。同じく水色フリフリを見てしまった男として、責任もって怒ろう!
「よし、やっぱり殺そう」
「アーニー!」
にっこりほほ笑んだスティアと、真っ青な顔で少年を庇うフルール。
それを横目に震え上がるシア。気持ちはよくわかるぞ。
「そこを退け、フルール」
「い、いえ、あの、そ、それだけは!」
少年の前で手を広げるフルールに、スティアは邪悪な笑みを浮かべる。
「大方お前の弟だろう。それならば話が早い。奴を始末して、調書を一枚だけ提出する。簡単な仕事だな」
「ま、待って……待って下さい! アーニー、早く謝って!」
「ま、待て、スティア。早まるな!」
あの目、本気だ! オレは慌ててスティアに駆け寄ると、妹の肩を掴んだ。
「止めてくれるな、クルト。下着を見て鼻の下を伸ばしていたお前も、あいつと道連れにするぞ」
「え、そ、それはちょっと」
「あ、諦めないで! 諦めないで下さい!」
スティアに逆らうのを止めようかな、と思ったタイミングで、フルールから縋るような雰囲気を持った大きな声を出されてしまった。仕方ない。妹を止めるか。
「ほら、あの、あいつがフルールの弟っていうのなら、オレ達と同じ精術師だろう?」
「それが?」
「え、っと……」
それが、と言われると、困る。
「精霊さん、どんな形なの? ルト達と同じ鳥さん?」
「ふん、そんなわけ無いじゃん。これだから一般人……いや、大魔法使い様は」
「だって見えないんだもん。見たいのに」
さっきまで泣きそうになっていたシアは、既に通常モードになっていた。もしかしたら、空気を換える為にモードを変えたのかもしれないが。
少年の発言に唇をとがらせていると、ベルンシュタインが何体か彼女の肩にとまった。とんだ精霊ホイホイだ。
「特別に教えてあげる。ベルンシュタインは蝶の形をしているんだ。羽は琥珀のように美しい」
「おお……! 麗しいお方がいらっしゃるのか!」
シアは見えていないのであたりをきょろきょろと見回しているが、それに気を良くしたのかベルンシュタインが更に二体頭部にくっついた。
「よし、辞世の句を言い終えたようだな。殺そう」
「ま、まままま、待って! 待って下さい!」
結局雰囲気は変わらず、スティアは相変わらず殺気を漲らせている。いい加減こえーよ。怖さから解放されたいんだけど。
「アーニー!」
「……フルール。あいつはお前の弟って事で間違いはないんだな?」
またしても叱ろうとするフルールに、オレは話しかける。いい加減恐怖のスティア様から解放されたいのだ。
「は、はい。わたしの弟のアーニストです」
彼女が頷いたのを確認してから、オレはアーニストへと向き直る。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ! 管理官からの依頼で、お前たちの調査に来た!」
「くっ、卑怯な! 国の犬に成り下がり、精術師の誇りを失くした奴に名乗りたくなんてないのに……ないのに! 僕はベルンシュタイン! アーニスト・ベルンシュタインだよ! このクソッタレ!」
アーニストは不機嫌そうにしながらも、全力で名乗る。しっかりとオレを貶めながらも、ここに来て初めて、ちゃんと名乗ったのでオレとしては満足だ。
ベルは首を傾げて、近くにいた魔王――もとい、スティアに「あの態度はどういう意味だ?」と尋ねた。よくそんな勇気があったと思う。素直に尊敬するわ。
「私達は精霊に力を借りているからな。名前は精霊の名前。それを名乗らないのは力を貸してくれる精霊への失礼に繋がるんだ。だから名乗らなければ、精術の力が弱まる」
「何で弱くなっちゃうの?」
続きの質問はシアがした。
「失礼な事をする相手に力を貸したいとは思うまい。私がお前に力を貸したくないのと同じように」
「あ、あたし、スティアに何かしたっけ!?」
「……はぁ。削げればいいのに」
スティアはため息交じりにシアの胸をじっとりと睨む。
睨んだって大きな胸は削げねーよ。削げたら怖いし。つーか、削げたら宝が消失するようなもんだ。
正直、スティアの私怨で世の中の巨乳が消えてしまったらオレは泣く。
「なんだかクルトが殺してくれと言った気がしたな」
「言ってねーよ! 一々物騒だな!」
オレの内心にカマかけるなよ! 巨乳好きで悪かったな!
