精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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二章

2-23 オレ、状況、飲み込めない


「……んあ?」
 
 なんだか揺れている。それに、暖かい。
 ぼんやりとする視界。瞼が重い。

「んあー……ふわぁぁぁ……」

 けれど、重たくなっていた瞼が、じきに大したことが無くなって行った。早い話が、上にちゃんと上がってくれた。
 どうやら重石は取れたらしい。やるじゃん、オレの身体。

「クルト、無事なのか!?」
「んー?」

 スティアの声?
 オレは目を擦ると、はっきりとした視界で目を凝らす。

「クルト、大丈夫か? 大丈夫なのか?」

 今度はベルの声だ。
 頭をぐるっと回すと、無表情のジギタリスの顔がドアップで一瞬びっくりした。一瞬! 本当に一瞬だったからな!
 それから、心配そうなスティアの顔、泣き出す寸前のベルの顔。驚いているネモフィラの顔に、その奥の、唇を尖らせたルースの顔。……ルースはまぁ、いいとしても、何だってスティアもベルもネモフィラも、こんな顔してるんだ?

「オレ、状況、飲み込めない」
「スティア、どうしよう。クルトの言語感覚が吹っ飛んでる」
「安心しろ、ベル。それは元々だ」

 何だと、スティア! オレの言語感覚がパーンしてるだと!?

「つーか、状況!」

 ……あー! 分かった! 分かったわ!

「降ろせ! おーろーせー! オレ元気だから! ピンピンしてるから! 健康優良児だからー!」

 一度経験した事がある。ベルにお姫様抱っこされたあの状況と同じだ。
 ただし、今回オレをお姫様抱っこしているのはジギタリス。そしてオレは賢く学習したので、落っことされないように大人しく口だけでの抗議にした。
 偉い、オレ!
 ジギタリスはそっとオレを降ろしてくれた。あまりに紳士的だったので、一瞬語尾に「にゃ」事件を忘れていたくらいだ。

「あの、お身体の調子は?」
「え? 全然。むしろ軽いくらい。何かすっきりしたー!」

 ためしにピョンピョン跳んでみると、やっぱり問題はどこにもない。ついでにその辺をキョロキョロと見回してみると、何でも屋の直ぐ近くだった。
 あの森から、ずっとジギタリスにお姫様抱っこされていたらしい。恥ずかしい。

「もしかして、寝てただけ、なんじゃねーッスか?」

 ルースがため息交じりに呟く。寝てた? オレ、寝てたのかな。
 えーと、あの時の状況はー……。

「……あー! 思い出した!」

 唐突に色々思い出して、オレは手を打つ。

「オレ、なんかグロリオーサに、魔法向けられたんだよ。そしたら、意識プッツリ切れてたんだよな」
「……他に、何か情報は?」
「えーと、えーと」

 ジギタリスの問いに、必死に脳を回転させ、記憶の糸を辿る。糸、細すぎ。
 なんか重要な情報があった気がするんだけどな。えーっと。

「あー! ガイスラー! ガイスラー先輩が、あいつだったんだよ!」
「サフラン・ツヴェルフ・ガイスラーですか?」
「そう! それ! サフラン!」

 何でジギタリスがフルネーム!? あ、管理官だから、あの事件の後調べたのか。流石、抜かりがない。

「あいつ、探してる人がサフランなのに、サフランが親玉で、サフランだったんだ!」
「落ち着いて下さい。良いですか、息を吸って」

 深呼吸か。望む所だ。
 オレは大きく息を吸い込む。

「吐いて」
「はぁぁぁぁ」

 ありったけの空気を吐き出す。
 吐き出し過ぎて若干咽たが、かえって冷静にはなった。

「何がどうなったのですか?」

 オレの咳き込みが落ち着くのを待ってから、ジギタリスが再度尋ねる。

「人探しの依頼をしたヤツが、サフランと繋がってたみたいなんだよ。それで、オレ、何か魔法をかけられて、意識が無くなったっぽい」
「そうでしたか。調子は、全く問題ありませんか?」
「何にも問題は無いぞ」

 さっきも聞かれたけど、ちゃんと答える。こいつ、ベルに心配しましたって二回言ったやつだもんな。
 オレの事も、きっと心配してくれてるんだよな。良いヤツ。でかいけど。

「……全く、心配させやがって。馬鹿クルト」
「お、おう、悪かったな」
「俺も心配した。今、近くの病院に行く途中だったんだぞ」
「わ、悪かったって」

 スティアとベルも続く。
 客観的に考えれば、森でオレが一人でぶっ倒れてたら、そりゃ心配もするよな。
 オレだって、スティアやベルがその辺に転がってたら、びっくりするし、絶対心配する。

「チョーダセー。マジ使えねーッス」
「あぁ?」

 フルゲンスの発言に、オレは思わず眉間に皺を寄せた。が、彼の表情に、オレへの敵意とか、嫌がらせとか、そういう色が浮かんでいなかったので、ちょっと黙って見て見ようかと思った。
 オレがベルを心配させたから怒ってるのかもしれないし!

「お気を付け下さいまし。貴方は精術師ですのよ。ただでさえ魔法使いに比べて劣るのですから、しっかりと自衛をしなくてはなりませんわ」
「んなっ!?」

 なんっつー事言いやがるんだこのアマ! あー、でも、これでも心配して言ってる可能性はある、のか?
 が、スティアもベルもそうは思わなかったらしい。鋭い視線をネモフィラに向けると、ほぼ同時に口を開いた。

「なんっ――」
「――お二人は、管理官として、いえ、人間として最低です」

 文句を言おうとした二人を遮ったのは、意外にもジギタリスだった。
 元々表情は変わり難いヤツだった。だが、今彼の顔からは全ての感情が抜け落ち、ただ無機質で冷たい視線をルースとネモフィラに向けている。
 最初から低かった声は地を這うように相手へと絡み付き、その場を凍らせる。

「ど……どうして、どうしてですの! わたくし、悪い事は言っていませんわ!」
「これで言っていない、と?」

 沈黙を破ったのはネモフィラだった。
 直ぐにジギタリスが低い声で咎める。おお、なんか怖い……。

「申し訳ないが、内輪揉めなら後にして貰えないか?」

 あわやケンカっていうか、何か大変な事になりそうなタイミングで、スティアが口を挟んだ。

「病院に行かないにせよ、所長にクルトの無事な姿を見せたいんだ。何しろ私は、クルトが魔法をかけられて倒れたと精霊に知らされて、その事も所長に伝えてから出て来たのだから、な」

 あー、今の俺の状況って、そういうアレか。スティアが皆連れて来てくれたのかな? いい妹だ。やるな!

「申し訳ありません」

 ジギタリスは直ぐに謝ると、今度は明らかに感情の見える一睨みを、部下の二人に向けた。こう言っちゃあなんだけど、向けられたのがオレじゃなくてよかった。
 この人に睨まれたら、ちょっと涙でそう。
 そうして、何でも屋へと向かった。そんなに時間もかからずにたどり着くと、ぞろぞろと何でも屋へと入る。
 総勢八人が室内に入ると――……ん? 八人? なんか多くないか?
 入ってから、オレは足を止めて数える。
 オレだろ、スティア、ベル、ジギタリス、ルース、ネモフィラ、派手でぞろんとした格好の女、……し、下着姿の女?
 後半二人の女が分からん。

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