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一章
1-19 女の子と一緒だと問題だろ?
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ベルは、夕食の支度をしていたフルールを手伝っていたようだったし、シアはアーニストとお菓子を分け合ってきゃっきゃしていた。
スティアは、ベルの持って来ていた書類を見て、質問事項をしっかりと頭に叩き込んでいるようだった。オレもスティアの手元の書類を覗き込んで、頑張って覚えようとしていたが、どうも覚えられない。
名前、年齢、性別、現在の仕事に対する感情……などなど。あとは、精術師は力が弱まっていないかの、実技での確認がある。などなどの部分は、スティアに覚えて置いて貰おう。
というか、弱まる、か。何か、フルールの大魔法使い様万歳、みたいなのがちょっと不安だ。
そんな事を考えながら、見える範囲にいたアーニストに視線を向けると、こっちにはバッチリたっぷり精霊がついていた。特にシアと楽しそうに話をしているから、あの辺りの精霊密度が凄い。
何しろシアの後頭部には、ツークフォーゲルだけではなく、ベルンシュタインまでみっしりとくっついていたのである。とんだ精霊ホイホイだ。あいつみたいなヤツが、精術師の家系に生まれていたら世の中精霊で盛り上がっていたかもしれない。
そうこうしている内に食事が出来上がり、魔法の明かりの灯るリビングで晩餐となった。
見事に動物性たんぱく質の抜け落ちた食卓だ。
「あー、セロリー!」
シアは嬉しそうにサラダのセロリーを齧ると、もしゃもしゃと咀嚼している。もしかすると、甘い物だけではなく、ちょっと癖のある野菜も好きなのかもしれない。
「お野菜、味が濃くておいしいね」
「ふん、当たり前じゃん。僕たちベルンシュタインが管理している畑で採れた野菜なんだから」
「そっかー。アーニーもルルちゃんも、二人のお父さんもお母さんも、勿論ベルンシュタインも、みんなすごいんだね!」
純粋かつ明るく返されて、アーニストは少し頬を赤らめて「まぁね」と答えた。フルールも嬉しそうに微笑んでるし、ベルンシュタインは数体、シアに頬ずりをしている。
それにしても、やはり植物や土に関連した精術師と精霊であるおかげで、土とか育ちとか良いみたいだな。厳密にはよくわかんないけど、とりあえずなんかすごいんだろう。
「なんかこの野菜、食べた事がある気がする」
ベルはベルで、不思議そうに首を傾げながら食事を続けた。
「なんだかこう、実家を思い出すな」
「まぁ、確かに」
スティアがしみじみと頷いたのに、オレも続く。
オレ達の家も、こういう感じの食事が多かった。基本的に自給自足。川で魚を釣ったりすれば焼き魚はもれなくつく。
尤も、実家の家庭菜園で採れた野菜よりも、こっちの野菜の方がずっと味が濃くて旨いんだけどな。
「あ、お風呂は沸いているので、食事の後にでもどうぞ」
「わーい、ありがとー!」
思い出した、というようにフルールが微笑むと、シアが明るく返した。
「クルト、一緒に入ろうか」
「何でだよ、嫌だよ」
唐突なベルのお誘いに、オレは即行で首を横に振る。
「何が悲しくて狭い風呂場で男と密着して入らないといけないんだ」
「ちょっと、人の家のお風呂場を見てもいないのに狭いと決めつけるのは止めてくれる? ま、広くはないんだけど」
間違ってないなら良いじゃんか。ムッとしつつも、先に失礼な事を言ったのはオレなので、一応「悪かった」と謝っておいた。
「で、何で男と一緒にお風呂だよ」
「女の子と一緒だと問題だろ?」
その、「やれやれ、分かってないな」みたいな顔止めろ。オレは正しい筈なのに間違ってる気がしてくる上に、めちゃくちゃ腹立つ。
「問題に決まってるだろ! 女の子と密着してお風呂なんて、うらやま……いや、けしから……いや、ダメだ!」
「内心がだだ漏れだよ、クルトさん。そりゃあ僕だって女の子とお風呂に入りたいけど」
「お前は少し隠せよ! 何でシアを見るんだよ」
シアが「ぴぃ」と小さく悲鳴を上げて、アーニストの視線から逃れるように身を捩った。
「あ、アーニー」
「何?」
「覗かないでね」
「……どうかな?」
シアが、またしても小さく鳴いた。今回は「ぴきゅ」だった。
「なんだ、女の入浴シーンを覗く趣味でもあるのか?」
スティアが軽蔑のまなざしをアーニストへと向ける。
「安心して。僕は胸の大きな女の子の裸が見たいだけだから。男女のどちらともとれる程まっ平らな君は眼中にないよ」
「死ね。いや、殺す」
「や、ややや、止めてください。ごめんなさいごめんなさい!」
フルールが慌てて謝るが、スティアは手にしていたフォークをアーニストに突きつけている。殺気を漲らせた瞳は、この場において異質なものだ。
「お前に謝られてもしょうがない。私のはらわたは既に煮えくり返っているのだ。と、いうわけで黙って殺そう」
「や、止めろスティア。お前の手には今、武器が握られているんだぞ!」
主に、フォークという銀色の武器が。物騒だ。
「そーだ! あたし、スティアと一緒に入る。そしたら覗かれない」
「その代わり、削がれるがな」
その大きな二つの膨らみが。続く言葉は容易に想像出来る。それはシアも同じだったようで、ギギギとベルの方を見た。
「……えっと、ミリィ、一緒にどうかな?」
「この際、シアと一緒でもいい」
「良い訳ねーだろ! 何で男に覗かれるのが嫌で、男と入るんだよ!」
しかも、だったらオレと一緒の入浴でもいいじゃねーか! ベルも頷くなよ!
「え、じゃあ、ルト一緒に入る?」
「は? は、ははは、入れるか! バカ!」
こっちに振るな! ちょっとグラっとくるからこっちに振るな! 生でおっぱい見たいとか思っちゃうからこっちに振るな! 既に想像し始めちゃったから、こっちに振るな!
「じゃあ、クルトは俺と一緒だな」
「だからイヤだってば!」
なんかちょっとギリギリなんだよ、オレの中で! お前の存在が!
「え、えと、えっと、と、とりあえず、アーニーは覗いちゃ、めっ! そ、それも、大魔法使い様の入浴を覗くだなんて……!」
「ごめんなさい姉様。姉様がそう言うのなら、決して覗きません」
アーニストは、今までの騒ぎなど無かったかのようにフルールに頭を下げた。下げる相手、間違ってると思うのはオレだけか?
あと、フルールの周りのベルンシュタインが微妙な顔してるぞ。大魔法使い様ー、なんて言うからだろうなぁ。
「ま、それとこれとは話が別だからな。後で殺しておこう」
「や、いや、ちょ、ちょっと、あの、ご、ごご、ごめんなさい! こ、ころ、殺すのは、こ、こここ、困ります!」
やはりアーニストではなくフルールが謝る。スティアを怒らせた元凶は、涼しい顔をしてスープを啜っていた。
「……じゃあ、せめて食事を終えたら直ぐに俺に入らせてもらえないか?」
「いいよー」
「ま、一応お客様だしね。お先にどうぞ」
シアとアーニストが直ぐに答えると、ベルは安心したような表情を浮かべ、それからオレをじっと見つめる。
「部屋に戻るのは、クルトと一緒に戻る」
「お、おう」
「くっついて行こう」
「お前、そんなキャラだったか!?」
眉をさげて、主人に置いて行かれた犬みたいな顔をしている彼が、唐突なイメージチェンジをしているようにしか見えない。
イメージチェンジをする事は否定しないが、出来ればオレを巻き込まないで欲しかった。
「一緒に寝よう」
「あぁ、同室だもんな! ベッド隣り合ってたもんな!」
「同じベッドで」
「止めろ! 本当、そろそろ怖くなってきたから止めてくれ! ここに着いたあたりのお前に戻ってくれ!」
本当に、怪しいんだってば! そのイメチェン止めろ!
