精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
94 / 228
二章

2-45 僕は、俺は、私は、ヘビちゃんは、シュヴェルツェ

 ルースは暫く動けなかったが、ちょっと待ってたら何とかなった。曰く、体力回復の為の魔法を使ってるとか何とか。
 でも、それと、さっき明かりの魔法みたいなものを使ったから、流石の13枚でも魔力がほぼ切れちゃってて、回復するには結構時間がかかる、みたいなのも聞いた。とはいえ、傷口はフルゲンスが制服を脱いでシャツでがっつり縛ったら、とりあえず応急処置は出来たし、小走りできる程度には体力が回復している。

 ……魔法って、すげー。体力回復だってよ。
 ベルの筋力増幅? ん? 体力前借だっけ? とにかく、アレも凄いとは思ったが、魔法使いと言うのはオレ達精術師とは全く違うベクトルで面白い魔法を考えるものだ。
 そんな風に柔軟な思考になったのは、ベルやシアのおかげだ。今までは「あー、魔法使いクソー」くらいしか思っていなかった。

 そのベルのピンチだ。
 オレと、何とかそこそこ復活したルースは、ゆっくりと、だが確実に音を追う。あらかじめ情報を取ってくるようにお願いしたツークフォーゲルが、まだ戻って来ていないのは気になるが、行くしかない。
 二人で音を追っていくと、徐々に喧騒が近づく。街のあちらこちらで、ケンカが起こっているのだ。
 やれ、「お前が先に」だの、「ずっと気に入らなかった」だの、「金返せ」だの。ケンカの内容は様々ではあるが、全員一様に苛立ったりしている様子だ。

「何ッスかね。これ」
「わかんねぇけど……行くしかないだろ」
「ッス」

 オレとルースは人々の間を縫って、喧騒の更に奥へと向かう。
 そうしてやっとこさ人を押しぬけた先に見えたのは――

「お、やっとお出ましかー」
「……誰だっけ?」

 何故かベルをお姫様抱っこしたグロリオーサと、その隣で奇抜な格好をしたまま眉間に皺を寄せるサフランだった。
 オレ達が顔を出したのは、丁度その二人と対峙しているジギタリスと、彼に何かを言われたばかりであろうネモフィラの後ろ。えっと、何だろう、この状況。
 なんでグロリオーサがベルをお姫様抱っこしてるんだ? やっぱりサフランが絡んでた、っていうのは置いておくとしても、グロリオーサの印象も全然違う。
 おどおどした態度、どこに置いてきた!

「ほらほら、僕がさー、捕まえてこようとしていた男の子だよ。つまり、この前の一件で、君が酷い目に遭う要因になった一人っていうか」
「僕が酷い目に遭ったのは、1枚君のせいじゃないっけ?」
「だーかーらー、この1枚君と一緒にいた、精術師君だよ」

 グロリオーサが必死に説明している。えーっと、何でオレ、覚えられてねーの?
 こいつよりも遥かに地味だからかな。あ、だったら覚えられてなくてもいいわ。

「精術師って二、三人いなかったっけ?」
「うん、それの一番弱い子」
「あー、いたような気もしてきた」
「なんだとー!」

 その認識は許さんぞ!

「クルトさん、落ち着いて下さい」
「何だよ、落ち着いていられるワケ、無いだろ!」
「落ち着いて下さい」

 ジギタリスは、再度オレに言い聞かせるように口にした。

「ジス先輩、落ち着いて下さいって何ッスか! つーか、何でまだベルがあいつの腕の中なんッスか!」
「落ち着いて下さい」

 同じ言葉を、ルースにも。何で、何でこんなに落ち着いてられるんだよ。おかしいだろ。

「わ、わたくしだって、協力すればあの方くらいどうにか出来ますわ!」
「本気ですか?」
「ほ、本気ですわ!」

 こいつ、何か気付いてるのか!? だったらとっとと言えよ!

「おやおやー、君はツークフォーゲルさん家の精術師くん?」
「おう! オレはツークフォーゲル! クルト・ツークフォーゲルだ! つーか、オレの名前、知ってるだろ!」
「ふぅん、なるほどなるほど」

 何で知らないフリしてるんだよ! イライラする。
 オレの知ってるこいつじゃないからイライラするのか、ジギタリスが全然動こうとしないからイライラするのか、ベルがお姫様抱っこのまま震えて動かないからイライラするのか、もう全然分からない。

「そういえば、そっちの君は誰かを思い出すなぁ」
「オレッスか? つーか、ベルを返すッス。今すぐ、オレに!」
「うーん、誰だったかな」

 グロリオーサは暫し考えながら首をかしげていたが「ま、いいや」と再びオレを見る。なんだよ、やるのか!?

