精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-5 メンバーが一人変わりました事を紹介する為に参りました

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 ドアが開き、外から入ってきたのは馴染みの面々……に思わせておいて、一人足りず、一人多い。数はプラスマイナスゼロだが、銀色が緑色になっていた。

「本日は、メンバーが一人変わりました事を紹介する為に参りました」
「あぁ、ルースの」
「そうです。彼の代わりにこのチームに入った者です」

 所長が続けると、ジギタリスは大きく頷く。

「……ご都合が悪いようでしたら、また後程参りますが」
「いいよ。紹介だけならそんなに時間もかからないでしょ?」
「はい」

 偶然このあたりにいたからついでに紹介しておこう、という感じだったのだろうか。
 彼は頷くと、緑色の髪の男の姿が見えるように、少し場所を移動した。こうしないと、大柄なジギタリスの肉体と、緑色の人が重なって見え難くなってしまっていたからだ。

 それにしても、事務所のムキムキ率が高くて狭く感じるな。しかも皆夏服だから、肌色多めなのも、ここが狭く……っていうか、むさ苦しく感じる理由かもしれない。

「では、お言葉に甘えまして」
「モッフィー、見て見て。頭!」
「まぁ、お可愛らしいですわ」

 シアはメンバー紹介の流れをぶった切って、三つ編みお団子を指して、ネモフィラに見せた。「お若く見えますわね」と続いた言葉は聞かなかった事にしよう。
 一六歳に向けて若く見えるって、それ、学生に見えるっていう事だし。

「……モッフィーちゃん、見て見て」
「まぁ、貴女まで」

 その貴女まで、というのは、髪形にかかっているのか呼び名にかかっているのか。近くでテロペアが小さな声で「モッフィー……」と呟いていた。一応一国の姫に対して、モッフィーっていうのも凄い話だよな。
 何ならディオンさんも、ラナンキュラスさんも「モッフィー……」って呟いてたし。

「ええと、続けても?」
「ごめんごめん。シア、ちょっと大人しくしてて」
「はーい!」

 シア、やりたい放題だもんな。困惑しているジギタリスに、所長は再度「それで?」と話を促した。

「あ、おれ、お茶入れてくるにぇー」

 テロペアはといえば突然俊敏な動きでキッチンへと消えていった。有無を言わせぬ速さでベルの城へと駆けこむのを呆然と見送ってから、ジギタリスは咳払いをして、仕切り直しとばかりに一度全員を見回す。
 それから口を開いた。

「こちら、フルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュの代理でこのチームに入りました、カラー・エクヴィルツです」
「初めまして。カラー・エクヴィルツです」

 緑の髪のそいつは、ギロッとこちらを睨みつけながらほんのりと頭を下げた。

「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
「私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲルです」
「エーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベンです」
「同じくエーアトベーベン。ラナンキュラス・ツヴェルフ・エーアトベーベンだよ」

 名乗られたら名乗り返す。精術師のその習慣にのっとり、この場にいた精術師は全員一気に名乗り返した。
 そのあとで、所長達もゆっくりと名乗り、いつも通りシアがもちゃもちゃと噛んでいるのをスティアがフォローする。

 ……これ、テロペア、名乗る事から逃げた? キッチンからは追加のお茶を支度する音が聞こえ、ベルがここにいるべきか、向こうにいるべきかと少々悩んでいるようだ。

「ところで君、さっきから僕達の事を睨んでいたけど、何なのかな?」

 全員の自己紹介が終わったところで、客であるはずのラナンキュラスさんがじっとカラーさんを見ながら問いかけた。どちらかといえば、詰問といった気配も感じるほど、強い口調だ。

「……別に。中々話が進まないな、と思っただけです」
「それだけの事で睨むの?」

 カラーさんは「売られた喧嘩は買ってやる」くらいの勢いで、ラナンキュラスさんを睨む。
 ……ははーん。こいつ、さては目つきが悪いな? 実は睨んでないパターンだ!

「大体にして、中々進まなかった原因は、ここの小さな女の子じゃないか!」

 シアが「ちっちゃ……!」と口を開けて、目も真ん丸にしてラナンキュラスさんを見る。気持ちは分かる。ちっちゃい者同士……じゃなかった。ちょっと小柄に見られやすい者同士。
 ま、まぁ、シアは実際ちっちゃくはあるんだけれども! オレは違うぞ!

「こんなに小さな女の子を睨むなんて、どうかしてるよ」

 その小さな女の子、さっきテロペアに足蹴にされてたけどな。
 しかも、「小さな!?」って、憤慨してるけど。お前に対して。
 足蹴よりも小さいって言われた方に腹が立っているんじゃなかろうか。

「……はいはい、すみませんね。大魔法使い様を睨んでしまって!」
「僕が言っているのはそういう事じゃないんだよ!」

 カラーさんが思いっきり眉間に皺を寄せながら謝ると、ジギタリスが何か言うよりも早く、ラナンキュラスさんが口を挟んだ。

「大体にして、管理官がそんな事を言っているからいつまでたっても差別が無くならないんじゃないの? 確かに君は魔法使いではないかもしれないけど、それを理由に無理に大魔法使いを担ぎ上げるような事を口にするのは間違ってる!」
「うるさい!」

 突然の大きな声。ベルが一瞬ビクリと肩を震わせ、あっという間に完全停止した。だよな。オレもびっくりした。
 声の主は、カラーさんだ。

「大魔法使いも、魔法使いも、精術師も大嫌いだ!」

 シン、と、部屋の中が静まり返っている。

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