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二章
2-1 どうするの? どうしちゃうの!? どうしてやろうか!
しおりを挟む「すみません。直ぐに依頼のお代は払えないのですが、お願いしたい事がありまして……」
昼食を終えた後のマッタリタイムに突入していた何でも屋の扉を叩いたのは、実に気弱そうなヤツだった。
年齢はオレと同じくらい。真っ直ぐサラサラの金髪に紫の瞳。顔立ちは普通。
やたらと背が高いが、身体から必要な肉ごとそぎ落としてしまったような、なんとも不安になる体型。この体型だと、長身を羨む気持ちは自然と抜け落ちてしまう。
視覚的情報を認識したそいつの表情は、困り果てたもので、事務所に残っていたオレとスティア、所長で顔を見合わせた。
因みに他のメンバーはといえば、アリアさんが高熱で寝込み、シアはその看病。ベルはキッチンでアリアさんが食べやすそうなものを量産中だ。
「とりあえず、話だけでも聞きましょうか」
「そうですね」
所長が客人にそう言うと、スティアが直ぐに頷く。このちゃっかり妹! 兄より先に相槌を打つか!
「え、えっと、ど、どうぞお座り下さい!」
オレは名誉挽回とばかりに、椅子を引いて座る事を促す。するとそいつは、おずおずと腰かけた。
「どうされましたか?」
所長が営業スマイルを顔に張り付けて問う。
「ボクは、グロリオーサ・アーレルスマイアーです。あの、財布を落としてしまって……。その……財布の中には家の鍵が入っていて、本当に困ってしまって……」
「それはそれは」
所長が相槌を打っていると、キッチンからベルがアイスコーヒー片手に出て来た。そしてそれを客の前に置くと、再びキッチンに戻る。
いいなー、アイスコーヒー。オレも欲しい。
「探し回っている途中で、何でも屋という看板を見て、それで……」
「藁にも縋る思いで、という事ですね」
「そうです」
そりゃ困るわ。先払いも出来ないわ。
依頼人――グロリオーサは、自分の前に置かれたアイスコーヒーを一気に煽る。
既に季節は七月。オレ達の制服も夏服へと変わり、こんな時期に外で探し物をしていたら、そりゃあ喉も乾いていた事だろう。
「クルトもスティアも、探し物は得意だよね?」
「得意です」
「お、おう! オレも得意です!」
オレは、所長の疑問にスティアに負けじと答える。
……所長からの呼び捨て、やっぱりむず痒い。
ベルンシュタインの一件から一週間。事件のあらましを話して、正式採用になってから、所長はオレとスティアとシアを呼び捨てにするようになったのだ。
「じゃ、成功報酬って事でお受けしますよ」
所長は軽く答えると、報酬も安めに設定して伝えた。
「そ、それじゃあ、お願いします!」
そいつは安堵の息を吐き出す。
「では、私が探してきます」
「あ、スティアずりーぞ!」
オレだって、なんかこう、株を上げる様な事をしたいのに!
「ま、早い者勝ちって事で、スティアにお願いするね」
「任せて下さい。直ぐにでも財布を探し出し、報酬を手に入れて見せましょう」
「お、お願いします」
グロリオーサは、スティアに頭を下げた。完全にスティアの仕事決定だ。
スティアは立ち上がると、直ぐに傍にいたツークフォーゲルに頼み、グロリオーサと事務所から出て行った。
「ちぇー」
「まぁまぁ。その内クルトにも仕事が来るよ。今日は暇なのを堪能しようか」
所長が軽い調子で笑う。まぁ、暇なのはいい。でも暇すぎると、この職場がつぶれるんじゃないかと心配になる。
やっとの事で就職したオレにとっては、ここが無くなってしまうのが恐ろしくてたまらないのだ。もう一度、地獄の就職活動をするのはごめんだ。
「あのぉ……」
暑い室内に、涼やかな声が舞い降りた。
慌てて声の方を見ると、事務所から伸びる階段の上から、アリアさんが声を掛けていた。
今日も今日とて美しい彼女の顔色は今、真っ青だ。
「アリア、やっぱりあたしも付きそうよ」
その彼女の傍に、部屋から出て来たばかりのちびっこ巨乳大魔法使いのシアが駆け寄る。
アリアさんは、シアに「大丈夫よー」とふわーっと答えると、よろよろと階段を下りてきた。同様にシアも、心配そうについてくる。
アリアさんは階段の一番下までたどり着くと、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。
「ちょ、だ、大丈夫ですか?」
「せ、せんめんき、を……」
「ぴー! アリア! アリアしっかり!」
「待ってて! 今持ってくるから!」
階段を下りきったら、具合悪いのが酷くなってるー!
オレ達がオロオロとしている内に、キッチンからベルが顔を出した。そしてアリアさんをひょいっと抱き上げてトイレまで連れて行き、色々となんとかしてから、また抱き上げて戻ってくると、今度はソファーに身体を横たえさせた。
バッチリ水分補給までさせた、完璧な看護だった。
「で、どうした? わざわざベッドから這い出してきたんだから、何か重要な話があったんだろ?」
ベル、イケメン過ぎるだろ……。
「所長が、ちゃんと覚えているか確認したくて」
「え? 何を?」
所長が首を傾げると、アリアさんは絶望的な視線を所長に向けた。
「今日は、就職管理官の方が調書を取りに来られる予定ですよ」
「そ、そう、だっけ?」
所長の口元が、ギギギ、と笑みを刻んだ。笑ってごまかしちゃおう精神が表に出まくりだ。
「何だよそれ! 所長、聞いてねーぞ!」
「俺も聞いてない」
「あたしも全然、ぱっぱらりーですよ!」
オレ、ベル、シアで一斉に所長に抗議する。
「それで、あの、ドアの開閉の音が聞こえて……誰か外に行っちゃったんじゃ、って」
「スティア、依頼受けて出ちゃったぞ」
「しょ、所長、どうするの? どうしちゃうの!? どうしてやろうか!」
「止めてその三段活用。最終的に僕に危害を加えそうになってるじゃん」
シアの物騒な質問に、所長はぎこちない笑みを浮かべたままゆるゆると首を左右に振った。
「いや、本当、どうしてやりましょうか?」
「じ、時間! 時間的に間に合うかもじゃん!」
ベルから向けられた冷たい視線に、所長は焦ったように取り繕う。
「それが……もう、手遅れ……」
え、手遅れ!? アリアさんの体調が!?
オレは心配でうわぁぁぁ、となったが、よく見ると彼女の視線は壁掛けの時計へと向かっていた。丁度、短針は2を、長針は12を指した所だったのである。
と、同時に、何でも屋の扉が叩かれた。
ノックの後に「就職管理局です」という声。完全に、手遅れだった。
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