「まぁいい。私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲル。よし、死ね」
「止めろってば! スティア落ち着けってば!」
自分も名乗って満足すると、スティアはアーニストに向けてにっこりと笑った。笑顔がより怖い。
「あたしは、ネメシア・ツェーン・でぃーちゅたー……・でぃーすちゃー……」
「彼女はネメシア・ツェーン・ディースターヴェーク。オレはミリオンベル・アイン・アルベルト。国の依頼で、フルール・ベルンシュタインとアーニスト・ベルンシュタインの調査に来た。本人である事が確認出来たし、もういっそここで調書を取ってしまいたい」
相変わらず自分の苗字を言う事の出来ないシアの続きは、ベルが請け負った。ついでに、オレ達がここに来た理由までさらっと明かす。
確かに、ここで答えて貰えれば後は下山するだけで簡単だ。
「はっ。誰がそんなの答えると思ってるの?」
「と、なればお前の家まで行ってお邪魔してじっくりと聞き取りするしかなさそうだな」
ベルがため息交じりに言う。出来ればさっさと帰りたかったであろう事が、よくわかる。
「誰が家の敷居を跨がせるもんか!」
「アーニー! いい加減にしなさい!」
フルールがアーニストを叱責すると、オレ達に向き直って頭を下げた。
「すみません、皆さん……。是非家に上がって、ゆっくりして行って下さいね」
「姉様!」
「わたしが招いたの。聞き分けのないアーニーには、もう一回めっ、て言わないとダメなの?」
アーニストは「ぐぬぬ」と呻くと、やがて断腸の思いであるかのような、ものすっごい渋い顔をしながら「どうぞ、お客様」とオレ達に言う。
「あ、ねぇねぇ、アーニー、って呼んでもいいの?」
「呼んでもいいよ、ボインちゃん」
「ボイン!? ちょ、ちょっとそれは、イヤかな……。シアって呼んでもらえると嬉しいんだけど」
ボインちゃん呼びは酷いな。オレだって言わない! 心の中でちびっこ巨乳とかは思ってたけど!
「で? 名前の確認だけ?」
「んーん。甘いのは好きかな、って」
「何で?」
アーニストは訝しげにシアを見る。特に胸を重点的に。
「アーニー、チョコレートの匂いがしたから」
なんだこいつの嗅覚。甘いものだけに発揮されるのか? オレに備わってない機能で良かったわ。
「それが何か?」
「お家招いてくれたお礼に、後であたしのお菓子を少しあげるね!」
「ありがとうボイ……シア。君の事を歓迎するよ」
こいつ、まさか甘いもの仲間か!? シアと同じくらいの、砂糖で出来た肉体の持ち主か!?