こうして、ベルの疑惑を残したまま食事は進み、ギリギリ暗くなる前にベルは一番風呂を貰ったのだった。
***
スティアは、ベルの持って来ていた書類を見て、質問事項をしっかりと頭に叩き込んでいるようだった。オレもスティアの手元の書類を覗き込んで、頑張って覚えようとしていたが、どうも覚えられない。
名前、年齢、性別、現在の仕事に対する感情……などなど。あとは、精術師は力が弱まっていないかの、実技での確認がある。などなどの部分は、スティアに覚えて置いて貰おう。
というか、弱まる、か。何か、フルールの大魔法使い様万歳、みたいなのがちょっと不安だ。
そんな事を考えながら、見える範囲にいたアーニストに視線を向けると、こっちにはバッチリたっぷり精霊がついていた。特にシアと楽しそうに話をしているから、あの辺りの精霊密度が凄い。
何しろシアの後頭部には、ツークフォーゲルだけではなく、ベルンシュタインまでみっしりとくっついていたのである。とんだ精霊ホイホイだ。あいつみたいなヤツが、精術師の家系に生まれていたら世の中精霊で盛り上がっていたかもしれない。
そうこうしている内に食事が出来上がり、魔法の明かりの灯るリビングで晩餐となった。
見事に動物性たんぱく質の抜け落ちた食卓だ。
「あー、セロリー!」
シアは嬉しそうにサラダのセロリーを齧ると、もしゃもしゃと咀嚼している。もしかすると、甘い物だけではなく、ちょっと癖のある野菜も好きなのかもしれない。
「お野菜、味が濃くておいしいね」
「ふん、当たり前じゃん。僕たちベルンシュタインが管理している畑で採れた野菜なんだから」
「そっかー。アーニーもルルちゃんも、二人のお父さんもお母さんも、勿論ベルンシュタインも、みんなすごいんだね!」
純粋かつ明るく返されて、アーニストは少し頬を赤らめて「まぁね」と答えた。フルールも嬉しそうに微笑んでるし、ベルンシュタインは数体、シアに頬ずりをしている。
それにしても、やはり植物や土に関連した精術師と精霊であるおかげで、土とか育ちとか良いみたいだな。厳密にはよくわかんないけど、とりあえずなんかすごいんだろう。
「なんかこの野菜、食べた事がある気がする」
ベルはベルで、不思議そうに首を傾げながら食事を続けた。
「なんだかこう、実家を思い出すな」
「まぁ、確かに」
スティアがしみじみと頷いたのに、オレも続く。
オレ達の家も、こういう感じの食事が多かった。基本的に自給自足。川で魚を釣ったりすれば焼き魚はもれなくつく。
尤も、実家の家庭菜園で採れた野菜よりも、こっちの野菜の方がずっと味が濃くて旨いんだけどな。
「あ、お風呂は沸いているので、食事の後にでもどうぞ」
「わーい、ありがとー!」
思い出した、というようにフルールが微笑むと、シアが明るく返した。
「クルト、一緒に入ろうか」
「何でだよ、嫌だよ」
唐突なベルのお誘いに、オレは即行で首を横に振る。
「何が悲しくて狭い風呂場で男と密着して入らないといけないんだ」
「ちょっと、人の家のお風呂場を見てもいないのに狭いと決めつけるのは止めてくれる? ま、広くはないんだけど」
間違ってないなら良いじゃんか。ムッとしつつも、先に失礼な事を言ったのはオレなので、一応「悪かった」と謝っておいた。
「で、何で男と一緒にお風呂だよ」
「女の子と一緒だと問題だろ?」
その、「やれやれ、分かってないな」みたいな顔止めろ。オレは正しい筈なのに間違ってる気がしてくる上に、めちゃくちゃ腹立つ。
「問題に決まってるだろ! 女の子と密着してお風呂なんて、うらやま……いや、けしから……いや、ダメだ!」
「内心がだだ漏れだよ、クルトさん。そりゃあ僕だって女の子とお風呂に入りたいけど」
「お前は少し隠せよ! 何でシアを見るんだよ」
シアが「ぴぃ」と小さく悲鳴を上げて、アーニストの視線から逃れるように身を捩った。
