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二章
2-28 ケジメ、つけなきゃッス
しおりを挟む「テロペア、チーッス」
「……まーた、閉店ぎいぎいらし」
「サーセン。閉店ギリッスけど、いいッスか?」
フルゲンスは、一度本局に戻って残りの仕事をした後、列車でまた、ミリオンベルやテロペアの住む街――クヴェルへとやってきた。
そうしてテロペアの家族の営むレストランへと足を踏み入れたのだ。
「いいけど……なんか、ちょっと変?」
テロペアはフルゲンスを中に招き、席に案内しながら首をかしげる。
「オレ、このままじゃダメなんスよ」
案内された席に腰かける。その向かい側に、当然のようにテロペアも座った。
「……ん?」
「どうしたんスか?」
テロペアは、一瞬だけ顔を顰め、辺りを見回す。
「んー、いや、なんでもにゃい」
「そッスか?」
何でもない、と言われれば、それ以上は追及しない。フルゲンスはそう決めて、真っ直ぐにテロペアを見た。
テロペアは精術師だ。自分に見えないものも、見えるのだろうという考えだ。
「オレ、クルトに酷い事を言っちゃったんス」
「そうにゃの?」
フルゲンスは、それまでの事をかいつまんでテロペアに語る。
「……ベルが取られたのが悔しくて、ベルが心配しているのが悔しくて、ベルに心配をかけたのが憎らしくて」
ここまで言うと、彼は長い長い溜息を吐いた。
「でも、一番ベルを悲しませたのは、オレッス」
フルゲンスは顔を歪め、テロペアを見る。
「ベルの好きな人に酷い事を言って、酷い事をして……フー先輩にも、あんな事言わせた」
「で、どうすゆの?」
「ケジメ、つけなきゃッス」
テロペアは滑舌の悪いままフルゲンスに尋ねた。それに対して彼は、真っ直ぐに、思いつめたように答える。
「オレだって管理官ッス。失った信用を取り戻すのは難しいかもしれないッスけど」
ここで大きく深呼吸をした。ほんの少し前の、ため息のようなそれではない。
もっと決意に満ちたような、意思の強さを感じるものだ。
「でも、やらねーと。クルトに変な事した奴をとっ捕まえて、ちゃんとごめんって言わねーとダメッス」
「……そう」
テロペアが相槌を打った瞬間、ドアのベルが鳴る。二人でそちらを見ると、色香の漂う女性が立っていた。
倒れたクルトの傍らにいた女性――アマリネだ。
「あー! アマリネちゃんじゃねーッスか! チーッス!」
フルゲンスは軽い調子で話しかける。
今までの真剣な面持ちからは一変、ちゃらんぽらんな面を前面に出し、彼は席を立ってアマリネへと近づいた。
「こんばんは、管理官さん」
彼女は妖艶な微笑みを浮かべた。
「来たとこッスけど、この店、もう閉まるんスよー」
「あら、そうだったの……困ったわ」
「どうしたんスか?」
チャラチャラとした態度で、フルゲンスはアマリネの肩に手を回す。
「ええ、妹とケンカをしてしまって、そのまま食事を取っていなかったものだから」
そんな彼の手を払いもせずに、アマリネは困ったように微笑んだ。その笑みもまた、色気を孕んだものだ。
テロペアは思わず眉間に皺を寄せる。
「どこかに開いている飲食店は無いかと、探していたの」
「ケンカッスかー。お腹すいたっつー事は、仲直りしたんスか?」
「そうね。ぼちぼち、と言ったところかしら」
二人の態度を見て、テロペアも席を立った。
「あ、オレ、違う店知ってるッスよー。一緒にどうッスか?」
「あら、そうなの? それじゃあ、案内して貰っちゃおうかしら」
「んじゃ、ちょっと待っててくれッス」
ここまで決めると、フルゲンスはアマリネから離れてテロペアの方へと向かった。
手持無沙汰にプラプラと立っているテロペアに対し、フルゲンスは財布を取りだして何枚か札を出す。
「テロペア、お代ッス」
それから、彼に握らせた。何の食事も頼んでいなかったが、これはフルゲンスに取っては必要な事だったのだ。
「なんっつーか、世話になったッスね。つっても、これからもヨロシクっつー話なんッスけど」
フルゲンスはヘラっと笑うと、握らせた手に力を込める。
「テロペア、ベルの事、頼んだッス」
「……おう」
一瞬だけ真剣な表情を浮かべたフルゲンスに、テロペアは地声で答えた。
「よーし、アマリネちゃんと夜のデートっすよー!」
「あら、デートだなんて少し恥ずかしいわ」
テロペアの返答を聞いた後のフルゲンスは早かった。
華麗に身をひるがえし、アマリネの肩を抱くと、あっという間に店を後にしてしまったのだ。
「……ふむ」
テロペアは、きょろりと店の中を見回す。
「ちょっと出てくゆー」
「こらテロペア! 待たんか!」
背中に祖父の怒声を聞きながらも、彼は店を出る。ミリオンベルの事を、フルゲンスに頼まれたからだ。
どんなふうにしろ、とまでの指示は受けていない。
テロペアは、友人として、自分の考えで動くのみなのである。
***
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