「それとついでに、誰かあたしに肩を貸してくれると嬉しいな」
「どうかしたのか?」
彼女に聞き返したのは、ベルだった。
「さっき蔓に捕まった時に、体力使い果たしてあと半分は登れそうもない」
「この都会っ子!」
オレは思わず叫んでいた。どんだけ体力ないんだ! せめて足くじいたとか言えば良いものを、体力を使い果たしたと来たもんだ。
「おい、クルト。俺がお前の荷物を持てば、こいつを背負えるか?」
「ま、まぁ、こんなちっこいヤツの一人や二人、背負えるけどさ」
「待て。だったらクルトの荷物はあそこの死にぞこない……もとい、アーニストに持たせればいい。誰のせいかと言えば、あいつのせいなんだからな。ついでだからネメシアの何が入っているか分からないリュックサックも持ってもらえばいい」
スティアがオレとベルの会話の間に入ると、ジロっとアーニストを睨みつける。
「だったら、僕がシアを抱っこでもおんぶでもしたいものだね」
「駄目だ。お前は背中に押し付けられる巨大な脂肪の塊を喜ぶだろう。そんな顔を見たら、ネメシアもろとも殺したくなる」
「あたし巻き添え!」
そりゃダメだ。ここは同じパンツを見てしまったものとして、責任を持って発言しよう。
「アーニストはオレとシアの荷物持ち。オレがシアっていう荷物持ちに徹する!」
胸を張って堂々と宣言すると、シアが「あたし、荷物!?」と声を上げた。どう考えたってお荷物だろう。
「はっ、何でこの僕が?」
「アーニー、荷物持ちしなさい。こうなったのはアーニーのせいなんだから」
「はい、姉様。喜んで!」
こいつ、シスコンなのかなぁ。
なんにせよ、どうやって上るかが決まったので行動開始だ。
アーニストはオレとシアの荷物を持ち、オレがシアを背負う。背中に、柔らかい二つの膨らみが押し付けられて、思わず緩みそうになる顔を引き締めた。そうでもしなければ、スティアにシアもろとも斬り殺されるかもしれないのだ。
こうやって山を登り始める事になったのだった。
***
が――オレは、ぐしゃっと地面に倒れ込む。あんにゃろ!
素早く体制を整えると、スティアは悠々と立ち、一足先に蔓から解放されていたベルは、シアを抱き留めていた。
何やってもイケメンだ……。
「アーニー、駄目でしょ! 謝る相手はわたしじゃない事、分かってるんじゃないの?」
「……ごめんなさいね、お客様」
「よし、殺そう」
ほら、渋々謝るからウチの悪魔が大変お怒りですよ! にっこり笑って殺そう発言とか怖すぎ。
「悪いけど、君にはあまり興味ないんだよね。男か女かも微妙だし」
「アーニー!」
「よし、殺そう」
ほら、大魔王がキレる前に本気で謝った方が良い! 怖い!
「そうだよ! あたしとスティア、スカートめくれちゃったんだよ! びっくりしたんだよ! こ、怖かったんだよ……」
「おい、泣かなくてもいいだろ。無事だったんだし」
シアも必死に訴えると、見る見るうちにやたらとデカい目に涙がたまっていく。都会っ子にはある筈の無い体験に、いっぱいいっぱいになってしまったのかもしれない。それをベルが慰めている。
「ごめん、君には悪い事をしたと思ってるよ。水色のフリフリさん」
「ぴー! それ、それ、それ、ぱ、ぱぱぱぱぱ、ぱんつ!」
「お前、謝る気ないだろ!」
ここはオレが怒る所だ。同じく水色フリフリを見てしまった男として、責任もって怒ろう!