「あ、アーニー」
「何?」
「覗かないでね」
「……どうかな?」
シアが、またしても小さく鳴いた。今回は「ぴきゅ」だった。
「なんだ、女の入浴シーンを覗く趣味でもあるのか?」
スティアが軽蔑のまなざしをアーニストへと向ける。
「安心して。僕は胸の大きな女の子の裸が見たいだけだから。男女のどちらともとれる程まっ平らな君は眼中にないよ」
「死ね。いや、殺す」
「や、ややや、止めてください。ごめんなさいごめんなさい!」
フルールが慌てて謝るが、スティアは手にしていたフォークをアーニストに突きつけている。殺気を漲らせた瞳は、この場において異質なものだ。
「お前に謝られてもしょうがない。私のはらわたは既に煮えくり返っているのだ。と、いうわけで黙って殺そう」
「や、止めろスティア。お前の手には今、武器が握られているんだぞ!」
主に、フォークという銀色の武器が。物騒だ。
「そーだ! あたし、スティアと一緒に入る。そしたら覗かれない」
「その代わり、削がれるがな」
その大きな二つの膨らみが。続く言葉は容易に想像出来る。それはシアも同じだったようで、ギギギとベルの方を見た。
「……えっと、ミリィ、一緒にどうかな?」
「この際、シアと一緒でもいい」
「良い訳ねーだろ! 何で男に覗かれるのが嫌で、男と入るんだよ!」
しかも、だったらオレと一緒の入浴でもいいじゃねーか! ベルも頷くなよ!
「え、じゃあ、ルト一緒に入る?」
「は? は、ははは、入れるか! バカ!」
こっちに振るな! ちょっとグラっとくるからこっちに振るな! 生でおっぱい見たいとか思っちゃうからこっちに振るな! 既に想像し始めちゃったから、こっちに振るな!
「じゃあ、クルトは俺と一緒だな」
「だからイヤだってば!」
なんかちょっとギリギリなんだよ、オレの中で! お前の存在が!
「え、えと、えっと、と、とりあえず、アーニーは覗いちゃ、めっ! そ、それも、大魔法使い様の入浴を覗くだなんて……!」
「ごめんなさい姉様。姉様がそう言うのなら、決して覗きません」
アーニストは、今までの騒ぎなど無かったかのようにフルールに頭を下げた。下げる相手、間違ってると思うのはオレだけか?
あと、フルールの周りのベルンシュタインが微妙な顔してるぞ。大魔法使い様ー、なんて言うからだろうなぁ。
「ま、それとこれとは話が別だからな。後で殺しておこう」
「や、いや、ちょ、ちょっと、あの、ご、ごご、ごめんなさい! こ、ころ、殺すのは、こ、こここ、困ります!」
やはりアーニストではなくフルールが謝る。スティアを怒らせた元凶は、涼しい顔をしてスープを啜っていた。
「……じゃあ、せめて食事を終えたら直ぐに俺に入らせてもらえないか?」
「いいよー」
「ま、一応お客様だしね。お先にどうぞ」
シアとアーニストが直ぐに答えると、ベルは安心したような表情を浮かべ、それからオレをじっと見つめる。
「部屋に戻るのは、クルトと一緒に戻る」
「お、おう」
「くっついて行こう」
「お前、そんなキャラだったか!?」
眉をさげて、主人に置いて行かれた犬みたいな顔をしている彼が、唐突なイメージチェンジをしているようにしか見えない。
イメージチェンジをする事は否定しないが、出来ればオレを巻き込まないで欲しかった。
「一緒に寝よう」
「あぁ、同室だもんな! ベッド隣り合ってたもんな!」
「同じベッドで」
「止めろ! 本当、そろそろ怖くなってきたから止めてくれ! ここに着いたあたりのお前に戻ってくれ!」
本当に、怪しいんだってば! そのイメチェン止めろ!
こうして、ベルの疑惑を残したまま食事は進み、ギリギリ暗くなる前にベルは一番風呂を貰ったのだった。
***
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