「ねぇねぇ、クルトン」
「オレはクルトンじゃねぇ。クルトだ! 人をサラダやスープの上に浮いてるヤツみたいな名前で呼ぶな!」

 ちょっと旨そうだけど、旨そうな物作ってくれるベルがお姫様抱っこされてたら意味はないんだよ。

「パパは元気?」
「……は?」

 オレの怒りを無視し、グロリオーサはベルを「よいしょ」と抱きかかえ直しながら尋ねた。何で、親父の話?

「いやー、思い出したよ。思い出した。ツークフォーゲルってどこかで見た事があると思ってたんだよ。君のパパ――レヴィンと僕は、旧知の仲なんだ。ところで、パパの足や目は無事なのかな? 元気溌剌?」
「お前、何で、そんな――」
「おっと、名乗られたのに名乗っていなかったね」

 何で、どうして、親父の足と目の事を知ってるんだ。こいつ。

「僕は、俺は、私は、ヘビちゃんは、シュヴェルツェ。今は、グロリオーサ・エルフ・シュヴェルツェ。よろしくね」
「シュ、シュヴェルツェだと!?」

 ヴィントホーゼが言ってたのって、この事か! で、グロリオーサの中に入ったっていう蛇も、やっぱりシュヴェルツェだったわけだ。

「ですから、先程から落ち着くようにとお話しています」
「どういう意味ですの!?」
「知ってたならとっとと言えよ!」
「んな事より、ベルは無事なんスか!?」

 イライラする。何でこいつはずっと黙ってるんだよ。

「……お前ら全員、一回黙れ」
「お? おお?」

 ジギタリスは低い声でオレ達に命令する。……何でシュヴェルツェがはしゃいだ声を上げるんだよ。つーか、何で命令されなきゃなんねーんだよ。

「いいですか、現状を手短にお話し致します」
「あー……なーんだ」

 けろりといつもの調子……つまり、無表情に淡々と話す様に戻ると、シュヴェルツェは大げさに肩をすくめて見せる。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~

ネコ軍団
ファンタジー
 魅惑の新大陸へようこうそ! 冒険者支援課にお任せください!  二十年前に発見された新大陸ノウリッジでは、未踏の地である大陸の東端を目指して開発が進んでいた。  港町テオドールはノウレッジの南西に位置する新大陸の玄関口だ。魔王の出現により遅れていた、新大陸の開発が本格的に始まってから五年、この町には一攫千金を夢見る冒険者たちが日々たくさん訪れていた。同時に未知の魔物や厳しい自然、罠が張り巡らされた遺跡やダンジョンなどで幾多の冒険者が傷つき命を落としていた。港町は夢と希望を抱く者たちが希望に満ちて旅立つ場所であり、夢破れ新大陸から去っていく者たちを静かに見送る場所でもあった。  冒険者ギルドは冒険者たちの新大陸離れを危惧し、新たに冒険者支援課を設立した。彼らの仕事は道案内から始まり、冒険者が発見した遺物などの研究や運搬の手伝い。他にも支給品の配布や死体回収などの地味な作業から、魔物が巣食う遺跡やダンジョンの休憩所であるセーフルームの確保、さらには大型モンスターの討伐を手助けしたりと様々だ。それに時には有害と判断された冒険者を秘密裏に処理したりするこも……  支援課に所属するグレンはかつて冒険者だった。しかし、五年前に仲間に裏切られ死にかけ、支援員の先輩であるクレアに救われた。クレアはグレンの特異な才能に気づき、彼を引き取り冒険者支援員として育てたのだった。  今日もたくさんの冒険者が新大陸へやって来る。その中にエリィとキティルという二人の少女冒険者がいた。彼女らも他の冒険者と同じく新大陸で一旗揚げることを夢を見ていた。  ある事件をきっかけに二人と親しくなったグレンは、新大陸に存在すると言われる伝説の”白金郷”をめぐる争いへ巻き込まれていくのであった。 ※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。 ※3/15~3/19 は投稿を休みます。

【最終話執筆済完結保証】悪役令嬢の『影』に転生した俺、ポンコツな主の破滅を物理で無言回避させる

積野 読
ファンタジー
喋れない。触れない。警告できない。——それでも俺は、このポンコツ令嬢を死なせない。 ブラック企業で過労死した中間管理職・黒田忠司(34)が目覚めたのは、乙女ゲーム『月光のエトワール』の悪役令嬢ロゼリアの「影」の中だった。 声は出せない。主から10メートルも離れられない。光の強い場所では力が半減する。できるのは、物をほんの少しだけ動かすことだけ。 それでも——破滅フラグは待ってくれない。 ドレスの裾を引っ張り、シャンデリアを落とし、毒杯を弾く。影の全力の裏方工作で主の破滅をへし折るたび、なぜかロゼリアは「底知れぬ黒幕令嬢」として周囲に畏怖されていく。 情報の女帝。軍神。守護者。革命家。——全部、影のせい。 本人は何もしていない。 だが令嬢は知らない。自分の足元で、存在が薄くなりながら守り続けている者がいることを。 「いるなら、おやすみなさい」——その一言が、影のすべてを変えた。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…