「よし、やっぱり殺そう」
「アーニー!」
にっこりほほ笑んだスティアと、真っ青な顔で少年を庇うフルール。
それを横目に震え上がるシア。気持ちはよくわかるぞ。
「そこを退け、フルール」
「い、いえ、あの、そ、それだけは!」
少年の前で手を広げるフルールに、スティアは邪悪な笑みを浮かべる。
「大方お前の弟だろう。それならば話が早い。奴を始末して、調書を一枚だけ提出する。簡単な仕事だな」
「ま、待って……待って下さい! アーニー、早く謝って!」
「ま、待て、スティア。早まるな!」
あの目、本気だ! オレは慌ててスティアに駆け寄ると、妹の肩を掴んだ。
「止めてくれるな、クルト。下着を見て鼻の下を伸ばしていたお前も、あいつと道連れにするぞ」
「え、そ、それはちょっと」
「あ、諦めないで! 諦めないで下さい!」
スティアに逆らうのを止めようかな、と思ったタイミングで、フルールから縋るような雰囲気を持った大きな声を出されてしまった。仕方ない。妹を止めるか。
「ほら、あの、あいつがフルールの弟っていうのなら、オレ達と同じ精術師だろう?」
「それが?」
「え、っと……」
それが、と言われると、困る。
「精霊さん、どんな形なの? ルト達と同じ鳥さん?」
「ふん、そんなわけ無いじゃん。これだから一般人……いや、大魔法使い様は」
「だって見えないんだもん。見たいのに」
さっきまで泣きそうになっていたシアは、既に通常モードになっていた。もしかしたら、空気を換える為にモードを変えたのかもしれないが。
少年の発言に唇をとがらせていると、ベルンシュタインが何体か彼女の肩にとまった。とんだ精霊ホイホイだ。
「特別に教えてあげる。ベルンシュタインは蝶の形をしているんだ。羽は琥珀のように美しい」
「おお……! 麗しいお方がいらっしゃるのか!」
シアは見えていないのであたりをきょろきょろと見回しているが、それに気を良くしたのかベルンシュタインが更に二体頭部にくっついた。
「よし、辞世の句を言い終えたようだな。殺そう」
「ま、まままま、待って! 待って下さい!」
結局雰囲気は変わらず、スティアは相変わらず殺気を漲らせている。いい加減こえーよ。怖さから解放されたいんだけど。
「アーニー!」
「……フルール。あいつはお前の弟って事で間違いはないんだな?」
またしても叱ろうとするフルールに、オレは話しかける。いい加減恐怖のスティア様から解放されたいのだ。
「は、はい。わたしの弟のアーニストです」
彼女が頷いたのを確認してから、オレはアーニストへと向き直る。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ! 管理官からの依頼で、お前たちの調査に来た!」
「くっ、卑怯な! 国の犬に成り下がり、精術師の誇りを失くした奴に名乗りたくなんてないのに……ないのに! 僕はベルンシュタイン! アーニスト・ベルンシュタインだよ! このクソッタレ!」
アーニストは不機嫌そうにしながらも、全力で名乗る。しっかりとオレを貶めながらも、ここに来て初めて、ちゃんと名乗ったのでオレとしては満足だ。
ベルは首を傾げて、近くにいた魔王――もとい、スティアに「あの態度はどういう意味だ?」と尋ねた。よくそんな勇気があったと思う。素直に尊敬するわ。
「私達は精霊に力を借りているからな。名前は精霊の名前。それを名乗らないのは力を貸してくれる精霊への失礼に繋がるんだ。だから名乗らなければ、精術の力が弱まる」
「何で弱くなっちゃうの?」
続きの質問はシアがした。
「失礼な事をする相手に力を貸したいとは思うまい。私がお前に力を貸したくないのと同じように」
「あ、あたし、スティアに何かしたっけ!?」
「……はぁ。削げればいいのに」
スティアはため息交じりにシアの胸をじっとりと睨む。
睨んだって大きな胸は削げねーよ。削げたら怖いし。つーか、削げたら宝が消失するようなもんだ。
正直、スティアの私怨で世の中の巨乳が消えてしまったらオレは泣く。
「なんだかクルトが殺してくれと言った気がしたな」
「言ってねーよ! 一々物騒だな!」
オレの内心にカマかけるなよ! 巨乳好きで悪かったな!
