111 / 228
三章
3-5 メンバーが一人変わりました事を紹介する為に参りました
しおりを挟むドアが開き、外から入ってきたのは馴染みの面々……に思わせておいて、一人足りず、一人多い。数はプラスマイナスゼロだが、銀色が緑色になっていた。
「本日は、メンバーが一人変わりました事を紹介する為に参りました」
「あぁ、ルースの」
「そうです。彼の代わりにこのチームに入った者です」
所長が続けると、ジギタリスは大きく頷く。
「……ご都合が悪いようでしたら、また後程参りますが」
「いいよ。紹介だけならそんなに時間もかからないでしょ?」
「はい」
偶然このあたりにいたからついでに紹介しておこう、という感じだったのだろうか。
彼は頷くと、緑色の髪の男の姿が見えるように、少し場所を移動した。こうしないと、大柄なジギタリスの肉体と、緑色の人が重なって見え難くなってしまっていたからだ。
それにしても、事務所のムキムキ率が高くて狭く感じるな。しかも皆夏服だから、肌色多めなのも、ここが狭く……っていうか、むさ苦しく感じる理由かもしれない。
「では、お言葉に甘えまして」
「モッフィー、見て見て。頭!」
「まぁ、お可愛らしいですわ」
シアはメンバー紹介の流れをぶった切って、三つ編みお団子を指して、ネモフィラに見せた。「お若く見えますわね」と続いた言葉は聞かなかった事にしよう。
一六歳に向けて若く見えるって、それ、学生に見えるっていう事だし。
「……モッフィーちゃん、見て見て」
「まぁ、貴女まで」
その貴女まで、というのは、髪形にかかっているのか呼び名にかかっているのか。近くでテロペアが小さな声で「モッフィー……」と呟いていた。一応一国の姫に対して、モッフィーっていうのも凄い話だよな。
何ならディオンさんも、ラナンキュラスさんも「モッフィー……」って呟いてたし。
「ええと、続けても?」
「ごめんごめん。シア、ちょっと大人しくしてて」
「はーい!」
シア、やりたい放題だもんな。困惑しているジギタリスに、所長は再度「それで?」と話を促した。
「あ、おれ、お茶入れてくるにぇー」
テロペアはといえば突然俊敏な動きでキッチンへと消えていった。有無を言わせぬ速さでベルの城へと駆けこむのを呆然と見送ってから、ジギタリスは咳払いをして、仕切り直しとばかりに一度全員を見回す。
それから口を開いた。
「こちら、フルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュの代理でこのチームに入りました、カラー・エクヴィルツです」
「初めまして。カラー・エクヴィルツです」
緑の髪のそいつは、ギロッとこちらを睨みつけながらほんのりと頭を下げた。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
「私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲルです」
「エーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベンです」
「同じくエーアトベーベン。ラナンキュラス・ツヴェルフ・エーアトベーベンだよ」
名乗られたら名乗り返す。精術師のその習慣にのっとり、この場にいた精術師は全員一気に名乗り返した。
そのあとで、所長達もゆっくりと名乗り、いつも通りシアがもちゃもちゃと噛んでいるのをスティアがフォローする。
……これ、テロペア、名乗る事から逃げた? キッチンからは追加のお茶を支度する音が聞こえ、ベルがここにいるべきか、向こうにいるべきかと少々悩んでいるようだ。
「ところで君、さっきから僕達の事を睨んでいたけど、何なのかな?」
全員の自己紹介が終わったところで、客であるはずのラナンキュラスさんがじっとカラーさんを見ながら問いかけた。どちらかといえば、詰問といった気配も感じるほど、強い口調だ。
「……別に。中々話が進まないな、と思っただけです」
「それだけの事で睨むの?」
カラーさんは「売られた喧嘩は買ってやる」くらいの勢いで、ラナンキュラスさんを睨む。
……ははーん。こいつ、さては目つきが悪いな? 実は睨んでないパターンだ!
「大体にして、中々進まなかった原因は、ここの小さな女の子じゃないか!」
シアが「ちっちゃ……!」と口を開けて、目も真ん丸にしてラナンキュラスさんを見る。気持ちは分かる。ちっちゃい者同士……じゃなかった。ちょっと小柄に見られやすい者同士。
ま、まぁ、シアは実際ちっちゃくはあるんだけれども! オレは違うぞ!
「こんなに小さな女の子を睨むなんて、どうかしてるよ」
その小さな女の子、さっきテロペアに足蹴にされてたけどな。
しかも、「小さな!?」って、憤慨してるけど。お前に対して。
足蹴よりも小さいって言われた方に腹が立っているんじゃなかろうか。
「……はいはい、すみませんね。大魔法使い様を睨んでしまって!」
「僕が言っているのはそういう事じゃないんだよ!」
カラーさんが思いっきり眉間に皺を寄せながら謝ると、ジギタリスが何か言うよりも早く、ラナンキュラスさんが口を挟んだ。
「大体にして、管理官がそんな事を言っているからいつまでたっても差別が無くならないんじゃないの? 確かに君は魔法使いではないかもしれないけど、それを理由に無理に大魔法使いを担ぎ上げるような事を口にするのは間違ってる!」
「うるさい!」
突然の大きな声。ベルが一瞬ビクリと肩を震わせ、あっという間に完全停止した。だよな。オレもびっくりした。
声の主は、カラーさんだ。
「大魔法使いも、魔法使いも、精術師も大嫌いだ!」
シン、と、部屋の中が静まり返っている。
0
あなたにおすすめの小説
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる