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二章
2-4 調書を取らせて頂きます
しおりを挟む「調書を取らせて頂きます。担当は――」
「オレはベルの調書を取るッス!」
ジギタリスの言葉を遮り、ルースはベルに頬ずりをしまくった。ベルはまんざらでもない表情を浮かべている。
そうかー、まんざらでもないのかー……。オレには考えられないな。
「わたくしはこの方がいいですわ」
次にネモフィラが指差したのは、オレの後ろに隠れたままのシアだった。彼女は「ふぇー?」と何らかの動物の鳴き声のような声を上げるとひょいっと顔をネモフィラに向ける。
「……所長も大魔法使いで、13枚だけどな」
シアが良いと言った理由の心当たりと言えば大魔法使いである事くらい。それでもシアを選んだ理由がよくわからずに、不意に口をついた言葉だった。もちろん、小さめの声だったが。
「だって、この方、生理的に受け付けないんですもの」
オレがボソッとした呟きを聞き逃さなかったネモフィラは、所長の方に視線を向けると真面目なトーンで答えた。
「そりゃあ奇遇だね。僕も君みたいな子は生理的に受け付けないんだよ」
「まぁ。しかし、好かれなくても結構ですわ。わたくしとしては、貴方のようなだらしない13枚よりも、彼女の方がマシですわ」
うーわー。オレ、所長の意見にまるっと同意。オレも生理的に受け付けねーわ。この女。
「そういう訳で、僕はジス君か、ベルの調書を終えたルースに調書を取って貰うから、君とは話す必要が無いようだね」
「そうですわね。助かりましたわ」
ジギタリスは頭を抱え、大きな大きなため息を吐いた。
「調査をする相手への態度は、後程指導しておきます」
「そうして。さすがにこれは不快感マックスだよ」
「申し訳ありません」
眉間に皺を寄せた所長に、ジギタリスは頭を抱えるのを止め、抱えられずに解放された頭部を下げる方へと回した。所長に対して深々と頭を下げたジギタリスの服の袖を、オレの後ろから飛び出したシアが、ちょいちょいと引っ張る。
「ジッキー任せて! あたしがご指導アンドご鞭撻コースに誘っておくから!」
「あー……では、ひとまずお任せして……」
シアにすら頼りたくなる心境は、猫の手も借りたくなるほどのなんちゃらに似ているのではないだろうか。
少なくともオレは、シアにご指導ご鞭撻コースとやらを任せるのは心配だ。自分の行動に「ご」とかつけちゃってるあたりに、不安しか感じない。
「クルトさん、先に実技から始めても宜しいですか?」
「お? 手合わせか? 手合わせか?」
ジギタリスは色々と自分の中で飲み込んだのだろう。オレに向き直り、調書の内容の話をした。
三月いっぱいで学校を卒業し、あとは二か月ごとにあるこの調査。五月、七月、九月、十一月、一月、三月、五月と、オレが卒業してから受ける機会はたっぷりあった。精術師は戦闘力も図られるため、本来であれば既に七回就職管理官と手合わせをしていたはずなのだが……なんかこう、色々と後回しにされ、結局未だにしっかりと手合わせしたことは無い。
それ故に、このちゃんと仕事をしてくれそうなジギタリスとの勝負というのは、結構な楽しみだ。
「はい。このまま中で全員質問から始まると、実技の方でお待たせしてしまう可能性があるので、前後しますが、先にそちらをお願いしたくて」
「おお、良いぞ!」
オレは弾んだ声を上げて、鼻歌交じりに外へと向かう。
「クルト、怪我をしないようにね」
「ご安心下さい。怪我はさせないよう、細心の注意を払います」
「大丈夫だし! オレ、頑丈だし!」
そんな注意、払っていられないくらい追い詰めてやる!
所長とジギタリスの会話に半ば無理やり反論しながら、オレ達は事務所を後にした。
外に出たのはオレとジギタリスだけ。他のメンバーは、現在仕事中のスティアを除けば全員事務所の中だ。
オレはジギタリスと二人で模擬戦しても近所迷惑にならないようにと、近くの森まで足を伸ばした。
この街は、街の入り口の直ぐ近くに森があるのだ。その森の少し拓けた場所で、オレ達は足を止める。
「では、先にお名前をお願い致します」
「ツークフォーゲル! クルト・ツークフォーゲルだ」
「ありがとうございます」
ジギタリスは直ぐに、手にした調書に書き込む。
「精霊石を見せて頂けますか?」
「おう」
言われた通りオレが精霊石を見せると、ジギタリスは持参したカメラで写真に収めた。
「では、何か精術を使って下さい」
「何かって言われても……あー、風でも吹かせるか」
オレはちょっとだけ考えてから、辺りの精霊の数を確認する。よかった。今日は皆でスティアについて行っている、とかじゃないし、ちゃんと精術が使える。
「我はツークフォーゲルの名を継ぐ者。ツークフォーゲルの名のもとに、風の精霊の力を寸借致す。この場に風を」
ツークフォーゲルに頼むと、鳥の姿をしたツークフォーゲルが『おっけー!』だの『ひゃっふー!』だのと銘々に楽しげな声を上げてこの場に風を起こした。
ぶわっとした風に、ジギタリスの前髪が舞い上がる。
「結構です。では、それを武器化させて下さい。計測と記録を行います」
「ツークフォーゲル、頼む」
オレがツークフォーゲルに頼んで精霊石を武器化させている内に、ジギタリスは先程のオレの精術について、例の書類に書き記した。
「……確認致します」
「存分に見てもいいぞ!」
なんてったって、親父から受け継いだ立派な槍だ。しっかり見て、なんかスゲーって思われたい。
ジギタリスは懐からメジャーを取りだしてサイズを計測して調書に書き込み、写真に収めた。なんっつーか、仕事が丁寧だ。
こんな風にちゃんと計測されたのは、最初の五月だけだった。あとはもう、テキトーにやられてた感ありあり。
「では、これを使った上で先程と同じ精術を使って下さい」
「おう! 見せてやるぞ、オレ達の精術を!」
『おー!』
『みせほーだい!』
『ちょっとだけよ……』
『ケチらずにいこーぜ』
オレが周りの精霊に声をかけると、みんな楽しそうに飛んだり跳ねたりしまくった。士気が上がった所で、再度呪文を唱える。
「この場に風を」
最後の一節を唱え終えると、風が吹き荒れた。台風並みの強い風がぶわーっと。うっかりオレがよろめいたくらいだ。
ジギタリスの服や髪はバサバサと乱れ、土ぼこりが舞う。が、それが収まって見て見ると、彼は乱れた服装や髪の毛を簡単に整えていた。
あの風で、びくともしないのか!?
「大変結構です。精霊石の武器としての効果を、しっかりと発揮できています」
頷き、ちゃんと調書に書き込んでいる。こいつ、調書も守り抜いたんだな。やるな!
「では、実技へと移らせて頂きたいのですが、問題は無いでしょうか?」
「問題なんかないどころか、これを待ってたんだっつーの!」
オレはわくわくしながら武器を構える。
対してジギタリスは、腰からサーベルを一本取りだした。
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