「まぁいい。私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲル。よし、死ね」
「止めろってば! スティア落ち着けってば!」
自分も名乗って満足すると、スティアはアーニストに向けてにっこりと笑った。笑顔がより怖い。
「あたしは、ネメシア・ツェーン・でぃーちゅたー……・でぃーすちゃー……」
「彼女はネメシア・ツェーン・ディースターヴェーク。オレはミリオンベル・アイン・アルベルト。国の依頼で、フルール・ベルンシュタインとアーニスト・ベルンシュタインの調査に来た。本人である事が確認出来たし、もういっそここで調書を取ってしまいたい」
相変わらず自分の苗字を言う事の出来ないシアの続きは、ベルが請け負った。ついでに、オレ達がここに来た理由までさらっと明かす。
確かに、ここで答えて貰えれば後は下山するだけで簡単だ。
「はっ。誰がそんなの答えると思ってるの?」
「と、なればお前の家まで行ってお邪魔してじっくりと聞き取りするしかなさそうだな」
ベルがため息交じりに言う。出来ればさっさと帰りたかったであろう事が、よくわかる。
「誰が家の敷居を跨がせるもんか!」
「アーニー! いい加減にしなさい!」
フルールがアーニストを叱責すると、オレ達に向き直って頭を下げた。
「すみません、皆さん……。是非家に上がって、ゆっくりして行って下さいね」
「姉様!」
「わたしが招いたの。聞き分けのないアーニーには、もう一回めっ、て言わないとダメなの?」
アーニストは「ぐぬぬ」と呻くと、やがて断腸の思いであるかのような、ものすっごい渋い顔をしながら「どうぞ、お客様」とオレ達に言う。
「あ、ねぇねぇ、アーニー、って呼んでもいいの?」
「呼んでもいいよ、ボインちゃん」
「ボイン!? ちょ、ちょっとそれは、イヤかな……。シアって呼んでもらえると嬉しいんだけど」
ボインちゃん呼びは酷いな。オレだって言わない! 心の中でちびっこ巨乳とかは思ってたけど!
「で? 名前の確認だけ?」
「んーん。甘いのは好きかな、って」
「何で?」
アーニストは訝しげにシアを見る。特に胸を重点的に。
「アーニー、チョコレートの匂いがしたから」
なんだこいつの嗅覚。甘いものだけに発揮されるのか? オレに備わってない機能で良かったわ。
「それが何か?」
「お家招いてくれたお礼に、後であたしのお菓子を少しあげるね!」
「ありがとうボイ……シア。君の事を歓迎するよ」
こいつ、まさか甘いもの仲間か!? シアと同じくらいの、砂糖で出来た肉体の持ち主か!?
「それとついでに、誰かあたしに肩を貸してくれると嬉しいな」
「どうかしたのか?」
彼女に聞き返したのは、ベルだった。
「さっき蔓に捕まった時に、体力使い果たしてあと半分は登れそうもない」
「この都会っ子!」
オレは思わず叫んでいた。どんだけ体力ないんだ! せめて足くじいたとか言えば良いものを、体力を使い果たしたと来たもんだ。
「おい、クルト。俺がお前の荷物を持てば、こいつを背負えるか?」
「ま、まぁ、こんなちっこいヤツの一人や二人、背負えるけどさ」
「待て。だったらクルトの荷物はあそこの死にぞこない……もとい、アーニストに持たせればいい。誰のせいかと言えば、あいつのせいなんだからな。ついでだからネメシアの何が入っているか分からないリュックサックも持ってもらえばいい」
スティアがオレとベルの会話の間に入ると、ジロっとアーニストを睨みつける。
「だったら、僕がシアを抱っこでもおんぶでもしたいものだね」
「駄目だ。お前は背中に押し付けられる巨大な脂肪の塊を喜ぶだろう。そんな顔を見たら、ネメシアもろとも殺したくなる」
「あたし巻き添え!」
そりゃダメだ。ここは同じパンツを見てしまったものとして、責任を持って発言しよう。
「アーニストはオレとシアの荷物持ち。オレがシアっていう荷物持ちに徹する!」
胸を張って堂々と宣言すると、シアが「あたし、荷物!?」と声を上げた。どう考えたってお荷物だろう。
「はっ、何でこの僕が?」
「アーニー、荷物持ちしなさい。こうなったのはアーニーのせいなんだから」
「はい、姉様。喜んで!」
こいつ、シスコンなのかなぁ。
なんにせよ、どうやって上るかが決まったので行動開始だ。
アーニストはオレとシアの荷物を持ち、オレがシアを背負う。背中に、柔らかい二つの膨らみが押し付けられて、思わず緩みそうになる顔を引き締めた。そうでもしなければ、スティアにシアもろとも斬り殺されるかもしれないのだ。
こうやって山を登り始める事になったのだった。
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