精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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二章

2-6 むしろオレの勝ちだな

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「……言い忘れましたが、精術も途中で使って下さいね」

 ジギタリスは簡単に槍を弾きながら、ついでとばかりに言葉を続けた。
 オレの全力の力を加えた攻撃も、こいつにとってはそれほどの脅威ではないらしい。まずはそれがわかった。
 それならばと、体勢を整えて今度は打撃を与える為に振り被る。これはさっきもやったが、今度はさっきよりももっともっと力を乗せて、思いきりよく振り下ろした。
 が、今度はあっさりと軌道を変えられ、オレの力を乗せた槍はそのまま地面に突き刺さった。

「追撃、しないのかよ」
「しても宜しいですか?」

 ……ほんっと、強いヤツだな。なら、多少無理してでもこいつにもう一本使わせてやる。
 オレはジギタリスの質問には答えずに、体勢を立て直して突進した。
 一撃目、打撃。オレの力をあっさりと受け流される。
 二撃目、突き。躱される。三撃目も突き。今度は弾かれて武器が落ちたが、直ぐに拾いに行って体勢を立て直した。
 それから直ぐにジギタリスへと走って向かい、思いっきり横薙ぎにしてみる。
 だがこれは後ろにひらりと飛んで逃げられた。こいつ、跳躍力もありがやる!
 でもまぁ、距離がある程度離れたのを好都合って事にしよう。オレは呪文の詠唱を始める。
 ジギタリスは気付いているようで、僅かに頷いていた。

「あいつに風を!」

 オレが精霊に頼むと、突風がジギタリスを襲う。
 ジギタリスは瞬時にサーベルを地面に突き刺すと、オレの突風に乗ってひらりと後ろに下がった。こうする事で、オレの攻撃の勢いを殺したのだろう。
 でもそんな事は関係ない。オレは槍を構えて相手の懐に飛び込むつもりで走る。

「終わりです。実力は測れましたので、もう結構です」

 懐に入り込もうとしたのは、オレだった筈だ。
 それが、突風が吹き終えた頃に、オレの懐にいたのはジギタリスだった。体勢を低くし、オレの喉元にサーベルを突き付けている。
 ちらっと視線を先程サーベルが突き刺さっていた方へと向けると、刺さったまま。
 と、いうことは――

「むしろオレの勝ちだな」

 オレの口元には、自然と笑みが浮かぶ。ジギタリスは僅かに眉を顰め、直ぐにオレと距離を取った。

「二本目を使わせた! オレの勝ちだ!」
「……は?」

 心底何を言っているのか分からない、みたいな顔を向けられた。

「いや、だってオレ、お前の二本目使わせたし」
「は、はぁ」

 え、何だろ。オレおかしい話でもしたか?

「クルト、お前は双剣使いと戦いたかったのではなかったのか?」

 ため息交じりの女の子の声。視線を声の方へと向けると、カラスのように黒い髪を一つにまとめたやつが、オレに対して呆れた顔をしていた。

「ん? あ、あー、スティア! おかえり!」
「ただいま。金ならしっかり頂いて来たぞ」

 妹のスティアが、依頼を終えて帰って来ていたらしい。
 しかもここにいると言う事は、多分ツークフォーゲルに調査があった事と、オレが模擬戦中なのを聞いたんだな。スティア、賢い! さすがオレの妹!

「お前いつからいたんだ?」
「模擬戦を始めて直ぐの辺りから、ずっといらっしゃいましたよ」
「え、そうなのか!?」
「ああ、私はずっといた。無駄にお前の声も大きいし、精霊が教えてくれるものでな。お前が双剣使いと戦いたがっていた話は知っている」

 うわー、いたなら声かけてくれればよかったのに! つーか、まぁ、そこは気付けなかったオレも駄目なのかもしれないけどさ。模擬戦中なのを聞いたんじゃなくて、模擬戦をする事を聞いた、って事だろうし。
 ジギタリスしか見てなかったし、こういうの、少しずつどうにかしないとな。視野が狭くなる、っていうか、そういうやつ。

「だが、これでは二本目を使わせても、結局は一本と戦ったのと変わりはあるまい」
「え? ……あー! そうじゃん! もう一回やろう、頼む、もう一回!」
「い、いえ、それはちょっと……。仕事中ですし、さすがにもう一回というのは」

 スティアの言葉で気が付いたオレは、ジギタリスに懇願してみた。だが、オレの望む回答は返っては来ない。

「我儘を言うな。クルトの、こいつよりも遥かに弱かった事に納得がいかないという、個人的な感情に付き合わせるのは酷と言うものだろう」
「な、なんだと! お前だってこいつよりはるかに弱いだろうが!」
「そうかもしれないが、案外お前よりも出来るかもしれないぞ」

 生意気な妹は、ふふんと鼻を鳴らす。じ、実力的にはオレのが上だし! きっと、多分、おそらく!

「へー、面白いな。んじゃあ、お前もやってみろよ。どうせこいつは調書を取りに来てたんだ。お前だって実技が必用だろ」
「ふん、いいだろう」

 スティアがニヤッと笑ってジギタリスを見た。シアなら「ぴー」なんぞと何らかの鳴き声を上げたかもしれない挑発的な視線にも、彼は全く気にした様子も見せない。
 眉一つ動かさず、スティアをじっと見る。

「で、調書を取りに来ると言う話はいつから決まっていた?」
『わかんないけど、フリチラリアがわすれてた』
『どうしてやっちゃう?』
「一週間ほど前には既に連絡しておりましたが」

 ジギタリスには精霊の声は聞こえない。だが、図らずとも一週間前には調書を取りに来る連絡がされ、あまつさえ所長がそれを忘れていたという情報となってスティアの中に入り込む。

「全く、どうしてやろうか」
「その台詞、シアも言ってたけどお前が言うとより物騒だな」

 ため息交じりのスティアの言葉は、シアが言うのとは違う響きがある。まして今、こいつは邪悪な笑みを浮かべているのだから。
 うわー、所長、ご愁傷様。こえー……。

「まぁ、いい。とりあえずは先に私と御手合わせを願おうか」
「……少々お待ち下さい。今、クルトさんの評価を書いてしまいますから」
「評価?」

 今の戦いのか?
 興味を持ったオレは、ジギタリスが調書に書き込んでいるのを背伸びして覗き込んだ。
 『戦闘能力:C+』……えぇー……。

「なぁ、それ、最大は?」

 参考までに、と尋ねると、直ぐに「Sです」という返事がきた。

「その前は?」
「A+です」

 えーぷらす……。

「一番下は?」
「Eです」

 いー……。えっと、今オレが言われたヤツの何個下だ?
 オレがC+で、あとは……C、D+、D、E+、E……五個下か。で、上が、B、B+、A、A+、Sで五個。丁度中間?

「つまりオレはどういう評価だ?」
「実践において不安は残るものの、戦いの動きとしてはかろうじて問題は無し。生存の確立としては半分くらいの位置にいる、という事です」

 オレ、頑張ったんだけどな。

「良かったな、クルト。大体平均と言ったところだろう」
「よくねーよ! オレ、もっと鍛える!」
「その方が宜しいかと」

 だー! 肯定されると腹立つー!
 鍛えるけどな! 二か月後の次には絶対Bになってやるー!
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